67-7 夜空の華満開
ビロードのように広がる夜空に、次々と花火が『撃ち』上がっていく。
一通り、錬金花火が打ち上げられた後で、ゴーレム隊による魔法花火の打ち上げが始まる。
錬金花火、即ち地球タイプの物が生々しい炎だとすると、こちらは夜空のキャンパスに描かれるデジタルアートのような感じだ。
地球によくあるタイプのLED巨大電光掲示板のようなチャチな物とは異なり、かなり壮大な物なので、作った本人であるこの俺でさえも充分過ぎるほどに楽しめる。
決まった形の炎が飛び出すだけではなく、魔法のイメージによりアレンジも自由自在だが、錬金花火に比べると、やはり趣はない。
だが、これも有りだ。
というか、最初はこれしか無かったのだ。
そして俺の作っていた手作り魔法玉の出番だ。
そいつをコピーしまくって、貴賓席から直接俺が打ち上げた。
只の魔法花火ではなく、錬金花火のように細かい素材が集まって出来ており、魔法花火のようでありながら錬金花火のような趣もある、案外と面白い物になった。
錬金花火は特殊な作り方をした。
生憎と、俺は花火の打ち上げなんてものはやった事がなく、新スキルでも花火の現物を再現する事は出来なかった。
家庭用の小さな花火は作れたのだが。
打ち上げ用の花火なんて、市役所の地元産業の展示コーナーに飾ってある火薬の入っていない見本しか見た事が無い。
そういうわけで、この錬金花火は大空に打ち上がった花火の記憶から、逆に元の花火を作るという難儀な事をやってのけたのだ。
生まれてこの方、数えきれないほど見てきた花火の記憶のイメージを解析して、元となる花火そのものを再現するという大変な難易度なのだ。
俺の記憶から再現していく結果的な事象からの物品製造法の、魔法によるコンパイルとでもいうのだろうか。
原料自体は判明しているから製作済みなのだが、なんといっても職人芸の商品だからな。
打ち上がる花火はよく見ていたので、花火玉自体の再現はそう難しくはないと考えていたのだが、実際にはかなり難航した。
そこからネットで調べた花火の材料で、見様見真似で製作していくという、この俺にとっても難題な荒っぽさだ。
アイテムボックスの機能を総動員して試作して、携帯空間の中で試験打ち上げを繰り返し、ようやく出来あがった物なのだ。
かなり苦労はしたものの、開発指定のスキルなどの効果により、なんとかかんとか作り上げたのだ。
その甲斐があって、日本風の花火を皆で楽しむ事が出来た。
特に葵ちゃん達は大喜びだった。
そして、お次は精霊による花火の出番だ。
アルバ大神殿からはジェシカも来ているので、スカイドラゴンのペドロも借りてきた。
今日は久し振りに、ベルン大神殿のマリーナを呼んである。
帝国皇帝がいるのだから帝国の大神官がいたっておかしくはない。
マリーナのところの精霊が、子供姿でVIP桟敷を好き放題に走り回った。
「こら~、精霊達。大人しくしていなさーい」
マリーナは必死で嗜めていたが、帝国の御偉方もさすがに文句は言わない。
普段は目にする事も無いようなありがたい存在なのだ。
彼らに強請られるままに、帝国貴族達も料理や御菓子を分け与えていた。
中には魔力を与えている人もいる。
さすがは高位貴族だけの事はある。
精霊達は子供の格好をしていても、夜の帳の下りる中、花火の輝きを浴びながら不思議な精霊光を放っていた。
あ、土方がミニョンパパの号令の下に急襲されている。
土方も逃げようとしたが、何故か近藤に捕まってしまって一緒に犬を愛でさせられている。
土方の奴、この間はフェルドにも思いっきり甘噛みされていたし。
飛び上がった飛行タイプの精霊達は、その体そのものが花火といってもいい。
精霊魔法を動力とした、俺が作った専用の精霊魔法花火を放っている。
そう、まるであの精霊の森で見る風景のような、オーラの風が吹き荒れるような不思議な色合いの光を咲かせているのだ。
そして、それは見事な花火として夜の華とへ昇華した。
「みんな、御疲れ様~」
俺は魔力をたっぷりとやって精霊どもを労った。
お次は、我が家のドラゴンの出番だ。
花火は王都アルバ方面でもやらせていた。
そっちにもドラゴンは派遣されている。
ドラゴン花火の御披露目だ。
地球では、さすがに本物のドラゴン花火には御目にかかれないだろうな。
ゴン太は竜舎に繋がれたゲートから、ゆっくりと前に進み出ると、観客に向かって優雅な一礼をしてから奴が入っても余裕で収まるほど広めに作られた川の中へ浸り、その中央へと進み往く。
そして天を仰ぎ「ドラゴン花火専用ブレス」を吐いた。
光、いや火の粉の奔流が、川面に炎の雨を反射しながら吹き上がる。
その様は正しく日本で愛用されている、あのドラゴン花火そのものだ。
そして与えておいたアイテムボックスより取り出した巨大な手筒ドラゴン花火を両手に持ち、三本槍で焔の舞を吹き上げた。
これだけ荘厳なドラゴン花火は、他では決して見られまい。
ちなみに王都アルバ付近では王国騎士団を随伴の上で、ドラ子とゴン美が同じく三本槍のシンクロナイズド・ドラゴン花火を御披露していた。
ドラゴンは賢い魔物なので、そんな事さえ苦もなくやってのけてくれている。
通常の花火も色々やっていたため、三重防壁の上面通路は王都の民に開放されており、国民の皆が楽しんでいた。
そうなると黙ってはいられないのがドワーフ達だ。
国王・王太子を始め、全員が踊り出て河原にて手筒花火祭りが始まった。
そういう物も要るかなと思って、ちゃんと連中用に人間サイズのやや大型手筒花火を作ってあるのだ。
両手に持った手筒花火を持って踊り、まるで消防士の放水のように水平に近い角度で打ち出したり、一列に並び見事なドラゴン花火ウエイブを演じてみたり。
はたまた、仲間の肩に乗っていき人間手筒花火ピラミッドを築いて、そこからクルクルと回って飛び降りながら炎舞い散る演舞の披露を見せ付けた。
右手と左手を交互にくねらせながら、またジャグリング用のクラブのように放り投げたりしながら見事に炎のダンスを踊らせる。
そして打ち鳴らすドワーフ太鼓のリズムに合わせて、見事な炎の舞を演じて観覧者の視線を釘付けにしていた。
最後には目にも止まらぬ激しい動きで舞い踊り、更に人々の目を吸い寄せる。
ラストは太鼓のドンっという〆の合図に合わせ、手筒花火を持ちながら器用に互いの手を組み合わせて、足を真ん中に寄せて扇のような集団ポーズでビシっと決めて見せる。
まるでラスベガスの一流ホテルのショーステージのように華やかだ。
居合わせた王侯貴族から拍手喝采であった。
演舞を務める方も、一応はその御仲間なのであるが。
最後は仕掛け花火で艶やかに終わる。
俺の合図で、鯔背な格好をしたエリーンが満面の笑顔を浮かべながら点火した。
何故あんなに嬉しそうなのか。
そして導火線が炎を散らしながら走り点火された花火は、グランバースト公爵家の家紋デザインでもある見事な炎の鷹を川面の闇に映し出した。
異世界で、こんなにも華やかな花火大会が楽しめるとは。
いやあ、日頃から精進しておいて本当に良かったぜ。
シェルミナさんの、あの誇らしそうな顔。
他の使用人の人達も皆、とても嬉しそうだった。
これからは自分だけが良ければいいのではなく、公爵家の主として、この人達と共に色々と喜びと誇りなどを分かち合うのだ。
そして何よりも、俺の隣で微笑んでくれている奥さんと共に。
子供達も、みんな楽しんでくれているようだ。
子供の頃に親戚の家に集まって、二階から花火を見物した時の事を思い出すなあ。
あの時食ったアイスの味は格別だった。
俺も、後は王国帝国のトップ達に任せて、そちらの方へ移動して御誕生会を祝っていた。
八月生まれの子達が、御誕生日ケーキを吹き消している。
十三人の子供達に一人一個持ちにしてあるので、大勢の子供達に一人一切れずつ大きなケーキが行き渡る。
御馳走も御誕生日SPなのだ。
そして今日ここグランバースト公爵家に集った人々も、本日開催された催しによる感動の余韻に浸りながら、酒を片手に和やかに語り合うのであった。




