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81-1 王太子の午後

 この日、アルバトロス王国王太子カルロスは執務室で午後の紅茶を楽しんでいた。


     ◆◇◆◇◆


 最近は、妙に昼からは紅茶を嗜む事が多い。

 何故か、あの男が「午後はやっぱり紅茶だよね」とか言ったりするのだ。

 稀人の国である日本の慣わしなのであろうか。


 そしてここ数年の、自分にとっては動乱続きとでもいうような、激しい動きを思い起こしていた。

 幾多もあった国家の危機、更に大軍勢を率いての戦争。

 それには、この私も本陣を築いて大将として参戦したのだ。

 あれは戦と呼ぶにはあまりにも異質な内容であったが。


「王太子の儀」


 私にとって全ては、あの試練の日から始まったような気がする。

 あるいは帝国の陰謀により、先祖伝来の空中庭園が消滅したあの日から既に始まっていたのかもしれないが。


 しかし、やはり一番大きな動きは、あの稀人の冒険者に出会った事だろう。

 彼も今は自分自身の『弟』であるのだが。


 早くも三十歳を迎える自分に、父親と同じ歳の弟が出来るという事態には、さすがの私も思わず眩暈がしたものだが、私には既に親子ほど歳の違う幼い弟もいたので、それは今更な事だった。

 こんな事は王家にはありがちな事なのだ。


 それは最初から予定されていたものだった。

 彼がスタンピードを見事に収めた、あの頃から。

 あのような凄まじい力を他国へ渡してしまう訳にはいかない。

 それ故に与えられた名誉侯爵位であった。


 あのような国際的に緊迫した状況では、彼もいずれは手柄を立てて名誉公爵に取り立てられるのは、日が東より昇れば西に沈むほどに明白であろう。

 そうなれば王族に迎えられ、その血を取り込む動きにはなるだろうと父王からは言われていた。

 ミレーヌはハイドへ嫁ぐ事が決まっていたので、あとは第二王女のシルしかいない。


 かなり大きな歳の差もあるので話は難航する事が予想された。

 それもあって本人達には、敢えて知らされなかった。


 妹に無理強いはしたくなかったし、自然にそうなるべく王家が家族揃ってあのケモミミ園を頻繁に訪れた。

 殊にエミリオは色々と彼の事を気に入っていたようだし。

 また彼はエミリオの命の恩人でもあった。

 それが彼と王家との出会いであったのだから。


 母もそのつもりで色々と立ち回っていたようだった。

 幸い、あのエリとかいう娘を通じて二人の仲は非常に良かったようなので、少し御膳立てしてやるだけで済んだ。


 シルのためという事で、彼も自ら婚約に向けて積極的に動き、事は円満に収まった。

 最後は母がかなりゴリ押しをしていたようだったが。

 まあ彼も満更でもない様子だったし、今では仲睦まじい夫婦だ。


 彼の意向を受け入れて帝国戦が彼に委ねられたのも、関係各国に対しても彼の功績を目に見える物にしたかった意向もあった。


 だが、結果的に長らく仇敵であったベルンシュタイン帝国が我が国の同盟国になるという、有り得ない現象を生んだ。

 本来の形の戦があれば、それは我が国にも甚大な被害を齎し、御互いに更なる確執を齎したであろうに。


 稀人というのは実に不思議なものだ。

 そうかと思えば、我々が想像もしないようなエグイ事も考えるし。


 メルス大陸の海戦でクラーケンの軍勢を用いたり、敵の軍勢を無傷で捕らえた妙なスキルを使ったりした話には驚いた。


「あの敵を捕らえたスキルは神から奪いとった」などと言っていたが、俄(にわ)かには信じられぬ。


 だが、あの男ならなんでもありだろう。

 あの伝説の中にしか存在しなかったエリクサーを、いとも簡単に作ってしまうような男であるのだ。


 あれは我が祖先に匹敵する技であろう。

 いや、あの初代国王にはエリクサーを作れなかったのだから、それ以上か。

 そして、そのエリクサーを以って、あの魔界の鎧さえも制したのだ。


 我が国は、彼と同じ稀人である初代国王を祖に持ち、我が従兄弟が現王を務めるサイラスはその血縁たる兄弟国だ。

 そしてハイドには稀人子孫である我が妹メリーヌが嫁いだ。


 稀人由縁のこの国を終の棲家とするのは、彼にとってもそう悪い選択でもあるまい。

 元々、この国の事を気に入って住み着いていたのだし。

 シルの話では、元の世界に戻れても向こうへ帰ってしまうつもりはなさそうだ。


 また何故かわからないのだが、あの難儀極まるドワーフの国とも異常に仲が良いようだし。

 獣人の子供を大量に育てているので、メルス大陸の大国ケモミミハイムも彼には大変好感を抱いているようだ。

 メルス大陸の玄関口であるパルシア王国も、彼の商会が手広く商売していて仲は良さそうだし。


 もっとも、一人だけ手柄を立てさせたのが裏目に出て、正式に公爵に決まった時には反発も凄まじく強かったのではあるが。


 あの帝国戦では、もう少し戦らしい華々しいようなやりようはあったと思うのだが、彼は敢えて被害を最小にする事を選択した。

 もっと自分の手柄となるよう喧伝出来るやり方だって選べただろうに、両国共に犠牲を最小限にするため彼はそうした。

 その勇気には感服する。

 まあ彼も、あれらの嫌がらせの数々には辟易していたようだったが。

 

 そして思った通り、彼はその猛烈な反発を自力で跳ね飛ばした。

 少々やり過ぎではあったようには思う。

 だがいかにも彼らしいといえば彼らしい振る舞いだ。


 父王は、懐の深い北のアニオン公爵に「アレを支援してやってくれ」と頼んでいた。

 そして国の護りの要となる重要な西の公爵に据え置いたのだ。

 まだ国への脅威が去っていない現状では、他の公爵達も彼の実力を認めざるを得ないし。


 父は、シルベスター騎兵団の閲兵式の後で公爵家を集めて言った。


「公爵家の中には、新参者である彼を公爵に置く事に反対する者もおると思うが、ならば聞こう。

 彼が我が国アルバトロスの敵についてもいいのかね?

 彼がこの国を追われれば、そんな展開も有り得るのだから。

 その辺の事情も踏まえて、よく考えてほしい」


 それは絶対にあってはならない事だ。

 王家の人間は皆がその認識を持っているし、公爵家にもその共通認識だけは出来たと信じている。

 あの後、何故か一番強面なはずの南の公爵とは自然に仲良くなったようだが。


 それから、今自分の隣にいてくれる最愛の王太子妃について想いに耽った。

 思えば酷い話だった。


 長年、関係が上手くいっていなかったハイド。

 先方に非があったため、関係は拗れに拗れた。

 アルバトロスがどれだけ譲歩しても話がまとまらないのだから、もうどうしようもない。


 自分の場合も、十五歳の時に五歳の女の子と婚約させられて、十年もの長きにも渡って縁組が難航した挙句に逃げられたのだ。


 だが、御蔭で大変良い縁を迎えられた。

 今はその事にとても感謝している。

 妃を紹介してくれたのも、また彼であった。


 そして、優しく傍らにいる王太子妃に視線を投げかけた。


「妃よ、愛しているよ」

「ええ、私も愛していますわ。王太子殿下」 


 おっさんリメイク2巻発売記念に新作書いてみました。明日から始まります。


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