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70-3 稀人の少年

 衛星で探査を続けたが、まったく手掛かりはない。

 俺のMAP探査や、精霊共にも見つからないなんて。


 ほとほと弱ったが警戒の手は緩められない。

 特に奥さんや子供達に何かあってはいけない。

 警戒は厳重にしておくことにした。



 そんなある日、驚くような出来事があった。

 なんと稀人を名乗る少年がアドロスを訪ねてきたのだ。


 彼は直接ケモミミ園へやってきた。

 確かに黒髪黒目の日本人の容貌をした少年だった。

 何故、王都ではなくアドロスへやってきたのか。

 まあ王都入場口はあんな感じなので無理もないのかもしれないが。


「あのう、僕は織原勇人といいます。

 こちらの公爵様が……いや園長先生なのかな?

 彼は稀人、日本人だと聞いてきたのですが。

 実は僕もそうなんです」


「ちょっ、ちょっと待っててくださいね。

 先生ー、園長先生ー」


 そんなやりとりが玄関口の方から聞こえてきたので、俺はすぐに彼と顔を合わせる事になった。

 そんな彼を軽く眺めながら俺は話しかけた。

 少し顔色が悪いように思うが、それも無理もないのか。

 この世界は異世界人たる日本人にとって、あまりにも厳しい。


「君が稀人、いや日本人か。

 織原君というのかい?

 高校生くらいかな」


「はい。

 ずっと村で御世話になっていたのですが、あなたの話を耳にしたもので思い切って来てみました。

 王都に行ったんですけど、あっさりと門前払いされました。

 凄く並ばないといけなかったので嫌になっちゃいましたよ。

 一緒に並んでいた人から、あなたはこちらだと伺って」


 少年は少しはにかむように笑って、軽く頭を下げた。


「それにしても、他にも稀人がいたとは。

 何しろ厳しい世界だからな。

 でも案外と、どこかで密かに頑張っている奴らもいるのかもしれないな」


 そう、俺達の事は日本政府の作成したリストに名前が載っていたのだ。

 まだかなりの人数が行方知らずの状態でいるようだ。

「所在確認済」となっているのは、うちにいる人間だけだった。

 たぶんインターネットで日本とやり取りが出来るのは俺だけだろうから、それは当り前だろうけど。


 おそらく、その残り全員が無事という事はあるまい。

 ここに至るまでの俺の経緯を思い起こせば、それは言わずもがなだ。


 それを検索して彼の名を見つけ、写真も見て本人と確認した。

 俺は自分がこの世界へ来た時の艱難辛苦を思い出し、そんな彼の様子にすっかり気を許してしまっていた。


 少年は葵ちゃんよりも学年一つ下で、日本にいれば今は高校三年生だ。

 彼が少年なのもあって、俺はすっかり油断してしまっていた。

 体の具合が悪そうなのだが、元から虚弱なので治療はいいという。


 その時、イコマが急に何やら激しく警告を送ってきた。

 いつもの全身を震わせるような激しい衝動という形で。

 そして同時に精霊が奴の痕跡を発見したと念話で知らせてきたのだ。


「ちょっと悪いんだけれど急用が入ってね。

 俺は出かけさせてもらうよ。

 あ、山本さん。

 その子の事をちょっと御願いしますね」


 丁度、山本さんと話をしていたので、彼も一緒に来ていたのだ。


「わかりました。

 じゃあ、織原君。

 このケモミミ園の人達を紹介してあげるから」


 あと、子供達が彼を激しくロックオンしていた。

 また何か美味しい物を作ってくれる人なのかもと思っているらしい。

 早々毎度毎度、料理人の新入りばかり来ないからな。



 精霊に呼び出された場所へ行くと、そこには確かにあの鎧の気配があった。

 だが、それがどこへ行ってしまったものかは、よくわからない。


「お前ら、ここを中心に探してくれ。

 ここのどこかから転移していったはずだし」


 精霊に指示を出しておき、自分も捜索に出た。

 御蔭で帰るのが少し遅くなってしまった。


        ◆◇◆◇◆


「ふっふっふう。

 ごっはん、ごっはん~。

 今日の夜食は何じゃろなー」


 ファルは御機嫌で御飯の歌を歌っていた。

 歌でもなんでもないが。


 キッチンでは織原少年が中華鍋を振るっていた。

 今日はガッツリとチャーハンらしい。


「ほらよっ。

 チャーハンは割と自信があるんだぜ!」


「待ち遠しいなあ」


 彼は小器用に軽めのアルミ製中華鍋を振るって飯粒を宙に舞わせ、薪の直火で焙りながら卵による装いで黄金に彩らせていた。

 まだ若いのに、たいした腕前だった。

 やがて、きちんと本格中華風に作られた素晴らしいチャーハンが神の子に献上されたのであった。


「それ、チャーハン大盛り一丁!」

「わーい、いただきまーす」


 遠慮のえの字もなくぱくぱくと平らげるファル。

 ただの一粒も残さず美味しそうに平らげてから、御皿まで舐め上げている。

 それを笑顔で眺めている織原。

 だが、段々とその笑顔が消えていく。


「御兄ちゃんさー、本当はファルの事が嫌い?」


「な、何故そんな事を訊くんだい?」


「だって、これ凄い猛毒が入っているよね?

 ファルは食べても絶対に死なないけどさ」


 ファルは織原をじっと見つめながらそう言った。


「い、いや何を根拠にそんな事を」


「誤魔化したって駄目、ファルにはわかるの。

 でも御飯は美味しかったよ。

 ちょっと変わった調味料は入っていたけどね」


「そうか。

 あははは。

 さすがはファルス、一筋縄ではいかないなあ。

 そうさ、毒を入れたのさ。

 お前を殺すために」


 少し悲しそうな顔でファルは訊いた。


「どうして?

 稀人さんだっていうのも嘘?」


「嘘なんかじゃないさ。

 俺は立派な稀人さ。

 だがなあ!

 この鎧の持ち主でもあるのさ」


 織原が魔界の鎧を展開しようとした刹那、足元にオリハルコン刀が飛来して突き刺さった。


        ◆◇◆◇◆


「お前が鎧の持ち主とはな。

 あまりにもタイミングが悪くて、うっかりとイコマの警告をシカトしちまったぜ」


 以前にもそういう事はあった。

 タイミング命の能力を持ちながら、こうなるとは。

 これも魔界の鎧が持つ特性の一つなのだろうか。

 イコマの野郎も、グスタフの時のように瞬時に激しすぎる警告を発してこなかった。

 あるいは、これも一種の慣れというものだろうか。


「へ、よくわかったな。

 せっかく上手い事芝居をしてやっていたのによ」


「生憎と、俺の相棒はいつまでも黙っちゃいないんでね。

 戻れと言われりゃ戻ってくるさ。

 貴様、稀人なのも嘘か」


「いーや? この小僧は確かに、お前らの世界から来た人間さ。

 だが、お前の能力は簡単には盗めなかった。

 あと、お前の持ち物も盗めれば、こいつがその知識で活用できたのによ。

 何か盗めないような仕組みになっていやがる。

 まったく厄介な野郎だぜ。

 それでも既製品の感知無効と転移魔法は頂けたからな。

 感謝しているぜ、バーカ」


「こ、この野郎、ふざけやがって。

 今しっかりと清めてやるから大人しく闇の世界へ帰れ」


「おいちゃん!」

「おう!」


 だが、いきなり爆発音が響き渡って、思わず振り向いた。


「こいつにも簡単な火薬くらいは作る知識もあったのさ。

 ああ、お前のユニークスキルや持ち物が手に入っていたならなあ。

 お前の強力な武器で世界中を爆破してやったのによ」


 さも、おかしいと言わんばかりに高笑いして、そいつは仰け反りまくった。

 ちっ、おそらく黒色火薬に長めの導火線を付けていたのか。

 ファルを殺してから即座に逃亡する予定だったか。

 こいつはまた面倒な。


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