72-3 愛の人力車
そわそわと、まるで御菓子を強請りにきた精霊のように、グスタフの周りをうろうろする大神官の美少女。
それを尾行する犬達。
そして、それをカメラで監視する魔王。
『勝手に御見合い大作戦』開始だ。
女の子の方が一方的に乗り気過ぎて、完全に滑りまくっている感じではあるのだが。
というか、男の方はこれがデートであるつもりさえない。
「あ、あのグスタフ様、どちらへ参りましょうか?」
グスタフも、何かこう微妙な表情だ。
これだからわかっていない奴っていうのは困る。
(仕方が無いな。
ジョニー、男前にエスコートしてやってくれ)
俺からの指令を受けたジョニーが、マーガレットと一緒にジェシカのロングスカートの裾を咥えて引っ張っていこうとする。
一体、それのどこが男前なのか。
「ええっ、ジョニーさん。
いつの間に~。
ちょっと、御願いだからスカートを引っ張らないでー」
「あはは。
そいつらに何を言っても無駄ですよ。
ついていってみましょう」
『何を言っている。お前が朴念仁だから俺達が世話を焼いてやっているんじゃないか』という表情で呆れているミニョンパパ。
傍から見ると、そんな仕草も可愛くしか見えないのだが。
二匹の熱々ドッグに連れて行かれた先は、街角にある素敵なカフェだった。
これはアルフォンス商会でプロデュース(葵ちゃん監修)した奴で、今王都で大人気なのだ。
日本の素敵なカフェをパクって作ってみただけなのだが、当然サービスも一級品にプロデュースされている。
よく見ると周り中がカップルで一杯だった。
まだ試作段階の、カラフルなハート型ラブラブストローもここでは試験的に実戦投入されている。
ミニョンペアレンツは、これが手本だと言わんばかりに人型になって熱々ぶりを見せつけていた。
グスタフはやや居心地が悪そうだったが、ジェシカを置いて行ってしまうわけにはいかない。
ジェシカはうっとりとその時を楽しんでいたが、さすがにまだ二人で一本のストローでジュースを飲む度胸は無いようだ。
というか、そもそも何の進展もない。
とりあえずは、ミニョンペアレンツの奮闘の御蔭で無事にカフェデートまでは漕ぎ付けたようだ。
そこから俺の仕込みで、ゴーレムが引く人力車を投入した。
こいつは日本の観光地で走っている奴そのままのデザインだ。
熱々カフェデートでボーっとなったジェシカが、なんだかふらふらしているので、グスタフが人力車を呼び止めた。
人力車サービスは観光用に試験投入されているものだ。
結構身分の高い人とかが御楽しみで乗っていたりしているので、馬車の御者も注意してこれを大きく避けていく。
図体が小さいと思って侮られて馬車から酷い無礼があり、怒って人力車から降りてきたのがどこかの国の公爵様だったとかが、ここアルバでは平気でありそうだ。
いやあ、危ねー。
「大丈夫かい、ジェシカ」
この男の場合、特に意味があって呼び捨てにしているわけではないのだが、女の子の方は特別に感じ入るものがあるらしい。
グスタフは、相手が元から顔見知りの女の子なのでそうしているだけなのだが。
それでもポッと頬を染めるジェシカ。
「え、ええ。
大丈夫ですわ。
グスタフ様こそ御疲れではないでしょうか」
「いや別に。
それで、これからどちらへ参りますか?」
やや困った表情のジェシカ。
いきなり始まったデートだったから、頭が沸騰したヤカンのようにカンカンになっていて何にも考えていなかったのだろう。
だがそこで、そっと忍び寄り、トンっとジャンプして肩に乗って、ジェシカの耳元で囁く犬。
またしても、いちいち世話が焼けるなとか思っていそうな顔だ。
「セントラルパーク」と、小さく人間語で。
まあ、この場合は喋らないと仕方ないわな。
フリップボードの用意も無いしなあ。
「あ、あの。
セントラルパークへ」
セントラルパークというのは、俺が王都内に作った公園だ。
第二防壁と第三防壁の間に在る、王都隔壁の真ん中部分にある公園という意味で付けた名前だ。
北のメイン通路は王族専用通路に王宮と連絡している。
よって南のメイン通路沿いに、名古屋の栄にある南北に延びたセントラルパークっぽい感じのスタイルにしようかと思ったのだが、ちょっとスペースが無くて出来なかったのだ。
名古屋のあれは、道路沿いの南北に連なるタイプの道路の真ん中に作られた細長い公園だからな。
さすがにこういう一般の場所を空間拡張するのは憚られるので、ここでは仕方がないので普通の公園形式だ。
このゾーンは一般国民の平民は殆どいない、貴族や富裕層である大商会の人間のいる場所なので、この二人のデートにはぴったりだろう。
少なくとも躾の悪い餓鬼が走り回っているような事はない。
言わずとしれた、カップルでいっぱいの逢引の名所である。
若い女の子がその名を口に出すのは恥ずかしいようだが、グスタフは意にも介さない。
ここには噴水やガラスのモニュメントなども作られている。
こいつはドワーフの国家特級技師を目指す若い職人達の力作だ。
だから、その隅々にまで自由と若さに満ちている。
こういう場所には却ってそういう物の方が、完成されてしまった職人の作品よりも似合っているもんだ。
これらの作品は、俺が親しくしているドワーフ達の中で国家特級技師を目指している若衆に対する薫陶の意味も含めて、それなりに高額で買わせてもらっているのだ。
ここにはドライアドを派遣してあるので、年中各種の花が咲き乱れている。
花見の時以来ドライアドの連中が目一杯集まってきてしまったので、あちこちに派遣してあるのだ。
連中もこの手の仕事は、もう慣れっこなので完璧にやってくれている。
そのうち、この王都アルバは「花の都」と呼ばれるようになるかもしれない。
人力車は、元は王都のスラムに居た奴とか、新しく王都に来てまだ仕事につけていない人とかに仕込んでやらせている。
当初はゴーレムが引いており、彼らへの指導もゴーレムが行なっていた。
今でも一部は人員調整的にゴーレムが担っているため、今回の特別任務を帯びたゴーレムにもグスタフは特に不審に思わなかったようだ。
グスタフは俺とも親しいし、元から只者ではないので、一目でうちのゴーレムの正体を見破る。
「たまにはこうやって平日に息抜きをするのもいいでしょう。
アルに言わせると、稀人の国では月に一度くらいは、こうやって特別に休みを取って英気を養うのだとか」
「まあ、いいですわね」
実際には稀人の国において、それが取れなくて泣いている奴らも山ほどいるのだが。
もっともジェシカなんかは重責を担う厳しい仕事をしていたのに、正規の休みが月に一日だったんだからな。
たまにはこれくらいの御褒美があったっていい。
ジェシカもうっとりとしながら聞いていたが、単にグスタフと一緒にいられるのが嬉しいだけだ。
いくら平日に休みが貰えたとて、一人でカップルの名所などに行きたくはあるまい。
車輪の回る軽い音を立てながら、人力車は公園を目掛けて走った。
街の中心というか繁華街から公園までは少し距離がある。
空き地が無かったのでそうしたのであるが、その数キロメートルの距離を二人でゆったりした時間を過ごすのだ。
俺は小細工をして、やや小ぶりの人力車を用意してやったので、しばらくの間は二人が密着体勢となる。
グスタフの奴だって満更でもあるまい。
中々、こんな美少女に出会えるものではないはずだ。
幸せそうに寄り添って目を閉じるジェシカを乗せて、愛の人力車はラブラブパークに向かってひた走った。




