72-5 婚姻会議
そして会議にて、まず俺から最初に挨拶を。
「関係者の方々、よくぞ御集まりくださいました。
ああ、その前にベルンシュタイン皇帝から一言どうぞ」
この展開には少し参加者が響いた。
最初に発言するのがドランだったのが予想外だったのだろう。
帝国は魔界の鎧関連であれだけやらかしまくったのだから、普通は魔界の鎧の犠牲者の一人であるグスタフ絡みの発言権なんか欠片も無いよな。
「あー、本来であるならば、色々と粗相のあった我がベルンシュタイン帝国の皇帝家が口を挟むような事ではないのだが、ここは敢えて発言させてもらいたい。
グスタフ・フォン・ハイオネル。
彼が希望するのであれば、再び彼を帝国騎士として迎え入れる事も吝かではない。
あくまで彼が希望するのならば、という条件の下にだが。
その場合には正式に伯爵位を用意しよう。
Aランク冒険者としての位では子爵位相当だが、今回の働きはSランクに相当するものであると認められる。
それは、あの悪魔の鎧を見事に打ち払ったのだから、当然の事と我が国は受け止める。
どこの国の王も、その事実に異論は挟めまいよ」
言うだけ言い終えてドランは静かに下がった。
まずは力押しという事で、俺がわざと一石を投じさせておいたものだ。
これは奴にとっても利益のある話なので意見の一致を見た。
次にベルン冒険者ギルドのギルドマスター・ラファエロが現れた。
「グスタフの功績がSランク相応の働きであった事は、帝国冒険者ギルドを代表してベルン冒険者ギルドのギルドマスターが宣言する」
俺はベルンのギルドにはアントニオと一緒に行ったが、ギルドマスターは初めて見るな。
手続きはアントニオが一人でやったからな。
面長で厳つい顔をしており、軍人っぽい雰囲気を漲らせている。
そういや、アントニオのAランク試験の時も冒険者ギルドは国のいいなりだったような。
元軍人の貴族みたいな人なのかもしれないな。
ニールセンの同類っていう感じか。
この件は当代皇帝陛下の肝煎り案件なのだから、彼の立場としてはSランクに推すしかないわな。
「アルバ冒険者ギルドのギルドマスターも、その事実に相違ない事をここに宣誓する」
続いてアーモンが証言してくれる。
これはアルバで起きた出来事だからな。
そして引き続き、俺やミハエルにケインズなどのアルバトロス王国関係者が軒並み証言した。
ついでに駄目押しでファルにも言わせておいた。
「神の子神聖エリオンも、我が指名した聖騎士の素晴らしき働きをここに称える。
我が母、当代神聖エリオンの意思も同様である事を主神ロスの名において宣言する」
はい、決まり。
「Aランク冒険者グスタフにSランク冒険者証を授ける」
アーモンはそう言うや、虹色に輝くSランク冒険者証をグスタフに手渡した。
アルバがグスタフの現住所であり、またSランク冒険者証は素材レベルでアルバ冒険者ギルドでないと作れないからな。
このSランク冒険者証が作られている段階で、もう出来レースというか、完全にヤラセなのが丸わかりだよな。
これで彼も正式に伯爵位相当の身分となった。
正式な貴族ではなくても父親と同じ身分になったのだ。
皇帝に仕えると一言言うだけで、その場で正式な伯爵位を賜れるのだ。
同格ともなれば、三男といえども他に家を構える事も可能だった。
別途に同格の家を構えられるとなれば、もはや只の分家ではない。
別性を名乗ってもいいほどなのだ。
これで婚姻に関して、ハイオネル伯爵家本家からの支配的な干渉は受けないだろう。
これが一番重要なのだ。
家宰のロドスからは、そう忠告されていた。
あくまで『支配的な』という話なのだが、それはこの場面において非常に重要な事なのだ。
そいつは俺が力押しをするための下地みたいなものだからな。
外観が非常に重要視される自動車という商品にとって最も大事な物は「塗装の下塗りである」と言い切ってしまってもよいくらい大事な事なのだ。
それは未塗装のホワイトボディの段階から影響してくるのだが、下塗り段階で良くないと上辺をどれだけ塗りたくっても二度と綺麗には仕上がらない。
完全に商品価値がないのでラインから外されて廃却を待つのみの哀れな身分となるのだ。
というわけで、御互いの利害が一致したので、ドランの奴と打ち合わせをして話を進めている。
奴が俺の舎弟なのは誰でも知っている事実だ。
殆ど茶番劇の猿芝居である。
もちろん、わざとそう見えるようにやっているのだが。
この会議の主催者である癖に、俺はわざわざドラン達の隣にいるんだからな。
まるで「おい、グスタフ。早くこっちへ来いよ」と言わんばかりの狼藉だ。
元々このグスタフという男は、やがて王となるためにこの国を出ていくだろうアルスの後任として俺の三代目相棒みたいな立ち位置にいるのだから、今更こっちへ来いもへったくれもないのだが、そうしておかないとまた要らぬ角が立つ。
世の中とは本当に面倒臭いものだ。
特に貴族絡みの話では。
グスタフの父親ハイオネル伯爵は、それを無言でジッと見守っていた。
「次は神殿関係者から。
ではアルバ大神殿本部の司祭からの意見を」
まあ、大体どんな意見が出るかは想像がつくが。
「アルバ大神殿としての意見を言わせていただければ、この結婚には反対だ。
そもそも大神官という者の本分は……あ、何をする。これ!」
笑顔でサムズアップしながら、他の俺が配置しておいた神官達と協力して司祭を取り押さえて連れ出していったのは、ジェシカの先輩であるアルバ大神殿の前大神官レーナだった。
「えー、次にベルン大神殿から参考意見はありますか?」
本来は関係ないのでベルン大神殿の関係者なんか呼ぶ必要はまったく無いのだが、ここは敢えて呼んだ。
俺御御得意の駄目押しだ。
「うむ。
本来であるならば、立場上他国の大神殿についての口出しは控えたいのだが、大神官というものはだな……あ、これ何をするか」
アルバとベルン、両大神殿の精霊どもにベルンの新任大司祭が取り押さえられた。
今はベルンの大神殿も精霊の森預かりとなっているので、それでベルンの大司祭も沈黙した。
残りの司祭どもが慌てるが、それを見る周囲の目は冷たい。
そこでファルが止めの一言を。
「大丈夫。
あたしも司祭のおじちゃん達の事は嫌いだから。
お金に煩いし、神官見習いの御姉さん達に酷い事をしていたし。
精霊達も大神官の事は大好きだけど、司祭のおじちゃん達の事は大嫌いだから安心していいよ」
それから、悪戯っぽく笑みを浮かべながら宣告する。
「今度ロスの御姉ちゃんにも言いつけておくね」
「そ、それだけは御勘弁を!」
勝負は決まった!
ファルさんよ、いつからそんなに腹黒くなったんだい?
一体どこでそんな事を覚えてくるものやら。
あれ、みんな。
何故そんな目で俺を見る?
だが、実家の当主からは予想通りにクレームがついた。
「しかしグランバースト公爵よ。
いくら別に家を興すからとはいえ、我が一族の者が貴族でない者と結婚するなど、仕来りとして認められぬ。
ましてや、相手は孤児院育ちの娘というではないか。
いくら魔王などと呼ばれ恐れられる貴方といえども、他国の貴族家婚姻に口を挟んではいただくまいぞ」
おおー、さすがはグスタフの親父さんだ。
いやはや骨があるねえ。
この魔王に物言いをつけるとは。
しかも自国の皇帝の思惑に逆らってでもか。
だがそんなものは、この大年寄り魔王(五十五歳)には通じないぜ。
この、高が四十九歳の青二才の若造伯爵めが。
俺に何か物を言いたかったら、まず五十歳クラブに入会してからにしてもらおうか。




