69-1 御祭の季節
今年は花火を先に入れたので、祭の開催が去年より遅めになってしまった。
日本の夏祭りみたいに一緒にしてしまっても良かったのだが、まあ別でやった方が楽しみもあるし経済も回るので。
去年の夏祭りは帝国関係が攻めてきていたのでドタバタして終わってしまったのであるが、今年はじっくりと準備を進めてもらっていた。
そういや去年はリックのお好み焼きを食っていたりしたよな。
あいつももうこの世にいないし、あいつを片付けたらしいバランの奴も同じくいない。
両者とも、この俺が謀で始末したのだ。
もう、そういう過去の騒乱の話が懐かしい遠い思い出でしかない。
行事がいろいろあったし、おまけに結婚までしたのだ。
それ以前にケモミミ園の子供がどんどん増えていくので、そんな些事を気にしている余裕がまったくないのだった。
アルバトロス王国を中心に浴衣なども広まっており、今年は他国でも夏祭りが開催される事になった。
ハイド・サイラス・帝国・ザイード、そしてドワーフ国であるエルドア王国が参加する。
エルドア王国は特に誘っていなかったのだが、自主的に事前に申し込まれてしまった。
親方が押しかけてきて来て嫌も応も無い。
「おい、アル。
祭りだ!
今年も祭りの季節がやってきたな!」
筋肉達磨の満面の笑顔がそこにあった。
申し込みもへったくれもない。
既にやる気満々であった。
今年もって、あんたらは自分でやるのは今年が初めてでしょうが。
だが既にどっぷりと稀人色に染まった筋肉達磨には、人の声は通じていなかったようだ。
いや、それは今に始まった事ではないのだが。
基本的に中立(他人の話を聞いていないだけとも言う)のエルドア王国を除けば、まるで同盟国の合同行事であるかのようだ。
いわば同盟国協賛っていう奴だな。
そして、なんとゲスト開催としてケモミミハイムでもやりたいらしい。
あそこは、なんとなくオリジナルな祭りになってしまいそうだが。
参加者が全員ケモミミ獣人という、実に壮観な御祭りになりそうだ。
主にミミと尻尾の揺れっぷりが。
当日は、ちょっと行って見てこようかな。
「グランバースト公爵、我が国でも夏祭りは是非開催したいものですな」
相変わらず可愛いミミを微妙に動かして、あざとく人の心を誘いながら、タヌキミミ大使ことエルム公爵がケモミミ園を訪問してきた。
タヌキミミ大使様はやりたい意向を示しておいたので、あれこれと一式売り渡しておいたのだが、どんな事になっているか心配だな。
一応は指導員としてゴーレムを派遣しておいたのだが。
結構獣人の人も、人の話を聞いていない奴らが多い。
十三か国との関係でも、それが微妙に響いていたりする。
今年はゲルスの話があるので、メルス大陸を代表してケモミミハイムが同盟国扱いで参加の方向でもいいか。
十三か国連合がまた暴れるような事があってもいけないし。
各国の現場には、そっとゴーレム隊を派遣してある。
何かあったら連中が対応してくれるだろう。
あいつらも仕事より祭を楽しんでいたりしそうだが。
屋台となると張り切っているのがエリなのだが、今年は下の子達が張り切っているようだ。
あそこの家はポール中心で頑張る所存のようだし。
ちなみにポールは、今ケモミミ小学校に通っている。
本当は二年生になる年なのだが、二年生クラスはまだないので一年生クラスだ。
彼は超イケメンなので、女の子達からも大人気だ。
御母さんも今は働きに出ているので、マリーも一緒に幼稚園に通っている。
幼稚園の送迎バスはなくても、御姉ちゃんが転移魔法で迎えにくるので大丈夫だ。
母親と姉が忙しかったら、迎えに来るまでケモミミ園か離宮で預かっておけばいい。
どうせ小学校が終わったら、御兄ちゃんが面倒を見にやってくるので。
ついにケモミミ園もケモミミ無し園児(外部生)を通わせているのだ。
別に狙ってケモミミの子ばかりを集めていたわけではないので、それも特に問題はない。
マリーも御針子の母親がいるので門前の小僧なのか、御裁縫には興味があるようだ。
早速カミラ達に混ざってドタバタしていた。
あと、この子はキッチンエリの「味覚番」なので、食事関係で色々と話題になった。
ケモミミ園の食事のレベルも若干向上したのだ。
これは凄い事なのだが。
何せ、ここは世界の食の最先端をいく場所なのだ。
うちには地球のレシピを知る料理人である山本さんとエバンス爺さんもいるんだからな。
俺も密かにお好み焼きの修行をしていた。
去年はリックの野郎にしてやられてしまったしな。
稀人公爵としては、ちょっと譲れない線だ。
名古屋式という事で、これを練習している。
俺が名古屋の店で食べていたのは名古屋式なのに違いない。
ホットケーキみたいに両面焼いてあったし。
うちで作る時も必ず両面を焼く。
というか、お好み焼きなんて両面を焼かないと生焼けになってしまうじゃないか。
表に火が通るように焼き過ぎると、裏っ側は焦げ焦げになりそうだし。
他にどうしろというのか。
これは神戸式と言われたものが、名古屋に伝わり残ったという説もあるが。
広島とか他の地方の物は、これとは違うっぽい。
地元の御祭り屋台で売っているのを食べていた物は、それとは何か違っていたようだしと、異世界にやってきた今頃になって気付く。
そのあたりの記憶も既に朧げだ。
名古屋式は二つに折り畳んでいたりする物があるらしいが、そいつは食べた事が無いのでよくわからん。
とりあえず、そいつはパスだ。
オムソバなんかだと、そんな感じじゃなかったかなあ。
オムレツと一緒で、綺麗に美味しく焼くのが難しそうだ。
俺は未だにオムレツが美味く焼けない。
ネット動画を見ながら作っても、まったくもってちゃんとした形にならない。
あと我が家でやっていた、お好み焼き風な? 食べ物も作ってみた。
成分というか、材料はよく覚えていないのだが、多分小麦粉を水に溶いただけの生地を薄くフライパンで焼いた物である。
塩とかを入れていたものか、生地の調合風景をよく見ていなかったので、そこは定かではない。
まだ子供だったから、出来上がった生地を焼いて食う事にしか興味はなかったし。
それ自体は大して味がしなかったような、限りなく戦時中の食べ物に近い代物だ。
配給の小麦粉を、他に混ぜる物がないため、そのまま水に溶いて焼いたという感じの代物だった。
この井上家伝統である小麦粉製の食べ物は例によって妙に堅い。
何がいけないのかよくわからないのだが、うちの平焼きパン系のメニューは何故かやけに歯応えがある。
具材は、当時冷蔵庫に常駐していた竹輪と蒲鉾がメインで、あと削り節にソースといった味付けで食べる。
トッピングは紅ショウガあたりだったろうか。
こいつは薄いので何枚でも食べられる。
ロシアあたりでも、この手の薄いパンとかを焼く人もいるよな。
あれは皿に積み重ねていて豪快にやっているけど。
うちは、わんこそば方式であった。
そうたいして上等な食い物ではないのだが、何か懐かしい。
これは賄い飯に決定だな。
うちの親は戦前の生き物なので、まだ日本でお好み焼きなどという上等な食べ物が普及する前、しかも食べ盛りの頃に戦争による食糧難を迎えたので、材料的に贅沢な食い物であるお好み焼きには少し抵抗があったようだ。
我が家では、よく「すいとん」も食されていたが、贅沢者の俺は食うのを断固拒否していた。
「えー、美味しいのにー」とか姉や母に言われていたのだが、俺は騙されないぜ。
我が井上家のああいうものは、大概まずいと相場が決まっているのだ。
日本では、戦争の時代を忘れないように敢えてわざわざ昔風の「すいとん」を食するなどという方もお見えのようだが、我が家ではごく普通に消費されていた食い物だった。
今風の贅沢な奴ではなくて、戦時中のすいとんそのものである。
具(小麦粉を水で練っただけ)の分量だけは多かったが。
スープの味付けだけは、それなりに贅沢になっていたのかもしれないが、俺はそのような伝説の美食は食った事が無いので比べようもない。
まあ、あのお袋の事だから、ほぼ昔のまんまの代物じゃなかったのかな。
平和な日本とは違い、現在我がアルバトロス王国はゲルス共和国と絶賛戦争中(小康状態)であるが、我がケモミミ園においては、すいとんなんていう粗末な物には縁も所縁もない。
困るのは非常用に置いてあるカップ麺が、ケモミミチビどもから常に狙われている事だ。
確かに自衛隊でもカップ麺はケース単位で発注されている重要な糧食なわけではあるが、あまり良い食い物ではないのだが。
塩分も多いし添加物もあれこれと入っている。
熱いスープにマイクロプラスチックも溶けだすし。
子供にはなるべく食わせたくないと思っているのだが。
この世界では高級品であるドラゴン肉よりも、カップ麺を食いたがる子供が多くいるのは困ったもんだ。
まあ、その気持ちはわからんでもないのだが。
小学生の頃、母子家庭の鍵っ子であった友人の家に当時発売になったばかりの元祖カップ麺が大量にあったのを見て、実に羨ましいと思ったものだ。
あの頃はカップ麺なんて、あれ一種類しかなかったので、そいつだけが冷蔵庫の上に山盛りになっていた。
カップ麺はうちでは食わせてもらえなかったので。
何せ、日本でも初めての食い物だったからなあ。
うちでは骨が溶けると評判でスポーツ選手は飲んではいけないなんて言われていた炭酸ジュースも禁止だった。
小学生時代の俺にとってカップ麺は、決して口に出来ない幻の高級品だったのだ。
なんていうか、大人にとってのキャビアとかフォワグラあたりに相当したのではないか。
大人になるにつけ、鍵っ子のそれがあまり嬉しくない事なのだとわかってはきたが、当時は素直に羨ましかったものだ。
カップ麺も、よく見ると原料だって凄い。
化学調味料やその他の調味料、各種食材から作り出された様々なエキスとか。
スープの原料を見ただけで眩暈がしそうだ。
各種様々な専門技術の結晶であるのだ。
あれは本来一人の人間が何もかもを作れるような技術などではない。
この異世界で元本の現物無しで一から作れと言われたら、さすがに無理な代物だった。
まあ、カップ麺は地球でも世界中で十億食単位で愛されているからな。
日本企業の海外工場で生産されていると、それが日本の食い物だと認識されていないくらいだ。
そういう外国のカップ麺の味はもう日本人の味覚の外にある製品も多いのだが。
はっきり言ってマズイ。
激マズだ。
外人さんって日本へ旅行に来て、本当に日本の飯を美味いと思ってくれているのか?
奴らの味覚と日本人の味覚の間は百光年ほど隔たりがあるような気がする。
また王族の子達も、油断すると棚からカップ麺を引っ張り出して食っていたりするので困ったものだ。
そんなに好きか、カップ麺。
こっちの世界に来る際には、家にあった常備品の奴に加えて、立ち寄ったコンビニで人気のカップ麺を全銘柄大量に買って持ち込んできたのだが。
まあ祭りで何か困ったら、エリーンの奴を助っ人に呼んでくるとしよう。
とりあえず、俺の目標は『お好み焼きでリック越え』かな~。




