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74-3 サビキ釣り

 そして、ここまで来ると、お次は堤防釣りだ。


「サビキ釣りで新鮮な鰯を釣りませんか?」


 山本さんから御誘いがあった。

 昔は家の近所でよく釣ったものらしい。


「えーと、どこの堤防で?」

「それは園長先生が作ってください」


 山本さんの子供のように屈託のない笑顔に、ついこちらの頬も緩む。


 この世界にも鰯っぽい奴らはいるものらしい。

 沿岸を生息地にしている奴もいるだろうから、堤防釣りにはピッタリだ。

 もう場所はブルーアイランドでいいかな。

 あそこの船着場で釣れるんじゃないか。


 とりあえず山本さんと二人でゲートを開いて見にいったが、ホテルから少し離れた場所にある桟橋でゴーレム達が釣りに興じていた。

 釣りブームが既にここまで波及していたか。


「釣れますか?」


 つい定番の会話を試みる。


「ボチボチです」


 釣り竿を持ったまま屈託のない笑顔が帰ってくる。

“びく“の中を見ると、新鮮な鰯が何匹も入っている。


 びくは日本の昔話なんかに出てくる、釣った魚を入れる道具だ。

 あの日本昔話で有名な浦島太郎も腰にぶらさげて使っていたのではないかと思われるような、日本の由緒正しき装備品である。

 こいつらも相変わらず凝り性だな。


「釣れそうだね」

「そうですねえ」


 山本さんは、のんびりした様子でそう答える。

 この人はいつもこんな感じだよな。


 この桟橋として使用するデッキは広い。

 幅四十メートル、長さ百メートルはある船橋コンクリート製だ。

 ここなら子供達を連れてきても大丈夫そうだ。

 比較的大型の船をつける場所だから、それなりに深さもあるので鰯なんかも充分に集まる。


 堤防みたいに高くて狭い場所ではないので、そうそう落ちたりしないだろう。

 もちろん子供達全員ライフジャケット着用の上、水中ゴーレムによるライフセーバー隊が待機している。


 いつかこの島に大型客船を就航させようと思っているのだ。

 それだと、もっと桟橋を拡張しないと駄目だが。

 いや、もっと大きな港を作らないと駄目だな。

 いっそ拡張空間の桟橋にしておけばいいか。

 メガヨット・スーパーヨットは、もう海上に回遊させているし。


 とりあえず釣り糸を垂れてみる事にした。

 ゴーレム達は普通に餌をつけて釣っているようだ。


 山本さんはサビキ釣りの用意をしていたので、俺も仕掛けをコピーさせてもらって一緒にやる事にした。

 むろん、それらはドワーフ達が作ったものだ。


 サビキ釣りは一回やった事があるのだが、他の人のようには釣れなかった記憶がある。

 要は腕がヘボなのだ。


 サビキ釣りというのは、餌に見せかけた擬似針を糸にたくさん付けて、それを上下に動かして生きた餌に見せかける方法のようだ。

 前にやった時は会社の人が仕掛けを付けてくれたので、普通の針なんだと思っていた。

 竿を上下に動かす事を「さびく」という事すら知らなかったし。

 当時はインターネットもなかったからな。


 針をいっぱい付けて餌を撒いて魚を釣るなんて、変な釣り方もあったもんだなと思ったのを覚えている。

 せっかく針がいっぱい付いているのに、俺は一匹しか釣れなかったので全然意味がない。

 擬似針を使っている事すら知らなかったからな。


 糸を垂れてさえいればいいのだと信じ込んでいた。

 釣りが魚との勝負であるなどという発想すらなかった。

 釣り竿に餌さえ付いていれば魚は食いつくのだと信じていたのだ。


 あれはなんていうか、殆ど動かさないルアー釣りを、友釣り用の仕掛けでやるようなものだろうか??


 釣りはさっぱりわからない。

 俺は御付き合い程度だ。

 正規の道具の方はドワーフどもが張り切って各種作っていたので、俺が出る幕はないようだ。


 この釣り方は初心者や女性子供でもよく釣れるらしいが、さびく事すら知らなかったようなおっさんに釣れるわけがない。

 そりゃ釣れないわ。

 鰯の奴らだって「つれない」わな。


 まあ、うちの奥さんは釣りが好きそうだったし、子供達は喜ぶだろうからサビキ釣りはイベントとしてやろうかな。


 ドワーフ連に作ってもらってあった、釣り糸通しのガイドを使って竿に糸を通し仕掛けを括りつける。


 ゴーレム達に取ってきてもらってあったアミエビの餌を、糸の先端に付けられた籠に入れてから糸を海に沈めてみた。

 面倒が無いので籠オモリのタイプにしてある。


 籠は上に付けるのと下に付けるのがあるが、籠を上に付けると別でオモリをつけないといけなくなるのが面倒だ。

 きっと、その具合で釣果が変わるような気がするし。


 そういうところだけは凝り性なので、餌はチューブ入りを作ってみた。

 これなら簡単に使えるし、日本ではそれでも充分釣れていた。

 これで釣れない奴は充分下手糞なんだろう。

 それはまさしく俺の事だわ。


 まあこれも隣でもっと美味い餌を撒かれるとアカンらしいけど。

 また、あんまり餌を撒きすぎるとしばらく魚が食いつかなくなるらしいが。

 それは当然だよな。


 だが冷凍アミエビの物も作っておいた。

 ネットで見る限りはこちらの方が釣れるらしいので。

 かなり匂うらしいが、俺の場合はアイテムボックスに入れておけば臭いが気になる事はない。


 そもそも初心者向けの釣り方なので、何年も釣りを趣味にしているような人は「たまには気分を変えてサビキでもやってみるか」みたいな感じじゃないのかなあ。

 釣りは素人丸出しのおっさんにはよくわからないのだが。


「おーっと、いっぱい食いついた!」


 たくさん鰯が食いついた竿を上げながら、山本さんが子供のように燥いでいた。


 鰯なんかは口周りが弱いので、これも引き上げる時に気を付けないと鰯が千切れて飛んでしまうらしいが。

 もっとも、おっさんは全く釣れないので、そんな心配は最初から無用だ。


 山本さんも、さすがに今日は葵ちゃんを連れてきていないな。


 そして、おっさんは……やっぱり釣れなかった。

 餌も道具も山本さんと同じ物を使っているのだが。

 つまり、腕がヘボだという事だ。

 なんとか可愛いのが一匹だけ釣れた。


 こいつは本来ならリリースしても無駄だ。

 人間に触られただけで、その体温で弱って死んでしまう。

 伊達に魚に弱いという字は当てていないな。


 だが俺は鰯を放った空中で、強引に課題達成型回復魔法である『ゴッドヒール』をかけてやった。

 そして着水した子鰯は、その衝撃さえも最強の回復魔法の効果によって癒されて元気一杯に泳いでいった。


 もう外道すらかからない。

 鰯の餌には外道も食いつかないのか?

 こいつは栄養が豊富なので、魚が凄く大好きな餌のはずなのだが。

 というか、針に直接餌がついているわけじゃないからな。


 さすがに釣りは釣れないと面白くない。

 山本さんも満足したようなので、もう帰る事にする。


 おっさんが、ここまで役立たずなのはカルメラ焼き以来ではないだろうか。

 蕎麦打ちは少しくらいは上手になったのだが、御店を開けるほどじゃないな。

 一生無理。


 そういや友達でいたな。

『ネットの釣り師』と呼ばれていた奴が。


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