74-4 鰯三昧?
今日は野外実習という事で、幼稚園小学校合同で鰯釣りを楽しむ事にした。
ファルが大張り切りで、カポーンカポーンという感じのポーズを取っている。
エバンス爺さんはネットで見た海釣り師っぽい格好をビシっと決めている。
いや、いつもの貴族のような格好に比べたら、逆になんだか貧乏くさく見えてしまうのだが、本人的にはそれで玄人っぽく決まった感じなのだろうか。
稀人軍団は、身重でマタニティ姿の葵ちゃんを除いて全員ジャージだ。
シルや真理はGパン着用だった。
うちの嫁さんは、遊びに行く時にはこれが御気に入りだ。
元々この世界には無かった物だしな。
貴族の子弟の間でも大流行りしている。
日本生まれの加工法により全世界で人気となって普及したというストーンウオッシュ加工をした物とか、例の破れ目入りの奴まで御洒落に履きこなされている。
真理なんかはケモミミ園にいて子供の相手をする時は、しょっちゅうしゃがみ込むママアクションに耐えられるストレッチパンツなんかを好んで履いているが、こういう時はGパンだ。
ダンジョンに行く時も同じ格好なのだが。
彼女にとってはダンジョンなど、遊びの範疇というか、只の日常空間に過ぎないし。
何せ本来の最終攻略目標である最下層に自分の家があるんだからな。
おチビ猫は、体に分不相応な大きな竿を担いで真剣な表情だ。
「今日こそ大漁旗を立ててやるのよ!」みたいな気合が感じられる。
もっとも、変な魚がかかったら竿ごと海中に引きずり込まれてしまいそうだ。
この世界の海は洒落にならない。
水中ゴーレム隊に警備はしっかり命じておこう。
トーヤ達は、なんと手作りの竿だ。
とても子供の手作りとは思えないほど素晴らしい品質なのだが。
日本の店で高級竿コーナーに売っていそうな感じだ。
ドワーフの妙技が光っている。
エディと二人で他の御狐様の分も作成したらしい。
全員、完全に目が真剣だった。
いや、これは漁なんかじゃなくて、只の幼稚園と小学校合同のレクリエーションだからね。
当然、ドワーフ達も全員参加だ。
親方は初めての釣りだそうだが、ささっと仕度を整えると軽快に竿を振って投げ込むと、ほどなくして「鯉のぼり」状態で竿を引き揚げた。
赤銅色の顔から白い歯を剥き出しての爽やかそうなスマイルが、なんか無性にムカつくわ~。
くっそ、こうなったら魔王の底力を見せてくれるわ。
探知魔法で魚群の位置を確認して仕掛けを鮮やかに投げ込んだ。
どうだ!
まあ、鰯なんて群れているところが上から丸見えなんだが。
特にここの海は透明度が高い。
だが、上がってきた鯉のぼりといえば。
それは色取り取りの、一見すると美しく見える「海毛虫」の群だった。
そう、そいつらは魚の餌にするゴカイの仲間なのだ。
こいつら、異世界にもいやがったのか。
まあ鰯とかマグロとかがいるんだから、普通にこいつらがいてもおかしくはないのだが、ここまで見事な友釣りを決めてしまうとは!
「なんじゃ、こりゃあ~」
何故だ!
さっきまで、そんなものはどこにもいなかったじゃないかあ~。
俺の横で鰯入れ食い状態の奥さんが大爆笑している。
「あなた、よかったじゃないですか。
そんなに綺麗なのがたくさん釣れて」
「あ、あのなあ」
何故だー。
鰯、あんなに一杯いるだろうが~。
うようよと、たくさんの足を蠢かせている連中を見ながら、俺はうんざりした。
外道にもほどがあるぜ。
一匹ならともかく、何故こんなに纏めてかかるのだ。
もしかしたら魔力に吸い寄せられる性質があるのかもしれない。
俺の魔力に吸い寄せられてきたとか?
こいつらも魔物の可能性があるなあ。
そういやファルがこのブルーアイランドで可愛がっていた魔物もゴカイっぽい奴だった。
これも、あれの御仲間なんだしな。
「あ、レミ。
そいつに触るんじゃない。
それ毒毛針だらけだから」
綺麗な色をしているので、おチビが一生懸命に手を伸ばして触ろうとしているが、触ったが最後、それはもう悲惨な事になる。
色鮮やかなのは警告色だ。
まさに海の毒毛虫なのだ。
そしてトーヤとエディが素っ飛んできて、定番の一言。
「「園長先生~、それ頂戴ー」」
エディの尊敬の眼差しが痛すぎるぜ。
確かに釣ろうと思っても狙って釣れる代物でないのは確かなのだがなあ。
所詮はうじゃうじゃいるゴカイの仲間なのだ。
海毛虫は外道としては珍しいものではないが、ここまで揃うなんて馬鹿げた話はそうそうあるまい。
そもそも撒き餌を使うので餌の付いていない針しかついていないサビキ釣りでこれが釣れるものなのか?
魚を釣ろうとしてゴカイの餌をつけていると、共食いでかかる事があるらしいがなあ。
園児達の「それって食べられるの?」的な視線が集中する。
ゴカイの仲間は、ゲテモノ食いで調理して食べたりする事もあるみたいだが、こいつはどうかなあ。
海毛虫を食べた事がある人の話によると、調理があまりにも面倒だし、やっぱり美味しくないらしい。
釣り師ども、何故そんな物を食おうとする。
少なくとも俺は要らん。
俺は生臭い鰯もあまり好きじゃないのだが、少なくともゴカイの仲間よりは遥かにマシだ。
鰯は、ちゃんとスーパーで売っている普通の食品なんだからな。
近所のスーパーで鮫の煮凝りをよく売っていたが、ああいうゲテモノは人気がない。
大体、半額になっていても売れ残る感じだし。
独特の油が放つ特異な風味を持つ鯨とか普通の人は食いそうもないような鮫とかを、何故一般のスーパーで売るのだ。
「トーヤ、標本にするんなら厚手のゴム手袋を付けてやりな。
こいつの毛が刺さると、ちょっと厄介だから」
手に刺さったとしても毛を収納してやれば一瞬で抜けるが、一斉に細い刺のような毛を引き抜かれるため、きっと無茶苦茶に痛いのではないだろうか。
何回にも分けると、ずっと痛い状態のままだし。
それを想像しただけで、さすがにこの魔王の顔も歪むぜ。
「はーい」
俺が魚を外す道具で海毛虫どもを外してやってバケツに入れてやると、ゴム手袋を受取ったトーヤとエディが喜び勇んで二人で持って走っていった。
二人の楽しそうな顔に釣られて、おチビ猫も走っていく。
絶対そいつに触るなよ、レミ。
俺の目配せを受けた斎藤ちゃんが、そっと一緒についていった。
物見高いプリティドッグの連中も犬形態になって走っていった。
人型で釣りに勤しんでいたジョニーの奴は、既に大漁旗を立てていやがったし。
本当に如才がないな。
魚なんて食わないくせに。
「やるじゃないか、園長先生」
「いや、あれは釣ろうと思って釣れるものじゃあないですよ。
子供達が大喜びじゃないですか」
バケツ一杯の鰯を持ったアルスと山本さんが声をかけてくる。
ヘレンと合流しにいくところらしい。
「うるさい~」
「あはは。
御昼は鰯の刺身とつみれ汁だってさ」
ヘレンと一緒に作るつもりらしいアルスが笑顔を零れさせる。
こいつも、すっかり板前稼業が板についているな。
最近は冒険者の仕事をしていないんじゃないのか?
まあ今までに充分稼いだんだろうけど。
そういや、俺も白金貨十枚ほどやったっけな。
「そうか。
じゃあ山本さん、鰯のハンペンもお願いします。
あれ、お袋の好物だったんで」
「わかりました。
新鮮作りたては、一味違いますよ」
俺は、あの生臭い風味が苦手なんだが。
鰯料理は、お袋の写真に御供えしておくとするかな。




