↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

434/1334

72-1 恋は吊り橋と共に

 織原が持っていた魔界の鎧を滅してしばらくの後、舎弟の奴から電話があった。


「おい、魔王様よ。

 あれから聖騎士殿はどうしている?」


「ん? 毎日、日課の薪割りとかをしながら元気にやっているらしいぞ」

「そういう事が聞きたいんじゃない!」


 あの後、各国からの勧誘が激しいグスタフ。

 神の加護を持つ聖騎士なんていう良いものは、どこの王国も欲しがるだろう。


 欲しがらないというか、特に関心が無いのはドワーフの国か獣人国くらいのものだろう。

 あいつらは単に人の言う事なんか聞いていないだけだし。

 まあ親方なんかは「うちへ来てもいいぞ」なんて、あいつがまだ魔界の鎧付きだった時代にも言ってくれていたんだがな~。


 そんなの普通なら有り得ない話だけどね。

 それでも、親方はグスタフに無理強いしたりはしないだろうな。

 俺同様にグスタフの野郎も「友認定」を受けているのだろうし。


 アルバトロス王国も食指を伸ばすが、元々あいつは帝国の騎士なのだ。

 さすがに厳しいのだろうが、ミハエルが何かと五月蝿い。

 あいつの場合は単に今まで同様に、ああいう厄介な者は自分で管理出来る手元に置いておきたいのだろう。


 何しろ、アルバトロス王国は今までも魔界の鎧と対決してきて、世界にとっての最後の砦を演じてきた歴史がある。

 そして対価として「王太子の命」までをも差し出してきた。

 しかも差し出したはいいが、つい最近まで生かされていて死んですらいなかったのだから、なお悪いっていう奴よ。


 ミハエルの野郎も、世界の危機を回避するために自らの命で済ませられるというのなら、喜んで支払いを拒まない気概と覚悟はあるはずだが、さすがに魔界の鎧などいう妖物なんかを相手に犬死にするのは嫌だと思っているはずだ。

 他に有効な手段があるのであれば、駒の一つとして手元に欲しかろうよ。


 とはいえ、帝国自身も帝国貴族の一員であるグスタフを通常なら有り得ないほどの酷い目に遭わせ、その後も冷遇してきたという、非常に後ろめたい経緯がある。

 グスタフを手元に置きたがっているドランとしては気が気じゃないんだろう。

 奴は仕事こそ順調に行っているが人材的にはジリ貧なのだ。

 それが周辺国にとっても、あまりいい事じゃないのはわかる。


 だが、どこへ行きどう生きるかはグスタフ自身が決めることだ。

 まあ舎弟からの相談くらいには乗ってもいいのだがね。


「まあ、どうだろうな。

 あいつに帝国へ来てほしいのなら、お前から訊いてみればいいじゃないか」


「それはそうなのだが、我が帝国は彼を魔界の鎧の実験台にしてしまった件があるからな。

 帝国皇帝としては、なんとも言い出し辛いのだ」


 それはまあ先代の出来事とはいえ、自国の立派な騎士をモルモット代わりにしちまったんだからなあ。

 彼の人生も目茶目茶にしてしまったのだし。

 今更「我が国に忠誠を誓え」とは、確かに言い出し辛いわ。


「また、さりげなくでいいから訊いておいてくれないか?

 彼も実家である貴族家は帝国にあるのだし」


「まあ機会を見てなあ」


 さて、あいつもいつかは身の振り方を決めねばならんわけだが、どうなる事やら。


 肝心のグスタフには、あれから大神殿の方を見てもらっている。

 さすがに立て続けの襲撃は無いかと思うのだが、まだ魔界の鎧は一個残っているのだ。


 織原に聞いても、残りの鎧の情報は無かった。

 まあゲルスでも自由は無かったと言っていたしな。


 残りの一人も、織原と同じような年頃の少年だったらしい。

 若い方が適応力も高いから、あのような苛酷な環境でも生き残りやすかったのだろうか。

 聞いてなお切なくなるような情報だ。

 そいつはきっと、今も悪夢の只中にいるのだろうなあ。



 そしてグスタフが大神殿に行くと、ジェシカがいつもポーっとしながら彼の事を見ているらしい。

 やれやれ。

 まあ、それもいいかもしれないな。


 ファルは、しばらくして正気に戻ると、いつもの調子に戻った。

 あの子も神聖エリオンとしての力に目覚めつつあるのだろうか。

 だがファルは今日もオヤツ袋をぶらさげて、普通の子のように両手にオヤツを握り締めている。


 その一方で、ジェシカの方は一向に正気に戻らなかったようだ。

 ボーっとしてミスばっかりしているらしい。

 大神殿に常駐させているゴーレムからそう報告をもらっている。

 相当グスタフにお熱なようだ。


 いわゆる、同じ危機にある状態で男女が恋に落ちるという吊り橋効果かなと思っていたのだが、ジェシカの熱はまったく冷める気配も無いようだ。

 一方的に片思いの吊り橋だったようだが。


 思えばジェシカも天涯孤独の身の上で、大神官となって、やっとマシな生活になったかと思えば神官として働きづくめだった。

 もう成人して御年頃なんだし、相手は端正な騎士、しかも世界中が泣いて欲しがる聖騎士なのだ。


 大神官と聖騎士か。

 組み合わせとしては決して悪くないのだが、外野の意見が五月蝿いのは予想される。

 こいつはまたどうしたものかな。

 思わず世話焼き爺の血が疼くような案件だな。


 ハッと見たら、園長室の入り口でミレー(子供形態)がチョイチョイと手招きしている。

 わざわざゲートキーを使って、やってきたらしい。


 たかが色恋沙汰に、そんなもんまで使ってわざわざ聖域から出てきてしまうとは。

 まあ、ジェシカ命であるあいつら的にみたら、一世一代の緊急事態なのかもしれないな。


「やあミレー、こっちにおいで」

「園長先生~、御相談があるんですけど」


 ミレーは可愛らしく、ちょこんと椅子に座ると真っ直ぐにこちらを見上げた。


「まあ用件は大体わかるがなあ。

 やっぱりグスタフの件かい?」


「え、ええ。

 そうなんですけど、あの人も結構朴念仁みたいで」


「あっはっは。

 そうかもしれないなあ」


 ついにジェシカにも春がきたか!

 そのように色めき立つ大神殿の精霊達。

 だが全く進展が無い事に精霊どもが業を煮やして、とうとうミレーが代表で交渉にやってきたらしい。


「まあ、相手の気持ちもある事だしな」


「それはそうなんですけど。

 ジェシカの願いを叶えてやりたいの!」


 孤児であったジェシカの願い、それは自分の家族を作る事。

 幸せな結婚をして家族と共に暮らす事。

 それは一人の女性として、いたって平凡な願いなのだが、大神官の彼女にとっては実に大変な事なのだ。


 俺は一応、その上の大司祭だったりするのだが、俺の一存で寿退職というわけにもいかない。

 司祭や神官達との調整は必要だ。


 そもそも俺は、大神殿で正規に選出された大司祭ではない。

 馬鹿共が精霊の森を怒らせたので、緊急配備された臨時大司祭なのだ。

 神殿サイドとしても、上の人間が色々と愚行をやらかした挙句の結果なので、その件についてはあまり言えないらしいが。


 それでも、このままではいけないと連中も思っているようなのだが、魔王に積極的に意見しようという人間もいない。

 俺と懇意なファルやレインの事もある。

 あと俺によって色々と改善されているし、ファルの御蔭で商売に関しては以前よりも順調なのもある。

 それすらも殆ど俺の御蔭なんだからな。


 特に排除する理由が無いというか、やたらと訳も無く魔王を排撃すると、また大神殿が以前のように激しく腐るのではないかという恐れも抱いているのだ。

 多分、間違いなくそうなるだろう。


 俺は元々神殿組織とは関係ない外の人間であり、神殿を敬い恐れる心を持っていないからこそ、そういう無頼なまでの改革ができるのだ。

 生ける第三者委員会というか、外部監査役というか。

 そもそも、この俺自身が【主神ロスの契約者】その人なのだしな。


「まあ、そのあたりはグスタフの気持ち一つだ。

 俺はいつでもジェシカの味方だから安心してくれ」


「わかりました。

 では宜しく御願いいたします」


 御土産に渡した、たくさんの御菓子を持って、ミレーはいそいそと帰っていった。


 さて、どうするかな。

 とりあえず俺は、羽根を生やしたキューピッド状の生き物を呼び出す事にした。


「というわけで、お前が指名した聖騎士をなんとかしてやってくれ。

 あいつも結婚が流れて、だいぶ愚痴を垂れていたからな。

 今確か二十六歳だったか。

 そろそろいい歳なんだし」


「ふーん、ファルが恋のキューピッドになってあげればいいの?」


 そんな風に可愛らしく小首をコテンと傾ける様子は、ブラウンゴブリン達にとって御気に入りの構図だ。

 ブロマイドでも人気だったりする。


 ファルの画集を出そうという動きもある。

 地球のキリスト教で言えば、生きたキリストその人の御姿を写し取った画集みたいなものだ。

 この異世界中で聖書並みに売れる事だろう。

 レインもセットで親子福音画集というのも悪くない。


 そこに世界を救った神々しい聖騎士と希代の美少女大神官の組み合わせを付け加えてみるのも一興だ。


「そうだな。

 じゃあ、俺はハートを射抜く魔道具の弓矢でも開発するか。

 あと惚れ薬のポーションもありかなあ」


「おいちゃん。

 それちょっと違う」


 そう言いつつ、ファルはふらふらと宙を漂っていった。

 ワンワン吼えながら、物見高い犬どもも、その後をついていく。


 そういや、あいつらプリティドッグには、エルミアの神父様の件でキューピッドを務めた実績があったっけな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。