68-4 終着のリピテイション
「あっはっは。
何かこう盛り上がってきたな」
グスタフは今回のミッションの困難さを陽気に笑い飛ばした。
こういう男だからこそ頼りになる。
俺達は今、「神の眷属らしき者に挑む者」なんだぜ。
これくらい余裕でなくっちゃな。
そして俺達は一応の備えとして魔力糸で全員を繋いでから扉に手をかけた。
再び目も眩むような光に包まれて、俺達は三番目のダンジョンへと無事に移行した。
全員、ちゃんといたな。
ベル君がいなくなると、それが一番厄介なのだ。
さすがよくわかっているグスタフが、しっかりとベル君の首根っこを抑えている。
それから俺達はまたダンジョンを歩き出した。
ダンジョンレーダーも既にセット済みだ。
ファルがダンジョンレーダーを覗きたがるので俺が抱っこして歩く。
歩いた、歩いた。
そして、やっぱり次のダンジョンには辿り着かなかった。
既にファルは鼻提灯を生産しだしている。
やれやれ、またか。
「また化かされてるんですか?」
ベル君は右手の人差し指で眼鏡の位置を直しながら、若干うんざりしたような声を出してくる。
彼はもう足が上がっているようで、若干足を引き摺るような感じでついてきている。
「わからん。
だが結構歩いたから、この辺で御昼御飯にしようか」
「おっひっる~!」
御昼と聞いて起き上がった神聖エリオン様はランチタイムに大変乗り気だ。
リュックの中には、おやつしか入っていないので、ファルスの自家製アイテムボックスから御弁当を取りだした。
ドカベン!
御茶の入った水筒は、女の子向けのキャラクターが描かれた可愛い奴だ。
アニメ柄のピクニックシートを敷いてやって、その上で食べる事にした。
俺もオニギリバスケットを取り出して腹ごしらえだ。
これも実は奥さんが作ってくれた愛妻弁当だったりする。
シルの手で作ったので少々小さいのだが、オニギリは二十個くらい入っている。
おかずは少々焦げが目立つ、やや甘めの卵焼き。
後は荒挽きウインナーと、わざわざ作っておいた焼くだけで完成する特上ハンバーグだ。
この巨大なドカベンが、ファルスとして成長期を迎えたこの子にとって最近のマイブームらしい。
小さな体には不釣り合いなほど大きな御弁当箱に、白米のびっしりと詰まった深めの御弁当。
その右半分近くにまで、おかずがぎゅっと詰まっていて、フリカケと海苔でキャラクター・デコ弁になっている。
これはコックのランドさんが最近凝っているらしい。
そっちの指導は葵ちゃんがメインだろう。
まあ、彼も幼稚園のコックさんなのだからな。
完全に日本の御母さんスキルだ。
葵ちゃんも、そのうち御母さんになるのだし。
俺も各種情報提供に余念がない。
御飯の真ん中には梅干が収まっている日の丸弁当だし、こちらも卵焼きは絶対に外せない。
その他のおかずは、ハンバーグにミートボール、唐揚げやタコさんウインナーなどの色々とずっしり系だ。
ホウレンソウの御浸しや沢庵なんかも、是非入れてほしいチョイスらしい。
おかずも一品あたりの量が半端じゃない。
ほぼ肉体労働者か部活男子高校生のアイテムだ。
神聖エリオン様は、握り締めた箸で、それはもうモリモリといっていなさる。
その一方でベル君は、かなり疲れたらしくて食が細い。
ホットドッグのようなタイプのサンドイッチを、もそもそと食べていたので、目の前にどんっと唐揚げを積み上げてやった。
まだ若いんだ。
肉を食え、肉を。
俺だって若い頃は、おっさん達からそう言われたもんだ。
ベル君は、うわあというような顔をしてこっちを見たが、奴も諦めて唐揚げを食べだした。
またグスタフは、巨大な、まるで大きめのフライパンを目一杯使って焼いたのかと思うようなパンを取り出した。
そいつは直径三十センチはありそうな代物で、非常にズッシリとした感じなのが、セブンスセンス抜きでも見ただけで理解できる。
そいつは平たい巨大パンズのような物で、真ん中で上下に切られていて、その中に具を入れるらしい。
とてもじゃないが、どう見てもハンバーガーには見えない物体だ。
密度そのものが違う。
パンも具の肉もアイテムボックスの中にあったので焼き立てそのものの美味しさだ。
辛子バターを豪快に塗りたくり、サラダ菜のような野菜をたっぷりと敷き、その上にトマトと玉葱を敷き詰めて野菜用のソースをかける。
その上にたっぷりと薄切り肉を敷き詰め、そこへアルフォンス商会謹製のケチャップとマヨネーズを御見舞いして、豪快な戦士の昼食の出来上がりだ。
ざっと巨大ピザ五枚分以上のボリュームがありそうな気がする。
そして飲み物はコーラなどではなく、さっぱりとする缶入りウーロン茶という渋いチョイスだ。
超巨大バーガー? に齧り付く逞しい戦士を見て、ベル君が胸焼けしそうな顔をしている。
うちのお袋がフライパンで作ってくれた巨大な卵入りのパンを思い出すな。
あの頃って御飯が一番美味しくて丼飯をかきこんでいた時代だったから、そういう物を持たせてくれた。
確か給食の無い土曜日にクラスのみんなで先生と一緒に学校裏の池のある大きな公園へ遊びに行くので、その時に弁当として持っていった奴だ。
あれは膨らし粉が入っているはずなのだが何故かあまり膨らまなくて、堅めで思いっきりズッシリとしていた謎のパンだった。
ゴーレムどもは、何故か三重になった御重の大名弁当を広げ、優雅に茶まで点てて楽しんでいる。
特に食う必要もないはずなのにな。
真理もカウボーイ姿はやめて、彼らと一緒に着物姿になって楽しんでいた。
食後にファルの御昼寝タイムがあったので、ゆっくりする事にした。
ベル君もまだ休憩が必要なようだ。
斉藤ちゃんが、二人を団扇で扇いでやっている。
「なあ、グスタフ。
そういや、お前ってもうSランクを目指さないのか?
確かSランクになる目的でAランク試験を受けていたんじゃなかったっけ」
「ん? ああ。
もうSランクになる目的だった呪いの鎧も脱げたしなあ。
そう無理をする事もないし。
まあ、おかしなドラゴンでも出たら退治しておくかな」
そうなのか。
相変わらずマイペースな奴だ。
「そういや、お前の家は帝国貴族なんだったよな。
実家へ帰らなくてよかったのか?」
「うーん、あの鎧のせいで婚約も破談になってしまったし、色々と帰り辛いな。
まあ、うちは昔のアントニオの家ほど悲惨な事になっているわけじゃないし。
それに俺は三男なんだ。
居ても居なくても、そう変わりはしないさ。
あと、あのエルフ新町は居心地がいいんだ。
訳ありの住人ばかりだが、みんな気持ちのいい連中さ」
まあ、本人がいいならいいんだが。
そのうちに話を聞いておかないと、と思っていたので良い機会だった。
訳ありかあ。
確かに本人のグスタフを始め、アルスといいエルフ達といい、住人はそういう奴らばっかりだな。
ドランの奴は、いつかグスタフを側近に迎えたがっている感じなのだが。
これほどの騎士を遊ばせておくのもなんだし。
あそこは、まだまだ人材がジリ貧だからな。
まあ、今はのんびりしていてもらおう。
やがて寝ていた二人が起きてきたので、探索を再開する事にした。
「また歩くんですかー?」
ちょっとベル君から泣きが入ったので、軽く持続回復魔法のリジェネレートをかけておいた。
これは必ずしも楽が出来る魔法というわけでもない。
一見して便利そうに見えるけれど、どちらかというと「苦しくても無理が出来てしまう」という内容になる。
考え方としては栄養ドリンクのイメージに近いかもしれない。
後でヒールでもかけておいた方がずっとマシなのだ。
その割に魔力を食うので、少し使い勝手が悪い魔法かもしれない。
だが、ここは遠慮なく使わせてもらった。
ニヤリ。
「じゃ、とりあえずイコマさんや。
頼むわ、もう完全に御手上げだぜ」
だがあいつは、今度は俺の頭の中に白抜き鍵括弧の文字メッセージでこう語った。
『探しても見つからないもの。
それは探さなければいい』
はあ?
じゃあ、どうしろというんだ。
相変わらず難解な事を言う奴だな。
探しても無駄なんだと?
ん?
探さないでいい、か。
という事は、もしかしてもう見つかっている?
え?
だって、そうなると。
いや、まさか、まさか、まさか。
ここが……ここの三番目だと思っていたダンジョン自体に、もしかして『今捜しているダンジョンの次のダンジョン』への入り口があるのか?
うーん、これは!
俺はダンジョンレーダーをセットし直して「五番目のダンジョン」の入り口を探した。
そしてなんと、壁に触れる事すらしなくとも目の前に扉が広がった。
さすがにそれには驚いたのだが、これはこのダンジョンに入った最初の時にセットしておかなかったせいなのだろうか。
探しに行く事すらしていないのだが、何故か管理者は扉を開いてくれた。
「ばれちゃあしょうがねえ」ってかあ~。
それを見て驚くメンバー達。
だが俺は呆れたように呟いた。
「なんてこった。
今度はダンジョンレーダーの死角を突いていたのかよ」
この機械は、探すようにセットされた次のダンジョンを一つずつ探すように出来ている。
だが、俺達はアドミンの奴に次のダンジョンへと、さらっと送り込まれていたようだ。
三つ目のダンジョンとそっくりな双子のダンジョン、四番目のジェミニ・ダンジョンに。
いつの間に放り込まれたものやら。
俺はレーダーを使い、四番目のダンジョンを探していたのでわからなかったのだ。
探している四番目のダンジョンへ通じる扉は、もう通過してきてしまった。
だから、ダンジョンレーダーは正しい情報を表示できなかった。
おそらくは二番目のダンジョンでセットした後で三番目のダンジョンへの扉を潜ってから、俺が四番目のダンジョンを捜すようにダンジョンレーダーをセットした後で、三番目のダンジョンから四番目のダンジョンへ続く扉を、気付かない内にスキップで瞬時に通過させられていたのだ。
これが、まったく構造の異なるダンジョンであるなら、レーダーの針がおかしな挙動を示したのかもしれない。
だが、そっくりな双子のようなダンジョンの中で「そこにあるはずのないダンジョンの入り口」を探し続けることになってしまった。
おそらく、このレーダーは扉の位置を探知して、そこを通して次のダンジョンのMAPも入手する構造になっているのだろう。
三つ目のダンジョンと四番目のダンジョンは、完全に同じMAPになっているのだ。
なんというか、コンビニ支払いになっている未払いのガス料金が先月未払いだった料金とピッタリ同料金だったため、既に払ったと勘違いしたみたいな感じだろうか。
前にそういう事があって、一回未払いになってしまった事があった。
五番目のダンジョンへの扉を捜さねばならない場所で、ダンジョンレーダーは延々と今いる四番目のダンジョンへ続く扉を捜し続けていた。
それは一つ前の三つ目のダンジョンに在るものであり、ここ四番目のダンジョンには絶対に存在しない物なのだ。
全部で十二しかない貴重な駒であるダンジョンを丸ごと一つ捨ててでも、こんな呆れるような罠を仕掛けてくる。
アドミン……なんて野郎だ。
こいつはまた頭が痛いな。
「前回の時は使われなかった新しい手口のようねえ」
真理が感心したように言う。
しかし、これはどういう試練なんだろう。
一体何を試しているのだ?
むしろ表の迷宮の方が危険なのだ。
裏の迷宮は、別に殺しにかかってきているのではない。
そして俺達は扉へと進んだが、そこで驚愕した。
そこが今回の探索行の終着点だった。
目の前に広がる絶望と言う名の完全障壁。
その場所は完全に崩れていた。
空間魔法で固定されているわけではない。
ダンジョンそのものが崩れて、機能を完全に停止しているのがわかる。
これ以上はもう進めなそうだ。
今回は、これで御開きだな。
しかし、こいつは弱ったな。
真理が言ったように崩れた迷宮で行き止まりだ。
だが、ベル君は何かを一生懸命に考えている。
何らかの心当たりがあるのかもしれない。
彼に少し時間を与えよう。
何か道を開いてくれるかもしれない。
今回は、これで大人しく帰るとしよう。
ここには御土産屋さんも出ていなさそうだし。
土産があっても、前回みたいなぼったくりじゃあな。
あれで美味しかったら、まだ許せるのだがなあ~。




