77-2 ツール・ド・アルバ
貴族連からは「自転車競技」が要望されたので、アルバ山でのクライムコースを整備する事にした。
それは九十九折のコースと、一直線に駆け上がる漢コースの二コースを用意した。
さすがに下りコースはヤバいので、初回の今回は無しの方向だ。
標高三百五十メートルしかない低めの山だから、まあそう大したものじゃないのだが。
この大神殿のあるアルバ山は、なだらかで大変に形がいい。
なんとなく富士山を思わせる雰囲気がある。
かなり平べったいけどね。
標高が低いので富士山みたいに綺麗な感じじゃなくて、木がよく生い茂った普通の山だ。
なだらかな山なので、ほぼ一直線の広めの道が開かれているだけだったのだが、俺が大司祭になったので登山道は整備しておいた。
登山道は九十九折になっていて舗装はしていないが、常にゴーレム隊の手によって整備をしてある。
舗装された固い道だと疲労が激しいだろう。
下りは足に衝撃が来るのだ。
雨が降った時などに、泥濘のような感じにぬかるんでいたりしても困るのだが、うちは都度補修可である道路補修のための魔法道路工事部隊が常設されているので大丈夫だ。
途中には三か所ゴーレム茶屋もあって、屋根付きで休憩出来るようになっている。
休憩所にはトイレも完備してあるので、緊急時以外はトイレを使用しないと王都環境条例違反の罰則がある。
もちろん、それは俺が整備させた制度だ。
なんたって稀人の国日本は、トイレが綺麗だと諸外国の観光客から御褒めいただけるような国なんだからな。
茶屋には、ここにしかないメニューなどもあるため、最初からこの茶屋へ来るのが目的になっている、しょうのない連中までいた。
いいけどな、別に。
イベントがある時にはエルフさんも出張してエルフ茶屋を開いてくれる。
馬車専用道の方は石畳状にしたアルバコンクリートで舗装してあり、ガードレールも整備してある。
馬車を引いているために、馬が下りで堪え切れない場合があるとかで、今までは事故が起きる事もあった。
完全な九十九折にしたので事故は減るだろう。
そのうちにロープウェイを開設してもいいかもしれない。
神殿本部に陳情があったのだ。
「老い先短い脚も不自由な年寄りですが、せめて死ぬ前に一度大神殿に御参りしたい」と。
そういう話は案外と多かったようなのだが、今までは糞爺どもが無視していたのだ。
それの整備も検討している。
ロープウェイは子供達も喜ぶだろう。
安全管理は遊園地設備に準じる形にしておけば問題はなかろう。
外国からの御客人にも大神殿名物として喜ばれるのではないだろうか。
今は神殿付きの乗合参拝馬車を用意させて運行させてある。
参拝道は、行きで一息に登って消耗しているので馬も参っている。
参拝時には馬に無理をさせないように、商業ギルドや王宮、あと一般向けにも町会を通して通達はされている。
頂上には馬の回復施設も整備させた。
途中でへばる馬のための馬車休憩用のパーキングも整備した。
伊達に高い御布施を取っているわけではない事を見せてやろう。
このアルフォンス、阿漕な商売はやるが、別に私腹を肥やすためにやっているわけではない。
自分の金はちゃんと自分の商売で稼ぐのだ。
国中の、孤児院を経営する教会への神殿からの資金供給は目を瞠るほどの改善が見られている。
それもあって、貴族や富裕商人も寄付は惜しまない。
当然、そういう人にはファルからの御利益もたっぷりと与えられるので、さらに富がやってくる。
また、見所があるような人材にはアルフォンス商会からの稀人流アシストも与えられるのだ。
自転車競技コースは、一応ガードレールに衝撃吸収フォームまで備えている。
路面はわざわざこのためだけに「アスファルト」を作成して、タイヤが滑りにくいように水捌けのいい特別な路面にしてあるのだ。
こけた時に硬い石畳なんかだと大怪我しそうだからな。
アスファルトだって自転車でこければ立派な大根おろし器になるのだが、まあガツンと硬い感じの石なんかよりはマシじゃあないのかね。
俺もバイクに乗っていた頃に何度もコケたので、その味はよく知っている。
馬車道の方は、石畳上に加工したアルバコンクリートに滑り止め加工が施してある。
日本でも急坂の道はアスファルトだと滑ってしまうので、コンクリート舗装をして丸い輪を刻んで滑り止めにしてあるが、ああいう感じのイメージで作ってみたものだ。
表面は綺麗に平面になっているのだが、滑りにくいざらつきが刻まれている。
全面的に衝撃吸収の付与もなされており、馬の足への配慮までしてある。
自転車専用道の沿道には、ガードレールの向こう側に観客用の専用道がある。
外側には柵が設けられ、魔法も用いられて安全にも配慮されている。
当然、転んでぶつかってきた自転車乗りに対する衝撃吸収の効果もある。
人間用のトイレや休憩場も設置されて、応援スペース付きの本格的な自転車道となっている。
普段は、これがサイクリング参拝用道路としても活躍してくれる。
自転車競技の参加賞は、ファルの「よしよし」だ。
これは貴族の子弟といえども滅多に出来る体験ではない。
普段は「ファルの日」に大枚寄付をくれた人だけが受けられる特権なのだ。
ちなみに一等賞品は例のヤバイ御神籤の運動会バージョンだ。
競輪はヤバイのでやめにした。
派手に転んで大怪我をされても困る。
あれは巻き込み事故が酷いからな。
骨折をしなくても足がズル剥けになる。
強力な回復魔法はあるのだが、無理をする事もないだろう。
自転車はまだまだ富裕層のものだ。
乗っているのは貴族の子弟や富裕な商人の子弟なんかだ。
俺の爺さんも戦前に自転車を売っていたが、今の自動車並みの値段だったという。
買ってくれるのは裕福な人だけだったろう。
高額で大事な商品なのでそれに乗ったりはせずに、二十キロ以上先の届け先まで、肩に担いで徒歩で届けに行っていたそうだ。
現代で自動車運搬車両が新車を運んでいるのと同じだな。
俺なら大八車に積ん引くわ。
何せ軽トラだって無いような時代だからな。
うちの爺さんは、まるで異世界小説に出てくる行商人みたいだ。
配達する物がでかいから、背負子で背負う訳にもいかないし、なお悪いっていう奴だ。
昔の自転車はスチールのフレームしかないから糞重たいし。
競輪もやってみたいのはやまやまなんだが、どうせやるのなら競馬の方がいいな。
あるいは馬術競技を始めてみてもいいかもしれない。
ああいうものは貴族の嗜みだし。
俺はどっちかというと、馬はもふる方が好きだ。
どうも動物に鞭を入れるのは好きではない。
「馬も本当は鞭で打たれるのが嫌いなので、実は鞭を入れない方がよく走るのだ」とは、実家が馬車屋である出自からして馬のプロフェッショナルであるロイスの弁だ。
地球でも、そういう話は競馬関係で聞いた事があるような気がする。
ファルと一緒に乗るなら、あの子からちょっと「御願い」してもらえば馬も大張り切りで走ってくれる。
馬車を引くのが魔物なら、力押しで言う事を聞かせる手もあるのだが、まあファルに御任せだな。
一応、去年はなかった三輪車競技も入れてみる。
障害物競走の中では使っていたんだけれど、競争としては使っていなかったので。
あれは幼稚園の定番だからな。
たが、練習にドワーフ達が乱入して豪い事になった。
ドワーフとは小さき者の意味だったはずなのだが、この世界ではその定義に当て嵌まらない。
子供用三輪車に筋肉達磨の巨漢が、でんっと乗っかっているのはさすがに見苦しい。
あれでママチャリくらいのスピードで走れるのだから実に呆れたものだ。
まあ、うちの三輪車は素材が特別なので、それくらいの事で壊れたりはしないのだが。




