68-1 伝説の男
「アルさん、裏ダンジョンの方は今アタック出来る態勢のようです。
今回はどうします?」
突然ベル君から、ダンジョンへチャレンジする御誘いの電話が来た。
「お、そうか。
今は花火大会が終わって、夏祭りの始まるまでの合間だから丁度いいな」
「なんかそういう風に聞くと、裏ダンジョン探索もイベントの一種みたいですね」
「まあ似たようなもんだな。
すぐ日本に帰れなくても、俺個人はそう困りはしないし。
以前は日本に帰りたくてしょうがなかったもんだが、今は結婚もして落ち着いた。
公爵稼業までやっているんだし、日本へ帰れる方法があるかもしれないと思うと、なんていうのか却って気が急かないな。
日本へ買い物にも行きたいし、他の日本人の帰還の話もあるから帰る方法は探したいのだが。
もう今年は祭りの準備なんか人任せでもいけるから、そっちはそう手はかからないからね。
今からダンジョンへ行ってみよう」
執事の小僧どもが頑張ってくれているので、祭りの元締めは奴らと家宰のロドスに御任せだ。
アドロス商業ギルドマスターのロゴスにも頼んでおいたし。
真面目なうちの執事の小僧達は、気概ある彼からも可愛がってもらえているようだ。
今年は王都でもタイアップ企画が行なわれる。
なんとハミル王女が、その委員長だ。
なんたって彼女は現国王の最後の御姫様なんだしな。
エミリオはうちへ遊びにくる予定だ。
ハミル王女の玩具になりたくないので匿ってほしいらしい。
ハミル王女は御飾りの委員長ではあるのだが、色々な権限というか委員長特権があって、やりたい放題出来るようだ。
国民の人気者である弟王子を逃す手はないと、今から手ぐすね引いて待っているらしい。
だが我が弟君よ、ここには君の二番目の姉上がいるのだからな?
仕方が無いので、当日はサイラスのシェリー姫を招待する事にした。
フィアンセ姫の助力があれば、男の娘状態にされてしまうような事はあるまい。
シェリー姫が、誰かアルバトロスの王女に感化されてしまわない事を祈るのみだ。
さて、御出掛けの時間だ。
「ファル~、ダンジョンに行くよ~」
「青鰭蜥蜴は出ない?」
「さすがにもう出ないんじゃないか?
アドミンって同じ手は使ってこないらしいし。
あれはあれで、一応は良薬として貴重品なんだけどな」
「ファルは絶対に要らないからね」
そう言いつつも、ファルはリュックにおやつをしっかり詰めている。
収納の能力はあるのに、リュックに詰めて持ち歩きたいのだ。
そういや俺も子供の頃は、おやつ袋を持っていたっけな。
もちろん今のような収納能力も持っていなかったがな。
あの頃も、俺が知らなかっただけでイコマの奴は一緒にいてくれたようだったが。
神聖エリオン様の今日のファッションは、子供用ジーンズとかっこいい系のスニーカー、上は夏らしい水色のボーダーシャツと子供用の可愛いキャップだ。
あまり冒険に相応しい格好ではないが、それはまあ今更だ。
元々ファルスなんて服を着るような生き物ではないのだ。
ファルスの鎧なんて無いしな。
面白いから今度作ってみるか、ファルス服の装備を。
真理は、なんかカウボーイ風のファッションだ。
腰には二丁拳銃で、首には真っ赤なスカーフを装備する。
アドミンでも仕留めたいのか?
千年前の、武の恨みがありそうだし。
俺なんかは寧ろハンタースタイルでもいいくらいだ。
真理もどうせなら、真っ赤なビキニとミニスカートにカウボーイハットとかだと映えるんだが。
どうせ、この御姉さんは素での防御力は半端無いのだから、その格好だって十分だ。
御出掛けなので、新入りのワンニャンコンビがついてきた。
あー、お前ら。
別についてきてもいいんだけど、お前らは多分なあ。
そして、ふんふんと鼻を鳴らしながら、まるで熊に跨った金太郎のような感じでキメラに跨る神聖エリオン様を引き連れて、俺達は街の中心に位置するダンジョンへと向かうのであった。
ワンコの御散歩も兼ねて歩いていく。
「よお!」
俺はダンジョンの入り口にて、電話で呼び出しておいたグスタフと落ち合った。
そしていつものように、にっこりと笑う端正な顔をした騎士が手を上げて挨拶してくれた。
「試練のダンジョンか。
何気に胸が躍るな」
何か神話の主人公みたいな事を言っている奴がいるな。
まあ、こいつは元々強者なんだし、それでもいいのか。
グスタフも、今日は冒険者風の革の服に簡素な鎧といった感じの軽めの出で立ちだ。
彼は元々、常時フルプレートの鎧を着込んでいたから、余計にその装備が軽く感じる。
今日は防御力よりも機動力を必要とするシーンが予想される展開なので、グスタフもこの軽装のスタイルなのだ。
腰にはオリハルコンの剣を提げており、彼には他にも色々と装備を渡してある。
裏ダンジョンは魔道鎧は使えない空間なのだが、そんな事はこいつには関係ない。
こいつにとって、あんな物は元々持っていなかったオマケのようなもんだしな。
ただ物のついでで使いこなしているだけの物に過ぎないのだから。
何よりも、高貴なる騎士の魂がこいつの最大の武器なのだ。
そして、その象徴である祝福の鎧は裏ダンジョンにおいても彼と共にある。
その高潔さ高貴さは、その端正な容姿も相まって人を振り向かせる。
下手な王族など顔負けだ。
日本のコスプレ集団のいる場所に今日の格好で放り込んだら、女の子が大勢集りそうだ。
いや、いっそあの天使のような、ミカエルかヘルメスのような格好で。
もし地球に帰れたら試してみたい!
「さて。
前回はあそこで中断したわけなんだが、今回も中に入っていったら続きはどうなっているのかな。
真理はどう思う?」
「うーん、なんとも言えないわねえ。
その時によってパターンが違うのよね」
そうだったか。
あのアドミンが、そう簡単に通してくれるわけはないがな。
まあ行ってみますか。
そして俺達はダンジョンへと潜った。
煌々と魔導ランプの照らす光の中、俺達は周囲の警戒を怠らないようにしながら進んでいく。
いつのまにか傍に来ている斉藤ちゃんに訊いてみた。
「よお、何か感じるかい?」
「さあー」
そうか、やっぱり毎回違うんだな。
その前はファルが見つけたしね。
じゃあ、今回はこいつの出番だな。
ダンジョンレーダー、パワード・バイ・初代国王!
俺はダンジョンレーダーを左上の手首に嵌めると、そいつに魔力を込めた。
スイッチらしきものが無いようなので、多分そうだろうと思って。
そして、いきなり空中に男の映像が現れたかと思うと、そいつはいきなり喋り始めた。
「パンパカパーン!
やあ、諸君!
おめでっとう!
このダンジョンレーダーが起動しているという事は、只今絶賛、裏ダンジョンを攻略中という事だねー?
じゃあチュートリアル、ドーンっといってみようか~!」
こ、こ、これが初代国王、船橋武なのか!
俺は思わず目を瞠った。
国王らしい重厚さの欠片もないな。
一応、映像の中では国王っぽい装束を着込んでいるのだが。
中年男になってはいるが、この怒涛のようにハイテンションな野郎は、紛れも無く真理さんから見せてもらった写真に映っていた彼女の兄その人だ。
なんか王都学園の学園長を思い出した。
彼も絶対に武の子孫の一人なのに違いないぜ!
ベルグリットとグスタフも絶句しているようだ。
真理だけは笑っているがな。
「ふっふーん。
まずはだね!
そのダンジョンレーダーの性能の説明からだ!
そいつは一種の羅針盤!
だが、それは方位を示すものではない!
あくまで裏ダンジョンへの進行方向を指し示すものなのだ!
まず、表のダンジョンから入る時は裏のダンジョンへの入り口を指し示す!
そして裏のダンジョンにいる時は、次のダンジョンへの入り口を指し示すのだ~‼
さあさ、この鬼に金棒猫に小判なダンジョンレーダーと共に、ドドンドーンっといってみようかあ!」
おい、随分とセリフに「!」が多いな。
ちょっとうぜえよ。
大体、猫に小判って何だ⁉
使う人を選ぶ、何か持て余すような道具っていう事なのかいな。
こいつと話すのは結構疲れそうだ。
俺が船橋武と違う時代に来たのは正解だったのかもしれない。
でも同じ時代に生きて、稀人魔王同士で組むタッグも面白かったのかもしれないな。
もちろん、奴がボケで俺が突っ込みの魔王漫才コンビだ。
あるいは二人ともボケまくって、真理ないし王妃メリーユが突っ込み役か。
奴の錬金魔導と、俺の強大なMP並びにコピー能力や超性能アイテムボックスが組み合わされば、さぞかし真理が頭を抱える羽目になった事だろうな。




