69-4 祭りといえば
そして、祭りといえば!
そう、御神輿である。
町内で子ども会中心に担ぐあれだ。
昔は、あれを担ぐ子達は学校公認で早引けというか、公暇みたいな感じでいそいそと帰っていった。
生憎と俺は担いだ経験が無いのだが。
あれを町内会に寄付する会社や裕福な町内有志もいるが、結構馬鹿高いのだ。
小さくても三百万円くらいするような奴も平気で存在する。
さっきチラっとネットを見たら、二メートルかける一メートルサイズの重量二百キロはある金ピカの奴で六百万円以上していた。
俺はネットを見ながら作っておいた物を、アイテムボックス内の手加工で、ちまちまと修正をしていた。
ケモミミ園の大広間で、アイテムボックス内で弄っては外に出して確認する作業を繰り返している。
もうトーヤとエディが齧り付きで見学だ。
「すげえ、御神輿すげえ!」
「なんなのー、これ。
おいしい?」
ポールの眼も輝いている。
他の狐っ子も集まってきてしまって仕事にならんので、小ぶりの奴を各種材料も付けてキットのようにして二個ほどくれてやった。
「それ、お前らの好きにしていいからなあ」
「やったあ!」
一個はトーヤ達が囲んで、もう一個はポールがソロでやるらしい。
このポールは職人志望だ。
父親が残してくれた道具でこつこつと頑張っている。
今は俺がやった良い道具もたくさんあるのだが、なんとなく父親の遺した物を使っている事も多いらしい。
おチビ猫とマリーもそれを見物している。
日本でも町内でDIYして御神輿を自作しているところもある。
それらもパッと見には自作と気が付かないくらいよく出来ている。
よく見ると造りが日曜大工的な部分も垣間見られ、御手製である事がわかる。
小ぶりだから子供に担がせていたのだろう。
だが少子化したせいで子供会も解散したので、とうとう御神輿を担ぐ子供もいなくなって、祭りの日には毎回オブジェとして飾られているというオチがついていた。
そして俺は『型抜き』の最終調整を行なっていた。
去年は時間が無くて諦めたが、今年はじっくりと挑戦していたのだ。
型抜き遊びの経験者である山本夫妻の助言をもらいながら、各種デザインをこつこつと作り、具合を調整してきた。
ネットの映像から感じを掴んだり、掲示板の連中からも助言を貰っている。
こいつは難易度の調整が必要だから、種類を用意するのが大変だ。
エリーンやトーヤを始めとする凝り性なテストプレイヤー達に依頼して、念入りな調整を施してきた。
遊び終わった時に出る破片をファルが口に入れていたが、なんか微妙な顔をしていた。
「おいちゃん、これ美味しくないよ」
「そもそも食うために作ったんじゃないし」
うん、それって別に美味しいもんじゃないからね。
まあ青鰭蜥蜴よりは随分マシだろう。
夏祭りの準備は着々と整いつつある。
去年は俺が作った適当な赤い提灯しかなかったが、それらも新スキルで再現した物やネット見ながら作った物なども作ってみた。
あとケモミミ園で飾るように、子供達によるデザイン提灯も作った。
トーヤのオオカマキリ提灯は中々の出来だ。
ちゃんと提灯の素材を加工してカマキリの形に作ってあるのが秀逸だ。
緑色なのが提灯としては少し色合いがなんなのだが。
まあネオンの代わりだと思えば街が華やぐか。
エディの物には女将さんの絵が上手に描かれている。
どちらかというと母の日向きの品?
母の日は、幼稚園といいつつ実質的には孤児院である我がケモミミ園においては非常にやりづらいイベントであるので、今のところ未実施だ。
俺にはちゃんと母親がいたが、白いカーネーションという物に関しては子供時分でも複雑と言うか微妙な心境だった。
だって、その子達だけ可哀想じゃん。
もし母の日をやるとして母の絵を描かせたら、その多くは御母さんの絵として真理が描かれるのだろう。
エディは女将さんを描くとして、その他の子はシルが代理かな。
ファルやマリーは本当の御母さんがいる。
おチビ猫の描いてくれたのは、俺?
何か訳のわからない人型っぽいものだ!
だが周囲に魔導鎧っぽい物が描かれているので、きっと俺なんだろう。
そしてエリーンは、ここでも才能を発揮した。
「園長先生。
いいでしょ、これ!」
「ほお、やるな」
江戸時代の絵師が使うような筆で、ヘレンをモデルにした小料理屋の女将を浮世絵風に見事に描き上げやがった。
これは俺が買い上げてからコピーして、ヘレンの小料理屋の店先に飾る予定だ。
もちろん祭本番にも使うぜ。
他にもキメラやフェンリル、そしてドラゴンなどの絵も描いてくれて、それが奴らの住処に飾られている。
特に高知能なドラゴンは、そういう物に目がないようだ。
迷宮ドラゴンの文化魔物ぶりに、視察にきたミハエルが冷や汗を垂らしていた。
最近はロスコーのブラウンゴブリン達が人物画に目覚めていて、よくドラゴンとかを描きにくる。
まあ、魔物から見たらその辺りも「人物」の内に入るのだろうから。
奴らドラゴンはモデルをしている間はピクリともしない。
体内酸素の量が半端でないのか、モデルをやっている間は呼吸すら止めて、ほぼ静物画と化している。
一応は生物画なのだが。
昔の武士か芸者並みの心映えというか気概というか、並みの生物には物理的と言うか生体的に真似が出来ない。
少なくとも俺には絶対無理だわ。
代打、ダイオウグソクムシ!
今度ダイオウグソクムシを探しに行こう。
たぶん、こっちの世界にもあれがいるんじゃないか?
魔物である可能性もあるが。
ゴーレムに駿河湾っぽい感じの地形を捜させておくか。
あれの話をしてやったら、トーヤが欲しがってしょうがないし。
しかも、あれは食べても美味しい。
俺も水族館土産の煎餅なら食ってもいいかな。
あの形そのままで食うのは勘弁してくれ。
いつかうちのドラゴンどもは、モデルをやっている最中に息を止めたまま酸欠で死んでいたりするのかもしれない。
お前ら、芸術もほどほどにな。
ブラウンゴブリン達にもロスコー壁画風提灯を描いてもらい、夏祭りのシンボルとして各国へも配布した。
やっぱり本職は一味違うぜ。
その提灯を描いた印刷ポスターを、各国各地の都市の商業ギルドなどに張ってもらった。
キャッチフレーズは、「夏だ祭りだ御神輿だ」にしておいた。
まあ、そういう物は無理に捻らないほうがいいかもしれないな。
御神輿は他の国には普及していないのだが。
一応俺が作った大型の御神輿は、各地へ寄進しておいた。
もちろん、ここでいう神とは主神ロスの事だ。
親方達は自分達でも御神輿を作ってみるつもりのようだ。
ドワーフの国家特級技師達が総力をあげた御神輿か。
あそこの神はフレア神かな。
そんなもの、日本だと三千万円出してもはたして買えるかなあ。
オークションに出したら億銭が飛びかいそうだ。
きっと、それほどの出来栄えになるのに決まっている。
そこまでの値段となると需要があるかどうかはわからない。
だが、現物が手元にない今ですらドワーフ細工のファンも多いのだ。
そいつを3Dプリンターでフェイク作品を作って、ネットでアップしている人までいる。
そういう『ドワーフ・マニア』の称号を持つ人なら超高価な御神輿でも欲しがるのかもな。
「何かコミケみたいで楽しいですね」
葵ちゃんがうっとりしている。
あ、やっぱりそっち系なんだな。
漫画とか描いているし。
きっと、この世界でコミケとかをやりたいのに違いない。
薄い本とか流行らされたらどうしようか。
まあ、まずは厚い本から出さないとな。
俺も挑戦をと思い、自分でも筆を取り提灯に描いてみたのだが、絶望のあまりその場でボツにした。
だが、ハッと気がつくと後ろでミニョンパパが薄ら笑いを浮かべていた。
そして俺から筆と提灯を取り上げると、そこには見事に修正された可愛いおチビ猫がいた!
な、なんという屈辱か。
「どうやらこの世界の魔物は、地球人よりも芸術の才に長けているようだ」
山本夫妻にそう言ったら、二人共提灯を手に取り見事な絵をサラっと描いてみせた。
「私、美術の評価は十だったんですよ」
「ああ、私も実家の店の提灯とかを手作りにしていまして。
あと職場だった和菓子店用にも」
う、裏切り者ども~。
しかし山本さん、提灯まで作るのか!
シルは可愛いエミリオの絵を描いていた。
可愛いドレスを着せたバージョンと、五月病騒ぎの時のピエロバージョンと両方。
描いている時に、何か唇の端に妙な薄笑いが張り付いている気がする。
ま、まあエミリオは本当に可愛いんだけどな。
果たしてシェリー姫は、姉の魔手から婚約者を守りきれるだろうか。
いつの間にか親方とアニキがやってきて、おチビ達が太鼓の練習をしていた。
狐っ子がメインとして集まって御狐太鼓隊になっていた。
実に可愛らしい事この上ない。
こういうのって日本でも稲荷神社とかで需要がないだろうか。
神使スタイルで、有名稲荷神社のPVでも作ってみるか。
どっちかというと太鼓はタヌキの領分なんだけど。




