67-6 花火大会社交場
子供達は御昼寝から起きてから、また遊園地三昧だ。
あれこれと細かいアトラクションなんかは地道に増やしておいたので、子供達もMAPを片手にチェックしながら回っているようだ。
離宮の方へ顔を出すと、一般の御客様の方も、どんどん集まってきている。
「やあ。
久しぶりだね、グランバースト公爵」
おっと海賊王シドがいらしたか。
そういや、彼も遊園地は初めてだったっけか?
「遊園地、楽しみにしていたんですよ~」
「ははは、そういや最近御無沙汰だな。
メリーヌ王妃も、どうぞ御存分に楽しんでいってください。
設備も開業当初より結構拡張したんですよ」
ミレーヌ王妃も久しぶりだなあ。
相変わらずの美人さんだ。
ああ、もう俺の義理の姉弟? なんだったな。
あと、御客様というほどの物ではないのだが、親方達が大挙してやって来ていた。
トーヤがゲートの魔法で連れてきたのに決まっている。
既に離宮の大広間でドワーフ総出の宴会が始まっているが、うちの使用人は誰も動じるものはいない。
いつもの事なので。
ざっと五十人以上の筋肉達磨の群に、不幸にも巻き込まれてしまった高位貴族の人の引き攣った表情が笑いを誘った。
貴族にとっては、この機に親睦を深めておいて損が無い相手だけに、無碍には出来ない分が余計に不幸だ。
愉しいイベントでの酒の席での絡みならば、後で仄かに思い出してもらえるだろう。
それはとても凄い事なのだ。
ここに来れば、こういう有様になる事は容易に想定できだろうに、中には迂闊な人もいるのだ。
賢い人などは、自分の代わりに人身御供の陪臣を放り込んでおき、自分達はちゃっかりと遊園地で遊んでいる如才無さを発揮している。
プリティドッグどもが人型のままで、それを楽しそうに見物している。
こういうところも、人生、いや犬生を楽しむ術を心得た奴らなのだ。
チビ犬どもは、ちゃっかりと女将さんに甘えて、肉抜きのおつまみをせしめている。
エルフ達もやってきて宴会に混じり、そのドワーフに劣らぬ半端無い飲みっぷりで、貴族連を更にゲンナリさせている。
見目麗しいエルフは目の保養なので本来であれば歓迎すべき宴会の参加者なのであるが、筋肉達磨と一緒に人外の飲兵衛達に自分が挟み込まれるのは、あまり嬉しくない事態であるものらしい。
やがて夕刻となり、続々と賓客が訪れてくる。
俺はシルと一緒に正装で出迎えた。
「やあ、寄らせてもらったよ」
「盛り上がっているわね」
ベルンシュタイン帝国皇帝夫妻が時間を取ってくれて、わざわざやってきた。
これは俺が前もって頼んでおいたのだ。
やはり彼も、今では急遽このような催しにやってこれるほどの余裕のようなものが出来ているらしい。
以前のこの男には考えられなかった事だ。
そういうところは、こいつもアントニオっぽい雰囲気を放っている。
帝国への出迎えには、うちのゴーレムを正装で行かせてあった。
「ああ、そろそろ始まる頃さ」
ポンポンと開始の合図のように打ち上げられる花火。
まだ明るいが、日の落ちかけた空に色づく花火の彩り。
きっと今頃はエリーンの奴が、打ち上げ場で弾けているんだろう。
俺はゲートを開き、二人を桟敷席へと案内した。
これは日本の狭苦しいそれとは違い、桟敷同士の仕切りを取っ払った、屋外に設置した広い御座敷のようなものだ。
畳も敷かれている広大なVIP席だ。
そこへ靴を脱いで上がって寛いでもらう。
ドワーフ用には、隔離された【特別貴賓席】が、ちゃんと用意されている。
そこへ連れ込まれている幸運な? 『不幸な貴族』もいる。
それが単なる不幸に終わるか、災い転じて福と為すかは本人の頑張り次第なのだが。
それはもう各自に任せるしかない。
物見高い新撰組の連中が、そこへ集っているようだ。
今日は、あの「ブラウン伯爵」も呼んであるのだ。
山本さんがこの世界へ来た当初に随分と御世話になった帝国の青年貴族だ。
時折、うちやヘレンの小料理屋には招いていたりはしていた。
彼は皇帝よりも先に、帝国用の桟敷席で待っていたのだ。
彼には皇帝との仲を取りもつと約束していたからな。
でも、中々機会がなくて。
ドランの奴が忙しくて、早期にこういう席は設けられなかったのだ。
この桟敷には当然山本夫妻も同席していて、山本さんも久しぶりにブラウン伯爵と話に花を咲かせていたようだ。
そこへ俺が直々にドランを連れて行く。
その全てが俺の描いたシナリオ通りの演劇だ。
「御久しぶりでございます、皇帝陛下」
「ああ、ブラウン伯。
そう畏まるな。
今日は、こいつのところへ遊びに来ただけだ。
無礼講で頼む」
「かしこまりました。
では、まず一献」
そう言いながら、ブラウン伯は瓶ビールを差し出す。
それを日本の球場で売っているビールを注ぐためのような大きめの紙コップで受けるドラン。
今日はこういう無礼講の席なので、敢えてわざわざ粗末な紙コップを使っているのだ。
「では、ローリー。お前も」
そう言ってビールを注ぎ返すドラン。
敢えて、ここでドランの奴にローリーと親し気に名前で呼ばせてある。
その様は、同席する帝国の駐アルバ大使や重鎮貴族、そして周辺席にわざと招かれた主な帝国貴族などの目に吸い付いた。
やれやれ、これでやっとブラウン伯への借りが返せそうだ。
随分と長く借りっぱなしだった。
俺は仕事で貸しを作るのは好きなのだが、他人に借りを作りっぱなしなのは性に合わないのだ。
俺は打ち上げ場に合図をして、少し薄暗くなってきた会場を矢継ぎ早に打ち上がる花火の彩りで染めた。
それがまた二人のシルエットをいい按排で印象深く浮かび上がらせてくれる。
これを演出したくて、タイミングを計って皇帝夫妻に登場してもらったのだ。
ツマミは山本さんとエバンス爺さん、あの二人がかりで作った謹製の花火弁当だ。
胡坐をかき、ゆっくりと楽しむドラン。
ドランの奴もそうしてラフな感じにしていると、不思議な事に、むしろ以前よりも皇帝としての風格が出ている気がする。
なんというか、人を安心させてくれるような雰囲気だ。
俺も、ゆっくりと一緒に楽しむ事にした。
アルバから国王夫妻がやってきて、こちらの席へ来てくれた。
「やあ、ベルンシュタイン皇帝陛下、久しいですな」
「これはアルバトロス国王陛下。
こちらこそ御無沙汰しております」
ははは、あの無茶し過ぎだった合同結婚式以来だものな。
隣国のトップ同士での無礼講だ。
その場に帯同するのは、シャルロット王妃様と疾風のミハエル。
王妃様は可愛らしいプリティドッグを抱えたままだ。
何故か、それが可愛い子犬ではなく、なんとミニョンパパのジョニーだったりする。
相変わらず自己主張が激しい奴だな。
この俺が超特別に設定した大事な接待空間に、君なんか特に呼んでいないんだけど。
愛しのミニョンママは放っておいていいのか?
俺とシルが、ここでのホストとホステスだ。
そして、何故か一介の警護担当に過ぎない近藤の存在がズシンと異彩を放っている。
まるで奴がこの桟敷の主であるかのような、少々胡乱な雰囲気だ。
「新撰組血風録・花火変」
VIP対応という事で、新撰組局長自らを警護においたのだが、ちょっとマズかっただろうか?
帝国の連中が、その無用に放たれ過ぎる貫禄に目を剥いていた。
まあ、それはいつもの事だから。
一方で、同じくここに置いてある副長の土方は胡坐をかいて、桟敷空間の隅っこで一人で好きにやっている。
近藤が犬好きなのでプリティドッグの連中が寄って来るから、それを警戒しているのだ。
いや、お前には他の事を警戒してほしいのだがね。
ミニョンパパが王妃様の御膝を堪能しながらも、怪しげな輝きを目に宿らせながら土方をロックオンしている。




