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69-5 精霊鬼子

 本日は、無事に夏祭りの日を迎えた。

 全員、背中に白抜きの赤色で『祭』と書いた青い法被を着込んでいる。


 これは商業ギルドにもたくさん配ってあるし、アドロス代官のエドモント氏にも着てもらっている。

 シルにも着せてあるし、もうサイラスの子供達も来ていたので、彼らにも法被を着込ませている。

 男の娘回避をもくろむエミリオ殿下が、事前にこっそりサイラスへ行って頼んでおいたらしい。


「御願いだから、みんな朝から来てね~」


 将来は家族になる人だし、御祭自体に浮かれているので向こうも二つ返事でOKだった。

 サイラスの王宮では、子供達抜きでも問題なく祭りをやるらしい。


 護衛のバンダナ騎士団も本日は法被着用だ。

 こいつらはスタイルに違和感があるな。

 さすがに、こいつらからバンダナ(きしのほこり)を取るのは難しいので放っておいたが。


 みんなで子供神輿を担いで、朝から大騒ぎだ。

 ポールも自宅で仕上げてきた自慢の神輿を、他の子と一緒に担いでいる。


 おチビ猫が御神輿の上で踊っていた。

 山車じゃあるまいに、あんな子供神輿の小さな屋根に上ってよく落ちないもんだ。


 俺はヒヤヒヤしながら見ていたが、沖田ちゃんがつきっきりなので任せておいた。

 たぶん落ちたら、一緒にいる「御父さん」のアンソニーが先に受け止めるだろう。


 ジョリーやシルヴィも法被姿だ。

 他の精霊達も集まってきている。


 神聖エリオン様が大変張り切っていた。

 精霊達を御伴に引き連れて街中を練り歩いていらっしゃる。


 元気に精霊神輿を担いでいるようだ。

 まあ担ぐと言うか、精霊に担がせているわけなのだが。

 上にファルを祀っているので、御神輿ならぬ御神子輿(おみここし)になってしまっている。


「やあ、御祭だあ!」


 その肝心の神の子は、両手にリンゴ飴とチョコバナナを持って振り回しながら神輿の上から叫んでいらした。

 そのせいで、だいぶありがたみが薄れているのだが。


 俺は御神輿も充分に堪能して、法被姿でカップケーキを手に持っているおチビ猫娘を抱えて奥さんと軽く見て回る。

 うちは結婚前から、とっくにコブつき(大量)だ。


「いいわねえ、御祭。

 ねえ、レミちゃん」


 軽くネコミミ娘に頬ずりする奥さんと、嬉しそうにその頬を可愛らしい手で撫でるネコミミ娘。

 もうこの子は、ネコミミ公爵令嬢でもいいかもしれない。


 笛と太鼓をかき鳴らし、殆ど村の祭状態だ。

 王都からのバスは早朝から運行していた。

 運転手は、表面が金銀でキラキラのコーン状になった帽子を被っている。


 これも欲しい乗客の人には配っておいた。

 慣れない乗客のために車掌がついていて乗降の指導をしていた。

 料金支払いの無い無料バスだから、そのへんは楽だ。


 ゴーレム運転士は大量に用意してあるので、席が埋まり次第出発して、次がすぐ用意されていく。

 今日はアドロスも大賑わいだろう。

 来年は花火の時にバスを出すのもいいかな。


 気楽に自分で馬を飛ばしていく貴族の子弟なんかもいた。

 もっとも、そいつらはエルフ新町の「えるふの夏祭り」を目指していく奴らが殆どなのだが。


 連中は「ハイヤーっ」と、意味も無く気合を入れて浮かれている。

 心なしか、鞍上の気合が伝染したらしい馬も浮かれているようだ。

 馬ってそういう生き物なんだからな。

 エルフ新町には、本日は特別な水と人参、そして馬専用の回復士を大勢用意しておいた。



 キッチンエリや遊園地に行きたい人達も、交通手段があるのでアドロスへとやってくる。

 商業ギルド前のアドロス大広場では、絶賛屋台が営業中で、それはもうズラリと立ち並んでいる。

 材料が魔物肉なら、産地直送というか完全に地産地消の構図になっていた。


 フードコートセンターでは、法被を着たエリと所長を筆頭に気勢が上がっている。

 たくさんの幟が立てられまくっていて大盛況だ。


 わずか二年前までは、こんな事はなかった。

 だが今や、このアドロスがこの国の最先端なのだ。

 このフードコートにも、世界各国からの視察団が引きも切らない。

 やがては世界中でこういった施設が設けられ、定番料理から御当地料理までが手軽に味わえたりするだろう。

 各国の大使館から視察の要望があれば、うちのゴーレムが転移魔法で本国まで迎えに行くし。

 フードコートで働く人達の顔も明るい。



 花火大会で使った川原では、ポンポンと軽く花火を打ち上げて盛り上げていた。


 エルミアの子供達もエリーンが連れてきて、中央広場あたりを回っている。

 今日は混雑するので、彼らにもGPS代わりに腕輪を取り付けてある。

 連中が勝手気ままに走り回るので、うちのゴーレム連を御伴につけておいた。

 御蔭であまり手がかからないので、神父様御夫妻もゆっくりと楽しんでいるみたいだ。


 一応、冒険者達を借り出しておいたので警備の方も抜かりは無い。

 ゴーレム達もいるが、やはり要所要所に武装した冒険者を置いておくと防犯効果が違う。



 一通り見て回ったら、俺も屋台の準備だ。

 ポールとマリーを呼んできて、井上一家の屋台興行開始だ。


 うちはお好み焼き屋台なのだが、既にマイスタークラスの腕前であるエリーンがシェフとして屋台に入った。

 俺もエリーンと一緒に屋台に入った。

 そして公爵夫人が売り子を務める。


 客引きはフェルドとメルだ。

 二頭の巨大な魔物に観光で王都から来た人達などは驚くが、その頭には俺謹製であるキラキラコーンの帽子が載って無害さを主張している。

 それに俺が無理矢理作った法被っぽい魔物服を背負っているので飼い犬飼い猫なのは丸わかりだ。


「にゃあん」

「うおーん」


 媚び媚びな様子で客引きをしている二頭。

 遠巻きにしていた観光客が、おそるおそる訊いてきた。


「あの、これ……噛み付いたりしないです?」


 うん。

 噛まれたら、それどころではなくて食い千切られちゃうと思うけど。


「ああ、大丈夫ですよ。

 撫でたければどうぞ。

 でも、いきなり目玉に指を突っ込んだりしない事を御勧めしますが」


 そーっと、おっかなびっくりで巨大でもふもふな鼻面を触ると、そのまま顔を摺り寄せてくるので「はわわ~」な感じらしい。

 早速、お好み焼きをお買い上げだった。


 マリーとポールの方は新発売の、アイスシューてんぷらとポップポップドーナツの二点だ。

 そのままのアイスシューも売っている。

 危険な高温の油を使うので、マリーは外で売り子さんを務める。

 ポールには、ケモミミ園コックであるランドさんがついてくれていた。


 そして二頭の魔物はちゃっかりと一番乗りしている。


「はい、召し上がれ」


 マリーが「あーん」をしてやると、二頭がパクパクと食べる。


「むほー」

「みゃごー」


 二頭は腹ばいになると嬉しそうにバタバタやって美味しさをアピールしている。

 実に見事なサクラっぷりだ。

 だが、それに釣られて買ってくれる人もいたので効果は十分だった。

 まあ本当に美味しいんだけど。


 ドーナツは二つの味から選んでもらえる。

 今日はシナモンとチョコがけの二つだ。


「お、こりゃあうまいねー」


「このアイスのてんぷらは不思議な物だ。

 油で揚げてあるのに、中身は冷たくて甘いぞ」


 聞きつけた人達が集まってきたので、浮かれてふらふらと出歩いている沖田ちゃんと斉藤ちゃんを手伝いに呼び戻した。

 二頭も続けて客引きを頑張っている。


 そして、こっちにも客がなだれ込んできた。

 何しろ売り子がこの国の元王女様で、現公爵夫人なのである。

 実質、この街の領主夫妻が経営する屋台といっても過言ではないのだ。


 客の野郎率が異常に高い。

 中身もがっつり系のお好み焼きだしな。

 あと子供も多い。


 ポールの屋台の方にゴーレム二人をつけたので、売り子の応援としてエミリオが呼ばれてしまった。

 大国が奪い合った元王女と、国民のアイドルである弟王子が売り子を務める世界一豪華な屋台の誕生だ。

 お好み焼きを焼いているのも、この街の領主たる公爵その人なのだが。


 ペースが上がるにつれ、不器用な俺は段々と御手伝い的な雰囲気になってきた。

 とてもじゃないが、ついていけない。

 なんつうか、居たら邪魔な雰囲気というか。

 元々エリーンの手際の良さには及ぶべくもないのだが。


 エリーンが鬼気迫る様子で焼きまくっている。

 焼き上がりの管理も完璧だ!

 完全にワンオペ屋台と化していた。


 汗を拭き拭き、時折マリーが差し入れるアイスシューに舌鼓を打つ。


「世の中に、まだこんな美味しい物があったなんて!

 稀人文化は奥が深いわ」


 そして、がっつり系といえば、なんといっても神聖エリオン様だ。

 ちゃんと御小遣いをたんまりやってあるので、あちこちの屋台を制覇してきたらしい。

 神聖エリオンと精霊軍団の登場に、屋台に並んでいた人達がスパっと道を空ける。

 御機嫌なファルはファルスの霊翼を放出し、ちょっと神々しい御姿だ。

 本来なら、こんな屋台で拝めるような気軽なものではない。

 ファルスとは本来なら精霊の森にいるものなのであって、御祭りを練り歩く存在ではないのだ。

 客達は喜んで道を開け、ただひたすらに、その姿を拝んでいた。


 その口元がベタベタなので、宙に浮きながらシルに拭いてもらっている。

 御付きの精霊大神官とニンフも同様の有様だ。


「おいちゃん、お好み焼き五十枚ね!」


 何か鬼のような事を言っている奴がいる。

 だが、にっこりと笑ってサムズアップするエリーンがいた。

 俺のようなエセ冒険者と違い、彼女は筋金入りの冒険者なのだ。

 このくらいは修羅場の内にも入らないようだった。


 美味しい物は作るのも好きであるらしい。


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