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77-8 伝説の舞

 他にも剣と魔法の国らしい競技として、魔法の絨毯リレーなども行なった。

 内容は日本でやる魔法の絨毯リレーみたいなものなのだが、使っているのは本物の魔法の絨毯だ。


 子供達が大張り切りで、競技が終わっても乗りまくりで、あちこちを練り飛んだ。

 一応、高度制限とヘルメット着用義務を設けてある。


 まあ例によって子供が落ちないような安全装置は仕掛けてあるのだが、こいつは空に浮く代物だからな。


 地球でも空飛ぶ自動車が作られつつあるが、技術問題が全部片付いても、おそらく実際に多数を運用したら交通事故が多発するだろう。

 自分で操縦して空を飛ぶと、人間は結構ハイになるらしいし。

 プロのパイロットならともかく、只の素人ドライバーじゃなあ。

 地上の自動車だって我儘運転で頻繁に事故が起こるのだから自動運転でないと運用できまい。

 日本よりも先に外国がやらかしまくるだろうから、日本は更に運用には慎重になるはずだ。


 通常の自動運転だって実験段階ですら事故ばかりあるのだから、空の方も当分駄目だろう。

 空の事故は即死亡事故となるので大問題になるはずだ。

 そうなると、ヘリだけでは数が足りないだろうから空飛ぶパトカーが必要になるかもな。


 交通量の少ない田舎ならいいのかもしれんが、それだと逆に空を飛ぶ事の恩恵は少なそうだ。

 うちの空飛ぶ絨毯はゴーレム絨毯なので、そういう悲惨な事はない。


 自転車に乗る時はヘルメットを被らせてあるので、空飛ぶ絨毯に乗る時も子供達は全員それを着用している。

 うちのヘルムは、各種ケモミミ対応仕様の可愛い物となっている。


 アドロス広場に王宮前広場と、ゴーレム達で子供達を乗せて空中パレードだ。

 各所で街の子供達を追加の乗客として増やし、その数は凄い事になっていた。

 もう運動会の行事でもなんでもないが、子供達が喜んでいるのでいいか。


 うちはシルとおチビの三人で一緒に練り歩く(練り飛ぶ)。

 おチビも、今日はふわふわと魔法の絨毯に揺られながらの御昼寝タイムだ。



 そうこうするうちに御昼寝タイムも終わり、御目当ての競技が始まった。


「台風の目」


 いよいよ初代国王直伝の、伝説の競技が行なわれる。

 これは王国騎士団による模範演技だ。


 学園長侯爵の命令で、王都学園の生徒達は強制参加だ。

 内容が激烈なので女の子は参加を免除されるらしい。

 まあ王国騎士団による演技という事から内容は察してほしい。


 日本の運動会でやる、いわゆる「台風の目」をアレンジした物のようだ。

 別名、アルバ・ハリケーン。

 本来は騎士団専用競技なのだという。


 台風の目はハリケーンなどとも呼ばれ、運動会のメジャーな競技ではある。

 俺達の小学校時代(四十年以上前)には無かった代物だ。

 大変嫌な予感がしたのだが、それは見事に的中した。


 丈夫な棒を六名編成の一個分隊で持って走り、コーンの位置でハリケーンの回転を見せる。

 そして「敵陣」へ攻め込むのだ。

 ここをいかに手早くこなして敵陣へ辿り着くか。

 そこで錬度の差が現れる。


 とにかく様々なテクニックがあるらしい。

 なにしろ王国騎士団レベルの競技なんだからなあ。

 体裁き、足裁き、手の送りなどが気剣体一致でなくてはならない。


「野郎共、気合いを入れろー!」

「おおー!」


 指揮官の命により、声を張り上げる猛者ども。

 なにしろ王が観覧される御前試合なのだ。

 こいつらにとっては、ただの運動会などでは決してありえない。

 各々の鍛錬の評価と、各隊の名誉がかかっている。


 そして陣地は簡易な木製の櫓で出来ている。

 敵チームが同人数の防衛隊を置いているので、これを攻略するのだ。

 守る側は一人ディフェンダーを置き、そいつに旗を守らせる。


 ディフェンダーは王家の紋章の入った旗を死守するのだ。

 それは演習においては「王の首」を意味し、絶対に死守せねばならない物なのであった。


 一方、攻め手側は「敵陣攻略」の絶対指令の遵守となり、それを王の御前でやるわけだ。

 つまるところ、どちらも絶対に負けられない立場なのだ。

 負けたら罰ゲームが凄いらしい。


 もう、ただの騎士団の猛烈訓練にしか見えない。

 わざわざ台風の目形式にする必要があったのか?

 明らかに武の趣味が入念に入っている。


 なお、言うまでもない事なのだが織原も強制参加させている。

 奴は櫓の守りをやらされて必死な形相で叫んでいた。


「うおおー、こんな生活はもう嫌だあ~~」


 生憎な事に、その魂の叫びなど誰も聞いてくれていない。

 楽しそうにちょっかいをかける騎士達の攻め手を必死になって捌いていたが、そのうちに敢え無く引き摺り落とされた。

 よくこんな奴が、世界を危機になんて陥らせられたもんだと感心する。


 この今回織原が所属していた隊だけは、俺から不名誉評価対象外に指定しておいた。

 しょぼい織原の巻き添えなんかを食わされたら堪らないからな。


「ただし、織原だけは罰ゲームでツール・ド・アルバを2コース走ってくる事」

「ちょっ!?」


「よかったなあ、オリハラ。

 実に美味しい所じゃないか」


 同じ隊の連中も、それに付き合ってやるらしい。

 織原は騎士から笑顔で首肩に腕を回されて一緒に会場へと向かっている。

 まるで同じ戦場で命をかけて背中を預け合う傭兵同士の親睦のようだが、行く先は温い宴会場などではない。


 よかったな、織原。

 栄えある王国騎士団から仲間として認定されつつあるぞ。

 ここへ入団出来るなど、この国では栄誉以外の何物でもない。


 どうやら、この俺並びに世界を脅かしたほどの男という事で、その気概を買われているらしい。

 何のこっちゃ。


 王国貴族たるベル君は当然のように騎士団長ケインズに首根っこを掴まれて、戦地へと引き摺っていかれた。

 達観したようなあの目は印象に残るな。


「なあ、真理。

 これには武の奴も参加していたんだよな」


 きっと、自分が懐かしい日本の競技をやりたかったから考えたのに違いない。


「そうね。

 彼もディフェンダーとして活躍していたんだけど、いつも最後はアタッカーの王妃様に叩き落とされていたわ。

 生涯戦績0勝ね~」


 まあ、そんなこったろうと思った。

 ラブラブハリケーンだったのか。



 そして、もう一つの初代国王直伝行事が始まった。

 国王陛下が突然、農民風のスタイルで立派な大根を両手に持って現れたのだ。

 さすがにちょっと驚いたのだが、それが何なのか俺にはすぐに理解できた。

 それは紛れもない「大根踊り」だった。


 以前に何かの折にネットで見た記憶がある。

 確か、農業大学の応援団が歌う応援歌だ。

 ネットで見たら、各地の運動会でもやると書かれている。

 そういう場合はボンボンを使用していて大根は持っていないそうだが。


 国王陛下は本式に大根を握り締めている。

 遠めに見ても、なかなか美味しそうな大根だ。

 きっと王家御用達のブランド大根なんだな。

 青々とした葉っぱは御飯に炊き込んだら、なかなかいい菜っ葉御飯になるんじゃないだろうか。


 確かにあれは応援の舞いではあるのだが、大根を両手に一国の国王が踊るのは如何なものか。


「真理、さすがにこれはないんじゃないか?

 いくら何でも王様が大根を持って踊るって……」


「でもね園長先生、国が出来た当時はまだ食料も乏しかったしの。

 それでも、あの初代国王様ときたら飢えていた人達をどんどん受け入れちゃうので、食糧不足には常に悩まされたものよ。

 だから国王自らも率先して畑仕事に精を出していたの。

 王宮ゾーンにまで畑を作ってね。


 彼に加護を与えてくれていた精霊の森のドライアドの力の御蔭で、なんとか皆が御飯を食べられていたわ。

 立派な大根とかが採れると、高々と掲げて嬉しそうに踊っていたし。

 その精神を忘れないようにっていう事なんじゃないの?」


 それが発明された本場の日本でも、まだ百年の歴史もない大根踊りだったが、異世界では「王族専用」だそうで、既に千年余の歴史を誇っていた。

 大勢の苦しむ人々を救ってこの国を建国した初代国王は、そこまで尊敬されていたのであった。

 ホンマかいな。


「王たる者、大根踊りが舞えずに何が一国の国王か」


 建国王として、そんな遺訓を残す男が船橋武という人物である。

 知れば知るほど頭が痛くなるような男だ。

 まだまだダンジョン探索では、あのAI武と付き合わないといけないのだが。


「あなたも王族扱いだから、あれを踊っていいのよ」


 シルが嬉しそうに青々とした葉っぱをつけた大根を渡しながら言ってくれた。

 それは微妙な権利だなとは思ったが、せっかくなのでケモミミ園のみんなで踊ってしまった。

 子供達は以前に作ったボンボンを持って。


 そういや、農家の末っ子だったうちの親父も農業高校出身だったなあ。

 何故か、そこから東京六大学の一つに進学してしまったのだが。

 農家の末っ子のくせにな。

 なんでそうしたかは訊いた事がないので、そいつは永遠の謎だな。


「なあシル。

 この踊り、もう一般解放でもいいんじゃないか?」


 国王陛下にも、本場日本での大根踊りの立ち位置を教えて、そう説明しておいた。

 小村の農民の人なんかは、長年「王族専用」だった踊りを踊っていいので大喜びしてくれるのではないだろうか。

 あの最初の村でも流行らせてくるか。


 小さめ大根を両手に猫耳おチビが、シャウト、シャウト、シャウト。


「あうー!」


 実に楽しそうだ。

 その文句無しの特級の笑顔に、俺も顔を緩ませた。


 真理も楽しそうに踊っていた。

 真理が踊るとリズム感があって、まるで昭和の時代のディスコみたいだ。

 両手に大根を持っていても絵になるぜ。


 こいつも、かつては王族扱いだったらしいな。

 何しろ初代国王の妹相当の存在だったのだから、確かにそうなのかもしれない。

 今では王家一族の大御婆様の分身扱いなのだしな。

 実に堂にいった踊りっぷりだ。


 どうやら、この国は千年変わらずに幸せな国であるものらしい。


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