73-2 新しいオモチャ
グスタフは転移魔法で現れた。
「やあ、ジェシカ」
「グスタフ~」
軽く抱きあう二人。
続いて軽い咳払いの音が大神殿に静かに響いた。
そしてグスタフは、俺という御邪魔虫の存在に気付いたようだ。
「お、アル。
どうしたんだ?」
「よお、グスタフ。
ちょっと聞きたいんだが、魔界の鎧の気配はするか?」
「ん? そんな気配は感じられないが。
何か異常があったのか?」
話を聞いて若干不思議そうな感じに首を捻るグスタフ。
やっぱり、この色男はそんな仕草すらも様になるぜ。
「いやな、来るはずの大神官見習いが全く来ないんだ。
精霊どもを捜索に出したのがが、奴らも一体残らず消息を絶った。
同じく、うちのゴーレム達も全員消えた。
いくらなんでもおかしいだろう」
「ふうむ。
少なくとも俺には異常は全く感じられない。
平和そのもののように感じるのだが」
なるほど、聖騎士殿のレーダーには何一つ引っ掛からないというわけか。
「じゃ、やっぱアレだな。
あのフィアとかいう子が原因なんだな」
俺だって薄々はわかっているのだ。
セブンスセンスで何も感じ取れない。
俺のイコマは沈黙を守っている。
警告どころか関わるのも馬鹿馬鹿しいといった感じなのか?
「グスタフ、呼び出して悪かったな。
ちょっとジェシカとゆっくりしていてくれ。
もう一回、俺が探してくるわ」
「ふむ。なんなら俺も一緒に行こうか?」
「いや、多分大事なんかじゃあなくて、きっと馬鹿馬鹿しいような何かなんだろう」
「なんだ、そりゃあ」
首を傾げる貴公子のような聖騎士と、それに熱い視線を向ける大神官を残し、俺は迷子の捜索に行く事にした。
そして俺は山頂の大神殿から山道へと転移するなり独り言を始めた。
「早速だが、イコマ君。
皆目見当がつかん。
ギブアップだ。
奴ら一体どこへ逐電している?」
『宴は続く、楽しげに。
見える物より見えない物を探せ』
はあ?
これはまた難解な。
つまり、あれか?
どっかに潜む形で宴会でもしているっていう事か。
さしずめ御菓子パーティってところか。
まあ、いかにも逐電していそうな面子ではあるのだが、ジェシカや俺の言う事を聞かずに遊んでいるわけではなかろう。
帰れないからしょうがないやという事で遊んでいるな。
そして、その原因は間違いなく新任の大神官見習いにあるのだ。
まったく、あの馬鹿どもが。
俺は転移魔法でケモミミ園へ戻ると、織原の小僧を呼びつけた。
というか、奴は寝込んでいた。
「おい、小僧。
仕事だ、ついてこい」
「うわあ、マジですかあ。
ついさっきまで騎士団で扱かれていて、もう一歩も動けないですよー。
なんですか、あの王国騎士団っていう奴らは。
アメリカ海兵隊特殊部隊か何かですか~」
お、ちゃんと訓練は頑張っているようだな。
「いいから来い」
俺は織原の首根っこを引っ掴むと、有無を言わせずにアルバ大神殿のある山へ転移した。
「うわあ、あんた鬼やあ。いや魔王だ」
「如何にもな。
ちょっと能力を使ってもらおうか。
お前のザ・ロックで閉ざされた空間を解除しろ。
見えない空間だかどこかで遊び呆けている奴らがいる。
さっさとしないと、ゴッド・リジェネレートをかけるぞ」
「わあ、殺す気ですか。
わかった、わかりましたよ。
やりゃあいいんでしょう~、やりゃあ。
じゃあスキルを開放してください」
「主神ロスの契約者たる魔王アルフォンスの名において、織原勇人の能力ザ・ロックのスキルを開放する」
俺の【主神ロスの契約者】の称号が輝いて、織原の体が軽く霊光に包まれた。
「ふう、人使いが荒いなあ。
じゃ、行きますよ~」
織原は気配を探るようにして能力を使用した。
「ザ・ロック」
少し離れた辺りにある森が軽く光ったかと思うと、いきなりその界隈に多数の気配が感じられた。
精霊とゴーレム達だな。
謎の閉鎖空間が解除されたようだ。
織原のザ・ロックは、単に空間をロックするだけでなく、ロックされている空間を解除する事も可能だ。
やはり対アドミンには使えそうな男だな。
連中に目視転移で近づくと、ケーキのクリームで口の周りをべたべたにした沖田ちゃんが言った。
「おや、見つかっちゃいましたね」
「馬鹿野郎」
「だって、しょうがないんですよー。
出られなくなっちゃったんですもの。
参りましたねー。
どこにいるのかよくわからないような空間に閉じ込められちゃって」
俺は苦笑いを堪え切れなかった。
超方向音痴な奴が迷いに迷って、どこにいるかわからなくなっちゃうような能力なのか?
そして捜索者さえも、その現在地不明の空間に巻き込むのだ。
中に取り込まれると外から入った者もどこにいるのか把握出来なくなって出られなくなるのかよ。
そんなアホな。
今回は空間そのものを織原のザ・ロックのスキルで解除してやったから出られたのだ。
ゴーレム達が色々と持っているから大丈夫なものの、普通なら自分の能力で閉じ込められて餓死してしまうぞ。
そして、その張本人はポケーっとピクニックシートの上にペタンと座り込んで、御茶の入った紙コップを両手で抱えて呆けていた。
やれやれ。
確かに十一歳くらいの神官服を着た子がいる。
金髪でグリーンの瞳を持つ、まだ子供だがジェシカやマリーナに似た雰囲気を持っている美少女だ。
だが、そこから漂う残念臭は濃厚すぎて隠しようも無い。
「おい、お前がフィアか?」
「ほえ~?
そうですが、あなたは一体どなた?」
「この俺がアルバ大神殿の大司祭を務めるアルフォンス、そして今日から貴様の上司になる男だ!
探したぞ、この大馬鹿者が。
新任の見習い神官の分際で、初日から遅刻とはいい度胸だ」
「ひえ~、ごめんなさいー。
私、すっごく方向音痴で、すぐ道に迷っちゃって」
「一体、どうやったらこんな一本道で迷える!?」
「わ、わかりません~」
やれやれ、こいつは重症だな。
俺だって重度の方向音痴なのだが、ここまで酷くはないぞ。
「おい、お前ら。帰るぞ」
「あれ? あれ? また能力が使えない」
自分の能力を確認しようとした織原が首を捻っていた。
「ああ、あれは一回能力を使うと封印が戻るようにしてある。
言っておくが、お前は今保護観察中だ。
自分の意識すらないような状態で、世界を滅ぼしかねんような真似をしくさってからに。
また何か騒動を起こしたら、俺ももうお前を庇えないからな?」
俺は織原をジト目で睨みつけた。
だからこそ、織原はこの俺に預けられているのだ。
確かに有用な能力の持ち主であるのかもしれんが、万が一にでも何かやらかしたら極刑が待っている執行猶予中の身の上なのだ。
何しろ、あの魔界の鎧の持ち主だったのだからな。
あの事件は国際王国会議みたいな物まで開かせてしまった、とんでもない案件だったのだ。
世界が再び死を覚悟し、王国達に腹を括らせてしまったのだから。
日本側の政府筋から見て、こちらの世界における総責任者みたいに認識されているだろうこの俺が親元から未成年者を預かっている形になるのだから、こいつが死刑になるような最悪の結末だけは絶対に避けたいのであった!
「ご、ごめんなさい~」
まったく、この小心者が。
昔のベル君みたいなもんだな。
よくこんな奴が世界を滅ぼそうなんてしたもんだ。
やっぱり、単に変調していただけだな。
殆ど鎧に操られていただけだし。
「沖田ちゃん、こいつをケモミミ園まで送ってやってくれ」
「はあーい。
じゃ行きましょう~」
そう言って織原の腕を取り、わざと体を密着する沖田ちゃん。
「あ、そ、そんなにくっつかないで。
胸、胸が当たりますから」
「もう!
今更何を恥ずかしがっているのー。
シビンでおしっこを何回も採ってあげた仲じゃないの~」
「うっわあ、それは言わないでくれー。
ああっ、あの屈辱を思い出した~」
どうやら沖田ちゃんは、御気に入りの新しいオモチャを手に入れたようだ。




