69-2 御祭り準備は御祭り騒ぎ
アドロスの街中で、祭りの準備をする音が響く。
屋台の準備に、看板作りに、飾り付けなどなど。
素材や材料などは豊富に回してある。
アドロスの街の子供達も、刷毛でペンキを塗るなどの御手伝いに忙しい。
祭りは王都でもやられるのだが、何せ本場はこっちなのだ。
アドロスで楽しんだり、王都から祭りのはしごをしたりする人もいるはずだ。
フードコートや屋台村でも夏祭りフェスティバルを開催の予定だ。
エリは、こちらアドロスの祭の大会委員長となるので、自分では屋台を出さない予定だ。
俺とポールは同じ場所に屋台を並べ、エリーンを警備という名の御手伝いに置くつもりだ。
一応、斉藤ちゃんと沖田ちゃんを駆り出す予定なのだが、あいつらは猫みたいに気まぐれだからな。
今年はエルフの里からはオブザーバーで参加がある。
しかもエルフ新町では「えるふの夏まつり」を開催するらしい。
ちくしょう、絶対に見にいくぜ!
脳内シルに抓られちゃったけど。
アルスとグスタフは向こうでの参加だ。
アルスは、下手をすると最初で最後のエルフの夏祭になるかもしれん。
まあ俺から言わなくても、アルスなら勝手に楽しみまくっておくと思うのだが。
新しく来た魔物のフェルドとメルも、なんだかそわそわしていて、その辺をうろうろしている。
人間達の浮かれ具合が、こいつらにも伝染するのだ。
さすがに勝手に出かけてはいかないが。
ニャンコはともかく、ワンコは散歩に連れていかないとな。
プリティドッグの奴らは好き勝手に出歩いている。
もっとも、あいつらは別にうちの飼い犬じゃないのだが。
「よし、お前ら。
御散歩に行くぞ」
「ウオン!」
「グルウ」
ファルとレミと斉藤ちゃんを御伴に、犬の散歩と洒落込んだ。
裁縫グループが作ってくれた可愛い魔物服(ほぼマフラー状の前掛け)をつけて御機嫌な二頭は連れ立って歩く。
うちの新ワンニャン・コンビは、もう街から認知されているので、この剣呑な魔物を散歩に連れ出してもそう何も言われない。
この街の人は俺のやる事にはもう慣れっこなので、何が起きても動じない構えのようだ。
元々が魔物溢れるダンジョンの街なのだが、あいつらも本来はダンジョンの外にいてはいけないものなのであった。
「おかしな事・妙な事はケモミミ園から始まる」
これは既にこの街での常識だ。
しかし尻尾抜きの頭と胴体だけで全長十メートルレベルの魔物はいつ見ても壮観だ。
地球、いや日本でこれの散歩をしていたら大騒ぎになるだろう。
金持ちの溢れ返るドバイあたりとかだと、物好きな金持ち連中の新しいペットという事で済んでしまうのかもしれないが。
あの人達は、超高価なオープンカーにペットの虎とかを乗せて、平気で街に繰り出して見せびらかすからな。
でもドライブの途中で猫のスイッチが入って暴れ出したらどうする気なんだろうな。
やっぱり地球もイカレているぜ。
そしてフェンリルもマーキングをするのだと、こいつを飼うようになって初めて知った。
ダンジョン魔物も、ダンジョンから開放されたものは野生化して「魔物の本能」に忠実になるようだ。
おそらくダンジョンが天然に存在する魔物のデータを利用してダンジョン魔物をポップさせているのだろう。
オリジナルで作り出す魔物もいるようだがな。
しかし、自分からダンジョンの外に引っ越したがる奴も珍しい。
それも全部、あのアドミンがいけない。
こいつは、さすがにAランク(今はSSランクに強制ランクアップ)だけあって、無闇に吼えたりはしない。
月に向かって、ちょっとうずうずしているようだが。
満月の晩は少し離れたところへ連れていって好きなだけ吼えさせておいた。
俺も一緒に楽しく吠えておいたよ。
そういうのって、犬の飼い主にとっては大切な嗜みの一つだよな。
ペット、特に犬とは喜怒哀楽を共にしなくては。
キメラは吼えたりしない。
喉をゴロゴロさせているだけだ。
ここでは粋がった冒険者に喧嘩を売られる事もないし。
元々キメラというものは、そう簡単に対峙できるような安直な代物ではないし、こいつと闘えるような高ランク冒険者は基本的にそんな馬鹿をやったりはしない。
フェンリルのパワーとスピード、キメラの手強さとしぶとさは知れ渡っている。
この階層ボス魔物二頭を相手に闘えと言われたら、誰でも嫌な顔をするだろう。
ちなみに、こいつらの首輪にも魔道鎧のスキルを仕込んであるので、二頭共すでに魔道鎧を習得済みよ。
並みの人間風情には絶対負けないぜ、わははは。
さすがは上級魔物だけあって人間のように温くはない。
二頭ともあれを、なんなくスパっと習得したもんだ。
こいつらって魔力量も豊富だしな。
まあ人間の中にもグスタフのように一発習得してしまう、とんでもない奴がいるわけだが。
街中で祭りの仕度が進んでいるのを見届けて俺も満足だ。
フードコートも見にいってみた。
「やあ、所長。御精が出ますね」
「おや、公爵様。
おお、フェルドにメルも、おはよう」
そう言って二頭の頭を撫でてくれる。
この人も元は行商をしていて、冒険者としてもそれなりの腕だ。
所詮はペットに過ぎない、うちの子に動じたりなんかはしない。
元はロゴスのところで働いていた人だ。
何気にうちは人材泥棒だったりする。
その後釜を育てる費用くらいは出させていただいているが。
二頭も尻尾を振って彼に鼻面を寄せる。
魔物だって動物みたいなものなのだ。
自分に好意を寄せてくれる人間にはきちんと応えてくれるもんだ。
「祭りの準備は着々と進んでいますね」
「ええ、準備中も活気が出てよいものです。
この街も以前に比べて随分と景気もよくなりましたから。
こういう催しは積極的に開催して、良き商機を見出したいものです」
「他にも色々考えてはいるんですよ。
稀人の国もこういうものには目がなくて」
「そうですか。
楽しみにしていますよ。
ここは、あなたが資金や情報、そして物品などを提供してくださるので、この世界の最先端のようなものですから。
遊園地も賑わっているようで、そちらの御客様にも来ていただけていますし」
人が来て消費行動が起きるから、自然とこの街に金も落ちやすい。
離宮の方も、庭園とかはいずれ一般の人にも見学の許可を出そうと思っている。
街の観光の目玉になるのを期待して。
今はまだセキュリティには十分に気を付けているのだが。
入場の際には、もちろん街の入り口と同じような賞罰確認のシステムは取り入れる。
持ち物検査も必要だ。
収納のスキルや魔道具の有無も確認させる。
街に人を呼ぶのも領主としての重要な務めの一つだ。
それもまあ、ゲルスとの一件が片付いてからだな。
あと何かまた別の目玉になるような物を作るかな。
街の環境整備なんかもやろうと思っている。
盗賊ギルドの連中も、この街には見切りをつけて殆ど残っていないようだ。
この俺がいるだけでも絶望的なのに、王国の御姫様が御嫁にやってきてしまったのだ。
当然、王国も厳重に眼を光らせている。
それに王国騎士団が頻繁にやってきているので。
何か行事があれば、他国の王国騎士団までやってくるのだし。
元々、この王国を揺るがした大事件の舞台になったのだ。
もう御目溢しは許されない。
この王国所縁といっても過言ではない稀人も大きく関わっていたのだ。
もはや甘い事は一切無い。
美味しい思いはもう出来ないので、連中も王都へ行くなり地方に散るなりと何処かへと消え去った。
お寺の渋い魅力も、王族貴族関係から仕込んでいこうかと思っている。
初代国王・船橋武所縁の日本の宗教施設だからという事で、貴族達も興味を持ってくれているようだ。
異世界苔生し寺の方も、もうすっかり立派な趣きを魅せている。
完全に寺に馴染んで居坐っている苔精霊どもの御陰で、俺が作ったナンチャッテ寺とは思えぬほど大変風情のある佇まいを見せているのだ。
設備もそれに合わせて風情のある雅な物を充足していった。
以前はフードコートしかなかったこの街の売りも、今は色々と賑わいを見せつつある。
やはり交通機関の整備は必須かな。
地下鉄なんかも悪くはないのだが、後の整備を将来のグランバースト公爵家でどこまでやれるものか。
とりあえず、バスかモノレールでやってみるか。
「なんかキャッチフレーズが欲しいところですね」
「キャッチフレーズですか」
所長は少し考え込む風だった。
あまり、そういう事はやられていないのかもしれない。
「また考えておいてよ。
そういうものもトーヤあたりに任せておいたらいいかもしれないし」
今のところは、「美食と観光とダンジョン探索の街」っていうところかな。
元々歓楽街のようなところもあったが、そちらの質を上げていくのもいい。
ショービジネスにも手を出していきたいが、そちらはアトラクションという形で遊園地に増設していくのも悪くない。
東京の有名なテーマパークみたいに、お酒も飲めてショーを楽しめる『大人の遊園地』というコンセプトで遊園地に隣接させるのも面白い。
そして祭の次なる準備のために、俺達は散歩を切り上げた。




