82-6 ジョニーのエスケープドラマ
「やれさて。
街中を犬型で出歩くのは危ないな。
こいつらも、さすがに人型なら取って食ったりはしないだろう」
ジョニーは知る由もないが、地球でもこの手の国家は政治的な理由で食料不足が深刻になると『人型でも危ない』のだ。
むしろ人間だからこそ危ないと言えるかもしれない。
そこまで行くと、一番手軽に入手出来る蛋白質なのだから。
何気なく街を歩いていたが、いきなり巡回の衛兵達に出くわして詰問された。
サラリとやり過ごして、にやにやして心の中で嘲笑しようと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「おい、お前。
身分証を見せろ。
見慣れない顔だな。
どこの人間だ。
この街の人間ではなさそうだが、国内の移動許可証を出せ」
そう言いながら衛兵どもは剣を抜き、槍を突きつけてきた。
(ちょっ、そこまで!?)
「どうした、早くせんか!」
「隊長、怪しい奴だ。
アルバトロスあたりの間諜かもしれません。
捕縛しましょう」
「よし、捕まえろ」
(あは、これはまた勘のいい連中だ。
冗談じゃねえぞ。
ここはマジで物騒なとこだな。
今回はこれで切り上げだ)
プリティドッグは人型でも異常に足が速かったりする。
これもプリティドッグが簡単に捕まらない秘密の一つだ。
当然、犬だから鼻もよく利くし。
諜報活動は人間様よりも大の得意とする生き物なのだ。
どこかの国で、本当に諜報犬として使われているのかもしれない。
そう言う訳なので、ジョニーは人間体形のままで速攻トンズラを図った。
衛兵達は後を追うどころか、虚を突かれて囲みを破られたので一歩も動けなかった。
「なんだ、あの異様な逃げ足の速さは!」
「絶対にどこかの間諜だな」
「追え、逃がすな」
だが物陰で犬に戻り、ボロの下に隠れてやり過ごしたジョニーは当然見つかる事はなく、悠々と逃げ延びたのであった。
まだ、ここでは人間が(食料として)狩られるところまではいっていないようだ。
犬・鼠・ミミズまでは確認できた。
道理で道中、犬猫などの小動物を見かけなかったはずだ。
帰りは門の前で執念深く馬車を待ち、そいつに乗り込んで街の外へと脱出した。
そして犬の姿のまま、門が見えなくなるまで駆けまくると、最初に遮蔽物のある辺りで一息ついた。
それから脱出の前に首輪に仕込まれた魔法を試してみた。
フライである。
軽く浮いたから、これは問題なく使えた。
フライはミニョンママと空中デートを楽しむために、ジョニーがよく使っている魔法だ。
感知されて攻撃魔法で撃墜されるといけないから、道中の移動には使わないように厳命されていた。
魔法が使えるかどうかだけ試してくるように言われていたのだ。
あと回復魔法も試すように言われている。
これは重要な事だ。
散々な目にあって、かなり消耗していたのだが、リフレッシュヒールで見事に体力を回復した。
転移魔法は最初に試して使用不能だった。
街の中でも無論駄目であった。
山本さん謹製の豪華犬用弁当を取り出して腹ごしらえをすると、すぐに出発する事にした。
こんな国に長居は無用だ。
その前に、一応人型ゴーレムを取り出してみる。
「おい、お前がちゃんと活動出来るか確認してくれ」
「了解です」
彼はジョニー付きのゴーレムなので、犬相手にも丁寧な受け答えだ。
ゴーレムは簡単な魔法を色々と試し、魔導武器も使える事を確認した。
さっきも、どうにもならなかったらゴーレムを出して切り抜けるつもりだった。
なるべく出すなと言われているので、そうしたまでだ。
ゴーレムを引っ張り出すのは今回の任務である諜報活動の域を越える。
それはもはや戦闘状態や破壊工作を意味するのだ。
また面倒な事になってもいけない。
確認が済んだのでゴーレムも収納して引っ込めた。
もう後は人型になってゴーレム馬を出し、しゃかりきに飛ばしまくった。
国境では犬型に戻り、やはり辛抱強く馬車を待った。
あと肝心な事だが、いつものスマホが使用不可能なので、無事を知らせる連絡を入れられないのが痛い。
しかも、なんとその日は馬車が一台もやってこなかった。
孤立したゲルスが統制を強めているのだろう。
多分、反乱を恐れているのだ。
中から人を出さない意味合いもある。
さすがに忍耐強いジョニーも身悶えしてしまったが、あまり強行突破をするのも良くないのは、ここまでに散々経験済みだ。
ここまで来て余計な危険を冒す愚は避けたい。
それがプリティドッグの生き方なのだ。
食料なんかは十分にある。
今日は地面に穴を掘り、そこへ潜って寝る事としたようだ。
だが幸いにして、翌朝に貧相な物ではあるのだが馬車がやってきた。
遠くから響く轍の音に、耳をピクっと動かしてすぐに起き上がる。
これが普通の犬ならワンワン吼えるところだが、ジョニーは当然そんな無様な事はしない。
そっと穴から這い上がり、ささっと手早く元通りに穴を埋め直すと、姿を消し気配を殺して道端で待つ。
そして、やってきた馬車の荷台にさっと飛び乗り、そのまま息を殺す。
まるで忍犬、いやそれ以上のスーパー・スパイ犬である。
国境では衛兵も荷台を念入りにチェックしていたが、概ね国から脱走する国民がいないかどうかの確認なので、特に小さな犬などは探していない。
まあ見つかれば食肉として確保されてしまいそうなのだが。
だがプリティドッグは、そこまでトロイ生き物ではないのだ。
捕まれば食われるとわかっているのに見つかるようなヘマはしない。
幸いにして小さな馬車なので、上がりこんできた兵隊は一人だけだった。
あとは、そいつの真後ろで付け回していればいいだけの、いつも通りの簡単な御仕事だ。
馬車が国境から国外に出て、門から少し離れたあたりで飛び降りて物陰で人型に戻った。
このバルミア王国も、それほど賑やかな国ではないし、ここはゲルスとの行き来が急激に減ったので寂れているようにみえた。
だが、あちら側からくると急に都会に来た感じがする。
当然、こちら側に合わせて自分の外観も戻してある。
それから帰る前にスマホを取り出して魔王園長を呼び出した。
一応は先に連絡を入れる事になっているので。
「今、こっちへ帰ったぜー。
いやあ、酷い目にあった。
向こうの国内の警戒は厳重だなあ。
なんていうかもう、戦争以前の問題だ」
「おお、ジョニー。
無事に帰ったか。
今日帰ってこなかったら探しに行こうと思っていたぞ」
「犬形態があんなにヤバい国があるとは思わなかった。
俺達プリティドッグが、愛玩以外の理由であんなに追い回されるとはなあ」
電話を切ったジョニーは、アルバトロス王国他の御一行様が拠点にしている建物の部屋まで転移魔法で戻ってくると、やれやれといった風情で犬体形に戻るとソファの上に上がり込んだ。
おっさんリメイク2巻、うちの近所の書店まで来るかなあ。
前回は発見できませんでした~。
い、いなかの住人です。
ちなみに、今回の書き下ろし外伝の主役は真理さんです。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
「ブルードラゴンの日常―ドラゴン? だってスローライフしたいんです―」
流行のスローライフに、タイトル乗っかってみました。
https://ncode.syosetu.com/n9104ei/




