77-4 競技あれこれ
新競技としてハンマー投げを開催したが、会場ではこんなアナウンスが流れている。
「危険ですからハンマーを投げないでくださーい」
ドワーフ連中が鍛冶用の大重量ハンマーを投げまくるので、ハンマー投げは危険だからと中止となった。
あれがまた、よく飛ぶんだ。
みんな、何か勘違いしているようだった。
確かに『ハンマー投げ』とは言うんだがな。
相変わらず人の話を聞いていない連中だ。
それと商売道具はもっと大事にしろよ。
まあ連中の使う道具は半端なく頑丈に出来ているんだが。
あの陣が得どもが扱うんだからな。
離宮の竜舎にて「ドラゴンと腕相撲」も開催したが、さすがに全長五十メートルのゴン太相手に勝つような奴はいなかった。
アルス・グスタフ・親方・王国騎士団長といった強者が次々とチャレンジしたが、これは少し厳しかったようだ。
親方はいい線をいっていた。
本気の本気なら勝てるのかもしれない。
今日は只の御遊びだからな。
こいつらは並みのドラゴンではなく、俺の手によりかなり強化された魔物なので、こいつらに勝てるのはエンシェントドラゴンの御爺ちゃんくらいのものだろう。
俺は勝てるのだが、さすがにそれは無粋過ぎるので、それは無しにした。
だが子供達が挑戦しては、楽しそうにコロコロと投げられていた。
思いっきり手加減されているので子供達は怪我一つしていないが。
相変わらず、繊細な心配りが生きている。
こいつもドラゴンにしておくには惜しい逸材だ。
今回は障害物競走に、麻袋に入って跳ぶ袋飛びも演目に入れてみた。
こいつはデカパン競走と違って一人用だ。
子供用にちゃんとサイズも合わせてある。
みんな楽しそうに飛び跳ねている。
二人三脚はトーヤとアニキ、親方とエディ、女将さんとジェシカの組み合わせだ。
俺はレミと組んだので、のんびりと走っておいた。
楽しいぜ。
ネコミミがふわふわと揺れて、これ以上ないほどの真剣な眼差し。
一歳二歳の頃とは意気込みが違う感じだが、所詮は三歳児なのであった。
ゴーレム達が十人脚に挑戦していたが、もはや足が何本かもよくわからない。
「きゃあ~、倒れるー」
「近藤さん、足が逆逆」
斉藤ちゃんと沖田ちゃんが、御約束のコントをしている。
よく見ると全員が新撰組の面々だった。
ゴーレム達はムカデ競争も始めて、百人ムカデ競争に挑戦している。
頼まれて下駄を作ってやったのは俺なのだが、さすがにちょっと長すぎたな。
国王陛下は何故か宰相と二人三脚のペアを組んでいる。
あの二人は竹馬の友という奴らしい。
童心に帰って本当に楽しそうだ。
王妃様は南の公爵と組んで二人三脚で優勝していた。
南の公爵が一方的に引き摺られていたみたいだったが。
南の公爵の悲鳴は聞かなかった事にしておいた。
あの王妃様の御機嫌を用もないのに損ねる必要もない。
この二人も従兄妹同士の幼馴染だったそうだが、その力関係は地位以前に推して知るべしだ。
Aランク冒険者の本気に一般人がついていけるわけがない。
「ロッテ、ロッテ!
ちょっと待っておくれ。
おーい、ロッテ~」
もう公の場であるにも関わらず、王妃様相手に呼称が愛称になってしまっている。
だが王妃様は聞く耳など始めから持ち合わせがないようだった。
もしかして、あの人の種族はドワーフなのか?
あーあー。
子供の頃から、きっとこうなんだろう。
公爵家の男子が、年中サイラスの野山を引き摺り回されていたのに違いない。
ベルベット嬢はアワアワ言う子、あのジェニュインと組んで走っていた。
この子も久し振りに見たが、相変わらずアワアワ言っていた。
なんか凄く訳ありの子だという話だったが、本当に一体何なのだろうな。
わざわざ、あの北のアニオン公爵が預かっているのだから、生半可な事ではないはずなのだが。
「あら大変、もうこんな時間かあ。
園長先生、ゲートの魔法で山頂ゴール地点へ繋いでください」
アルバ山では、「ツール・ド・アルバ」が始まるようだ。
ジェシカがその準備で急いで戻っていった。
何、頂上のゴールに立って、笑顔で完走者を迎えるだけの簡単な御仕事だ。
最近の貴族の子弟の間で、一番残念なニュースといえば「ジェシカの結婚」だろう。
何せ、とびきりの美少女なのだ。
大神官なので結婚はしないだろうと思われていたのだが、電撃結婚が発表されたからな。
王国の姫君も立て続けに結婚してしまったし。
何せその相手が、ハイドの国王にこの魔王だからな。
ケチを付けるにしても相手が悪すぎる。
立場を抜きにして、まず相手の腕が立ちすぎるのだ。
ジェシカについても、相手はなんといっても「聖騎士」だからな。
また、いつ魔界の鎧のような世界を脅かす難題が持ち上がらないとも限らない。
魔界の鎧は、かつて世界を滅亡寸前まで脅かし、この魔王アルフォンスでさえ大苦戦した相手なのだ。
聖騎士様に対して、つまらないちょっかいなどをかけたら全世界から怒られる。
そんなこんなで手近なアイドルとして、エルフさんのところへ通う馬鹿者がまた増えて、俺の領地であるエルフ新町は一層の賑わいを見せている。
まあ、そのうちに成長したハミル王女と大神官に就任したフィアが、そのアイドルの役割を果たす日も近いだろう。
その時には、またくだらない騒ぎが起きそうだ。
あとファルが成長したら、化けるかもしれないな。
この子の人化形態というのは、なんだろうな。
ファルス形態は順調に成長しているようだが、人化した姿はあまり代わり映えしない。
そっちの方は最初の頃の感じからすると、ある日突然変化するようなので、いきなり知らない子だと思ったらファルだったという事もあるかもしれない。
個人的には、ファルには長く今の可愛い姿のままでいてもらいたいと思うのだが。
人間じゃないのだから、それも有りだ。
長命な種族なのだし。
何せ、この手で卵から育てた子なんでなあ。
「まずはツール・ド・アルバ・ストレートから。
漢のレースの始まりです。
スタートー!」
スターターのエリーンが、火薬式の大口径象撃ちライフルによる号砲を派手にぶっ放して、この世界で初めての自転車レースが始まった。
日頃から自転車に慣れ親しみ、出場するのを楽しみにしていた貴族の子弟が一斉にスタートする。
まあなんというか、これは本当に只の御楽しみだ。
この国では、こういう時は貴族の面子だとか、絶対勝たなければ! みたいなムードはまるでない。
「楽しむ時は思いっきり楽しむ」という、初代国王の緩い教えに貴族王族みんなで乗っかっている感じだ。
御腹の出っ張った貴族の親父とかも楽しそうに、えっちらおっちらと漕ぎ出した。
い、いや、あんたらは無理しないで九十九折コースに行った方がいいと思うんだけど。
頑張って漕いでいるが、ちっとも進んでいないようだった。
「いやあ、ギルバート男爵。
今日はいい天気ですなあ」
「これは、ロンギル子爵。
まだまだ若い者には負けていられませんなあ」
なんか、仲のいい貴族同士での狩猟会のようだ。
色取り取りの高機能なサイクリングウエアに身を包み、宝の持ち腐れである超高価な高性能自転車に跨った腹の出た親父達が、早くも全力の立ち漕ぎであるダンシングの体勢で若者達を追いかけた。
そして、百メートルも行かないうちに早々と脱落していく。
まあ当然の結果だろう。
おっさんなんか日本にいた頃は、標高九十メートルくらいしかない近所の山の上にある小学校までダンシングでも漕ぎ切れなかったもの。
あれだって結構、空を見上げるような急坂なんだよ。
さすがに只のシティサイクルには荷が重かった。
ここは、その四倍くらいの高さがあるのだから。
「いやあ、運動した後はビールが美味いでしょうなあ」
「こんなに体を動かしたのも久し振りですわ」
今度、スポーツジムでも開業しておくか。
王太子殿下が常連になりそうだ。
あれから運動を続けていて、あの体型を維持し続けているんだから、それはもう立派なものだ。
若い嫁さんを貰ったので張り切っているらしいし。




