82-13 待つべき刻
「というわけなんで、お次は重力系統の専門家であるアルス、お前に頼むわ」
「了解。試してみるけど、通り抜けるのにキーが必要なら多分駄目だろうな」
「ま、とりあえず一個ずつ試していかないとな」
アルスは念入りにそのグレーのドームを検分して、色々と試しているようだ。
魔法も跳ね返してくるので、あまり強いものは試せない。
そして無難な物ばかりで試してみたが、結局何一つ通用しなかった。
同じアルグランドの系統の魔法ならと思ったのだが、そう甘くはないようだった。
「駄目だな。
一通り魔法やスキルとかを試してみたけど、まったく受け付けないよ」
「じゃあ、グスタフ。
俺達で試してみようぜ」
俺はそう言うなり、祝福の鎧を展開した。
精霊系のスキルなんかも、ちゃんと使えるようだ。
俺もグスタフの聖騎士の鎧であれこれ試したが、やはり徒労に終わった。
「駄目だな」
「ああ、何かこう純粋に物理的な感じで作られているな。
これが呪いとかそういうものなら今ので一発なんだが」
ゲルスめ、さすがは古き王国を前身に持つだけあって奥が深いな。
いろんな技術を幅広く使ってきやがるぜ。
一応、壁の少し手前から下にトンネルを掘ってみたのだが、やはり下の方にも続いていた。
そういや大神殿で使われた織原のスキルの時も駄目だったな。
もしかすると、穴を掘られるとそれに反応して、ピンポイントで壁を作ったりするようになっている可能性もあるな。
俺お得意の井上式トイレの作り方でやってみたが、あれでは間に合わないらしい。
「よし、全員思いっきり下がれ。
命が惜しいなら」
「お、おい。
何をするつもりだ、魔王」
俺のやる事に免疫のない、新入りの元アル・グランド王国騎士団長が戸惑っている。
「総員退避ー!!」
そう叫ぶなり、大将であるアルスがすたこらと走っていくのを見て、他の騎士全員が即座にそれに倣った。
グスタフなどは俺の最初の台詞に素直に従っていた。
ジェシカを未亡人にするつもりはないらしい。
実にいい心がけだ。
とりあえず、百五十五ミリ自走砲と74式戦車を各二十両ほど引っ張り出した。
戦車砲は魔法金属製の徹甲弾を使用する。
目いっぱいのアローブーストをぶち込めて。
逃亡先にてアルス国王は、しっかりと得意の重力魔法などで他の面子共々に強力な防御を行なっている。
うんうん。
部下と言うか、国民を守るのは王族の役目さ。
「てーーーーっ‼」
近藤の号令に従って、幕末の洋装をした新撰組の連中がぶっ放した。
辺り一面に凄まじい大音響が鳴り響く。
強固な魔法金属製の弾丸が不壊構造のドームに当たっているので、これまた命中音が凄い音になった。
だが、肝心の壁はといえばビクともしていない。
砲弾はオリハルコン製を奢ってみたのだが、それでも駄目だったようだ。
非破壊オブジェクトのような障壁にぶつかって、当然オリハルコンの弾体は粉々になってしまっている。
昔、魔道鎧の習得を試して吹き飛んでしまった先にもしこの障壁があったら、俺とて絶対に無事では済まなかっただろう。
たぶん死んでいたはずだ。
あの頃は今のように強大なHPではなかったしな。
「ちっ。やっぱり無理だったか」
「おいおい。
なんだなんだ、今の命中音は。
あれを真面に食らったら耳がおかしくなるんじゃないのか」
「敵さんもあれだが、あんたも大概だな。
魔王さんよ」
俺のやる事に慣れていない味方のアル・グランド組から文句が噴出した。
ふん。
あれでも強力なサイレントの魔法を張ってあるのだ。
今のうちに慣れてもらうぞ、お前ら。
それにしても、ちょっと弱ったな。
はい、いつもの奥の手。
「イコマ、またしても御手上げだ。
何か、いい手はないか」
『鍵は自らやってくる。
しばし待て』
え!
ここで待つの?
自らやってくるって……。
そんな物を一体どこの誰が。
俺が首を傾げまくっているので、皆が不審そうな顔をしている。
「おい、どうした?」
グスタフが問い質してくるが、俺も一瞬答えに窮して回答を逡巡する。
代わりに「待つ」と聞いて、思わず有名なあの歌を歌ってしまいたくなって焦った。
歌詞を書いてしまったら絶対にマズイんだ!
あの歌は自分の地元出身の歌手が歌っていたんで、ついうっかりと歌いかけてしまった。
危ない、危ない。
「ああ、そのなんだ。
待つんだってさ」
「はあ? 待つだと」
「ああ、『鍵』がやってくるのをな」
グスタフも首を傾げたが、奇天烈魔王の俺がやる事なので、その首を竦めるに留めた。
「そんな悠長な」
「そうだ、待って一体どうするというんだ」
新人アル・グランド騎士団員二人は文句を垂れたが、彼らが付き従う王様は違う御意見だったようだ。
「いや、待とう」
アルスは静かにそう言うと、力を抜いた自然体で待ちの態勢に入った。
何があるかわからないので、さすがに座り込んだりはしない。
「え? 何をですか?」
ベンソンも怪訝そうに聞いてくる。
「いいんだ、ベンソン。
園長先生がこう言う時は、素直に従った方がいいのさ。
今までもそうだった。
今回もそうなんでしょう?」
「あ、ああ。
確かにそうなんだけどね。
実を言えば、俺にもどうなるのかよくわからない。
だが待つしかないのは確かなんだ」
そして俺は更に首を捻る。
だが、もしいつものように俺を操ってここへピンポイントで連れて来たのがイコマの意思であったというのならば。
しかも誘導弾を半径十メートルの着弾誤差で三百キロ先に着弾させられる精度の、GPSの位置情報レベルで。
この世界へやってきた時もそうだったのを思い出した。
「はっはっは、是非もない。
我らは王と共に在り、王と共に行く者よ。
アルス様がそう仰るというのであれば、ここは待とうではないか。
よいしょ」
そう言って、アルグランド元騎士団長様がゴロリっと横になった。
よくある仏様が寝転がっているような姿の、横向きになった仏像の如くに。
その肝の太い腹の据わり具合を見て、とうとうアルスも座り込んだので、ベンソンも苦笑して腰を下ろした。
グスタフに至っては、とっくの昔に胡坐をかいて、体を後ろに回した両手で支えて寛いでいた。
おまけにお前に任せたぜ、みたいな顔をしている。
皆の信頼は実に嬉しいのだが、どうにも困ったな。
(なあ、イコマ君や。追加情報は何か無いの?)
もちろん、応えはない。
これもいつもの事だ。
セブンスセンスの一つの側面として『タイミングを測る事によって、現実世界に物語のような御都合主義を実現する』というものがある。
これが小説の設定などではなくて、リアルでこうだから困ったものなのだが。
正確には『場所とタイミング』であるのだろうが。
場所は今いるところになるのが普通だ。
今回は場所の指定も特になかったからな。
なんというのかな。
端的にいえば、『今その場所にいるのは偶然ではない』という感じか。
無意識領域下でイコマの奴に誘導されていてその場所にいると、事後にそうとしか思えないような形になるというか。
小説以外のシーンでは、「え、ここで!?」みたいな場所で、そうなる事がある。
『勝手に連れて来られる』のだ。
たとえば、こんな事があったのだ。
「あと一メートル車を前に動かしてください」とスタンドの店員に言われて、「無理」と答えて何とかしてもらったりとかな。
だってオルタネーターが壊れているから車のバッテリーが丁度そこでカラッケツになって、エンジンがスコっと止まったんだもの。
そういう事を言っている彼に、後ろから車を押してもらわないと動かないのさ。
ガソリンスタンド内の奥まった部分にある少し上り坂になっている、絶対に人力では車を動かせないような場所でな。
あの人間抜きで全備重量1.5トンに達するような車を上り坂にて一人で押すのは超絶対に無理。
たぶん大型の3トンフォークリフトが要るわ。
あれの免許(正しくは技能講習修了証)なら持っているから、3トンリフトがあったら自分で動かすって。
結局、彼は結束バンドで束ねてあった充電コードを外して、それを伸ばすという選択肢により解決してくれたけど。
よくスタンドの充電場所まで見事にぴったり誤差一メートルで辿り着けたもんだ。
しかも二回も連続のピンポイントでスタンドへ入ってなあ。
ここっていうタイミングで何故かスタンドへ入っているんだよな。
早くても遅くてもいけない究極のタイミングが必要で、信号一つ分タイミングを誤れば事故渋滞モードで大惨事だ。
タイミングが早いと、まだバッテリーに余裕があるのに充電しなくてはならないから、一回余分にスタンドへ入らなくてはならないので立ち往生になるリスクが増す。
二回で済む奇跡をもう一回増やさないと無事に家へ辿り着けないのだからな。
さすがにキツイわ。
あれは二回目の時がスタンド内でバッテリー切れになってしまい、マジできつかった。
御蔭で次は無事に車屋まで辿り着けたが、もうちょいで天下の国道一号線のど真ん中で立ち往生になるところだった。
そうなるピンチが二回連続だったからな。
交通量が物凄く多いR1であれをやると非常にマズイ事態になるのだ。
大国道じゃない一般道でなら朝の通勤時間帯のパンクでやった事があるが、それでもクラクションの嵐を浴びてキツかった。
日本人は道路で故障して止まってしまって困っている車に対しては世界一残酷な対応を取る。
渋滞の中、JAFだってすぐに来てはくれないだろうに。
困っているドライバーを助けようとする人間は只の一人もいない。
猛烈に罵るだけだ。
日本人は弱い者が困っていれば、ただただ苛め倒すだけだ。
学生時代から既にそうだ。
世界一の残酷な虐め体質を誇る狭量な民族なのだ。
いつも心に余裕がなく、島国根性全開だからな。
外国では困っている人がいると大概は誰か彼かが駆けよってきてくれるものらしい。
俺も海外でバイクのバッテリー上がりで困っていた時に、通りすがりの車の人から声をかけてもらった記憶がある。
日本人も含めて世界中の人間が日本社会を息苦しい社会だという。
だから一般人が書いているなろう小説などは虐めテーマ一色だ。
虐めシーンが登場しない「なろうアニメ」なんか存在しないんじゃないのか。
まあセブンスセンスというものは、そのレベルのピンポイントな誤差で、厄介なトラブル回避を実現してしまうような異常な能力なのだ。
この世界に来た時には、場所までそれとなく誘導されていた気がするのだが。
あの日、あの次元の裂け目の発生した極端に狭い場所に。
まるで体内にいる寄生虫ハリガネムシに誘導されて、ハリガネムシの産卵のために水場へ連れてこられるカマキリみたいなもんだ。
今回は、そのような事が起こるとイコマが言っているのではないだろうか。
相変わらず、奴の言う事の解読は難しいのだが。
「なあ沖田ちゃん、何か意見はなあい?」
「うーん、すいません。
わかりませんね。
こいつは我々にも突破は不可能ですから」
ゴーレム達も色々と試していたらしい。
近藤は上半身をはだけて、障壁に対して両手でパンパンと「鉄砲」を食らわせている。
土方も必殺のオリハルコンの斬撃を浴びせているが、まったく通用していない。
さっきの砲撃もそうだが、物理的な衝撃は跳ね返してこないのか。
割と物理的なイメージのある壁の癖にな。
実に掴みどころの無い性質をしている。
だが、敵がモードを変えると物理攻撃も跳ね返してくるかもしれない。
今は消エネしているだけの可能性は否定できない。
効果範囲が限定的だろうからな。
ゴーレム達は格好の玩具だと思ったのだか、軽い魔法を打ち込んでは避ける遊びをしていたので慌てて止めさせた。
そのとばっちりがこっちに来るかもしれんので。
まっすぐに跳ね返ってくるだけではないかもしれんのだし、魔力に余裕があれば魔法を増幅してくる可能性もある。
俺は諦めて工作の続きでも始める事とした。
そして、そのまま何事も無く、その場で一昼夜が過ぎ去ってしまった。
「う~む」
さすがに俺も唸るしか出来なかった。
「こいつは困ったね。
どうする、園長先生」
「どうすると言われてもなあ。
これだけは待つしかない!」
俺は、そうキッパリと言い放った。
みんな思うところはある様子だったが、それ以外のいいアイデアを出せないので、反対するのは踏みとどまったようだ。
そうして、更に一日が過ぎた。
しかしまた、なんていうか、いつもの事と言うか。
待つと言い出した言い出しっぺであるこの俺が一番焦れてしまった。
その辺りをうろうろしては座り、またうろうろするという無様な姿を晒していた。
まるで瑠衣が生まれる前の山本さんのように落ち着かない。
待つと宣言した俺自身がそんな有様なので、全員がもれなく苦笑していた。
「園長先生ってば。
少しは落ち着きなさいな」
割と焦れていたっぽいベンソンにまで、とうとう園長先生呼ばわりでそんな事を言われてしまう有様だ。
うーむ、当主たる俺がこの有様ではグランバースト公爵家の沽券に関わるぜ。
「いやあ。
俺は待つっていう事が、すげえ苦手でさ」
「あははは、知っているよ。
園長先生は釣りも苦手だからね。
今回も、よく我慢しているなあと思って見ていたよ」
釣りの達人であるSランク冒険者にも笑われてしまった。
そうこうする内に、いきなり何の前触れもなく件の壁がパカっと開いた。
人が通れるほどの穴が唐突に開いて、そこから何かが出てくる。
すっかり油断しきっていた俺達は大慌てで飛び起きた。
「な、なんだ。
何かの攻撃か?」
「おい、みんな。油断するな!」
だが、そこに姿を現した者は俺達がよく知る人物であった。
何故!
「「ジョニー!(人間の方)」」
俺とベンソンが思わずハモってしまった。
男とデュエットっていうのも、ちょっとなあ。
そんな下らない事を考えるくらいの余裕は、まだ俺にもあったようだ。
ジェシカ「やっと私もイラストになりましたね」
園長先生「ああ、ジェシカは可愛いからな」
ジェシカ「可愛くないと駄目なの?」
園長先生「なんていうの?
ほら、絵を描く人が大変だから」
園長先生「今回はキャラが多くて困ったよ」
ジェシカ「よかったー、口絵にもなったし」
シル 「私は可愛くないとでも?」
園長先生「あわわ。枠、枠の関係だってば」
園長先生「次回は出る予定です~」
シル 「本当~?(ジト目で)」
園長先生「そうそう。可愛い奥さんなんだから!」
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