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82-8 アル・グランド王国騎士団長

 まだ薄暗い中、陣地の天幕の中で毛布に包まって寝ていた俺は、グスタフに揺り起こされて目を覚ました。


「お、もう朝か?」


 だが俺を出迎えてくれたのは柔らかな金色の日差しではなく、まだ薄暗い闇のビロードであった。

 早起きな鳥さえも朝の挨拶の(さえず)りをしていない。


「ああ、今から仕度するぞ。

 そうでないと夜明けに間に合わないからな。

 アルスはもう起きている」


 俺は欠伸をしながら大きく伸びをして起き上がる。

 どうもベッドでないと寝足りんな。

 さすがに俺も、今日はケモミミ園へ戻っていない。


「俺は冒険者生活に慣れていないからな。

 こんな風に、本式な冒険者みたいに暗い内から行動を起こすなんて滅多に無いぜ」


「世界最高位であるSSSランク冒険者の口からそういう話を聞くと意外だよな」


「いや、俺の本業は園長先生なんだけど。

 子供達が起きるのは、もっと遅い時間だよ」


「そういや、そうだったな」


 そんな会話をしてくれる、今はまだ薪割りが本職みたいな神殿関係者がいた。

 こいつも超高ランク冒険者なんだよな。


 貴族出身の癖に、俺なんかよりもよっぽど冒険者らしい。

 元は厳しい修練を積んだ騎士なんだしな。

 今はまた騎士の身分に返り咲いたが。

 だが、どうにも冒険者っぽさが抜けないようだ。


 他にもう一人、もうすぐ王にならんとするSランク冒険者もいるし。

 領地に引き籠ったアントニオ以外の現役Sランク以上の冒険者が一同に終結しているな。


 SSSランクのおっさんが一番素人くさいわ。

 公爵業務の方も完全に素人だし。

 まあ、あっちの方は助けてくれる人間が沢山いるのだ。

 とりあえず、こっちの方面で今まで以上に頑張るとしますか。


「じゃあ、一ついってみますかあ」


 俺は小さな家庭用花火でも打ち上げるかのような気楽さで宣言した。



 そしてアルスとベンソンを連れて国境の方へ向かった。

 朝飯は携帯食を齧っておいた。

 そういう事をしていると、なんとなく(いくさ)っていう気がしてくるな。

 日本だと、ただの災害食だけれども。


 今でいうところの日本のデトロイト、あの辺りも昔は戦国時代の一大中心地だった。

 当時の携行糧食は、もっぱら米と味噌で作っていたような気がする。

 今でも地元民はみんな味噌をどっぷりと愛用しているし、一昔前なら極東アジア全般で愛食されているジャポニカ米の品種の八十パーセントは、愛知県で品種改良して作られていた。


 米と味噌は、しっかりと異世界まで持ち込んだぜ。

 今度趣味で作ってみるか。

 戦国足軽飯とか忍者の兵糧丸なんかを。



 バルミアの関係者に手を振って国境を通らせてもらい、ゲルス側の国境警備隊に挨拶した。

 そして厳めしい感じに、まるで訪問者を拒むかのような雰囲気の国境検問所に奴らはいた。

 大河エール川を挟んだ、ベルンシュタインとアルバトロスの国境を思い出すな。


「よお!

 俺はアルバトロス王国のグランバースト公爵、通称アドロスの魔王様だ。

 よろしくね。

 そしてこちらにいるのは、アル・グランド王国の正当な後継者である王太子アルス殿下だ。

 我々セブンフラッグの旗の元、ここに正式な宣戦布告をさせてもらいたい。

 ちょっと王都まで連絡しておいてくれよ」


「なっ!?」


 突然に晴天下で降って湧いた超絶なサンダーレインウルトラと出くわしたかのように絶句する兵士達。


「ふむ。

 そちらは確かにグランバースト公爵に違いない。

 精霊が姿を伝える魔法の映像で見た事がある。

 それに、その首から下げたSSSランクのオリハルコン製冒険者プレートが何よりの証」


 彼らのうち、かなり年配の兵士が前に進み出て、俺達をそう評した。

 そして彼は俺に関して簡潔に評した後でアルスに向かう。


「おお、先王陛下の面影がくっきりと面差しに。

 お帰りなさいませ、アルス殿下」


 彼はそう言いながら、恭しく膝を付いた。

 だが隊長らしき徽章を鎧に付けた男が激高し、それを激しく咎めだてた。


「貴様、アルケートス!

 いくら元アル・グランドの騎士とて、そんな真似が許され……」


 だがそいつは、いきなり最強ドラゴンよりも遥かにパワーのある俺のアイアンクローを食らって、喋る事も身動きする事も出来なくなった。

 それから俺は、そのアルケートスとやらに勧誘をかけた。


「なあ、あんた。

 よかったらうちの陣営に参加しねえ?

 アル・グランドの元騎士なら歓迎するぜ。

 ちょうど今、人員が欠員一なんでな」


 だがベンソンの奴が、その元騎士アルケートスの前で何故か傅いていた。


「御久し振りです、アルケートス騎士団長。

 まさか、あの激戦の中で生き抜いておられたとは!」


「何~っ!」


「ほお。

 お前は見習い騎士であった鼻垂れベンソンではないか。

 あの灰塵極まる争乱の中で無事に生き延びておったか、小童。

 そいつは見上げたものだ。

 中々いい面構えになったではないか」


「ははっ、恥ずかしながら生き恥を晒しておりました。

 今更私のような虚け者が、騎士団長の前に顔出し出来る道理もございませぬが、ここは曲げて御願い申し上げます。

 どうか、我々を黙って通していただくわけには行きませんでしょうか」


 だが、その元騎士団長という年配の男アルケートスは、貧相な装備を付けてはいるものの、かなりいい体をしているのがわかる。

 しかし。


 ピークの時には、さぞかし勇壮な肉体を誇ったのだろうが、今は見る影もなく衰えている。

 食料も足りず、長年碌に鍛練も出来ていないのだろう。

 だが彼は凛とした声で言い返した。


「何を言うか!

 男が信念を持って押し通るというのなら、儂如きに何を遠慮する!

 さっさと儂を倒して先にゆけ。

 そして、このアル・グランドを頼んだぞ!」


「き、騎士団長~」


 むさい。

 おっさん同士が抱き合って、なんか泣いている。

 ああ、なんて無様というか、男臭くて加齢臭漂う光景なんだよ。

 こういうのは美少女だけに許される特権なんだからな。


「おい、お前ら。

 ちょっとむさくるし過ぎるぞ。

 もう頭に来たぜ。

 だからな」


(食らえ、再生!)


 俺の必殺のスキルが炸裂した。

 そいつらは耀く再生の光と共に、時代を遡るが如く、在りし日の勇壮な肢体を取り戻した。

 そこには、さっきまでのむさ苦しい奴らはどこにもいない。

 このくらいの器量の男達ともなれば、強烈極まる再生スキルを受けても俺のように呻きまくって醜態を晒す事は一切ない。


 装備こそどうにもならない雑兵の物だが、その内側は気品と誇りに満ち溢れた、漢の中の漢がいた。

 先ほどは背中を丸めたような感じであったので気が付かなかったが、こうしてみるとアルケートスはかなりの巨漢だ。


 そして、はち切れんばかりの筋肉が溢れ出していた。

 膨れ上がったそれの内側からの圧力で、簡素なみすぼらしい鎧も服も、たちまち弾けて千切れてしまっていた。

 本人自身も驚いて自分の腕を見つめ、突如蘇った筋肉に戸惑う風であった。


 これはまた!


「おお、騎士団長。

 不屈のアルケートスが蘇った!

 これぞ奇跡だ」


 そんなアホな事を言っている、アルグランドの現騎士団長兼ジェネラルがいたので、後ろからケツを蹴り上げておいた。


「痛いですな。

 何をするんですか、まお……いや公爵様」


「やかましい。

 馬鹿どもは蹴散らして、とっとと行くぞ。

 話がちっとも進まないじゃないか」


 お前もついでに若返らせておいたぜ。

 本当は絶対人に見せたらマズイんだからな、このスキル。

 まあ、それもうちの王子共には使ってしまっていたのだが。


「はっはっは。

 元気にやっているようだな、洟垂れ小僧」


「あんたもな、アルケートスとやら。

 いくら肉体は若返ったとて、本当はおっさんだというのを忘れるなよ。

 おい、この際だ。

 あんたにも俺達と一緒に来てもらうぞ」


 おっさん元騎士団長には先に釘を刺しておく。

 若くしてやったのは、ただじゃねえんだからな。


 そして彼は突然若返った己の体の具合を各所確かめながら平然と嘯いた。


「これはまた。

 聞きしに勝る奇天烈振りよのう、アルバトロスの魔王。

 よかろう。

 このアルケートス、アルス殿下と御一緒ならば、再び蘇った力と共にどこまでもゆくぞ」


 物事に動じんやっちゃなあ。

 中々の大物ぶりだ。

 気に入ったぜ。


「じゃあ面倒な儀式はなしで、とっとと忠誠を誓ってくれ」


「アルス殿下、今度こそ最後まで共に。

 二十五年前は、敵を食い止めるのに精一杯で、それは叶いませんでした」


 跪く彼にアルスは、そっと肩に左手を添えて耳元で囁いた。


「すまない、アルケートス。

 騎士団長の座は、もうベンソンに」


 だが、アルケートスは開敷(かいふ)の笑みを見せて立ち上がった。


「なるほど、ならば好きに暴れられるポジションというわけですな!

 これはありがたい」


 あ、また問題児が来たかも!

 ちょっと人選を誤ったかな。


「ズ、ズルイですぞ、騎士団長。

 いやアルケートス殿」


「何をいうか、ベンソン。

 先に騎士団長などという窮屈なポジションに収まっているお前が悪いわ」


「うむう、なんという事だ」


 俺は更にむさくるしさの増した集団の汗臭さにに溜め息を吐いて、アルスの首に腕を回して囁いた。


「感想はどうだい、王子様。

 あんな、むさくるしいおっさん達に囲まれてよ」


「仲間がおっさんなのは今更だよ。

 ね、園長先生」


 そう言って笑うアルスの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


 よし!

 若作りなおっさん仲間、二人ほどゲットしたぜ。

 もうジョニー(人間の方)なんか放っておこう。

 やる気のない若い子達は放っておいて、若返ったおっさんチームだけでとことん暴れようぜ。


「そわそわ」

「何そわそわしてるの、真理」


「え、別に何でもないわよ」

「そういや、今日はおっさんリメイク2が発売だね」


「べ、別に書籍デビューだから落ち着かないわけじゃないのよ?」


「でもシャツが裏返しだよ」

「あ、あらやだ」


 外伝「勇者真理の冒険」も載っている、おっさんリメイク2巻は今日正式な発売日です。


http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

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