70-2 精霊戦争勃発
俺の説明を聞いたドランの顔色が悪い。
フランチェスカさんも心配そうな顔をして、ドランの肩にそっと手をかけていた。
「つまり……この国に端を発した魔界の鎧が、再び世界を暗黒の時代に引き戻そうとしているというのだな?」
ベルンシュタイン帝国、現皇帝ドランは左手で書類を握り潰しながら、右手で額に手を当てていた。
「まあ、そういう話だ。
いやあ、負の遺産の後継者は辛いよな」
「おい、舎弟の面倒はきちんと見る方針だよな?」
他人事のように言い放つ俺を、少し恨みがましそうに見ながらドランがボヤいた。
「少なくともレインボーファルス親子の面倒はみるさ。
当然の話なのだが、お前のところが、あの鎧から一番怨まれているのは忘れるなよ。
まあ真っ先にやられたりはしないさ。
世界中の恨みと憎悪がベルンシュタイン帝国に向かうように仕向けるつもりなのだろう」
俺の無慈悲な宣告に、うちの舎弟は更に頭を抱える事になった。
「頭が痛すぎる。
確かお前は、いい薬を持っていたんじゃないか?」
「薬で治ればいいけどな」
ポイっと日本の頭痛薬を投げてやる。
ちゃんと、こっちの言葉で書かれた説明書が入った奴だ。
「なんか今度の奴は、本体が子鎧に憑りついているような気がする。
親鎧が浄化されたので、鎧に込められた怨念が子鎧の方に逃げたのかもしれんな。
下手をすると、俺から転移魔法を盗んで」
大神殿に入るためのコードは俺から盗んでいったものかもしれない。
あれは他の大神殿にも入れるようだ。
大神殿は思ったよりもセキュリティが弱いな。
うちのセーフハウスの一つでもあるのに。
さっそく改善させよう。
「それはちょっと洒落にならないんだが……他に盗まれた物はないんだろうな?
思わず、お前が魔界の鎧に憑りつかれて暴れているところを想像してしまったが」
ドランが大変嫌そうな顔をしているが、さすがに俺もそれは嫌だな。
「仮に同じ能力だったとしても、俺は負けないさ。
まず魔力量が絶対レベルで違いすぎる。
世界を越えた者だけが持つ力も盗めない。
それに地球の現代知識によるイメージを奴には持てない。
あれは稀人だからこそのチートだ。
チートという言葉の意味すら知らん奴に俺の力は使えない。
俺の力は殆どがオリジナルだからな」
最近は、ギルドで習った魔法なんて殆ど使っていない気がする。
武器も物理兵器も、魔法すら必要な時に専用のものを作っていく感じだし。
ベルン・ロス大神殿の方を覗くとマリーナが寝込んでいた。
シルヴィと交代で精霊の森から来ているニンフも青ざめた顔をしている。
「危なかったです。
いきなり大神官がやられてしまって。
あなたを御呼びしようと思ったらファル様の歌が聞こえてきて助かりました。
歌の力を増幅してくれていなかったら危なかったかもしれません」
やれやれ。
どうやら大神官が直接攻撃を食らったのはここだけらしい。
帝国の大神官だから、魔界の鎧から怨まれているんだろう。
マリーナも運が無いな。
元々、薄幸な奴なのだが。
ここには色々と差し入れをしておく。
御付きのニンフにも、しっかりと魔力をちゅうちゅうさせておいた。
こいつらは不滅みたいな存在のくせに、今回みたいな精神にくる攻撃には弱そうだ。
俺はすーっと息を吸い込むと、世界中の精霊に号令を発した。
精霊の加護リスト全体に派手に魔力を送り込む感じで。
『聞こえるか、世界中の精霊共。
かつて世界を脅かした魔界の鎧は、レインボーファルスの封印を解かれ、世界に宣戦を布告してきた。
これは精霊に対する戦線布告に等しい。
奴は、かつて己を封印したレインボーファルスを怨んでいる。
敵の最終目標は、そのレインボーファルスを殺し、それによる長きに渡る審判の時代をもたらし、帝国への、世界への恨みを晴らそうとしているのだ。
奴を見つけ出し、そして倒せ』
全世界の精霊が響めいた。
天は鳴動し、海は荒ぶった。
『許さぬ、許さぬぞ。
我らがファルスを手にかけようなどと、決して許さぬ。
我ら精霊の呪いを受けるがいい。
ファルスの敵は討ち滅ぼす。
我らは、世界を庇護する者を、精霊の守護者を守り抜く』
よし!
得意の炊きつけは終了した。
次は人間の方だな。
「というわけなのですよ、陛下」
これはもう、たとえアルバトロスの国王陛下といえども、ただ玉座で頭を抱える姿を誰も非難できない状況だった。
「公爵よ。
これはまた、大変な事になったものだな。
して、お前はどのようにする?」
「とりあえず、網を張って待ちます。
何しろ、相手は転移魔法持ちですしね。
そのうち奴も動くと思いますよ」
俺がその転移魔法の元凶かもしれないというのは、さすがに言わなかったが。
ミハエルがまた青い顔をして、近寄ってきて顔を付き合わせる。
「おい、大丈夫なんだろうな?
もしもファルスがやられてしまったら、世界は……」
「うちのファルがなんだって?」
俺も凄い貌で言い返す。
うちの子や、武の愛娘レインに手を出すというのなら仕留めるまでだ。
俺にはそっちの方が重要なのだから。
俺のやや目を吊り上げた形相を見てミハエルも黙った。
一応、御山のバルドスのところへも行ってみた。
「こいつはまた、豪い事になったものだな。
審判の時代か。
あれは、そうそうあっていいものではない。
絶対に阻止せねばならん」
さすがのこの爺も、いつもの余裕はなく渋い顔だ。
生き証人は言う事が違うな。
きっと孫娘のジェニーちゃんの事を考えているんだろう。
そしてレインの事も。
俺はガラスの園へ行くと、「アストロノーツ」を召還した。
あれからまた精霊飛行士を育てて、先輩精霊にも指導させてパイロット精霊を五十体ほどに増やしたのだ。
そして携帯空間に設けてある航空宇宙管制センターを取り出し、ゴーレムの管制官達と精霊パイロッット達に命じた。
「これから二十四時間体制で世界を監視し、魔界の鎧を探し出せ。
発見次第、俺に知らせるのと同時に、奴を捜索中の精霊どもにも知らせるように」
そして五十基の監視衛星を打ち上げて、宇宙空間から魔界の鎧を見張る事にした。
地上にも精霊管制官をおき、精霊間の連絡事務を申し付けた。




