77-5 優勝を称えて
第1回アルバ山自転車レース、ダイレクト登山コースは親方やアニキとシドが接戦だったが、その辺の勝負は「歴戦のおっさん」が制したようだ。
「まだまだ若い者には負けんわ~。
そりゃあー」
親方の、右に左にマシンを揺らし筋肉がはち切れるような怒涛のペダリングの前に、若者勢は屈した。
はっきり言って奴が跨っている自転車が可哀想なくらいだ。
日本の自転車屋さんにはこう言われた事がある。
「大体、体重八十キロを超えると後輪のタイヤがパンクしやすくなるよね」
俺が作った自転車でなければ、親方のパワーと体重には勝てまいよ。
何しろオリハルコンフレームだからな。
おまけにタイヤも超強化品なのだ。
こいつは対戦車地雷の爆発にだって余裕で耐えられる代物よ。
鞍上が親方なら、航空機搭載用の大型爆弾を流用して作った超強力対戦車地雷を踏んだって人車共に安泰だ。
国王同士の戦いは筋肉達磨に軍配が上がったようだ。
シドも半端な漢ではないのだが、さすがに半ば人外である精霊族のパワーには敵わなかったようだ。
「ちっ。
親父に負けたかあ。
俺もまだまだ修行が足りんな」
弟のトーヤからペットボトルの水を受け取りながら、激しくボヤくアニキ。
だが爽やかな貴公子であるシドは涼やかな汗をかいて、愛しの王妃様からタオルを受け取っていた。
一方で、優勝した筋肉達磨の方は、まるで鍛冶場で掻いたみたいな物凄い汗を噴き出させていた。
もう、そういう体質になっているんだろうな。
相変わらずの暑苦しさが、全身の毛穴から滲み出しまくっている。
「アル、ビールだ!」
ゴールに用意された御絞りで顔や脇の下を拭きながら、赤ら顔の筋肉達磨が叫ぶ。
見るからに周囲の空気をも犯さんばかりに漂う濃厚な親父臭!
秋の爽やかさの欠片もない。
しょうがないのでビールサーバーを出して、この運動会の主催者である俺自ら丁寧に注いでやる。
もう、今日の出場はこれでお終いなのか。
まだ親方が出場する競技は残っていたんだがな。
飲むのなら、せめてジェシカから優勝賞状とかを貰ってからにしてくれよ。
ジェシカは親方の代わりに賞状とトロフィーを受け取った女将さんと一緒に、残りの選手が登ってくるのを笑顔で迎えていた。
ああ。
親方も、もしかして新しい娘にいいところを見せたかったのか?
だったら賞状くらい自分で受け取れよな。
「魔王園長閣下、私にもビールをくれ!」
海賊王からも催促がきたので、プチ宴会が始まった。
そういや、こいつもそういうキャラなんだった。
続々上がってくる他の選手達は、息も絶え絶えで水を欲していたのだが。
参加者達はみんな、聖なる神殿山の頂上で宴会している連中を信じられないという感じで目の玉を見開いて見ていた。
しかもその面子全員が、大国の国王とか公爵ばかりなんだからな。
すまん。
ここは運動会の主催者である、ここアルバ大神殿の大司祭も参加しているという事で目を瞑ってくれ!
一方、続けて開催された九十九折コースのレースはアルスが制したようだった。
Sランク冒険者の面目躍如といったところか。
ガッツポーズで、すばらしい笑顔をトッピングに自転車を頭上に掲げていた。
何か、ちょっと違うぞ。
いや、これくらいなら地球でも普通にやっている奴らがいそうだ。
確か、ツール・ド・なんとかの写真で見た事があるような朧げな記憶が。
別に車を担いでいる訳ではないしなあ。
運動会で国王勢が圧倒的に強いな。
それが、この剣呑な世界の慣わしなのか。
直線コースの方は、国王と王太子で金銀銅を独占している。
九十九折レース優勝のアルスも、そのうち母国の国王に据える予定である男なのだし。
サイラス王はこちらの競技に出ていたのだが、さすがに入賞は出来ていないようだった。
あのドワーフ親子と競って直線一気コースで準優勝する海賊王あたりは、体力もやっぱり規格外だったらしい。
さすがはハイドの海の漢だけの事はある。
もっともアニキを含めて、クビ・ハナ・ハナという写真判定コースであったのだが。
子供達も参加していたが、ちょっと完走は無理だったようだ。
行けるところまで行ってリタイヤだった。
来年は子供の部を作るかな。
獣人の子は、どんどんパワーがついてくるし。
距離を短縮した子供専用コースも作るか。
もう聖なるアルバ山の周囲が道だらけになってしまう。
主に自転車レース道で。
まあ本家の富士山なんかでも、地図で見るとそうだよな。
あそこに自転車レース道はないけれど。
そして副賞として、ファルの御神籤授与タイムが始まった。
親方には、これだ。
「神聖エリオンの火消し歌」
闘う消防士さん達の歌だ。
何故か、悪の怪人達と戦う特戦消防士さん達の行く手には炎と爆発の嵐が巻き起こる。
まあ消防士さんというものは、そういう職業なのではあるが。
これは、その手の日本の特撮番組の主題歌であった。
みんな、うちの子達って、こういう物が本当に好きでね。
「この歌に誘われて、火の精霊がやってきて踊り狂う。
一年間の間、鍛冶場に炎のパンデミックを引き起こすだろう」
あまりにもドワーフ向き過ぎる特典だ!
実は、この番組のエンディングに消防絡みと言う事で「出初式」のシーンが出るバージョンがあったんだよな。
トーヤ達と一緒に、それを見ていた「御義父さん」が感化されたのが、あの正月祭りでの出初式なのだ。
トーヤには消防車両を一式作らせられた上に、それらの玩具も全部作らされた。
それらは全部ゴーレム玩具だったので、連中が子供達と遊び足りないと夜中に玩具箱から這い出てきて走り回っているし。
「お前ら、夜中にサイレンは鳴らさないようにな。
子供達が起きちまうから」
そう申しつけておいたので、ゴーレム玩具どもは無音で真っ赤なランプをピカピカと光らせながら走り回っている。
車輪付きであるゴーレム玩具連中の今のトレンドは、夜中の小学校グラウンドでの缶蹴りとからしい。
学校の怪談かよ。
アルスには、なんと「神聖エリオンの防人の歌」が与えられた。
「失われた国を取戻す気概が沸いてくる。
人々に有りし日の想いを思い出させるだろう」
こいつはまた豪い物が来たな。
いや来るべくしてきた神の啓示なのか。
アルスも複雑そうな顔で御神籤を見ている。
「おい、そう深く考えるな。
それはまた、来るべき時が来ればな。
なんといっても、向こうさんから機会をくれているようなもんなんだから」
彼は少し子供のような顔をして俺を見ると、妙にはにかむような顔で言った。
「うん、そうだね。
ありがたい神の啓示と受け止めておくよ」
だがその時、俺はまだ彼の秘めたる胸中を推し量る事は出来なかったのだ。




