82-3 初めて自分から戦争始めます
「お、真理。
という訳で戦を始める事になった」
「いきなり、という訳でと言われても困るのですが」
両手で下半身丸出しの猫耳幼男をぶらさげながら、真理が訊き返してきた。
どうやら、御漏らしだったようだ。
「ふくえんちょうせんせい、パンツー」
「はいはい」
園児にパンツを履かせながら、真理もこちらを見上げる。
「まあ、いつも相手がなし崩しに戦争を始めるんだから、アレだけれども。
よいしょっと」
最後のは、きゅっと子供のパンツを引き揚げた、よいしょだ。
し、しまらんなあ。
「今回は何か違うの?」
「それは今回立つのが、うちのアルスだからに決まっているじゃないか」
「あら、そういえば」
彼女にしてみれば、ここ数十年で起きた動乱など知った事ではない。
俺達とは時間の流れやメンタルが違いすぎる。
今回特別なのは、戦の大将がずっとうちの居候だったというか、ケモミミ園の警護をしてくれていた奴だからなんだけど。
おまけに俺がこの国の王都に来て以来ずっと世話になりっぱなしだった、あのギルマス・アーモンの家族みたいな奴なんだからな。
そのまたおまけで、俺の相棒的な立ち位置に居た奴で大事な仲間なのだから。
「どっち道ゲルスからは、もう何回も先制パンチを食らっているんだからな。
そろそろやり返さないといかんだろう」
「まあいいのだけれど、あなたがここをしばしば留守にするっていう事でいいのね」
「さいです」
ハッと気が付くと、おチビ猫がジーっと見ていた。
そして、にっこりと笑って言ってくれた。
「いってらっしゃーい」
成長したね、おチビ。
「うん。いってきます」
どうせ夜には帰ってくるんだけれど。
そして後ろからポンっと肩を叩いてくる奴がいた。
もちろん誰かわかってはいるが、ちゃんと振り返る。
そこには笑顔の奥さんが立っていた。
「早めに片付けてきてね」
「もちろんだ。
一戦終えて帰ってくる頃には、アドミンの野郎をしばき頃のタイミングだろう」
「あはは。
そんな事を言って、この前も散々だったじゃないの」
「そうなんだけどー。
アイツだけは絶対にしばき倒さんと俺の気が済まんのじゃあ」
「はいはい」
そう言いながら、シルは火打石でカチカチして送り出してくれた。
「いってらっしゃい、おまいさん」
悪戯っぽい笑顔で送り出してくれる、うちの奥さん。
当然、これの元ネタは葵ちゃんなんだけど、もう既にこの世界には結構広まっている風習だったりする。
このネタを使った絵細工の作品が大ヒットしたので。
その葵ちゃんも赤ん坊を抱いて、今頃は産院でのんびりとしている頃だろう。
その傍では、落ち着かない父親がドタバタしているはずだ。
そっちの警護は新撰組に任せてある。
あのルイの一件が片付いていて助かるぜ。
まあ、あそこはルイに任せておけば、たぶん問題ないな。
生まれたばかりの赤ん坊に警護を頼るのもなんなのだが。
それでも「家族を守る」はグランバースト公爵家の血の掟なのである。
アレをゲルス如きがなんとか出来るわけがない。
この俺にだって手に負えないのだから。
魔王の天敵は赤ん暴君シリーズなのだ。
「じゃ、アルス、ベンソン。
まずジョニーを捕まえるところからな」
「ああ。
奴め、一体どこほっつき歩いているものだか。
いつもこうなんだ」
もう面倒くさいので、世界地図サイズで検索してみた。
あ、見事に映らない。
あの野郎、織原やフィアに近いような妙なスキルを持っていやがるのかな。
この忙しい時に困った奴だな。
探している味方に対して、自分の位置を誤魔化してどうする。
「くそ、ジョニーの奴め、見つからないな。
まあいい。
一回マリノに戻れば、あいつも話を聞いて慌てて追いかけてくるだろう。
ゴーレムを一体置いておいてもよかったかな」
イコマに訊いてもいいんだが、今はあのジョニーがいなくても特に構わないしな。
展開がまだ読めないのだし。
アル・グランドの兵は、とりあえず一人いれば格好くらいつく。
どうせ小数精鋭で行くんだ。
一人でも二人でも、まあそう変わらん。
そして不意に背後から声がかかる。
「じゃあ、代わりに俺が付き合ってやろうか」
振り向いたらジョニーがいた。
ただし、プリティドッグの方の。
そういや同じ名前なんだった。
持っているスキルも似通っている感じのようだし、もうこいつでもいいか。
とりあえず、魔物ワンコを臨時の騎士に任命しておいた。
「よし、じゃあ一緒に来てくれ。
アル・グランド王国臨時騎士ジョニー」
何があるかわからんからなあ。
ここは犬の手も借りておこう。
こいつらも隠密の能力は半端ないから、何かの役に立ってくれるかもしれないし。
ジョニーの奴め、ちょっとドヤ顔だ。
プリティドッグ史上初の騎士なのかもしれん。
「パパ、いってらっしゃい~」
可愛い声に振り向けば、ミニョンが御見送りに来ていた。
本当に何時の間にか居るんだよな。
ミニョンママも火打石を持って笑顔で御見送りだ。
御見送りされてきたはいいのだが、行く先は御馴染みのアルバの王宮だ。
「そういう訳でドンパチを始める事にしたんでよろしくな」
当然、場所はミハエルの部屋だ。
ここなら何の気兼ねもいらない。
「またいきなり始めるのだな。
しかも、お前の方から打って出るとは珍しいな」
「アホか。
今まで、どれだけ先制パンチを食らっていると思うんだ。
慎重に様子見していたんだが、アルスが出るというなら、ここは行くべきだろう。
だが、とりあえず人間の軍勢は無しでいく。
あいつら相手に普通の兵を連れていくのはマズイ気がする」
「まあ、お前のゴーレムで様子を見るというのは悪くない。
今はお前も正式に公爵なのだ。
先だっては王都アルバの中にまで攻撃を受けたのだから、国家防衛の任につく西の公爵たるお前が出向くは当然の話なのだし。
だが帝国もこの前ゲルスにやられているだろう。
声はかけなくていいのか?」
俺は首を竦めて返事に代えた。
「一応、ドラン経由でグスタフに声はかけてある。
アル・グランドから三人(予定)・帝国から一人・うちから三人だ」
正確には、うちは二人と一匹だけどな。
「ん? 三人?」
「ジョニー」
「ワオーン」
犬形態になっているジョニーが吼えた。
さすがのミハエルも、これには微妙な顔をする。
「その犬を連れていくのか」
「いや何。
アル・グランドのジョニーがいないんでな。
代理で、うちのジョニーを連れていく事にしたんだ」
「おい」
珍しくミハエルがジト目で見ている。
「いやいや、プリティドッグはなかなかの犬材だぞ。
いない奴なんかより、よっぽど頼りになるさ」
「まあ、それでも別によいがな。
後の一人は?」
「ファルを予定しているんだが、今ちょっとな……」
まだ、ダンジョンで食らったあの(青鰭蜥蜴の)ダメージが抜けていないのだった。
うちからは生粋の人間が俺一人しかいないわ。
「そうか。
そう言う事なら、父から言われているのでな、一応これを渡しておこう」
そう言ってミハエルが俺に渡してくれた物は!
「これは……」
「いいから持って行け」
「わかった。
これを使わないに越した事はないがな」
「連絡だけはマメに頼むぞ」
「了解」
そうして俺達は『戦争』に赴くのであった。
合戦映画じゃなくて、殆ど荒野の七人だな。
とりあえず総勢七人の予定だし(ゴーレムは含まず)。
まあ、あれは世界中の映画監督に影響を与えた不朽の名作で、確か全世界あちこちにパクリ映画があるはずだ。
中にはマジで訴えられたB級作品まであったし。
リスペクトとして納得出来るような真面な内容の映画ならいざ知らず、あのパクリやB級作品で有名な会社が作ったんじゃ腹が立つよなあ。
名前だけというか、内容はあの映画にまったく関係なく、人数だけ七人という異世界バージョンの誕生だな。
まあうちの世界は、地球よりも荒野の面積だけは豊富だよな。
ブルードラゴンの日常
日常系って、ちょっと難しいかもです。
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