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82-9 誓いのオリハルコン

「貴様ら、ふざけるな!

 おい、こいつらを捕縛しろ!」


 アイアンクローの万力から解放してやった国境のゲルス側指揮官は、部下達を怒鳴りつけ門の前に立ち塞がった。

 おー、御仕事には大変熱心なんだな。


「誰に向かって物を言っているんだ、この雑兵め。

 さっさと裏切り者について今の地位についた痴れ者が。

 お前の所業は、今日まで(つぶさ)に見届けてきたわ。

 俺は今日この日を二十五年間、ただただ夢見てきたのだ。

 命の惜しい奴は脇にどいておれ」


「怯むな、そんな老いぼれに。

 見かけは若くなろうとも、所詮中身は年寄りだ」


 そいつはどうかなあ。

 俺の再生の能力というものは。


 次の瞬間に、タンっと鋭く大地を叩く音が聞こえたかのように錯覚するほどの、キレッキレの踏切を見せるアルケートス。


 軽く大地を蹴る音と共に騎士アルケートスは跳んだ。

 次の瞬間、彼が持っていた粗末な鉄の剣は、通せんぼをしている邪魔な奴らを全員苦も無く打ち倒した。


 しかも殺さずに、全ての敵兵を剣の腹で平打ちにするほど心の余裕があった。

 こいつもわかっているな。

 さすがは元騎士団長だ。


 この戦いは、なるべ敵兵を殺さずに首都を落とした方がいいのだ。

 ここは直にアルスの国になるのだから。


「さあ参りましょう、アルス殿下」

「待てよ、おっさん」


 そう言いながら、俺はオリハルコンの剣を奴に投げ渡した。


「そいつはアルスと御揃いなんだぜ。

 元々アルスのオリハルコンも俺がやったもんだしな。

 あんたみたいな漢に鉄の鈍らなんかを持たれたんじゃ、アルスの名折れになる」


 アルケートスは、投げられた剣を華麗に受け止めるとスラリっと抜き放った。

 これほどの強者には、やっぱりその山吹色の煌きがよく似合うぜ。


「公爵閣下、ありがたくオリハルコン頂戴する」


 彼は軽い会釈のみで剣を受け取った。

 その剣を受け取るに相応しい働きはしてくれ。

 そんな言外の俺からのメッセージを汲んで、素直に受け取ってくれたのだろう。


 そしてベンソンにも同じ物を投げ渡すと、彼も同様の挨拶を返した。

 うん、中々の連中だ。

 これだけの、金銭的な価値の計り知れないような値打ち物を賜っても、妙にへりくだったりなどしない。


 それから俺は、もう一本の俺の分ではないオリハルコン剣を取り出して、手の中で軽く(もてあそ)んだ。

 まだ遅刻野郎が一人いるので。


「あの野郎、どこで油を売っていやがるんだ。

 忠誠のオリハルコンが待っているんだぜ」


 だが事態は待ったなしだ。

 まあ、終わってから来ても仕事は山ほどあるんだからな。

 むしろ、後に回ってくる仕事の方が大変なのだ。

 遅れてきた分は、一番若い奴にその大変な分の仕事は多めにくれてやろう。


「じゃあ、一つ気合を入れて行くとしますかあ、アルス殿下」


「ええ、グランバースト公爵閣下。

 いや、魔王アルフォンス様」


 俺達は、御互いに顔を見合わせて笑ってしまった。

 もうそんな感じの空気なんだよな。

 本当に今更だよ。


 それを見て、今までの俺達の事情をよく知らない元騎士団長も色々と察してくれたようだった。


「進軍」


 俺は【軍勢】に、号令をかけた。

 それと共に新撰組の連中が現れて、近藤が声をかけた。

 本来は、こいつらを使って強引に門を破らせるつもりだったのだ。


「各々方、戦じゃ!

 進めい」


 近藤の合図で現れたのは、ライトアーマーの途切れる事もない行列だった。

 ライトアーマーとは、陸上自衛隊の軽装甲機動車、つまり軽装甲車の事だ。


 これは「本物」だ。

 俺の最新スキルで作り上げたものなのだ。

 最高速度は時速百キロメートルと、駐屯地にあった説明の立て看板には書いてあった。


 地球には、もっと速い装甲車もあるのだが、生憎な事にそいつの手持ちはない。


『過去に俺が触ったり使ったりした物体』は魔力を対価に物体として再生できる。

 それが俺のアイテムボックス第三世代の能力だ。

 データをもとに物品を作成してくれる能力なのだ。

 御蔭で段違いに手に入る物が増えた。


 ライトアーマーは陸自の豊川駐屯地にもあったので駐屯地公開日に何度も乗った事がある。

 他のAFV、装甲車や戦車などの装甲戦闘車両は足が遅い。


 高機動車だって、たいして速くない。

 せいぜいライトアーマーより時速十キロ程度速いか同じくらいかだろう。

 あれは、只のトラックなのだから。


 陸自の隊員が、「装甲どころか、ただの幌ですから防弾性はゼロです。完全に弾が貫通します。エアコンも効かないですから演習の時に寒いです」とか言っちゃうような代物なので、限りなく威圧感もゼロに等しい。


 威圧目的を考えると、この薄いながらも装甲を持つ、一見すると頑強な鋼鉄の塊のようにさえ見えるライトアーマーがぴったりだった。

 ただし、装甲は魔法金属に置換してある。


 戦車は足が遅いので戦闘時以外は出さない。

 前に作った203ミリ砲を積んだオリジナル奇形戦車も、魔導を封じられては、あまり使えない兵器だ。

 やっぱりここは純正の『本物の』戦車の方がいい。


 このライトアーマーは本物の装甲車に比べれば、補強部分を持つ前面ガラス部分などは限りなく普通の車に近い。

 もちろん窓ガラスは、小さめの側面窓も含めて、うちのバスに使っている窓のような超強化版だ。


 俺が生まれた時から一緒にいてくれるセブンスセンスのイコマが、過去に俺が触れた物の構造を全て記憶している。

 ある程度の物は見ただけの物でも再現する事が可能だ。


 自衛隊兵器では、豊川に飾ってある旧式兵器が殆どだ。

 戦車は61式と74式だけだ。


 配備数が少なく、その大重量から脆弱な日本の公道を自力で進めない仕様だから、生産数が少なくて拝む事の出来なかった役立たずの90式戦車や、最新型の10式戦車などは当然保有していない。


 富士火力演習なんか倍率が高過ぎて、もう応募した事すらもない。

 俺なんか、駐屯地でやる戦車試乗会の当日分抽選枠となっている戦車乗車券の、たった二分の一の確率にだって当然のように外れるんだからな。


 米軍の解放日も行った事がない。

 昔は空母の中まで一般人を入れてもらえたのだ。

 日本共産党が馬鹿をやったんで、それも無くなっちまったが。


 空自海自の公開日も地元の駐屯地以外は行った事がない。

 比較的近隣でやる有名な岐阜の航空ショーすら行っていない。

 今にして思えば、まったく勿体無い事をしたもんだ。


 ヘリコプターは豊川の動かない展示品とラスベガスで乗った観光ヘリが主力だ。

 後は飛んでいるのを見た奴くらいだな。


 CH47チヌークなんか低空で良く見かけるので上手く再現出来ている。

 オーラを自在に伸ばせる人間なら余裕で届くだろう高さだ。

 俺が小学生だった頃の大昔は、よく低空を爆音を響かせながら数機の群れで飛んでいたのでイコマの探査射程距離内だった。

 あれも騒音で苦情が入ったのか時代のせいなのか、最近は市街地上空であまり見かけない。


 俺の能力の殆どは、イコマの力、つまりセブンスセンスに頼っている。

 あと元から持っていた遺伝的な能力によるサイキックも、この世界で得たスキルや魔法も持っているが。


 あいつがいなかったら、この異世界でも只の人以下だったかもしれない。

 山本さんや葵ちゃんにも劣る能力でしかなかったかもしれないのだ。

 さすがは三十年近く、いや生まれた時から半世紀以上連れ添った古女房だけの事はある。


 火薬式の銃器は、二十五~三十年前にアメリカやオーストラリアで実際に撃ったり、ショップで見たりした物しか持っていない。

 後は警官や自衛隊の幕僚がもっていた拳銃か。


 それ以外の後の物は、そのアイテムボックス第三世代の能力を身に着ける前にネットの設計図から再現したものだけだ。

 それでもこの異世界では充分な性能なのだが。


 小火器の威力そのものは、そう変わっているわけではない。

 名古屋城の鉄砲隊が使っていたり、展示品を見たりした火縄銃さえ見事に再現できている。

 あれはシンプルな構造だからな。

 精密に作られて、良い鉄を使ってはいるが。


 火砲もメインは155ミリ榴弾砲だ。

 後は120ミリ迫撃砲とか。

 37ミリのごつい二連装高射機関砲などもある。

 他に対地対空のミサイル類は、豊川で展示されていたものしか持っていない。


 だが弾薬は『それぞれの兵器が持っていた記憶』から再現したので、各種ちゃんと持っている。

 外国のネット販売で見かけた、中古で売られていたドイツ製の二連装五十ミリ対空機関砲を搭載した対空戦車があればなあ。


 あれは確か五十ミリだと思ったのだが、もしかしたら三十五ミリの間違いだったかも。

 三十五ミリ砲弾でも弾薬が相当でかいからな。

 五十ミリ砲弾だと、昔の戦車砲並みの大型弾薬になってしまうから、対空機関砲として使ったらすぐに弾が切れてしまうだろうな。


 あれは水平射撃も可能な代物だった。

 タングステンどころではないオリハルコン弾芯を用いた強力な貫通力を誇る砲弾なんかだと、あれだってまだ結構いけるんじゃないのか。

 凶悪な貫通力を誇る劣化ウラン弾よりも貫通力が強力なのは間違いない。

 そのタイプの強力な弾薬も重機関銃や戦車砲用には作ってみたけどね。


 どうも、この様子だと魔法兵器はいつ封じられてもおかしくない按配だ。

 今は転移系魔法と通信関係が駄目なだけのようだが、これを封じる事が出来るという事は、おそらく他の魔法も封じる事が出来るのだろう。


 奴らがそれをやらない理由は、おそらくはリソース、動力となる魔力の関係だろう。

 だが、こちらが打って出た以上は、そこまでの威力で使ってくるかもしれない。

 多分、範囲を限定すれば完全な魔封じの仕掛けを展開できるのではないか。


 だが、こちらに日本のテクノロジーがあるのは敵もよくわかっていまい。

 とりあえず、これらの本物の兵器類を用いて進軍しておけば、おそらく首都までは進められるだろう。


 魔法や魔法関連で飛ばしているだけの航空機は、基本的に出せない状況だ。

 その他の航空機もあるのだが、ここまでの敵相手には心許ない代物だ。


 今風の無人偵察機なんかも作っておけばよかったか。

 四本足でプロペラ駆動する、一般的な形状をしたカメラ搭載ドローンなんかも悪くない。

 さすがに今から造ったのでは間に合わないな。

 俺がドローンを使った事がないのが致命的だ。

 玩具の奴でもいいから買って遊んでおけばよかったわ。


 今は明け方の四時だ。

 このまま進めば平均時速八十キロメートル程度でいけそうだし、十七時前には首都ゲランに到着するはずだ。

 戦闘装甲車両にとって、この程度の荒野はさしてハンディキャップとはならない。

 あの荒野をトラックで駆けた避難訓練を思い出すな。


 そこから、向こうがどうするのかが問題だな。


「こ、これは!」

「いやはや」


 アルケートス達が、近代的な機甲部隊による進軍に目を白黒しているが、容赦なく宣告する。


「この魔王と行動を共にするのだから、こんなものはさっさと慣れてくれ。

 これで一息に片付けられるんなら苦労はしないが。

 多分、簡単には終わらないだろう。

 とりあえずは、ちゃっちゃと首都まで行くぞ」


 そして異世界のはち切れんばかりの筋肉に覆われた騎士どもを、容赦なく自衛隊仕様の狭い装甲車の中へ強引に押し込んだ。


「旗を立てろ!」


 俺の号令に、土方が旧アル・グランド王国の国旗を翻した。

 ここも首都に主神ロスの鷹である『アルフォンス』などという名を付けていたほどなので、鷹をあしらった旗だった。

 少し古い感じのデザインで、なんというか自衛隊やアメリカ軍の、どこかの部隊で使っていそうな奴だ。


 この俺の背負う紋章が爆炎の鷹、『焔のアルフォンス』なのだから御揃いだし、まあそう悪いものではない。

 ベースに同じ馬の紋章を用いた、フェラーリとポルシェの兄弟エンブレムみたいなものだ。


 こいつが俺達の錦の御旗だ。

 その錦の御旗を掲げているのは、生憎な事に官軍ではなくて新撰組なんだがな。


 そして続けてセブンフラッグを構成する、すべての国の旗が掲げられた。

 日本人の俺が指揮官で、装備の多くも日本の物なのだが、あえて日の丸は掲げていない。

 これは異世界における戦いなのだから。


 ついでに悪乗りして新撰組の『誠の旗』を上げている奴らもいたのだが、まあその辺は「意気や良し」という事で!


「おいちゃん、サイン本作ったって本当?」

「う、うん。文華堂さんでね(ミ、ミミズさんがのたくっていたけど……)」


「書いてー」

 しぶしぶ書いたサインを見て、微妙な顔のレミ。


「今度からレミちゃんが書こうか?」

「マジでその方がいいかもな……」


 売れ残っても、返品がきかないサイン本。

 もし次回なんてものがあったら、もっと上手く書こう。

 本に折り目をつけずに上手にサインするのが、あんなに難しいなんて!


 そんな「おっさんリメイク2」ですが、昨日は文教堂さんの一般文芸書デイリーで瞬間突風で6位まで上がっていました。ありがとうございます。今は見る影もないですが。週間は初登場で70位でした。


ランキングで念願の書影が見られたので嬉しいです。

前回は12位まででした。


http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

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