77-3 異世界でブルマーは現役です
運動会当日、今日は見事な秋晴れだった。
この手のイベントでは天候が一番心配だ。
この世界の人は朝が早いが、日本では定番となる花火の音によって開催のお知らせをしておいた。
まあ御天道様が煌々と大地を照らしてくれているので、花火を上げなくてもそう特に何も問題はないのだが。
一応ケモミミ園では、工作で照る照る坊主を作っておいた。
最悪は「雲を消してしまう」という手もあるのだが、あまり無闇に天候を弄ると大気のバランスが崩れたりするので、それはやりたくない。
雲を消す能力は別に珍しいものではなく、誰にでもすぐ出来るようなものだ。
ネットでも「雲を消す能力」はポピュラーな遊びとして有名だ。
スプーン曲げが超苦手な俺にも簡単に出来るので、PKなんかとは路線が異なる能力なのだろう。
実際に「超能力」としてマスコミで話題になった事は只の一度もない。
俺は完全なESPタイプなので、PK系列の能力は何も持っていない。
今では魔力や魔法で代用できるがね。
それでも雲は消えるのだ。
雲消しは、あまりにも簡単に誰にでも出来てしまうので、マスコミなんかでも取り上げるような面白味がないのだ。
あまりにも成功率が高く、且つ御手軽過ぎるのでなあ。
ああいう超能力のような物は出来る人間と出来ない人間がいて、難易度が異なるからこそ面白いのだ。
雲消しは安直過ぎて、まったくお話にもならない。
俺は温泉の露天風呂に入っている時に、よく暇潰しで雲消しをやったりしていた。
この世界では目に魔力を込めると、面白いくらい綺麗に雲が消えていく。
一度やってみて、あまりにも消え過ぎるのでマズイかなと思って、それ以来やってはいないのだが。
あの消えた雲って、一体どこへ行くんだろうなあ。
凍っている雲が分解して水蒸気になっているのだろうか。
消える理屈もよくわからないし。
もしかしたら、この世界では魔素の海へ還っているのだろうか。
王宮前広場で行なわれた開会式では、国王陛下の御挨拶の後でドワーフによる「出初式」が披露された。
これは別に消防の大会じゃないんだが。
あの人達にはもう何を言っても今更だがな。
それはそれで、中々の見物だった。
運動会はアドロスだけの催しのはずだったのだが、王都でもやる事になったのだ。
「初代国王も秋祭りとして、色々な競技を伝えておる。
稀人の国で行なわれる行事であるならば、是非王都でもやりたいものだ」
そんな王様の希望もあったので、王宮前広場がメイン会場として解放される事になった。
今はその殆どを各種の練兵場で埋め尽くされている王宮ゾーンだが、かつては国民が集まる場所であったのだし、イベントも普通にここで行なわれていた。
食糧難の頃は、ここが畑になっていた事もあったらしいし。
塀や王宮だけは立派に作ったものの、まだ国としての中身は完全に伴っていなかったとの事だ。
それでも国民は「立派な国の形が出来た」と大喜びだったそうだ。
皆で頑張って、皆で喜びを共にし、皆で国を守るために戦った。
覇軍の指輪は、そんな国や国民を守るために作り上げられたのだという。
だが、それは平時には災いをも呼びかねない難儀な代物でもあった。
初代国王は、それを世界で最も信頼する者に預けて、この世を去った。
トーヤに頼まれて作った大型ハシゴ車に、関係国の国旗を並べて作った万国旗を垂らして飾った。
このあたりの国だけでは国旗の種類が寂しいので、地球のメジャーどころの国旗も混ぜて華やかにしてみた。
放水車を並べて七色の水を放水しながら、光魔法で大きく虹を作る。
子供達がシャボン玉を吹いて飛ばし、それが陽光にキラキラと反射して中々の見物だった。
これは小学校の子供達が自分達で考えた演出だ。
こういう力をどんどん付けていってほしいなと思う。
トーヤが見せただろう、ネットで公開されている消防出初式の様子は、異世界のドワーフ魂を鷲掴みにしたようだ。
あの火消しスタイルに身を固め、ハシゴに登り、その天辺で危険な業をたやすくやってのける。
先頭を切るのは親方だ。
きっとこの異世界で、一番地下足袋が似合う国王なのに違いない。
地下足袋も特注サイズなのだが。
地球サイズの地下足袋では親方にはフィットしないので、エルフさんの手による特注品なのだ。
地球上のいかなる物語の中でも、エルフさんが地下足袋を作っている場面はここ以外には存在しないだろうな。
この世界でも、地下足袋なんていう奇天烈な物を作っているのはここくらいのものではないだろうか。
猿も木から落ちるとは言うが、たとえ猿が落ちようともドワーフがハシゴから落ちる光景はイメージしづらいものがある。
まあ親方はこの程度の高さから落ちたってビクともしないだろうが、万が一落ちた先に誰かがいると困るからトラ柵やレッドコーンで周囲を囲ってある。
あと地面の被害が激しい。
マンガっぽい感じで人型に穴が開くだろう。
親方はハシゴを一息に駆け上がっていく感じで、終いには逆立ちして指一本でハシゴの上でくるくる回って、指がハシゴに刺さって動けなくなってしまっている。
さすがに、ちょっとやり過ぎだ。
親方も、少し大道芸とかサーカスなんかとごっちゃになっているようだ。
そもそも出初式なんていうものは、元々この世界には存在しない催しだしな。
今回の運動会は規模が大きいのでプログラムが大変だ。
うちの子の奴は、ケモミミ園や小学校で行なう予定だ。
今回は特別に王都とアドロスはゲートで繋いでしまっている。
今年は競技種目も多いので、中々の盛況となった。
演習場では様々な運動会種目が開催されている。
陸上競技系が多いのだが、王国騎士団は「鎧着用」で行なわれる。
あれでかなり速く走れてしまえるので、連中め、実に大したものだ。
まあ新人騎士などは、かなりきつそうな顔をしていたが。
「よし、織原。
お前も金属鎧を着込んで逝ってこい!」
「冗談やめてくれ。
マジで死んでしまうわ。
あの騎士団、本当に人間なのか!?」
「じゃあ、仕方が無い。
お前はツール・ド・アルバ・クライムヒル直線コースな」
「死ぬ~」
後ろでヘルメットを手にしたベル君が、死んだ目で織原の肩をポンっと叩いていた。
職場代表で「クライムヒル・ストレート」への出場が決まったらしい。
職場で年寄り連中より立場は上になったものの、こういう時は若い者の出番という事でそうなったようだ。
斉藤ちゃんに無理矢理仕度をさせられている織原を尻目に、俺は各地を見て回った。
今回は俺が大会委員長ではなくて、王国が主催してくれているので俺が出歩いていても問題はない。
サポートはゴーレム隊だ。
ケモミミ園ではチビっ子運動会が開催されていた。
今年はデカパン競争も開催されて、来賓の王様と王妃様が仲良く飛び跳ねている。
主催者が王都の方にいなくていいのかよと思ったのだが、楽しそうだからまあいいのか。
どうせゲートで繋がっているからすぐ移動出来るんだし。
それに王都の方の大会委員長はハミル王女が担っているらしい。
「ハッ、そういえば来賓で呼んだはずのエミリオが、いつの間にかいない!」
すかさず真理が首を振りながら教えてくれる。
「あの子はハミル王女に捕まっちゃったみたいよ。
残念だわ」
合掌。
ハミル王女、今日はまたブルマーとかかな。
きっとそれを、逃げ回る弟を追い回すためだけに履いているのに違いない。




