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82-7 出陣前夜

「というわけで、今あの国は相当ヤバいぜ。

 現状、食い物がかなり不足しているっぽいし。

 俺も食われそうだったから、もう最初の街で引き返してきた。

 他はネズミやミミズの肉だとよ。

 犬猫なんかも、さっぱり見かけなかったな。

 今あの国を牛耳っている連中は、本当に禄でもない奴らなのがよくわかる」


 戻って来たジョニーは、臨時陣地に構築した会議用の天幕の中で、向こうで見聞したあれこれを語ってくれたが、それはまた思いっきり碌でもないような内容だった。


「そうか。

 いや御苦労さん、助かったよ」


 俺はジョニーをもふりながら労った。

 山本さんが作ってくれた、御弁当とはまた違う結構豪華な食事を与えて休ませることにした。

 この分だと、こいつにはまた活躍してもらう事もあるかもしれん。

 ジョニーはもう皿を抱え込むようにして食っていた。

 

 それを一緒に聞いていたバルミアの人間が、少し考え込むようにしながら解説してくれた。


「まあ、あの国は元々そんな風ではありましたが、食料事情の極端な悪化は気になりますね。

 以前はそこまで酷くなかったはずなのですが。

 こんな騒動を起こしておいて、一体何を考えているものやら。

 一般兵士がそんな有様だとは。

 これは真面に戦争が出来る状態じゃないのかもしれません」


「あるいは、その必要がないのかもという事だな」

「と、おっしゃいますと?」


 話がよく理解出来ていないバルミアの文官は首を捻る。


「うちだって、これだけしか人は出していない。

 あの国を守っているのは、何か人に頼らないような防衛システムなのかもな」


 あの国は、そういう方面では侮れない(いにしえ)の国らしい。

 やはり帝国のような新興国家とは訳が違う。


「そうなのですか?

 私には、よくわかりませんが」


 そりゃあ、わからないかもしれないな。

 この世界での戦いは人海戦術や魔法を使うやり方だ。

 割と地球に近いやり方なんかは理解出来ないというか、想像する事さえ難しいだろう。


「どうする?

 真面に偵察する事すら困難なようだし。

 進軍するのなら、国境からゲルスの首都に近いエルトミア側から入るのがいいと思うが、どうもあっち側は気が進まないんだよな。

 特に理由はないのだが」


 俺は自分の考えを言い、他のメンバーに意見を問うてみた。


「それにつきましては、その方が無難であると考えます」


 すかさず、バルミアの文官が即答してくれた。


「というと?」


「なんといいますか、あそこいらの人間は少しこすっからいというか、そういうところがありまして。

 ゲルスの方が優勢であるならば、王家も寝返る事が考えられますので。

 今回はセブンフラッグの連合軍もまだ正規軍を派遣しておらず、貴方が率いる部隊のみの、いわば魔王軍精鋭部隊とでもいうべきもの。

 アルバトロスの魔王の御手並み拝見とでも思っているのではないでしょうか。

 向こう側、エルトミアにある国境の街は気概のある連中なので、どうかわかりませんが」


 うーん、そういう話もあるのか。

 まあ元々はミハエルが調整してみて、エルトミア方面はあまり具合が良くないので、こちらのゲルスの首都から遠いバルミア王国側で陣取っている経緯もあるのだ。


「グランバースト公爵、そいつに関しては我々も同じ意見だ。

 それに、ゲルスは舐めてかからない方がいい。

 国王陛下もかなり危惧しておられるようですし」


 アルバトロスの王国騎士からも同じような意見が出てしまった。

 他国の派遣要員からも同様の意見が相次いだ。

 エルトミアから派遣されてきたメンバー自身も、自国の対応に関しては渋い顔をしながらも同意していたほどだ。


 元々、今ここにいるメンバーには諜報関係だの偵察だのの専門家が多い。

 その意見を軽んじるのは愚行というものだろう。


「わかった。

 こちら側から攻め入ろう。

 とりあえず、偵察も兼ねたジャブだな。

 移動や通信に制限が加えられているようだから機械化部隊で強引に進軍する。


 空を行く航空機類も使用しない。

 空中で魔法による攻撃を受けたくない。

 推進システムに関わる魔法が無効化されたりしたら、目も当てられない事になってしまう。

 切り札的な魔導衛星も使うのは自粛しておいた方が賢明だな。

 あと敵に捕獲される危険もあるので、敵の戦力が今一つ読めない現状での航空戦力は自粛だ。

 もし道中何も反撃が無ければ、地上部隊でも一日で首都ゲランまで辿り着くだろう」


「アル、お前にしては、いやに攻めに対して積極的だな」


 グスタフが意外そうな顔をして、こちらを見る。


「ああ、もう喧嘩は売っちまった事だしな。

 もたもたしていると、また自分の国の方にちょっかいを出されそうだ。

 あと肝心要のケモミミ園にもな。

 それとジェシカのいるアルバ大神殿だって他人事じゃないのだからな。

 ゲルスの連中は、あそこへも織原を送り込んできていた」


「それは言えるな」


 グスタフの脳裏に、愛しいジェシカの笑顔が涼やかに()ぎったようだ。


「それにまだ何かありそうだから、向こうへ行ってからヤバくなったら速攻撤退して対策を練るぞ。

 撤退ルートは優先順位一位がエルドア王国だ。

 一応、万が一に備え、ドワーフ連中が国境付近にいてくれる。


 次は向こうへ距離が近ければ、その時はエルトミア王国だな。

 もしそっちが駄目ならば、もうこのバルミアまで一目散に駆け戻る。

 関係国側にはゴーレム達も配置しておくが、そいつらはゲルス側には入れない予定だ。

 俺達が撤退するという事は、基本的にゴーレムが使えない事態になった時だと思うから」


 アルスは頷くと、全員に向かって言った。


「では明日の夜明けと共に出よう」


「了解した。

 本当に順調なら、明日の夕方にはゲルスの首都にセブンフラッグを立てられるだろう」


 絶対にそうはならないとは思うのだが。

 そうでなければイコマの奴があんなに慎重なはずがない。

 あいつって本当は、結構やり過ぎなくらいイケイケな性格なんだから。


「まだ様子がわからない。

 念のために、アルグランド王国の関係者はこちらに残っていてくれ。

 具合が良さそうなら前線へ来てもらおう。

 邪魔が入らないなら、まあ一日で来られる範囲だ。

 多分、来てもらわないと駄目かもしれない」


 日頃は蛮勇とも言えるような暴れっぷりを見せ付ける、この俺のやる事に慣れているアルバトロス王国騎士は、やや驚きを露にして尋ねてくる。


「あなたにしては、本当に慎重に行動なされるのですね。

 あの勇壮な騎兵団を持ってしても、なおかつ苦戦が予想されるのだと?」


 いや、俺は元々歳なりに慎重な普通のおっさんなのだが。

 レオンやカミラのような若い子みたいにはズコンっとはいけない。

 なんというか臆病なくらいに慎重過ぎて、なかなかスパっと行動に出られないくらいなのが本来の俺の性格なのだ。

 まあ、この世界における「やり過ぎる俺」しか知らない連中にはよくわからないかもしれないのだが。


「うーん、なんていうんだ。

 俺は先の話が順調なら理屈でなくわかるし、そうでない時もわかるのさ。

 正直に言っておくが、今回はどうやらあんまり具合がよくなさそうだ。

 はっきり言ってしまうが、おそらく駄目だろう。

 大変嫌な気持ちでいっぱいなのさ。

 思わず眉間に皺が寄る。

 そうでなければ、こんなところでチンタラしてはいないよ」


 俺の些か煮え切らないような言葉に皆思うところがあるようだったが、ひとまず会議は解散する運びとなった。

 各国から集まったメンバーは、いつでもこちらに追いつけるように準備して、バルミア王国内にて臨戦態勢を整えて待つ事になった。


「園長先生。

 いつもの奴でわかっているんだね。

 今回、旗色が悪いんだろうか」


 アルスも今回は自分が主体なのだ。

 そこは気になるんだろう。

 夕方の簡素な食事の中でそう聞いてきた。


 ここのところ、俺もケモミミ園の様子を見るためだけに園へ帰り、寝るのはこちらの拠点だった。

 ジョニーの偵察の具合でそのようにしたのだ。


 本格的な進軍になるため、ジョニーも一旦うちに帰した。

 また来てもらう事になるかもしれないが。

 さすがの奴も辟易した感じで帰っていった。


「まあ、お前には正直に言っておこう。

 今の段階ではなんとも言えないが、すっと簡単には行かないだろうな。

 多分、様子見のジャブをかまして、一時撤収という形になると考えている。

 負けるとは思っていないが、事態が膠着する可能性はある。

 雲行きは若干怪しいかな」


 アルスも軽く酒を流し込む感じで、心情を吐き出した。


「率直な意見を言ってもらえて助かるよ。

 僕も、祖国といっても殆ど記憶にもない国なんだ。

 物心付いた時には他所の国にいたから、この国の実際の具合とかまったくわからない。

 子供の頃に暮していたのは、多分この大陸南方面にあるバルミア王国じゃないのかな。

 結構温暖な気候の土地での暮らしだったし」


「仕方がありませんよ。

 殿下も当時は二歳くらいの御歳だったんですから。

 私とて、まだ少年といっていいような歳の見習い騎士でした。

 あれから、あの国へ行った事はないのです」


「でも僕は王子だ。

 ジョニーの言っていた、あの国の人々の暮らしぶりが気になるよ」


 それを聞いたベンソンもなんとも言えない顔をする。

 かつて、その人々を守る役目でもあった騎士としては、それに関して思うところも多いのだろう。


「まあ、早朝には出発する。

 今日はもう休んでくれ」


「そうだね。そうするよ」


 アルスも現役Sランク冒険者なのだ。

 切り替えは早いだろう。

 寝付きはとてもいい奴だ。

 今夜は明日に備えて、しっかりと寝ておいてほしい。


 書籍二巻発売前夜です。


「おいちゃん」

「なあに、レミ」

「レミちゃんの外伝は?」

「う! そ、それは。ゴメン、没でした」

「ええー、ひどーい」

「こ、今度は、一緒に外伝出たいね」

「ほんとうー?」

「い、いつかね(いつだろう)」


おっさんリメイク2巻、もうあちこちで発売されているようです。

2900万PVになりました。応援ありがとうございます。


おっさんリメイク2巻の紹介ページはこちらです。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

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