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72-6 御姫様誕生

 俺は、軽く右手の指を鳴らした。


「トーヤ!」

「はーい」


 とても可愛らしい返事と共にトーヤは現れた。

「おやかたさま」達を引き連れて。

 こういうシーンで、この方々を用意しておかなくてどうするという話なのだ。

 しかもジェシカにとっては。


「エルドア王国、国王御夫妻並びに王太子殿下の、おなありいー」


 太鼓を一発鳴らして、沖田ちゃんがそれっぽく読み上げた。

 斉藤ちゃんが「しまった、美味しいところを取られた」みたいな顔をしている。


 親方も今日は珍しく正装だ。

 例の戦装束みたいな奴である。


 女将さんも今日は艶やかな姿で御目見えだ。

 なぜかトーヤとエディまでも式典用の制服を着ている。

 別にそこまで畏まらなくてもいいのだが。


 そして例によって前置き無しで親方が宣誓する。


「今日は大切な用件で参った。

 アルバ大神官ジェシカ殿を、我が王国の姫として迎え入れたい」


 思わず目を瞠るジェシカ。


 そう。

 俺から親方に頼んで、一旦はジェシカをハンニバル国王夫妻の養女にするという形を取ったのだ。

 うちの国王陛下とも打ち合わせの上で。

 もちろん、裏で動いていたのはミハエルだ。


「グスタフ、御姫様を娶るんだ。

 正式に伯爵になれよ」


「む、むう。

 それはそうなんだが」


 今の気楽な生活が気に入っているらしい。

 そいつはよくわかるけどな。


「グスタフよ、伯爵位を受けてくれるなら、とりあえず今の生活を続けていてもよいぞ。

 まだ魔界の鎧も一つ残っている。

 お前には今後もアルバ付近にいて頑張ってもらいたい。

 おそらくはそれもゲルスの手にあり、またアルバトロス王国へ喧嘩を売りに行くだろうからな」


 そのドランの台詞は効果的だった。

 当然それは俺の仕込みだ。

 グスタフにとっても、その条件は魅力だったようだ。


 俺はチラっとジェシカを見てみた。

 ジェシカ自身は展開についていけなくて心臓バクバクのようだ。


 その彼女の隣には女将(おかあ)さんが笑顔で寄り添っている。

 グスタフは親方のところへ行くと、跪いて騎士の礼を取り、こう言った。


「御義父さん、ジェシカの事を宜しく御願いいたします」


 ああ、まだ娘さんをくださいの展開じゃないものなあ。

 こいつは普通なら無いような珍しい展開になった。


 そういや、「娘さんをください」は、うちもやらなかった!

 正確には全ての経緯がアレ過ぎて「やれなかった」んだけどな。


「うむ、息子よ。任せなさい」


 あ、親方が嬉しそうだ。

 また脳筋系の息子が増えたからか?

 まあ、こんな立派な息子なら誰だって欲しいのだろうが。


 そういやグスタフは、最初から親方と妙に気が合っていたような気もするしな。

「行くところがないのなら、うちで鍛冶をやればいい」なんて言われていたくらいだし。

 ああいう事も親方にとって本当に珍しい事なのだ。


 このグスタフならば、鍛冶を仕込んでもドワーフ並みにいけるかもしれない。

 ロスの加護のせいで、火の精霊がいっぱい集まってきそうだしな。

 そっちの方面では既に親方を遥かに越えているんじゃないか?

 その方面において、エルドア王国でグスタフとタメを張れるのはトーヤくらいのものだろう。

 いや、あの子はうちの子なんだけどな。

 もう親方べったりなんで、なんかこうエルドア王国の子みたいな感じがして仕方がないが。


 そしてグスタフはドランのところへ行って同様にした。


「ドラン皇帝陛下、伯爵位謹んで御受けいたします」


「おお、本当か。

 嬉しいぞ、グスタフ。

 いやさ、新ハイオネル伯爵」


 それを聞いたドランは喜色満面だ。

 半ば諦めかけていた難しい案件である聖騎士の獲得が、思いもよらず成ったのだから当然だ。

 真正面からグスタフの両肩に手を添えて喜びを表している。


 本来ならドランも、こうも相手に向けて無闇に感情を曝け出すような抜けた男ではないのだが、まあ今日のところはな。

 フランチェスカ皇后が、何度も咳払いをして言外に諌めている。

 しかし、むしろそれはこの場にいる者達にとっては想定外のデモンストレーションになった。


 今グスタフの居るアルバトロス王国の王家にとっては特に問題ない。

 一応、アルバトロス王国内に居るので王国からも半ば儀礼的に声はかけたが、グスタフは元々帝国の騎士なのだ。

 そのあたりはアルバトロスにとっても元々難しい案件だった。

 これで色々と収まるのなら、そう特に問題は無い。


 ここまで外堀を埋められては、ハイオネル伯爵家としても文句など言えようはずもない。

 むしろ、この壮観な面々にこれだけ言わせた、高が三男に過ぎない息子を誇るシーンだろう。


「グスタフよ、よくぞ決断してくれた。

 御集まりの皆様方、この度はベルンシュタイン帝国に目出度く聖騎士伯が誕生した。

 グスタフよ。

 約束通り、当面は自由にしておっていいぞ。

 アル、じゃないグランバースト公爵よ。

 よしなに頼む」


「承知いたしました。

 ドラン皇帝陛下」


 今日は猿芝居なんで、俺もこんな感じのやりとりをしなければならない。

 そういう、御互いに笑っちまいそうなシチュエーションもドランは楽しんでいた。

 でも望外に思う方向へ事態がサクサクと進んでいったので、ドランもはっちゃけ過ぎて、いつもの調子が出かかっているぞ。


 だがグスタフの実家にはその方が効果あったようだ。

 自国皇帝の、あの手放しでの喜びよう。

 それは、あの帝国では滅多に見られるものではないのだ。

 しかも今回は帝国の国際的なウイークポイントである魔界の鎧絡みとあって、それも無理からぬ事なのだから。


 これを無碍にするのは貴族家としては大変に厳しい。

 少なくとも、あの何をおいても貴族皇族優先というベルンシュタイン帝国ではな。


 特に前皇帝の下で半ば干されていた感のあるハイオネル伯爵家にとっては、まさに復権といってもいいような慶事なのである。

 まるでアントニオの時みたいな展開だ。


 グスタフの父親であるハイオネル伯爵は嘆息して言葉を紡いだ。


「やれやれ、そこまで御膳立てされては、我らハイオネル家とて反対する理由は何もない。

 思えばグスタフよ、お前も不運な子だった。

 あんな事件があったので、せっかく決まっていた婚約も解消せざるを得なかったし。

 だが、今にして思えば全ては主神ロスの思し召しという事か」


 なるほどなあ。

 よく考えてみれば、グスタフ本人が主神ロスの加護持ちで、神聖エリオン御指名の聖騎士ときたもんだ。

 御相手の女の子もロス大神殿の大神官だし。


 おまけに仲人? の俺自身が主神ロスの契約者であり、精霊の森から指名されたアルバ大神殿の臨時大司祭なのだ。

 その俺の腕の中には、今回キューピッドの役に任ぜられた神聖エリオンその方がいらっしゃる。


 ついでなので、もう一人呼ぶか。

 俺は精霊の森の大神官をゲートで呼び出した。

 これもあらかじめ、もし出番があれば来てくれるように仕込み済みの案件であった。


「ジョリー、精霊の森としても特に問題ないよな」


「ははっ、何も問題ございませんとも。

 元々、大神官が結婚出来ないなどとは人間達が勝手に作った慣わしなのであって、我ら精霊の森が関知する事ではございませぬ故。

 アルバ大神官ジェシカ殿、聖騎士グスタフ殿、此度の御活躍は大変に御苦労でござった。

 よくぞ、あの悪魔の鎧を退け、ファル様を守ってくれた。

 誠に感謝に堪えぬ。

 精霊の森を代表して、ここに御成婚の御祝いを申し上げる」


「ありがとうございます。ジョリー様」

「ありがとう、ジョリー」


 そして二人は嬉しそうに抱きあった。

 さて、最後に俺が気持ちよくスパっと締めるといたしますかあ。


「それでは、ハイオネル伯爵(父)。

 これをどうぞ、これからも宜しく御願いいたしますね」


 俺はそう言ってアルフォンス商会会頭としての名刺を渡す。

 そして親方にも、あらかじめ作らせておいた地球式の名刺を渡させた。

 親方の事だから、仕事用の名刺を渡すなんて一生の間でこれが最初で最後の珍事じゃないのか?


 俺は知っている。

 グスタフの実家は商売を営んでいるのだ。


 親方と俺。

 今、この世界における物作りの二大巨頭にタッグを組まれて、ハイオネル伯爵が逆らえるわけなど有り得ない。

 そこに彼の主君である皇帝ドラン(俺の舎弟)の奴もいるのだから。


 この会議、最初(はなっ)から、すべて力押しにするつもりだった。

 それくらいしないと絶対無理な案件であるのだ。


 我が真名はゴリオス・フォン・チカラオス。

 無理押し・ゴリ押し・力押しの超連打で、あの超々難物カップルを強引にゴールへ捻じ込んでみせたぜ。

 キャプテン(鷹の)翼君だな。


 まるでアメフトで、敵である名門チーム全員の三軍から補欠に至るまでの百人以上の屈強な男に取りつかれながら、そいつら全員を自陣前からセンチ単位で無理やり強引に引き摺って一時間がかりで敵陣ゴールまで辿り着くような厳しい展開だったわ。


 いやあ、なんとかなって本当によかった事。


いつも応援ありがとうございます。書籍1巻が再重版して3刷される事が決定しました。


活動報告 

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出版社ツイッター

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