76-2 ちょっとは冒険者らしい展開
「くっそ、MAPが使えないと不便だな」
次回の探索はデニスを連れてくるか。
いっそアルスもセットだと頼もしい。
魔法が使えないシーンだと、元から優秀な冒険者は頼りになる。
ここで一番能力が低下するのが、誰あろうこの俺だ。
「この五番目のダンジョンは、中々手強いダンジョンだったようだなあ。
入り口付近で、いきなりBランクの魔物が出てきやがったぞ。
おい近藤、先頭を行ってくれ」
「御館様、ここは我らに御任せを。
おい、土方行くぞ」
「近藤さん、やっと俺達新撰組の見せ場が来ましたね」
とりあえずゴーレム隊を前に出し、俺は探索に専念した。
織原をグスタフに任せて、俺はベル君を隣においてダンジョン探索に勤しんだ。
「ああ、どっち行こうとしてるの。
右々」
「はい、そっちアウト~」
ダンジョンレーダーから聞こえる武の声がちょっと煩い。
それでも、こいつを腕から外してしまうわけにもいかないので難儀だな。
ここは少し入り組んでいて、ダンジョンレーダーが進行方向をキッチリと表していないのでやりづらい。
「ブッブー、そっちじゃありませーん、ハーズレ」とか、目の前にいきなり現れた武の映像が言ってくるし。
妙に構造が入り組んでいて分岐も激しい。
これではフィアでなくても遭難しそうだ。
俺自身が元々方向音痴で、この世界へやってきてからもレーダーMAPに頼りきりだったので、こういう時は本当に困る。
若い頃に自動車でアメリカ横断旅行に行った時には、豪快に五十マイル単位で迷ったもんだ。
日本と違い、あんなにシンプルな道路だったのに。
慣れていないと、英語の標識って運転中に見ると内容がわかりにくいんだよなあ。
御蔭で日程がかなり押してしまって、そのせいで最後にはロスアンゼルスでホールドアップを食らう羽目になり、豪い目に遭った。
雪に覆われたロッキー山脈を越えるのにもてこずったし。
あれには、もう日本へ帰れないかもと思って絶望したわ。
相当南下して、なんとか積雪通行止めを回避できたのだ。
圧雪路だったので、なんとか無事に山脈を超えられて助かった。
あの時は冷や汗をかいたぜ。
ノーマルタイヤだったから下りが超こええ。
チェーンもなかったし。
アメ車だったけど、低速トルクたっぷりのエンジンを積んだFF車だったので、あれでなんとか助かったわ。
比較的軽量の車だったから滑りにくいというか止まり易かったし。
4WDの王者ランクルとても、あの重量が災いして下りの雪道なんかはすぐに止まらないんだよな。
これだから四駆のスバルが欲しかったのだが、残念ながらレンタカー屋でそいつを貰えなかったんだよな。
更に、その後でラスベガスの罠に嵌まり、ベガスにはその後二十年くらい通ったなあ。
それ以降は、他の海外なんか殆ど行かなかったもんね。
あの頃は自動車用のナビゲーションシステムなんてなかった時代だ。
ナビどころか、携帯電話もインターネットもなかった。
馬鹿でかい、全米の道路をすべてマッピングした『アトラスマップ(アメリカで有名だった地図帳)』一冊が頼りだったのだが、地図の読み方も下手だったしアルファベットの標識も上手く読めなかった。
実のところ、俺もあんまりフィアの事は言えない人間だったりするのだ。
そして今度は大蛇が現れた。
超ド級にでかい奴だった。
全長三十メートルといったところか。
頭の直径は三メートルほどありそうな、ずんぐりむっくりなヤツで、スタイルもちょっと前衛的だな。
頭がでかくて、薔薇の棘のような角を生やした大口野郎だ。
蛇の癖にズラリと並んだ牙があり、丸呑みはしなさそうだ。
いや蛇だから多分丸呑みも可能なのだろうが、食い千切る力が強いのだろう。
おそらく自分より大型の獲物も襲うタイプなのだ。
中々剣呑な奴だ。
黒と黄色の斑模様の典型的な警告色の持ち主で、表面に軽いイボのような膨らみがポツポツとある、まるでトカゲか恐竜のような皮の質感だ。
きっとB級映画のレギュラー男優なんだろう。
普通なら魔法で刻んでやるところだが、生憎とここでは魔法を使えないので素手で殴り飛ばしておいた。
この魔王に稽古をつけてほしいのなら、もう十年ほど修行を積んでから出直してこい。
しかし根性を見せてまだ向かってくるので、オリハルコンの大槍を振り回して首を刎ね飛ばす。
こういう時用に首切り包丁として大型の刃物はそれなりに用意してあるのだ。
それを魔法で飛ばせないので面倒なのだが。
まあ槍なんかはフルパワーで投げれば済むけどな。
魔道鎧を使えないのが、またまどろっこしい。
「ここは広いから、大きめの魔物が出てきそうだとは思っていたが、こいつは面倒だな」
「とりあえず警戒しながら先に進みましょう」
ベル君も、額からじっとりと汗を滲ませて緊張気味だ。
俺が魔法を使えないので彼も心細いのかもしれない。
「せいっ」
近藤は着物はだけたスタイルで、マンガやゲームに出てくるような超でかい角張った感じの幅広の刀を振り回して、大型魔物の首を景気よく刎ね飛ばしていく。
四足恐竜みたいなヤツや、キメラと同じ蝙蝠羽根で飛行するタイプの四足獣、砂地のゾーンではでかいワームも出てきて乙男二人が情けない悲鳴を上げた。
このダンジョンは、まだ成長しきっていないくせに、地形や魔物のバリエーションがやたらと豊富だ。
「大猟、大猟~」
沖田ちゃんと斉藤ちゃんが嬉々としてそれらの素材を拾い集めながら、こっちへ零れてくる比較的小型で素早い獲物を軽く仕留めて回っていた。
魔物は結構な数が沸いてくる。
探し物をしながらだと結構面倒だなあ。
「うーん、底までいかないと出口が無いのかな」
そうとも限らないのだろうが、全てはアドミンの気まぐれな考え一つだ。
仮に裏ダンジョンに関して知識のある真理が聞いたとしても、首を捻るような内容だろう。
行ってみない事には誰にもわからない。
今日はイレギュラー案件なのでアドミンは来ていないだろう。
あいつの嫌らしい罠は無いのだが、魔法使用不可のような裏ダンジョンの制約を受けながら、表の比較的強力な魔物も攻めてくる。
一番難儀な代物であると言えなくもない。
表の通常のダンジョンの構造そのままなので、道は激しく入り組んでいるし。
まるで魔法抜きで手強めのダンジョンを攻略しているかのようだ。
特に一緒に素人を複数連れているので、それが一番困ったものだ。
中々面倒な攻略をしながら、俺達は先へと進んでいった。
ほどなくして、今までとは異なる大きな分岐にさしかかった。
しかし、何故かダンジョンレーダーがぐるぐると回っている。
首を傾げていると、またハイテンションな声が聞こえてきた。
「ハーイ、これは面白いダンジョンだねえ。
右か左か。
どっちから行っても先には進めるけど、多分どっちかは罠。
さあ、二つに一つ。
ドーンっといってみよう~」
「また面倒な事を~」
「アルさん、どうしましょうか?」
俺は黙って左手の人差し指を突き出した。
それは、すーっと腕ごと動き、迷い無く左を指した。
「こっちだ」
「あの本当にこっち……なので?」
ベル君が恐る恐る訊いてくる。
今のシーンでハズレを引くと、このあたりの人間には辛い事になるだろう。
「なんだったら、お前だけ右に行っても構わないぜ?
向こうからでも行けるそうだから」
ベル君は右側の通路をしばらくじっと見つめてから、首を竦めて大人しくついてきた。
俺のイコマの真骨頂は基本的には二者択一だ。
特に危機が迫った時などは本当に頼りになる。
少なくとも棒を倒して決めるよりはマシだ。
だが、こっちもわらわらと色々な魔物が出て来た。
高ランクから低ランクまで色々だ。
さすがにドラゴンは出てこない。
もしかしたら向こう側にはドラゴンが出たのかもな。
やはりイコマが正しいのだろう。
ゴーレム隊を送って検証しておくのも一興であったのだが、そいつらを回収出来なくなると困るので止めておいた。
しばらくするとAランクのキメラまで出て来た。
やっぱり最初にこいつが出てくるのか。
うちのメルも結構散歩好きだしな。
あの子は犬と同じレベルで散歩に行きたがる。
キメラはスタイルがド派手なので、もう一匹捕まえておいてもいいかなあ。
俺は少し熱い視線を奴に注いでみた。
そんな不穏な気配を察したものか、そいつはすっと音もなくバックステップで距離を取っていき、終いにはとうとういなくなってしまった。
チッ、やっぱり野生の猫はそう簡単には懐かないようだ。
「ここは混沌としたダンジョンだな。
まだ表層にいるのに、高ランク魔物がほいほいと出てくるし。
しかも高低のランクが混ぜこぜで沸いてくる」
「興味深いですねえ。
普通、こんな事はないのですが。
かなり特殊なケースだと思いますよ。
そのうちに安定してきて、他のダンジョンと同じようになるのではないでしょうか」
ベル君は熱心に記録を行なっている。
さすがは優秀な文官だけはあるな。
これを王宮の記録に残すのだ。
今まで、色々と体験してきた成果だな。
映像資料は俺がカメラポッドで記録してやっている。
これも魔法で飛んでいるのだが、不思議とこれは使えるんだよな。
一方で織原はビクビクして、グスタフにピッタリとついてきている。
元々は只の高校生、まだ子供なんだからな。
おっさんみたいに異世界で暴れたりはしない。
今時の若い子は本当に大人しい。
やっぱり、もう少し鍛えておくとしよう。
こいつには今後も召集令状をプレゼントしてやる予定なのだから。




