82-12 厄介な障壁
ゴーレムの運転手に揺り起こされて目を覚ましたら、もう現地に着いていた。
隣を見ると織原が気絶しているようだった。
頭を打ったんじゃないだろうな。
シートベルトはしっかり着用されていたが、壁ピッタリにシートがあるからな。
こいつはバス並みの車幅があるのだが、のんびり寝ながら行けるような構造には出来ていない。
きっと寝ている兵隊がいたら頭を打って起きるように設計されているのに違いない。
「お、来たな」
もう夜明けは通り越していたのでアルス達は起きていた。
う、腹が減ったな。
昨日は車の中でサンドイッチを齧っただけだった。
俺は現地に設営されているトイレで用を済ませ、織腹を叩き起こして促した。
「さっさとトイレに行って、ついでに顔も洗ってこい。
飯にするぞ」
俺は腹が減っては戦が出来ぬとばかりに、オニギリを両手に持って頬張った。
奥さんによる手作りの品だ。
生憎とこいつはコピー品だがな。
織原は、まだ頭がはっきりしていないのか、ふらふらしている。
「そら、元御姫様手作りの握り飯だぞ。
ありがたく詰め込んでおけ」
「はいはい、食べますよ。
騎士団の訓練の後で御腹は減っているんだから」
さすがに若いだけあって、朝からばくばくと食っていた。
最近は少し鍛えられているので、基礎代謝が上がっているのだろう。
いい事だ。
御腹も落ち着いたので、織原に訊いてみた。
「なあ、あれは何だと思う。
俺には解析できないんだが」
だが織原も首を捻っていた。
「俺には空間に関する物ならスキルは封じられていても大概はわかるんだけど、ありゃあ一体何なのだろうなあ」
んん?
「そりゃあ、一体どういう事だ?」
「なんていうのかな。
多分、俺のスキルじゃあれを解除する事は無理ですね。
あれは単なる空間とかじゃない。
なんていうのかな、どっちかというと物質に近い何か。
でも物質というよりは何か物理的な存在といった方がいいような物?
でもスキルとか、あるいは魔法か何かで作り上げたような感じがします。
だから質量は無いような感じ?
本当になんだ、あれは」
俺は思わず舌打ちした。
なんとなく正体がわかったのだ。
「そうか。
では、あれは多分アル・グランド王国特有の技術、あるいは魔法で作られているんだな」
少し考えて、元騎士団長に聞いてみた。
「そういう関係で、何か心当たりはないか?」
「そうですな、以前に耳にした事があるかもしれません。
首都防衛用の何らかの装置であるという話ですが。
これがそうなのでしょうか。
もし、そういうものだとすると、これは物理や魔法攻撃では破壊できません。
通過するのに特殊なキーが必要なのではないかと思います。
これは一種のシールドのような物ですな。
だが特殊で巨大な力で作られた、何か物質に近いような物。
すみません、これ以上は専門外なのでわかりかねますな」
「ありがとう。
充分な情報だ」
「なんでしょうね」
織原はまたしても首を捻ったが、俺はヒントをやった。
「多分、俺達には割と御馴染みのものだぜ」
「え? そうなんですか」
「この世界には魔素というものがあり、魔法なんかの元になっている。
だが、俺達地球人がよく知る力も働いているんだ。
そんな系統の魔法もある」
「えーと、電磁力?」
「いや違う。
こいつは電磁バリヤーなどではない。
多分、重力を元にした技術だ。
アル・グランドの魔法はそういう体系を持っているんだ。
だから、そこに重力魔法使いの冒険者がいる」
俺はそう言ってアルスを指した。
かつて重力王アルスと呼ばれたほど重力魔法に長けた男を。
だからこそ魔力嵐の吹き荒れる分解寸前の空中庭園でも大活躍し、あの強者バランをも退けたのだ。
俺の重力系魔法は、彼から学んだものだ。
かつて武が作った空中庭園も、同じアル・グランド系の技術で造られているのだ。
だがそれは、やや使いづらい代物なので、アルバトロスではあまり使われていない。
「ええっ。
っていう事は、これは重力のエネルギーを使った何らかの技術で作られた壁なの?」
「わからんが、そう推定するのが妥当なのだろうな。
この大きさに限定してあるのは、装置か何かを使って作っているので使える範囲に限界があるんだろう。
その代わり、単なる魔法とは異なって相当堅固に出来ているはずだ。
動力源は惑星一つ分の重力があるんだからな」
重力なんていう物は一種の合力に過ぎず、実際にはそのような物は存在しないと言う学者もいるが、本当のところはどうなのだろう。
力の作用と言う観点から見れば、重力と呼んで差支えのないような力は存在すると思うが。
少なくとも、この世界には便利過ぎる重力魔法が存在し、そいつには俺も大いに恩恵に与っている。
「一体、何の話をしているんだ?」
グスタフを始め、アルス以外のメンバーにはよくわかっていないようだ。
「ああ、すまないな。
稀人の国の学校で習うような内容なんで、ちょっと説明し辛い。
ここで判明したのは、恐らく織原に試させても、この壁は破れないだろうという事だ」
「マジか!」
「残念ながらな。
一応、試すだけは試してみよう。
織原、頼む」
俺は織原のスキルを解除した。
そして必殺のスキルは行使された。
「ザ・ロック」
だが、壁は我々を嘲笑うかの如くにその存在を堅固に誇示し続けて、揺らぐ事が無いのを改めて示した。
「やはり駄目だったか。
織原、御苦労」
「うわあ、これで俺の出番は終わりですかあ。
遥々やって来た割には、なんか無駄足でしたね」
ちょっと織原がしょげていたが一応慰めておいた。
「いや、そんな事はない。
何しろ、全く手掛かりが掴めなくて閉口していたところだからな。
お前が来てくれた御蔭で色々な事が判明してきた。
ありがとう。
あとは、こっちでなんとかしよう。
遠路遥々、御苦労だった」
「そうですか。
じゃあ、俺はこれで帰りますね」
「ああ。
斉藤ちゃん、織原を送ってやってくれ。
まだ様子がわからんので、安全をみて地上から行ってくれよ」
「はーい。
じゃあダーリン、行きましょうか~。
二人っきりで丸一日ドライブよ!」
「ちょっ、やめてくださいよ。
腕に胸を押し付けないで!」
はは、楽しそうだな。
まあ織原も帰ったら騎士団で特訓の続きなんだが。
葵ちゃん「園長先生、私も本に出してくださいよ」
園長先生「おお、葵ちゃんも2巻で初登場だねえ」
葵ちゃん「外伝に出たかったなあ」
園長先生「いや葵ちゃんでという声もあったんだけどね」
葵ちゃん「え、本当ですか」
園長先生「ごめん、ボツっちゃった」
葵ちゃん「ガーン」
園長先生「まあまあ、それはまたの機会という事で」
おチビ猫「あおいちゃん、おんまさん~」
葵ちゃん「はいはい」
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