76-3 驚愕の好敵手
俺達は階層を降りて行き、入り口の捜索を行なった。
さっき大物のキメラが出てきてしまったので、今出てくる魔物はBランク以下の小物ばかりだ。
他のAランクはまだ湧いていないらしい。
俺一人なら手持ちの重火器を使用してもいいのだが、他に生身の人間がいるので危ないから魔物の掃討はゴーレム達に任せている。
「中々先に進まないなあ」
「魔物がいっぱい出てきますからね」
「車で行ってもいいんだが、防御魔法とかを使えないからな。
オリハルコン製やベスマギル製の車もあるわけだが、なんかのトラップがあると面倒だしな」
車ごと谷底に落とされて、車内から脱出できないとかがマズイんだよなあ。
引っくり返った車の上に大量の岩が乗っかった状態で、しかもその岩を空間固定されちゃったりしたら目も当てられない。
下手をすると全員が残りの人生を狭い車内で過ごす羽目になる。
水や食い物は手持ちが十分にあるが、トイレなんかもずっと超狭い車内でするんだからな。
堪ったもんじゃないぜ。
昔昭和の時代にやっていた、とある特撮番組では、ミスで自分達が撃墜してしまった宇宙船の生き残りの赤ん坊を送り届けるためだけに、四人の人間がほぼ座席しかないような飛行機タイプの小型宇宙船で目的地の星へ向かったが、向こうの星へ辿り着くのに六十年かかるという無茶過ぎる設定になっていた。
そんな期間を過ごすための食料や水に医薬品や日用品を「飛行機」に積めるもんか。
コピー能力と膨大な魔力、そしてチートなアイテムボックスを持った俺じゃあるまいし。
そもそも行きの途中で宇宙船の耐用年数が過ぎてしまうだろう。
おまけに帰りもまた六十年かかるんだからな。
しかも、その内二人は幼稚園児の男女で、今いる二十台後半から三十代前半くらいの大人の男二人は途中でもう死んでしまっているので、狭い宇宙船の中で彼らが子供を作って育てないと、地球へ戻ってくるどころか、その前に目的地へ辿り着けないかもしれないというような無茶苦茶な設定になっていた。
赤ん坊も大きくなるし、自分の子供も育てる役目の幼いカップルも向こうへ着けば七十歳近いし、赤ん坊も還暦を迎えてしまう。
寿命の短い宇宙人だったら肝心の送り届ける客である赤ん坊が老衰で死んでしまうわ。
あと船内で病気にでもなったって医者もいないしなあ。
子供達は小学校へすら入っていないのに赤ん坊なんか育てられるもんか。
子供達にも狭い船内で孫も作らせないと、帰りは向こうの超高速な宇宙船で親子の御骨を届けて頂くという本末転倒な御返しを貰う破目になるだろう。
行きの船内で生まれた子供はもう年を食っているから仕方がないので諦めるしかないが、まだ若そうな孫は向こうの星へ残りたがるだろうなあ。
帰り道の途中で、狭い船内で老衰にて死んでしまうだけの未来なんか誰が望むんだ。
それに途中で子供がどんどん増えるので水や食料どころか酸素も途中で尽きるわ。
真っ暗な恒星間を飛行中は光合成も出来んだろうし。
よくもまあ、あんな馬鹿馬鹿しいストーリーにしたもんだ。
さすがは昭和の番組だ。
もしかして打ち切りだったのか?
あの頃の番組は視聴率次第ですぐ打ち切りとなり、そういうとんでもラストで終わる番組も多かった。
子供騙しどころじゃない。
当時小学生時分の俺だって、あの子達が未来にどうなるのか気が気じゃなかったというのに。
いくら小学生だって、演じている子役の笑顔なんかに騙されたりしないぜ。
あと地形トラップに嵌るとかも嫌だな。
戦車もあるが、あれこそ何かに嵌ると簡単に車外へ出られんから余計にヤバイかもしれん。
通常の戦車にある床下からの非常脱出口自体が塞がれているような状況がありそうだ。
いや、わざとそういう状況に追い込まれたりしてな。
なんたって、あのアドミンのやる事なんだからなあ。
「こういう転生ダンジョンでは、まだ再生しきれていないので浅い階層になっています。
ここあたりは、せいぜい五階程度ではないのでしょうか。
その代わり、成長のために栄養が必要なので、割と強力な魔物が浅い内に出てくるので注意が必要です」
「そうか。
経験の少ない冒険者が挑戦すると厳しいな」
「ええ、むしろ上級冒険者にはボーナスステージなんですが、このタイプのダンジョンは魔法が使えませんので、それも注意が必要です」
たしかに上級の冒険者は魔法に長けている場合も多い。
だがパーティのバランスや、相手との相性や力量次第では全滅も有りうる。
帝都ベルンの冒険者ギルド及び所轄の冒険者ギルドには、そのように進言しておこう。
まだ後で色々と変化してきそうだから、今後も油断は出来ない。
それから魔物を排除しつつ二階層ほど下りた辺りで、ダンジョンレーダーが出口を指し示した。
そして俺が壁に触れた時に扉が出現した。
なんというか、今までに出現したファンタジー風の扉と違い、生の普通っぽい感じの扉というイメージだ。
今まではゲームなんかに出てくるような手が加わったようなものだったが、こいつは自然な感じというかそういう物だった。
「おー、これが希望の扉かよ」
思わず手を伸ばしてみたが、見事にパシンっと弾かれた。
閉ざされた空間、そして伝わるダンジョンの持つ拒絶の意思。
俺の力では、ここを通してくれるつもりはないらしい。
「ちいっ。
おい織原、出番だ。【解】」
返事はない。
だが。
織原を軽く神的な光が覆い掠めたかと思った瞬間、解放された力を奮うべく奴は唱えた。
「ザ・ロック」
渾身の溜めをもって放たれたスキル行使だった。
そうか、日本に帰りたいか。
こいつは、そうだろうな。
今まで見た事もないような真剣な眼差しで扉を見つめている。
やや唇を噛み締めながら、まだ見ぬ扉の向こう側を睨みつける表情は、この世界で奴を迎えた洗礼の激しさと厳しさを物語っている。
神秘の輝きと共に、扉は稀人スキルの光に包まれて「ザ・ロック」の軍門に下った。
織原は空間を開放し、見事に次のダンジョンへ繋いで見せた。
「よし、行くぞ」
俺は扉を勢いよく開けて体を滑り込ませようとしたが、それは叶わなかった。
入り口でタイミングよく、俺の体を押し返した者がいたのだ。
あまりにもタイミングよく予期せぬカウンターを食らったので、踏ん張れずに思わず仰け反ってしまった。
「うおー! アドミン、貴様~。いやがったのかー」
そう。
押し返したのは、案山子野郎ことアドミン本人だった。
ちょっと不意討ちだったので、俺は間抜けにもそのまま尻餅をついてしまった。
見事に逸る心が空回ったぜ。
だが呆けていたのは一瞬だ。
俺はすかさず起き上がると奴に掴みかかる。
近くでよく見たら、なんと案山子装束は只の安っぽいコスプレ衣装だった。
くそっ、馬鹿にしやがって、こいつめ。
「野郎。
正体を見せやがれ」
俺は奴の案山子装束を剥ぎ取ろうと、シュピっと素早く手を伸ばした。
そして俺は驚愕する事となった。
なんと奴はHP三千二百万を全開にした俺のパワーをあっさりと片手でパシンっと跳ね除けて、俺を更に押し返した。
またもや間抜けに転がる魔王アルフォンス。
くはあ、かっちょわるいぜ。
くっそ、これが神の眷属相応の力なのかよ。
やっぱり、こいつは神の一柱なんじゃないのか。
制約抜きのベストコンディションでも敵いそうにないぜ。
この俺が、あっさりと転がされちまった。
まるで横綱と十両、いや優勝三十回を数えるような大横綱と学生相撲部の新入生との取り組みだ。
ヤベエ。
しかし、奴の方もなんだか慌てているようだった。
いつも余裕たっぷりで気に障るこいつが、わざわざ相手を小馬鹿にするためだけに着ているような安っぽいコスプレをあっさりと見破られて、その下に着ている少し気取ったような格好まで半見えしてしまうほど狼狽している。
「お前らはまだ来るな。
次の裏ダンジョンの準備が出来ていないんだから、もっと後になってから来い」
そう言われた次の瞬間に、俺達は空間魔法でダンジョンの外へと放り出されてしまった。
何だったんだ。
まるで、うっかりと仕事をサボっていて、まだ試験の準備が出来ていないのに試験を受けに来た生徒がゾロゾロと現れてきて大慌てしている教師みたいな雰囲気だった。
荒涼とした風の吹き渡る荒れた草原に、俺はうすらぼけっと立ち尽くしながら一瞬呆けていたが、我に返ると真理からの緊急コールが入っているのに気が付いたのだった。
うぬう。
勝負は次に御預けだぜ。
アドミンの野郎が力づくでは敵いそうもない相手であるのを確認出来てしまったので、ちょっと凹んでいた俺だったのだが、帰った途端に帝国でのあの騒ぎだ。
不幸中の幸いか、今回は奥まで行かずに終了していたので、早く外に出られたから却って好都合だった。
全くもって頭が痛いことだぜ。
だが、次こそは必ずアドミンの野郎に勝つ!
いつも応援ありがとうございます。
本作も、去年の10月9日から始めたので、本日で丸々1年が終了いたしました。
無事に1日も欠かす事無く更新してこれたのも、皆様のおかげです。
書籍化・緊急重版・コミカライズ・3刷と、なかなかに過分な扱いをしていただけました。
1か月後には、2巻も発売となります。
また宜しく御願いいたします。




