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82-4 偵察

 かつての彼の故郷アル・グランド。

 アルスは今のゲルス帝国について色々と調べていたらしい。


 中でも彼の心に苦渋の味を残したのが、国民に与えられる塗炭の苦しみだった。

 帝国もあまり良くない国であったのだが、そのように国民に苦難ばかりを与えるような国ではなかった。


 禄でもない国に限って、やたらと「共和国」を名乗りたがるのは、こちらの世界でも変わらないな。

 地球でも日本の周辺なんかは、そんな国ばっかりだ。


「彼らを助けたい。

 ゲルスに殺されてしまった、かつての王族達も、きっとそう願った事だろう。

 そして爺やだって……」


 アルスの瞳に浮かぶ一抹の涙。

 どの道、あの連中との激突は避けられない。

 今までの、どちらかといえば本格的な戦争は避けるというスタンスは、あの国相手だと通用しないはずだ。

 もう俺の感覚は濃厚な硝煙の匂いを嗅ぎつけている。


 それでも戦う相手の兵隊は「アルスの民」なのだ。

 なるべくならば人死には出さない方向でいきたいものだが。


 今回は相手の出方が今一つ読めない。

 ダンジョンでアドミンに色々やられたせいか、少し慎重になっているかな。


 ゴーレムを送り込むのもよくないと感じている。

 これは間違いようもないセブンスセンスの感覚だ。


 偵察ポッドも使いづらい。

 このあたりが奴らの手に渡ると、とんでもない技術流出に繋がりそうだ。

 最新の無人航空機や攻撃用ドローンの技術を敵に盗られちゃうみたいなものか。


 あの国の場合は気を付けないと、そういう普段使いをしている機密に当たる機器を捕獲されかねない。

 前身の国が凄かったので。


 ゲルスの両隣にある国も、今はもう完全にゲルスから離反している。

 さすがに魔界の鎧を開放するなどの蛮行は言語道断だった。

 十三か国が俺に敗北し、連中とゲルスとの同盟が頓挫したので、その決断を後押しした。

 やっぱ、あっち方面からやって正解だったな。


 アルバのロス大神殿でファルを襲撃した段階で、もう距離を取って半離別状態であったのだが、今では完全に公式な同盟破棄を宣言している。


 だが、彼らは今回の参戦には非常に消極的だ。

 連中に言わせると、ゲルスと同盟していたのは自分達を守る意味合いもあったのだという。


 地理的にゲルスと近い事から、彼らを敵に回したくはなかったとのことだ。

 だがこうなった以上、連中には悪いが緩衝地帯としての役割を、きっちりと果たしてもらうとしよう。

 そいつばかりは寝返り者が、きっちりと付けねばならない落とし前だ。


 彼らに、そう思わせるだけの中身が『アル・グランド王国』にはあったらしい。

 創成期の、今は魔導大国となった船橋武が率いるアルバトロス王国も一目置くような相手であったようだし。

 ゲルス共和国となった今は、アルバトロス王国としては付き合いも完全にないに等しいのであるが。


 情報が統制されている国なので、どうにも掴みどころが無い感じだ。

 ここは慎重にいった方がいいだろう。


 ゲルス両サイドの国からの情報では、どうやら魔法を封じる技術があるらしい。

 ますます裏ダンジョンでアドミンとやりあうようなものだ。

 俺の戦力がどこまで通じるものなのか。


 ゴーレムや魔導兵器類、それに魔法自体を封じられると辛いなんてものじゃない。 

 今から火薬式近代兵器で武装した人間による軍隊を作るのは時間的に無理だし、それをこの世界のスタンダードにはしたくない。

 戦争は剣や槍を使うものまでで止めておくべきだったという見解も、世の中(地球)にはあるのだから。


 大陸の中で自ら孤立したゲルスは、今や鎖国して他国を寄せ付けない体制だ。

 後は寂れるばかりの身の上だった。

 国民は更に困窮するだろう。

 それも独裁強権国家の宿命だな。


 一応は、アルバトロス・ハイド・ベルンシュタイン・エルドア・サイラス・ザイード・ケモミミハイムの七つの旗を掲げたセブンフラッグが俺達の御旗なのだ。


 一種の多国籍軍が編成されている。

 帝国戦と同様に実際には軍を出していないのであるが、出陣できる体制は取っている。

 食料などの兵站は、この戦の発起人である俺持ちになっているから、彼らの準備は比較的簡便で済む。


 あれらの諸国も、もうゲルスに対して勘弁まかりならんところまできていたので嫌も応も無い。

 連中が魔界の鎧を持ちだしてきた時点で、連合討伐軍の派兵が検討されていたのだ。


 行きがかり上の責任として、その急先鋒に立っているのが、この俺の舎弟ドランだ。

 あいつめ、本当に貧乏籤ばかり引いているな。

 もう同盟国なのだし、かつての仇敵であったベルンシュタイン帝国の軍勢がザイードへ入る事も可能だ。


 もしも軍同士の戦闘になってしまったら、先鋒として往かされるのが帝国軍だしなあ。

 その場合は、案外とニヤニヤしながらザイードの連中が帯同するのかもしれない。

 せっかくのイベントなんだから、もし俺がザイードの人間ならそうしとくね。

 かつての仇敵の困窮する姿を見て楽しみつつ、 なおかつ大きな貸しを作っておくための大チャンスなんだからな。


 だがセブンフラッグの国々も、あの厄介な事この上ない連中と、真面に事を構えたくはないのは山々なので今日まで先延ばしにされていた。


 アルバトロス発の動きであるので、今回も俺に一任してもらう事になった。

 とりあえず、奴らは潰しておかんとまたアルバ辺りまで攻めてきそうだし。


 こういった事では戦後の話が絡む。

 仮にゲルスを倒したとしても、その後処理が大変厄介だ。

 立て直しに莫大な金と手間がかかる。


 今回はアルスという正当なアル・グランド王国の王位後継者を王として担ぐという事で、後の統治にも大して問題がないのも大きい。

 国民は喜んで彼に従うだろう。

 復興後に他の大陸国家を脅かすのでなければ、戦後に支援するのも吝かではないというのが各国の意見だった。


 アルス自身は、アルバトロス・ハイドの両王家とも過去の逸話で深い係わり合いがあり、当然その事はアルバトロスの兄弟国サイラスから見ても高評価だ。

 かつてはアルスの命さえ狙おうとしていた帝国とて、敗戦を受け入れ皇帝の代替わりを果たし非常に友好的な関係だ。


 ザイードとて王女がアルバトロスへ御輿入れして今やその辺りの国々と近しい関係なのだし、更にエルドア王国を除けばセブンフラッグの中で、地理的に彼らが一番ゲルスに近いのだ。


 アルスも、うちを通して帝国皇帝やドワーフ国の王とも親交はある。

 あの馬耳東風な親方とて魔界の鎧の話題に関しては国王として眉を顰める代物なのだが、そんな凶悪な危険物を最早兄弟分といってもいいようなマブダチの俺のところへ二回も送り付けてきた相手なんだからな。

 この問題に関しては、セブンフラッグの中で唯一ゲルスと国境を接している国の国王として親方もアルスに肩入れしない訳にはいくまい。


 そもそも親方から見て、アルスなどうちの住人で頻繁に顔を見る奴と言うか、最近はヘレンの店で客と板前の関係になっている事さえあるんだからな。

 しかも親方が溺愛している息子であるトーヤ達からも絶大な人気を誇る冒険者なのだ。

 もう、ほぼ家族ぐるみの御付き合いだわ。

 それって滅茶苦茶に凄い事なんだからな。


 貧乏籤なドランの奴にしてみても、魔界の鎧の発明元としてゲルスとは絶対落とし前を付けないといけないので、一番アルスと親交を深めたいんじゃないのか?

 ドランがうちのイベントに来る度にアルスとは顔を合わすので、それさえも今更だがな。


 花見や花火みたいな無礼講な場所だと二人共俺と一緒に居る事が多いんで、みんなで瓶ビールの注ぎ合いまでやっている関係だし。

 そういう事をさらっとこなすアルスはさすがという他はない。

 伊達に元王太子かつSランク冒険者ではないのだ。


 ゲルスの同盟軍として在った十三か国連合と隣接していて、連中と対決していた経緯のあるケモミミハイムからしても他人事ではない。


 そういったバックグラウンドもあるので、アルスは少なくとも彼の諸国から信頼されているだろう。

 彼も伊達にSランクなのではないし、今回はあの国の正当な後継者としての正式な旗揚げなのだ。


 後はセブンフラッグ以外の大陸国家であるバルミア・エルトミアというゲルスの両側にある、こちらへ寝返った国を迂闊に戦火に巻き込んだりしなければ、彼の即位は円滑に大陸諸国から認められるはずだ。

 両側の国を大被害に巻き込んだりすると、今後アルスが王国を運営する際に面倒な事になるはずだ。


 とにかくロスとメルス両大陸の国々の面子や思惑からも、もはやゲルス排撃は避けられないものとなっている。


 各国からは、偵察を主体とした精鋭部隊が貸し出されている。

 探索に優れた俺の魔法やスキルが封じられる可能性があるので、一応用意してもらったものだ。

 その辺は裏ダンジョンでの教訓が生きている。

 ミニョンパパのジョニーを連れてきたのも、そっちの絡みもあったりするのだ。


 前もって、ゲルスの両サイドにある国には転移系の魔法を使えるように、ゴーレムを駆使して転移ポイントを作っておいた。


 ゲルスに対しては、アルス王子という旗印による多国籍軍の編成がなされた上「アル・グランド王国の返還」が要求されていた。

 それらは在アルバトロス・ゲルス共和国大使館へ直接通告されたが返事はない。


 これは実質上の宣戦布告と、その受諾に等しい。

 アルバトロス王国の大使も送還されてくるのではないか。

 あるいは、あの国ならば大使が殺されてしまう可能性すらあるが。


 とりあえず、俺はバルミア側の国境から監視していたが、今のところ特に動きはないようだ。


「アルス王子が立ったという話は先方に周知されているようですが、特に動きはないようですな。

 元々あの国の国境は出入りが厳しく制限されていて、相当に物々しいですから」


 そう解説してくれるのは、バルミア王国から情報提供のために派遣されている文官だ。

 彼らもあまりゲルスの連中と事を構えたくないので、こんな感じの消極的な支援に留まる。


 こちらにしても、元々はゲルスに同盟していた国なのだから、国内にはまだあっちに通じている奴も結構いるのではないかと思うので、むしろそれくらいの方がいい。

 相手がああいう国なので、かつての同盟者であるゲルスの隣国からの情報提供は非常にありがたい。

 国内を通過させてくれ、ゲルスとの国境での活動を認めてくれるだけでも御の字なのだ。


「どうする?

 様子を伺いに入国するのも一つの手だが」


 グスタフが大胆な発言をする。

 腕に覚えのある奴っていうのは、そういうものなのかな。


「うーん、あの国の中って転移魔法が使えないみたいなんだよな。

 どういう仕組みになっているのか知らないが、上空から目視転移を試したんだけど無理だった。

 それに宣戦布告した以上は、迂闊に中に入ると逃げられなくなりそうだ」


「その辺は調べたけれど、よくわからなかったな。

 僕はあの国へ近寄るわけにもいかなかったし」


「じゃあ、俺が見てきてやろう」


 ジョニーがそんな事を言い出した。


「ええっ、大丈夫か?」


「平気平気。

 だって俺は犬だよ」


 もう可愛らしい犬体形になったジョニーが尻尾を振っている。


「まあ、確かにそうなんだがな。

 じゃあ頼む。

 しかし、無理はするなよ」


 猫の子一匹通さないなんて言ったって、犬の通行なんて地球にある世界三大火薬庫の一つである朝鮮半島の38度線だって特に両軍も止めないしな。

「犬は仕方ないね、犬は」とか言って両軍兵士共に笑うらしい。


 連中も意外と甘いな。

 世の中には忍犬なんていう物騒な代物まであったんだぜ。

 手術で体内にカメラや爆弾を仕込んでおいたっていいのだし。


 でもジョニー、フィアに尻尾を踏まれていた事があったよね?

 まあそれは言わぬが花か。


「ブルードラゴンの日常」

 書いたはいいが、あまりおっさんの宣伝になっていません。

 一応新作です。


https://ncode.syosetu.com/n9104ei/


 明日あたりから、おっさんリメイク2巻は書店様に並び始めると思います。


 いつのまにか総合評価が4万Pに。

 応援ありがとうございます。

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