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74-1 渓谷のラプソディ

 今、ケモミミ園は空前の釣りブームだ。

 最初に火が付いたのはトーヤだった。


「園長先生、これは一体どういう物?

 すっごく綺麗」


 この子は未だに俺の事を園長先生と呼ぶ。

 一応、小学生から見たら校長先生になるはずなのだが。


 トーヤはネットで見せてやったルアーに目が吸い寄せられたのだ。

 何しろ、これもいろんな種類や形があるからなあ。

 手作りも入れたら、その種類は全世界でもう数え切れない。


 釣り師なんていう人種はみんな、道具も獲物もネットで大自慢する人達だから、電脳自慢が豪い事になっている。

 御狐様達が、その魅力の虜になっていった。

 キラキラした瞳が画面に吸い付いていた。

 釣り動画は釣り人口が多いため、それはもう膨大な量があるしなあ。


 そして、それがトーヤとエディを通し、ドワーフ達にパンデミックを起こしていったのだ。

 連日ドワーフ共が、うちへ資料を漁りに来て離宮の客間に泊り込みだった。


 当然、連日の大宴会だ。

 うちの使用人は顔色一つ変えないが、これが並みの貴族家であったなら大パニックは必至な状態だろう。


 親方達から質問攻めに遭うのだが、俺は釣りをやらなかったので知識に乏しく、かなり失望された。

 釣りなんて、ほぼ子供の頃にやったなりだしなあ。

 しかも、殆ど坊主だったし。


 使った竿も数百円程度のオモチャ同然の代物だった。

 あるいは家にあった親父が使っていた古い奴しかない。

 だから新スキルでも良い竿は再現出来ない。


「アル、お前ともあろうものが、なんという有様だ。

 見損なったぞ」


 おいおい、親方。

 ちょっと釣りを嗜まないくらいで、そこまで言われる謂れはないぞ。


 他の稀人もルアーなんていう物は扱った事がない。

 山本さんが、ちょっと釣りを嗜むくらいかなあ。

 そういう訳なので、これまた酷い事になった。


「先生、竿はこんなものでよろしいですか?」

「リールについて一言」

「釣りの極意の伝授を御願いいたします」


 連日、山本さんは筋肉達磨に囲まれてしまい、先生呼ばわりされてしまっていて苦笑いだ。

 あの筋肉達磨共が雁首揃えて、それはもう丁寧な口調で教えを乞うているのが笑える。

 山本さん、マジで偉大だわ。

 仕方がないので、彼も俺と二人でネットと首っ引きで調べ物だ。

 そいつは織原の小僧にも手伝わせた。


 とにかく凝り性な奴らであるから、ありとあらゆる釣り道具を異世界に再現しまくっていった。

 山本さんの助言を元に、リールに使うような超精密パーツや釣り糸の素材なんかの製造は俺が担当し、そして電動部分は葵ちゃんや俺が担当した。


「なあ、親方。

 言っておくが、捕鯨砲は釣りの道具じゃないからな?」


「何を言っている。

 お前ともあろうものが。

 この世界の海を見れば、こいつが最強だろう」


 うん、確かに最強かもしれないがな。

 それくらいなら普通に大砲でいいような気がする。

 しかも、それは魔法で撃ち出す奴だし。

 いっそ捕鯨船ならぬ捕魔物戦艦でも作るか?


 そこまで得物を並べられると、黙っておれないのが新撰組の連中だろう。

 そして遊びには目がないエリーンも。

 子供の頃、村では川で手製の弓矢を使って魚を取っていたらしい。

 しかも木材を炙ったり重ねたりと、本格的な弓を自力で作っていたらしい。

 それは弓の腕もよくなるはずだわ。


 アルスは最近板前家業の方がメインな気がするしなあ。

 まあ自分で釣って自分で料理すれば、それこそ正しく釣りの王道っていう奴な訳だが。


「いやあ、釣りは楽しいですねえ。

 魔物狩りも楽しめて最高です」


 エリーンは楽しそうだ。


 そう。

 うちの人造渓谷には、魚もいるが魔物もいっぱいだ。

 なんで、あんなに沸いてきたものやら。

 なんか我が公爵家の狩場みたいな扱いになっているし。


 あそこへ行く時に武器の携帯は必須だ。

 いつでも抜けるように剣を脇に置いて弓矢を背負って釣りをするのが、この世界の慣わしだ。


 そんな馬鹿な。

 まあ、日本でも川縁で熊とか猪は出たりするんだけどね。

 釣り人の、熊や猪相手の対決動画は大変見応えがある。

 あいつらって縄張りにサインや痕跡を残して威嚇しているけど、うっかりと奴らのテリトリーへ踏み入った人間がそれを見逃すと豪い事になる。


 ここでは釣れる魚も魔物が多かったりする。


「いいか、お前達。

 絶対に子供だけで釣りに行ったりしない事!

 わかった?」


「「「はーい」」」


 こいつらの元気のいい返事があまり当てにならない事はよくわかっているので、新撰組にはしっかりと渓谷の警備をするように申しつけていた。

 だが、その肝心のゴーレムどもが釣りに馬鹿嵌りしていた。

 御蔭で子供がいつ渓谷へ行っても、マンツーマン以上にゴーレムの釣り人がいるので安心だ。


 魚がいなくなってしまいそうな気もするが、ルアーでのキャッチ&リリースが基本らしい。

 まあ連中は飯を食わなくても生きていけるからな。


 絶対にリリースしないのがエリーンだ。

 焚き火料理は冒険者の醍醐味だ。

 オーソドックスに木の枝に差して焼くのはもちろんだが、圧力釜まで持ち込むのはさすがにちょっとやり過ぎじゃないか?

 骨まで美味しく食べようって腹か。


 日本のキャンプか!

 それだって普通はダッチオーブンまでだよな。

 キャンプで圧力釜を使う人もいるけどな。

 でも安定しない火力で圧力釜を使うと破裂しそうで怖いわ。


 何しろ圧力釜なんて時限爆弾にも使われるようなヤバイ代物なんだからな。

 俺なんか、やたらな事をすると破裂しそうで怖いから、圧力釜に興味はあったのだが自分で買った事は一度もない。

 昔のゴツイ感じの圧力釜なら子供の頃家にあったのだが。

 格好いい鋼鉄の塊だったから、あれを触るのは好きだったな。

 もちあれも再現出来た。


 まあ、子供達も喜んで一緒に食べているのでいいのだけれど。


 エリーンとデニスは、エルミアの子供達も連れてきて一緒に釣りを仕込んでいた。

 デニスもこういう御遊びは大好きだ。


 こういうレクみたいな事は、孤児院などでも必要な事だと俺は考えている。

 日本の児童養護施設などでは年間スケジュールが大変なものだ。

 滅多にないバスで御出掛けの御招待などがあっても、それを実施するのは凄く大変な事なのだ。

 小学生以下の団体の御出ボランティア抜きでは成り立たないんじゃないか。


 うちは転移魔法でエリーン達が引率してくるので気楽に参加してもらえる。

 神父様も奥さんと並んで、のんびりと楽しんでいる。


「やあ、楽しんでいますか」


「ええ、子供達も喜んでいるので良い事です。

 釣りですか。

 中々難しいものですね」


 ダニエルは要領がよくて、ぽいぽい釣っている。

 この子は地味なタイプの子なのだが、何気に生活力があって逞しい。


 彼にはアイテムボックスを持たせてあるので、孤児院の食事の足しにしたり、貧しい信者さんに分けてあげたりするつもりなのだろう。

 彼はいずれ良い神父様になれるはずだ。

 同じくそういう感じの人で、しかもずっと親代わりまでしてくれていた教師と寝食を共にして学んでいるんだしな。


 アルスも当然のようにやってきて、鮮やかな釣果を見せていた。


「あれ、園長先生は坊主?

 いやあ、ルアー釣りは最高だねえ」 


 もうパカパカに魚を釣っていた。

 こいつって何をやらせても遊びにかけては天才だな。


 ルアーも自作の物だし。

 しかも何故か、巨大タガメ用の超大型ルアーまで持っていやがる。

 何故、吸血昆虫魔物がルアーで釣れるんだ!?

 タガメが思わず抱き着きたくなるような何かの工夫があるのかね。

 その釣果は、もっぱらトーヤの標本箱に収まるものらしい。


 あれも食うと美味いらしいのだが。

 外国じゃあ高級食材であるものらしい。

 フルーティまたはスパイシーな味って一体どんな味なんだ?

 俺は絶対に食わないからな。


 ヘレンはアルスの釣った獲物で、練炭コンロで料理を振る舞っていたりする。

 たまに出現する食用の魔物を、自らオリハルコンの包丁でサクっと仕留めて笑顔で具材にする。


 ここには山菜も豊富だ。

 俺の魔力を吸って、土地が生命を反映させる体質になっているようで、滋養強壮に良いような物が大量に採れる。

 多分それこそが魔物の湧く原因にもなっている気もするのだが。

 ここは人工ダンジョンか!


 アドロスは冒険者の街なので、休みを取った冒険者が遊びに来たりもする。

 一般の人も、冒険者と一緒に遊びに来たりするし。


 そうなると人間由来の水質汚染が心配になるが、ゴーレムどもが管理しているので、ここはそうはならないはずだ。

 トイレなども完備されているのだ。

 立小便などには罰金を課してある。


 洗い場の水道なんかも沢山用意されている。

 これらは魔法で処理するため、地球の物よりも環境には配慮されているものだ。


 冒険者や街の人にも釣り道具は貸与されて、皆大いに楽しんでいるようだ。

 ほぼ魔物釣り堀と化している。


 遊園地やキッチンエリへ遊びに来た王都の貴族も顔を覗かせることもあり、ここでは彼らも無礼講だ。

 魔物が出る事を除けば、遊べるリバーフロントみたいな感じになってきたかな。

 魔物狩りも貴族の嗜みというか遊びのうちなのだが。


 今度、ここにテニスコートでも作るか。

 現代テニスは、地球じゃ上流階級から始まったような遊びだと言ったら王族貴族連中が嵌っていたし。


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