68-2 NPC
そのハイテンションな男は、なおも自慢の機械について説明を続けた。
「あと、裏ダンジョンにてどこかに迷い込んだ仲間の位置も示してくれるから凄く便利なんだぜっ!
特に転移系ダンジョンではね‼
とりあえず、まずはそいつを使い慣れてくれたまえ!
それでは諸君!
また会おう!
アディオウッスっ!」
そして最後まで暑苦しいテンションで叫ぶそいつの姿は虚空に消えた。
一応、撮影はしておかないとな。
こいつは是非とも妹君に見せてやらなくちゃ。
しかし、だいぶ話に聞いていた感じと違うんだけど。
俺は、すっと真理の方に視線を移したが、彼女はそっぽを向いて口笛を吹いていた。
「まさか武の奴が、こんな性格だったとは。
この先が思いやられるぜ。
まあナビがいてくれるのならありがたいと、ここは素直に言っておかねばならんのだろうな」
「あの人って、ああいう性格だから、あんまり当てにしない方がいいかもしれないわね」
いや、今そんな事を言われてもなあ。
他にさして当ても無い事だし。
「こ、これが我が国に伝わる伝説の初代国王ヤマト様!
しかし、こ、これは!」
そうさ、ベルグリット。
お前が敬愛してやまない、あの学園長侯爵様にそっくり。
もし千年前に生まれていたら、やっぱり武の子分になっていそうだな、こいつ。
「いやはや、アルバトロス王国初代国王といえば伝説の中の伝説のような人物、もはや生ける伝説のような方だったと聞く。
人間離れした逸話の数々が、まるで神話の世界の住人であるかのようだと今も伝えられる傑物であられるのに、これはまた!」
うん、グスタフよ。
やっぱり、お前もそう思うのか?
どっちかというと、「逝ける伝説」というのに近い感じがする。
真理を見ると実に楽しそうに笑っている。
野郎の実物も、多くの人士にこういう反応をさせていたのに違いない。
そのリアクションも、伝説が時を重ね神格化されたかのような彼の伝聞的な印象によって、更に輪をかけた感じになっていたせいもあるのだろう。
「まあいいや。
さあ、先へ進もうじゃないか。
さっきから、ダンジョンレーダーはちゃんと裏ダンジョンの方角を示してくれているようだ」
俺は左腕に嵌めた、標準サイズの男性用腕時計のような魔道具を見ていた。
時計と異なるのは、それがデジタルな数字の表示や長針短針の組み合わせでもなく、銀色に輝くボディにコンパスのような物が嵌め込まれている事だろう。
そして、それは方位の南北を指すのではなく、このダンジョン内での出入り口ないし、空間ゲートのような歪みを探知するようだ。
例によって、これも武の錬金魔法による芸術品で、俺にはコピー不可能なので一個しかない貴重品だ。
そいつの導きに従い、一行はダンジョン内を歩いていく。
二階へのスロープを指し示しているようだから、下の階へ移動してみる。
そこからレーダーの針は、まだ先を指している。
一階ずつ降りていき、十二階へ行ったところでは逆向きを指していた。
俺達は十一階へと戻り、裏ダンジョンへの入り口を探す事にした。
俺達は十二階の入り口まで転移して、そこから戻っていったが、ここまで見事なまでに魔物と出会わない。
ダンジョンレーダーの針は、ずっと先を指しているようだ。
特に問題は無さそうなのだが、何も無さ過ぎてファルが飽きつつあるな。
そして突然針がグルっと回り、左の壁を指した。
壁に触ってみると岩肌に扉が浮かび上がってきた。
金色に輝き、実に不思議な質感だ。
一見すると金属製かとも思うが、特殊な木材で出来ているようだ。
一目で俺のコピー能力を受け付けないものと知れた。
アドミンが、その特殊な能力で作り出した物なのだろう。
「グルウ」
「ワオーン」
二頭のもふもふ系御伴から、大変不満そうな声が上がった。
そう、こいつらには、この扉はちょっと狭いのだ。
いや、人間サイズの細めの扉だから間違いなく狭いわ。
多分そんなことだろうとは思っていた。
前回もこんな感じだったからなあ。
一応扉は開けてやったのだが、フェンリルのフェルドが鼻づらを突っ込んだが、もちろんすぐにつっかえた。
はい一名様、いや一頭様脱落。
「ふっ」
その様を、まるで人間のように鼻で笑って、キメラのメルはズボっと頭をつっこんで、ぐっと楽勝で通した。
おお! さすがは猫族だ。
だが。
すぐに胴体がつっかえた。
猫なのは、頭だけなんだからさ。
胴体は、只の太目の大型山羊でしかなかった。
じたばたともがくが、どうにもならない。
その様子が面白過ぎたので、あとでネットにペット動画を上げておくとしよう。
あまりにも必死過ぎる毒蛇尻尾の動きが笑いを誘うぜ。
まあどれだけ尻尾が必死になったって胴体が通り抜けるのは無理だろうがな。
あと蝙蝠みたいな羽根も引っ掛かって通れないだろうよ。
羽根は畳めばなんとかなるかもしれないが、さすがに胴体はな。
「グオルーン」
悔しそうな吼え声を扉の向こうの裏ダンジョンに響かせて、メルは前足を壁に押し付けながら強引に首を引っこ抜いた。
その様子がまた人間臭い感じで面白い。
残念ながら二頭共ここで脱落した。
しょんぼりとする奴らに声をかけておく。
「はは、扉を通れないんだからしょうがないだろ。
お前らは家で御留守番ね」
しょげていたので、頭をしっかり撫でてやっておいた。
ファルにも撫でてもらったので御機嫌は治ったようだ。
この二頭の古巣であるダンジョン内で他の冒険者と遭遇すると相手が驚いてパニくるといけないので、二頭には転移魔法で帰るように申し付けた。
奴らの首輪には転移魔法が仕込んであるのだ。
二頭でドタドタと仲良く転移して帰っていった。
「さて、それでは先へ行くとするかあ」
俺達は扉を潜り、裏ダンジョンへと出発した。
だが、そこに広がっていたのは、また広大な田んぼだった。
「うわっ、また田植え!?」
なんと、この前のおばちゃんがまた現れたので警戒したが、今回は挨拶してくれただけだった。
「いやあ、この間は助かったよ。
見てごらん、この緑の田んぼを」
言われて見れば、苗が植わって青々とした美しい田園風景が広がっていた。
ファルがおばちゃんの前で、じっと見上げている。
「いやあ、この間は助かったよ。
見てごらん、この緑の田んぼを」
斉藤ちゃんがすかさず参加する。
「いやあ、この間は助かったよ。
見てごらん、この緑の田んぼを」
この人は、いわゆるNPCなのか!
まるでRPGのキャラクターみたいだな。
さしずめアドミンの野郎がゲームマスターというわけか。
そうおばちゃんにばかり構っていられないのでファルを抱き上げて歩き出す。
ゴーレム達は、入れ替わり立ち代りでNPCのおばちゃんと遊んでいる。
やがてスロープを潜って次の階層に向かったら、入っていきなりドラゴンが御出迎えであった。
はぐれドラゴンが出たわけではない。
この前の扉の番人だ。
以下略の展開だったか。
おっと、いきなり扉と御対面だぜ。
振り返れば、前回崩れたままになっているダンジョンの姿があった。
どうやら続きからコンティニュー出来る仕様らしい。
裏ダンジョン、意外と親切設計だな。
ドラゴンはやはり大人しい。
おそらく扉が開けられるのを見届ける役なのだろう。
さっきのNPCのおばちゃんは、アドミンの野郎にとって御遊びの一つのようだ。
また俺の頭の中からネタを持ち出してきたな。
どこまでもふざけた野郎だ。
じゃあ、ゲームマスター気取りのあの野郎の面を拝みに行くとするか。
俺はミスリル製の鍵を取り出すと鍵穴に差し込んだ。
次の瞬間には、そこから溢れんばかりの光が爆発するかの如く迸り、俺達を包み込んでいった。




