68-3 迷いの迷宮
ハッと気が付くと、俺達はダンジョンの中で気を失っていた。
いかん、いかん。
うっかりしていた。
これが普通に魔物が出てくるダンジョンだとヤバかった。
慌てて確認したが、全員無事に揃っているようだ。
ゴーレム共も全員揃っているようで、また何よりだ。
ベル君は俯せの状態で、何故かカバディっぽいポーズで気絶していて、ファルに愛用の棒きれでつんつんされている。
「起きろ、ベルグリット」
「ほえ~?」
奴を揺り起こすと寝ボケたような声で起き上がってきた。
試しに魔法を使ってみたが、やはりここでは使えない。
だが魔道具を使えるのは確認済みだ。
外に魔法を放つ攻撃ポッドのようなものは使えないが。
照明ポッドは何故か使えるのがありがたい。
フライで飛行するタイプは飛べないが、重力魔法で浮かぶものは使えるのだ。
ただ、俺が重力魔法を使おうとすると使えない。
特別に封じられているようだ。
いわゆる飛行禁止空域に指定されているという訳だな。
全ては奴、管理者の匙加減一つという事か。
ここには魔素もない。
魔法の発動も出来ない。
バッテリーのように魔力を内蔵している魔道具はなんとか作動するようだが、外に魔法を発現するような物は使えない。
感知系の魔法が無効状態なので照明があるのは有難い。
松明なんかでは、ちょっと照度的になあ。
俺が大好きなB級映画気分は出るけどね。
魔素が無いので、ここでは魔物もポップしてこないのだろう。
ここで俺達を魔物と戦わせるのが目的ではないのだ。
なんていうか心理テストの項目のような、一見関係なさそうな事を試して、それにより何かの結果を得ようとしているかのような。
とにかく、俺はダンジョンレーダーを作動させて先へ進むことにした。
さっき、あのような事になった事から考えて、ここは多分転移系のダンジョンなのだろう。
という事は、アルバトロスの北方にあるダンジョンの可能性もあるな。
「はーい、とりあえず次のダンジョンには進めたようだね!
みんなの初代国王、船橋武ですよ~!
元気してたかなー!?」
く、うぜえ!
この訳のわからないようなシリアスな状況で、こういうテンションはちょっとキツイな。
この機械を起動する度にこうなのか!?
この状況で実際に顔を合わせていたら思わず殴り倒したくなるような、そんなむかつくような感じが伝わりまくりだ。
完全に初代国王に対する評価項目で、残念度が赤丸急上昇中だ。
誰か何とかしてくれ、こいつ。
「このダンジョンレーダーという機械はね!
起点をセットしたダンジョンで、そこから次のダンジョンを探すように出来ているよ~!
だから必ずスタート地点でセットしてね!
次のダンジョンにいったら、またセットし直さないといけないよ~!
自動で動くようにしたかったけど、そうすると変化させられるダンジョンに誤魔化されちゃうからねえ!
ではグッドラック~‼」
やれやれ。
仕方が無いので、ここは船橋武大先生様の言う通りに機械をセットしておくか。
今まではある事にすら気付かなかったセットボタンの位置が、チュートリアルに従ってピカピカ光る親切仕様だ。
きっと昔もみんな、こうやって初代国王のこのノリに、有無を言わさずに慣らされていったのに違いない。
ブラウンゴブリン共め、あれをちょっと美化し過ぎだぜ。
まあ彼らや精霊達にとっては、救世主とも崇めるほどの大恩人なのだから仕方がないのかもしれないが。
それからかなり歩いたのだが、特に何もない。
ここの表のダンジョンを見ていないのでよくわからないが、さっきのアドロスの裏ダンジョンを見た感じでは、表のダンジョンと必ずしも同じというわけではないようだ。
アドミンの都合により、ショートカットされた空間にされたりしていそうだな。
あいつの事だから、何かこう面倒臭くて工数をかけたくないような気分の時とかにそうしているんじゃないか。
歩いても歩いても出口は見つからない。
転移系ダンジョン特有のボス部屋も見当たらない。
そもそも魔物のいないダンジョンにボス部屋の必要があるのだろうか。
でもそういう場所があったなら、そこにまた転移系の扉があったりするのかもしれない。
「おいちゃん、出口見つからないねえ」
「おう、そうだなあ」
おやつを手に、キョロキョロとあたりを見回すファルと言葉を交わしながら、俺はダンジョンレーダーを見つめていた。
一つ懸念があった。
このダンジョンレーダーは千年前にも使われていたものだ。
探索自体は途中で終了したものの、これはアドミンにその存在を知られている物なのだ。
あの悪辣な野郎が、こいつに対して何の対策も立てていないなどという事があるだろうか。
ダンジョンレーダーの針は、ずっと前方を指している。
ずっと、ずっと。
くそう、感知系魔法が使えたらよかったのだが。
なんか化かされている可能性が高くなってきたな。
今回は何も出てこないし。
そう、出口すら。
周りの景色は、洞窟状ダンジョンの岩肌ばかりで、同じところを回っているのかすらも判別がつかない。
さっきも目印の傷を付けてみたが、すぐに再生されて消えていった。
物を落としていっても直に吸収されるのは表のダンジョンと変わらない。
くっそ、こうなったらもう仕方ない。
「イコマ、頼む。
これはもう御手上げだ」
俺はそう言って、左手を前方に差し出した。
イコマは「ここにいる」のだ。
正確には、イコマは「俺の中にいる者」なのであり、それは体の一部に宿っているわけではないが。
只の交信アンテナに過ぎない。
始めの頃は車を運転しながら交信していたので、そうする癖がついてしまったのだ。
するとイコマは、軽く拳を握り人差し指を突き出して、いつもの「交信のためのポーズ」を取った。
そして腕をすーっと左へ流していき、「イコマの指」は真後ろを指してピタっと止まった。
「は?」
え、イコマさん、それだけ?
来た道を戻れと?
俺は、それこそ狐に騙されたような顔をしていたが、大人しく従う事にする。
これまで生きてきて、それで間違っていた事は一度もないのだ。
むしろ、あいつに従わなくて痛い目にあった黒歴史の数々が華やかにフラッシュバックする。
ああっ!
何しろこいつの言う事は、思わず「え~、それ本当⁇」とか思いっきり疑いたくなるような事ばっかりなので。
そして、その都度逆らっては、やっぱり奴の方が正しかったという悲惨で無様な結果に終わるのが常であった。
それを延々と繰り返すのが人の性というものなのだ。
だが異世界では、そういう間抜けな事をやっていると最悪は死んでしまいかねんので、俺としては結構頑張って奴の指示に従っているのだ。
そしてダンジョンレーダーを見ると、さっきと反対側に向いているにも関わらず、きちんと前方を指している。
それで正しいという確信が、心の奥底から強い衝動と共に湧き上がってくる。
それもいつもの事だった。
訳はわからないながらも、俺は首を竦めてその指示に従って歩き出す。
「あれ?
おいちゃん、来た道を戻っちゃうの?」
「アルさん、諦めるんですか?」
「アル、さっきから何をやっているんだ?」
そして真理やゴーレム連は、面白そうな顔をして黙ってついてくる。
さほど歩かないうちに、ダンジョンレーダーの針は左へグルンっと回り、そこで壁に触れると扉が現れた。
先程の裏ダンジョン入り口で現れた扉と同じ物だ。
「ええっ、なんでー」
ベル君も目を剥いた。
自分の機械も持ってきてはいたのだが、全く通用していなかったのだ。
ここはダンジョンの専門家であるベル君の常識も通用しにくい場所なのらしい。
「よくわからないが、ダンジョンレーダーを化かす仕掛けをしていたのだろう。
俺たちがこれを持っている事はバレているらしい。
こいつの存在は千年前から知られているしな。
つまり、このダンジョンレーダーを見ていると正反対の方向を示すらしいぜ。
なまじ、これを頼りにしているから、いつまで経っても出口へ辿り着けないという事さ。
中には途中で引き返す奴らもいるだろうから、そう単純な仕掛けになっているとは思えないが。
多分、単に引き返せばいいというものじゃない。
今回も、おそらくは罠を見事に見破ったから“敢闘賞”という事で次のダンジョンへの通過の許可が下りたなんじゃないかな」
「うわあ、捻くれていますね~」
なあベル君よ。
あのアドミンの奴が今まで一度だって捻くれていなかった事があったとでも?




