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73-1 捜索の大神官

 ジェシカの騒動も一段落ついた。

 後の後任の任命は、ほぼ事務的な内容だろう。

 俺が大司祭として承認すればいいだけの事だ。


 そろそろ各方面とゲルスの話もしておかないといけないだろう。

 特にアルスと。


 そんな事を考えていたある日の事だった。

 王都の神殿本部より、ジェシカの後任となる見習いの少女が見つかったという報告があった。


 ジェシカには、寿退職の前に後任大神官を育てるという大仕事が残っていた。

 何しろ大神官を務めるには精霊との交感能力が必要だ。

 それと、やはり神秘的な美しさも要求される。


 昔みたいに酷い事にはなっていないが、民もまた祝福を与え神事を行なう者に対して、それ相応の容姿を大神官に求めるのだ。


 どれ、大司祭として面接と洒落込むか。

 いや圧迫面接とかはしないから大丈夫。

 女の子にはな。


 転移魔法で大神殿に赴くとジェシカに挨拶をした。


「よお~。後輩ちゃんはまだ来ていないのかい?」

「ええ、もう来ていないといけない時間のはずなのですが」


「はっはっは、そうか。

 初日から遅刻とは中々の大物だな」


 まだこの段階では、俺もそんな暢気な事を笑って言っていられるような状態だった。

 俺はテーブルセットを出し、御茶の仕度をして待つ事にした。

 今から来る子は十一歳で、現在は大神官見習いであるようなので御菓子でも用意しておくか。

 紅茶の仕度をしながら、子供の好きそうな甘めの御菓子を並べておいた。


 だが、それから一時間しても誰も来ない。

 甘い匂いに誘われた精霊どもが御菓子を強請りにくるだけだ。

 ついでに魔力を与えながら精霊どもをじゃらしていたのだが、肝心のそいつは一向に現れない。


「おっかしいな。

 おい、もしかしたら山の中で遭難しているんじゃないか?」


「ええっ、そんなはずはないと思うのですが」


 それじゃ、アレだな。

 きっと、どこかで派手に迷っているのに違いない。

 神殿本部め、気が利かないな。

 迎えの馬車くらい出してやれよ。


 少なくとも、迷っているのはこの一本道の山道じゃないのは確かだろう。

 ここは山といっても、王太子の儀を行なう幽谷霊山のような深い山ではない。


 ここアルバ大神殿は王都のど真ん中、第二外壁と第三外壁の真ん中にある。

 直径二キロメートルほどで裾野の広い、なだらかな山の上にあり、だから頂上にも大神殿などが建てられるのだ。


 これは通称アルバ山と呼ばれている。

 富士山をペタっと平たくしたような形をした、比較的なだらかな山だ。

 標高三百五十メートルほどで、参拝客のための登山道も設けられている。


 一般の参拝者は高額の御布施など払えないので、大神殿の中ではなく、少し離れた場所にある参拝所から参拝する。

 このあたりは、初代国王が神社と神殿を混同していたような嫌いがあるが。

 まあ俺と違ってインターネットもなかったしな。

 建国騒動でドタバタしていただろうから仕方がないかな。



 最近は貴族の子弟の間で自転車も流行りつつあるので、参拝クライムを楽しむ者も出始めた。

 そのうちにツール・ド・アルバの催しを始めてもいいかもしれない。

 安全のため、同時発売のヘルメットは着用義務の御触れを出してある。


 馬力のあるタイプの馬車なら登ってこれるが、危険が無いように馬車道は徒歩による一般参拝道と分けられている。

 そのうち自転車専用道路を整備した方がいいのかもしれないな。


 大体、どの道も一本道になっているので、道から外れない限りは大丈夫なはずなのだが。

 まさか物凄い方向音痴で、辿り着けずに山の中に入ってしまっているのじゃあるまいな。


 そんな事は普通なら考えられない事なのだが。

 この小さな山の山道に脇道なんてあったか?

 俺の管轄になってからは、きちんと休憩所を作ってあるのだがな。


「おい、お前ら。

 ちょっと大神官見習いの捜索に行って来い」


 俺はそう言って、精霊達が外に出られるようにゲートを開けてやり、水と御菓子の入ったリュックを持たせた。

 ありがたい精霊がセントバーナード代わりかよ。

 捜索する相手が子供でなかったら、ブランデーの樽でも持たせてやるところだ。


「見つけたら俺に知らせてくれ。

 わかったな」


 奴らは俺に加護を通してサインを送り、必要な情報を知らせる事が出来る。

 また、隠し称号である「主神ロスの契約者」を使用すれば、念話というか遠話のような事も可能なのだ。


 こうして大神官見習いの捜索隊が放たれた。


「やれやれ。

 また面倒そうな奴が来たな。

 一体どこで遭難しているんだ。

 とりあえず、生きてここへ辿り着いてくれたらいいんだが」


「えー……」


 思わずジェシカがボヤいた。

 何しろ、そいつが来てくれない事には彼女の結婚が遠のくのだ。

 そんな希少な人員の代わりはそうそう見つからないのだし。


 いつもは仕事を申し付けられると必ずだらだらしている精霊達も、今日はジェシカの為に、ささっと出かけていった。



 待つ事しばし。

 しかし、精霊共も一向に帰ってこないな。

 そんなはずはないのだが。

 俺の方にも全く連絡がない。


「おっかしいな。

 あいつらも、こんなに使えないわけはないんだが」


 仮にも、大神殿の御手伝いのために精霊の森から派遣されている奴らなのだから。


「ど、どうしちゃったのかしら。

 変ねえ」


 ジェシカも首を捻るばかりだ。

 日頃は悪さとか悪戯なんかもしちゃったりするが、ジェシカのためとあらば全力で頑張る子達なのだ。


「仕方が無い。

 ちょっと俺も探しに行ってくるわ。

 おい、お前ら行くぞ」


 俺はゲートから新撰組の連中を呼び出した。

 大神殿の中を、作務衣姿の魔王(だいしさい)がダンダラ模様の袴姿で流す猛者どもを引き連れていくので、神官達が何事かという面持ちで見送っていた。


 俺はレーダーで「大神官見習いフィア」を検索してみたが、何か画像が乱れるというか、はっきりと映らない。


「はあ? 何だああ??」


 この世界へやってきて以来、こんな事は初めてだ。

 さすがに困惑する。

 魔素の無い場所や、能力に制限を加えられて一時的に使えない事はあったが、こんな風に壊れたテレビみたいになってしまう事は今までに無かった。


 俺は、魔法PCの能力が使えなくなったのかと思って慌てたが、他の機能は正常だ。

 MAPも普通に使えるようだ。


 何か電子妨害というか魔素妨害というか、ジャマーのような物が作用しているようなのだ。

 考えられる原因としては、件の捜索対象であるフィア本人が原因なのではないか。

 他に特に原因になりそうな事はなさそうだしなあ。

 それに大神官は妙な固有能力を持っている可能性がある。


 ちょっと頭が痛くなった。

 探し物自体が探す邪魔をする原因になっているとは。

 精霊どもが帰ってこれないのも、おそらくこれが原因とみた。


「おい、近藤。

 こうなったら人海戦術で探すぞ。

 多分、この山のどこかで迷っているのだろう。

 だが気を付けろ。

 どうやら捜索対象自体が、捜索者を巻き添えにして二次遭難させるような異様なスキルを持っているようだ。

 あまり固まらずに広がりながら探して、何かヤバイようなら、とりあえず一旦帰ってこい」


「わかりもうした。

 何分にも様子がわからないのでは、なんとも。

 御館様は大神殿で待機していてくだされ」


 相変わらず、近藤がどっしりと存在感を漂わせながら新撰組の指揮を執り始めた。

 こうして新撰組メンバーが一般ゴーレムを引き連れながらの山狩りが始まった。


 聖なる神殿の山を、人ならざる捜索隊が埋め尽くした。

 だが、彼らもまた前触れもなく忽然と消えてしまい、まったく帰ってこなかった。


 スマホで呼んでもうんともすんとも言わないし、新スキルで開発した本物の無線機も虚しく空電を伝えただけだ。

 念話にも応答しないし。


 これには、さすがに俺も頭を抱えた。

 まるで昭和の時代に人気だった「超科学ミステリー人間消失事件」みたいなものだった。

 

 そして最後の手段として、ゴーレム達に俺のアイテムボックスへのホーミングを命じたが、誰一体として帰還するゴーレムはいなかったのだ。


 ま、まさか。

 最後の鎧が現れたというのじゃないだろうな。

 だが、そんな感じは全くしないのだが。


 仕方が無い。

 俺は聖騎士殿を緊急招集する事に決めた。


「ジェシカ。

 君のダーリンを呼んでおくれ」


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