表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

486/1334

81-3 エミリオ殿下の絵日記

「さってと」


 学園から戻って自室の机に向かい、そう言いながら僕が取り出した物はノートパソコンだ。

 それはアル御兄ちゃんが、この世界へやってきた時に持ち込んだものだった。


「待ってな、エミリオ。

 そのうちに日本と行き来できるようになったなら、最新型のPCを買ってきてやるからな」


 と言ってくれているので僕も大変楽しみにしているの。

 出来れば今行っている迷宮の冒険にも一緒に行ってみたかったんだけど。


「いけません、殿下。

 あのアドロスのダンジョンで散々な目にあったのを忘れたのですか?」


 護衛のエリスさんに、やんわりと却下されてしまった。

 まあ、僕はまだ魔法も殆ど覚えていないし、剣の腕もたいした事はないんだから仕方がないけれど。


 でも。


「殿下の最大の武器は、その可愛さなんですから!」


 エリスさんは、きっぱりとそう叫んだ。

 それは大国の王子たる者として、ちょっとどうなんだろう。


 僕は、この国の跡取りではないけれど、いずれはサイラスで王様にもなる予定の身の上なんだ。

 いざという時には、先頭に立って戦って国民を守るのが王たる者の務めなのだからね。

 この国の先王であられた御爺様のように。


 このPCには御絵描きソフトというものが付いている。

 もちろん、それはアル御兄ちゃんのPCにも入っているけれど、彼自身は使った事があまりないらしい。


「この世界には、葵ちゃんという絵の専門家がいるんだから、そいつは任せておくさ!」


 それでも自分でも描けたら嬉しいと思うのに。

 器用さが必要な事は、とっても苦手なアル御兄ちゃんでありました。


 ちょっと過去の記録を見てみる事にした。

 まず、あのアル御兄ちゃんと出会った時の事を。

 アドロス迷宮の冒険編だ。

 あの時はたくさんの人が亡くなってしまった。


 だから僕はあの時の事を手書きの記録に残していた。

 でも、彼らがいかに誇りと共に手強い敵と果敢に戦ったか、そして立派な最期を遂げたか。

 それをなんとか家族の人に伝えたかった。


 それでアル御兄ちゃんに相談したら、このPCをくれたんだ。

 雷魔法を動力にして、バッテリーというもので動いているらしい。

 アル御兄ちゃんが改造したので魔力を注ぐと自動で雷魔法へ変換されるらしく、僕のそれほど大きくはない魔力を注ぎ込む事でも充電できる。


「日本製品は省エネ構造になっているんだ」と教えてくれた。

 それは、そんなに魔力が無い僕には、とっても助かるのだけど。


 なんでも僕の御先祖様である初代国王の居た国である日本には資源があまり多くないので、そういう事を大事にする習慣があるらしい。


 僕は葵さんに教えてもらって、頑張って絵を描いた。

 それをアル御兄ちゃんに印刷してもらって、状態保存の魔法をかけてもらい御遺族の方に配った。


 爺やに連れていってもらって、自らの手で渡してきた。

 みんな、とても喜んでくれた。

 代々王国に忠実な家の人達ばかりだ。


「殿下、御心遣い大変感謝いたします。

 ですが、どうか御気に病まれませぬよう。

 これは国のために代々尽くしてきた我らが誇り。

 エミリオ殿下を御守り出来て、死んでいった者も満足でしたでしょう。


 そして、我らが伴をして捜索していた指輪も無事に王家へと戻りました。

 それが何よりでございます。

 それでも、それでもエミリオ殿下自ら、わざわざ訪問してくださって本当にありがとうございます。

 我らはこの日の事を一生忘れませぬ」


 彼らは涙ながらに僕の手を握ってくれた。

 僕の目も涙に濡れていた。


 僕もあの日の事を決して忘れたりはしないだろう。

 犠牲になった人達一人一人の事は絶対に忘れない、いや絶対に忘れてはならない。


 彼らには、国から恩給と二階級特進の名誉が与えられたけれど、彼らは僕のために戦って死んだんだ。

 自分の手で何か報いてあげたかった。

 死んだ人は決して帰ってはこないけれど、残された人に心の支えは必要なんだ。



 後は、なんといっても真理さんだ。

 彼女は初代国王様の妹の姿を象って作られた人工の生物だ。

 初めて会った時は初代国王様の面影のある僕を見て、自分の造物主の事を想い、涙をポロポロと流していた。


 彼女はいつも子供達に優しくて、あれが人間ではないなんて、とても信じられない。

 反対に凄まじく冷血な人間なら、僕の歳でさえ、いくらでも見た事がある。

 僕はあの真理さんの事がとても大好きだ。



 そして結婚式の事。

 アントニオさん、新オルストン伯爵の結婚式で見た日本のいろんな物を心のままに描き連ねた。


 そして神聖エリオン様の祝福の歌。

 伝説の再現に皆が感激に打ち震えた様子を僕は絵日記に書き添えた。


「あれには、とても大事な意味があるんだよ」とファルちゃんが後で教えてくれた。

 あの歌は「神様の言葉」で紡がれているんだそうで、僕ら人間にはその意味がわからないんだそうだ。


 世界の秘密や命の大切さを歌っているみたい。

 その事はちょっと秘密らしくて、ファルちゃんも詳しくは教えてくれなかった。

 きっと本来ならば人間に言ってはいけない事なんだろう。


 その事をミハエル兄様に言ったら、とても真剣な表情であれこれ聞かれたが、よくわからなかったのでがっかりされた。


 でも兄様も言ってくれた。


「そうだな。

 神様の秘密なんだから、我々人間がそう詮索するのは良くない事だ」


 そう言いながらも、アル御兄ちゃんにしつこく聞いていたみたいだけど。

 最近になって、アル御兄ちゃんがミハエル兄様にこんな事を言っていた。


「あれの意味は俺にもわからないが、大体どういう事なのかわかる。

 おそらく彼らは地球に『居た』者と同じ者達なのだ。

 だが人間がそれを知るのはまだ早いんじゃないのかな。

 それはもっと、ずっと先の話だ。

 そう、いつかこの星の海を抜けて、この世界の人類が遥かな天地を目指す時、その時であるならば。

 人は涙なくして、その意味を知らずにはいられないだろう」


「何!?

 アル、それは一体どういう意味だ」


 ミハエル兄様はしつこく問い質していたが、アル御兄ちゃんは、ただただ不思議な笑みを浮かべているだけであった。



 楽しかったケモミミ園での運動会、そして忘れられないのが精霊の森への遠足だ。

 あの不思議な風景は僕の胸を打った。

 初代国王様も、あれと同じ風景を見たんだ。

 レイン様を卵から孵すために行かれて。


 またケモミミの子達と一緒に遊んだ思い出は、しっかりと絵日記に刻み込んだ。


 そしてクリスマス会や御正月。

 大きなクリスマスツリーや門松にはびっくりしたよ。

 しかと絵日記に大きく描き込んだ。


 忘れられないのは、ドライアドさん達の桜並木だ。

 初代国王の生まれ故郷では、たくさんの桜が咲いていて、春には一大行事となるらしい。 

 その時、アル御兄ちゃんは言ったんだ。


「最後のゴミの片付けまでが花見なんですよ」


 日本人は、そういう事には大変煩いらしい。

 そう言えば、フードコートもゴミはしっかりと片付けられていて、いつも床までピカピカだ。


 そして、アル御兄ちゃんとシル姉様の結婚式。

 メリーヌ姉さまの御式も素敵だったけれど、シル姉様の花嫁姿も最高だった。


 あれ以来、僕は彼の事をアルではなくて、アル御兄ちゃんと呼ぶようになった。

 本当ならアル兄様とか呼ばないといけないのだけれど、今更なんだか照れくさい。

 僕は彼の事が本当に大好きなのだから。


 僕とシェリー姫も、いつかあんな風に結婚式を挙げるのだろうか。

 今は全く想像もつかないけれど、姫はきっと楽しみにしてくれているだろう。


 僕もその日の事を大変楽しみにしておく、と絵日記には書いておこう。

 いつか、この絵日記をシェリー姫と生まれてくる子供達に見せてやるんだ。


「ブルードラゴンの日常」 本日第2話です。

 今回は1日1話投稿の、のんびりペースで書いております。

https://ncode.syosetu.com/n9104ei/


 おっさんリメイク2巻は、あと5日くらいで書店様に並ぶ感じでしょうか。

 1巻とは違う感じでドキドキしています。

 コミカライズ進行もドキドキです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] >楽しみにしておくと、絵日記には書いておこう。 龍角散トローチのCMを思い出した^^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ