69-7 狐と踊れ
「おかえり~」
おっと、おチビ猫がもう起きていましたか。
「ただいまー」
「ねえ、どこかいくの?
おまつり~」
「はいはい。みんなで一緒になー」
だが、エミリオは一緒に行けないようだ。
ハミル王女に拉致されてしまったらしい。
子供達と一緒に御昼寝を洒落込んでいたら、いつのまにか枕元にやってきていたという。
彼女も転移の腕輪を保有しているのだ。
そしてシェリー王女と仲良く御話をしていたそうな。
それから二人の王女に笑顔で引き立てられていったそうだ。
ま、まあ、王子様の御勤めだしね。
自分の姉と婚約者の仲がいいのは、そう悪い事ではない。
彼に着せられる衣装がどうなるかだけが問題なのだが。
それに王妃様も一緒に居るしね。
まだ小さな子供を着せ替えして楽しむのは、母親にとっての貴重な権利というかなんというか。
マジで俺にそれを邪魔する権利はない。
それに、年齢的にもう打ち止めと思われる最後の子供なんだろうから余計にね。
すまん、エミリオ。
この不甲斐ないアル御兄ちゃんを許しておくれ。
「えんちょうせんせい、おでかけはどこいくの~」
「どこー」
連中には、みんなで御出掛けするので待っているように伝えておいたのだ。
「みんなの先祖のいた国へ行くぞー」
「えー、あのおみやげのマズイくにー?」
「めいぶついがいなら、おいしい?」
「えーい、文句言わずにさっさと行くぞ」
ブツブツ文句を垂れている子供達を引き連れて、ゲートをケモミミハイムへと繋いだ。
そして再び驚いた。
踊っている。
みんな踊っている。
恍惚の表情で踊っている。
ここはケモミミハイムの王都ケモルだ。
商業ギルド前の広場にポータルを設定しておいたのだが、まるでマタタビを食った猫の如くにふらふらと、しかし激しく踊り狂っていた。
全身をくまなく使い、飼い主の留守中に二本足で立って踊りまくる猫のダンスのようにリズムとスピードに乗って激しく踊っていた。
手足を振り乱し仰け反って髪の毛も乱舞して、また前傾に丸くなって。
人というより、若干ケモノっぽい感じの踊りだ。
あるいは、日本人には絶対に真似のできない黒人系パワフルダンスに通じるものがあるような、パワー溢れる獣人ならではのダイナミックなダンスを御披露なさっておられる。
それでいて、その動きは実にしなやかだ。
もう完全に体の作りそのものが人族とは違う。
広場にいる獣人全員で踊っていた。
「えーと、これは……」
「へい、らっしゃい。
これは御祭ですよ~」
振り向くと、屋台のかっこいい狼耳の御兄さんが笑顔で答えてくれる。
「祭?
なんかヤバイ雰囲気じゃないですか。
何か薬物でも?」
「いえ? うちの国で祭といえば、いつもこうですが」
そうだったのか。
薬物は脳内で生成済みなんだな、きっと。
この国の人は、他国の獣人さんより若干ケモノ成分が多いのか?
他の国で生きている獣人さんは、その国の風習に馴染んでしまっているという事なのか。
真ん中に盆踊りの櫓があって、皆『浴衣っぽいもの』を着込んでいるのだが。
櫓の上では太鼓を叩いているのだが、その調子も何か夏祭りっぽくない激しいビートを刻んでいる。
だが子供達もちょっとうずうずしてきたようだ。
気が付くと、ゴーレム連中も混じって踊っている。
今日はケモミミボディを採用しているようだ。
ネコミミの斉藤ちゃんと狐ミミの沖田ちゃんが恍惚とした表情で踊り狂っていた。
ネコミミが、狐ミミが、狼ミミに虎ミミも。
熊ミミにタヌキミミ、犬ミミにウサギミミ。
もうミミというミミが乱舞していた。
昭和の時代のディスコも真っ青な、圧倒されるダンシングな光景が広がっていた。
「えんちょうせんせい、おどろー」
「おどってきていい?」
「そっかあ、じゃあみんな気を付けてなあ」
よく見ると、地元の子供達がいっぱい踊っていた。
何か物凄いテンションだ。
ハッと気が付くと、隣でシルが控えめなフォームで踊っていた。
おチビ猫も一生懸命に踊っている。
手をくるくる回して夢中で踊っている。
何か早回しで見ているかのようだ。
獣人なので、小さい子でもリズムが半端ない。
そういやこの子も、うちに来た当初から身体能力は凄かったような。
とりあえず俺も一緒に踊ってしまう事にした。
おチビのリズムには、とても付いていけないモンキーダンスだがな。
そのあたりは強大なHPでもカバー出来なかった。
リズムとパワーは別の能力なのだ。
子供達は違和感なく踊りの輪というか大集団の中で楽しんでいた。
己の魂を開放するというか、ルーツに触れて何かが魂から溢れてくるというのか。
今度、授業に創作ダンスを取り入れるかな。
前もやってはいたんだけど、今度はこういった感じの本格的な奴を。
それをやるのならダンス教師が必要になるが。
俺にダンスの指導は無理だ。
本場ケモミミハイムから一人二人ダンス教師として採用するか。
学園全体を見てもらおう。
小学校の方もどんどん生徒が増えていくしな。
一頻り踊った後で、人々は熱狂が覚めたように解散し、屋台で飲み食いを始めた。
あっという間に長蛇の列だが、俺達はさっきの間に買い込んでおいたので大丈夫だった。
やっぱり御祭りなんだから、食い物は地元の屋台で仕入れないとな。
ゴーレムどもは、いつの間にか通常ボディに換装しながら、両手に食い物を仕入れている。
「いや、これまたパワフルな祭だなあ。
そのうちに子供達の電池が切れそうだ」
「まあ、みんな楽しそうだし、いいんじゃない?」
けっこうサイラスの子供達は頑張っていた。
南の国の子供は元気一杯だ。
再びダンスタイムとなり、気が付くとトーヤが連れてきたと思しきドワーフの集団が踊り狂っていた。
そして、ついには自ら太鼓を出して叩き始め、ここのダンスに合わせて高速ビートで叩き始めた。
手元の動きが見えないんだが。
その動作そのものが、まるで一種の踊りになっているかのようだ。
熱狂した獣人達も、どこかから楽器を持ち出してきて奏で始め、初めてのセッションにしては見事過ぎる演奏を御披露してくれた。
トーヤ達も太鼓を出して叩き始めた。
ミミが揺れる揺れる。
屋台の御兄ちゃんの解説によると、通常の踊りは三十分のインターバルだそうだが、今回は一時間以上やっていたろう。
おチビ猫はダンスの途中で電池が切れた。
他の子も次々と電池が切れていくので、もううちは撤収する事にした。
祖先の地で、彼らの魂にも何か思うところがあったのだろうか。
そして帰ってきて点呼をしたら、なんと子供が百五人いた!
「あ、あれ? 五人多いぞ。
い、いや、それよりうちの子は全員いるか?」
俺も慌てて迷子札代わりに付けさせている腕輪を魔法PCでカウントしたが、全員ちゃんと揃っていた。
ちゃんと担当の先生がついて点呼していたので、子供を置いてきてしまうなんていう事はまずないのだが、それでも子供の数が合わないなんていう事があると引率責任者としては慌てるわな。
選り分けていくと、五人の子供達が残った。
見窄らしい格好をした、ちょっと痩せた子供達だった。
誰が連れてきたのかは一目瞭然だったのだが、一応確認だけはしておいた。
「お前達、親は?」
五対のミミが、軽く左右に揺れた。
「そうか。
じゃあ、着替えておいで」
「こっちよ~。
一緒にいらっしゃいー」
そそくさと真理が子供達を促して、御風呂場へ連れていく。
猫二狐一ウサギ二の可愛い子供達が、またうちの子になったようだった。




