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72-2 御茶会

「グスタフちゃん、こんにちはー」


「「「「ワンワンワンワン」」」」


 空中筐体に搭載した不可視の監視カメラを持たせてあるので、よく映っている。

 うちにいる子犬が総がかりでのミッションだ。


 おい、ミニョン。

 カメラに張り付くんじゃない。

 グスタフにバレるだろうが。

 最初の頃よくこうやって遊んでやったせいか、ミニョンはこのカメラポッドが大好きだ。


「お、ファルじゃないか。

 今日はロスの日だったかな」


 そして丁度、大神殿を見回りに来たグスタフに出会ったのだ。


(お、しめしめ。

 よしファル、第15号作戦発令!)


(了解!)


「ううん。

 違うけど、臨時に『ファルの日』にしてもいいかな。

 オマケがプリティドッグだよ」


「ははは、そりゃいいな」


 ファルは豪快に笑う聖騎士を値踏みしつつ、そっとプリティドッグを御使いに出した。

 色々と心得た犬達は、ジェシカのところへ強襲をかけ三頭がかりで引っ張ってきた。


「きゃあ、何々?

 みんな、どうしたのー。

 ダメよー、もう御仕事が始まるのよ~」


 だが待っていたのは御仕事ではなくて愛しのグスタフであった。


「こ、こ、こ、これはグスタフ様。

 きょ、今日は一体どういった御用件で」


「ん? ちょっと見回りにな」


 一応はグスタフもエルフ新町に派遣した正式な助司祭なので大神殿にも出入り自由だ。

 魔界の鎧を警戒しての巡回は怠らない助司祭様。

 あの禿げ大司祭共にも見習わせたかった勤勉さだ。


 あいつら今頃どうしているものやら。

 案外と俺に対して復讐の牙を研いでいたりしてな。

 くっくっく。

 その時には、またたっぷりと思い知らせてやろう。


 一気に挙動不審な状況に陥ったジェシカを、犬どもが楽しそうに眺めている。

 本当に物見高い奴らだ。

 いつの間にか、親子全八頭が勢揃いしている。

 にやにやして見ているあたりが、また嫌な生き物だ。


 この魔王たる俺のバックを容易く取れる生き物だからな。

 油断も隙もあったものではないのだ。

 特段に危害を加えられるわけではないので別にいいんだが。


「ねえ、ジェシカちゃん。

 今日は臨時で『ファルの日』を開くから、御休みにしていいよ。

 そうだ、グスタフちゃん。

 最近は王都も物騒だからジェシカちゃんの護衛を御願い」


「お、おう。

 そうか、では大神官殿。

 御出掛けならば、不肖このグスタフめが御供いたしましょう」


 それを聞いたジェシカは、まるで沸騰したヤカンが音を鳴らすかのような様子だったが、グスタフは意にも介していないようだ。


 野次犬共は伏せの姿勢になってしまって必死に笑いを堪えている。

 まあ我慢している分にはいいか。

 こいつらが本気で笑う時は、転げ回り前足で地面をぺしぺしと叩き、とんでもない声を出して笑い転げるから。


 あるいは小馬鹿にしたような、明らかに失笑しているとわかる笑い方とか。

 あれをやられると相当頭にくる。

 しかも相手が頭にくるように、わざとそうしているんだからな。


 すかさずミレーが駆け寄って、心ここにあらずといった風体のジェシカを引っ立てていった。

 他の精霊達も群がっていって、かなりおめかしをさせているようだ。


 子犬共はファルと一緒にいたいので神殿で寄付を集る役を、ジェシカ達の尾行は親犬が担うようだ。


 早速、神殿に信者(おきゃくさま)がいらしたが、肝心の大神官は御出掛けの御様子だった。


「おや?

 ジェシカ様は、御出掛けなのですか?」


「ええ、今日はなんでも特別にファル様が御自身で祝福を与えたいとおっしゃって、一日御暇をいただいたのです。

 ベンハートン様にロスの祝福があらん事を」


 ジェシカは指を揃えた右手を左腕の付け根に当て、左手を右肘の上に添えた。

 神官が行なう正規の挨拶だ。

 心臓の上に手の平を置き、主神ロスに全てを捧げた者である事を示し、そしてそれが揺ぎ無いものである証に左手で抑えている。


 信者の方は、指を揃えた右手を肘が直角になるように体に当てる。

 左手は指先まで伸ばして太ももの前から横にかけて置くような感じだ。

 敬虔な気持ちを表す仕草であるらしい。

 大司祭ともあろう御方が「らしい」なんて言っていちゃあ本当は駄目だけどね。


「いってらっしゃいませ、ジェシカ様」


 大神官の少女と聖騎士を見送る敬謙な信者に、ファルが話しかける。


「おじちゃん、ここからはファルの時間だよ」


 神聖エリオンに手を引かれ、可愛いプリティドッグに纏わりつかれながら、頭にそれなりの白いものを蓄えた初老の紳士ベンハートンは、常時にこにこしながら神殿の大広間へ向かった。

 大神官の祝福を受けた後で、神聖エリオンと共にあり、噂でしか聞いた事のないプリティドッグのもてなしを受けたのだから無理もない。

 いつもなら絶対にないダイサービスなのだ。

 傍らに佇むミレーに、そっといつもより多めの御布施を渡すのであった。


『ファルの日』


 それは「神聖エリオンの御茶会」であった。

 神殿に奉納される御菓子、つまり大師エリや稀人仙師たる山本さんの作った特上の御菓子で、おやつパーティをやるのだ。


 地球式のゲームをしたり、たっぷりと頭を撫でてもらったり(主にファルが)、神楽の調べに身を任せたり。

 そのような行事を神に奉納するのだ。

 御土産は、当然いつもの御神籤だ。

 本日の御神籤は『神聖エリオンの茶音頭』だった。


 これは男女の仲がいつまでも続きますようにという内容だろう。

 一年間、身内が大変な良縁に恵まれる絶対御利益付きだ。

 身内の縁談一つにつき縁結びの精霊が一体召還されて、マンツーマンで面倒をみてもらえるらしい。


 今日は御神籤も大盤振る舞いだ。

 御利益の期間はずっと御茶が美味しく飲めるという副賞付きだし。

 御付き合いは、御茶を一緒に飲むところから始まるからな。


 だが、この御神籤はジェシカにやった方がよかったのではないのか?

 御機嫌で茶音頭を鼻歌しながら帰っていくベンハートン氏を尻目に、俺は尾行中の熱愛犬夫婦が装備したカメラの方へ切り替えていった。


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