67-5 冒険者の矜持
御昼御飯は新しいスタイルのカフェを用意してある。
とりあえず、うちの貸切だ。
名付けて、御座敷カフェ。
別に畳が敷いてあるわけじゃないのだが、防水マットを並べた上に座って、ミニテーブルの上で食べるのだ。
そこは屋根付きスペースで、子供が走り回っても平気な場所だ。
飲食物の持ち込みもOKだし。
さすがに、こんな物は地球の遊園地ではビジネスプラン的に用意できまい。
万博ですら飲食物は持ち込み禁止だ。
今日の御昼はピクニック・バスケットだ。
たくさん歩いて走り回ったので、みんな汗をかいている。
というわけでオニギリの出番だ。
「オニギリ~」
早速、おチビ猫が齧り付く。
異世界産の鮭はたっぷりと脂が乗っていて、これがまた最高の甘さだ。
オニギリに使って余った鮭の皮は、おっさんの密かな楽しみだったりする。
これが案外とわかってもらえなくて、実は理解してくれるのが渋いロイドあたりだったりする。
彼はこの世界で出会って以来の仲だし、実に寡黙な男なのだが物はよくわかっている男なので懇意にするのも吝かではない。
彼と比べるとチームリーダーのエドさえ若輩者に感じる。
いや実際にエドの方が歳は若いわけなのだが、あの重厚な雰囲気を三十歳未満で出せるあたりがね。
ロイスは子供達から密かにおっさん呼ばわりされているのだが、あの口がさないケモチビ達も本人の前では遠慮してそう呼ばないでいたりする。
あれで結構、子供らからは好かれているのだ。
子供には優しい人だからな。
最近はエバンス爺さんという新たな理解者も現れたので、夜中に密かに集まり、鮭の皮をざっくりと炙って一緒に日本酒で一杯やる。
爺さんの好みは美しい多面体の加工面を持ち輝く切子グラスだ。
ロイスは渋い木作りのぐい飲みで。
余分な事は一切言わぬ。
ただ、ぐいっと飲る。
そして「うむ。鮭の皮は、やはり美味い」とだけ一言。
激しく同意する。
俺の器は色々だ。
小さな赤ワイングラス、ガラス製の厚いショットグラス、御猪口にぐい飲み。
そして切子グラスや木作りのぐい飲みも当然愛用している。
どれもこれも新スキルを用いて、地球での俺の愛用品を再現した物なのだからな。
気の合った、この世界の友人達と飲み交わす幸せもまたここにある。
おっさん達の宴。
そこに乱入するのは、成長期を迎え、魔力も栄養も究極に欲する神の御使いだ。
ファルは、いつか精霊の森を継がねばならない、この世界アスベータの次期女王なのだから。
頑張って一人前(全長十メートル)を目指さねばならないのだ。
そんな事を考えていると、通りすがりの子供が御座敷スペースの前で立ち止まった。
「あ、おじちゃん」
八歳くらいの男の子が声をかけてきた。
件のロイドにだ。
「おお、お前か。元気にやっているか?」
珍しく仕事中に微笑を見せるロイド。
知り合いの子らしい。
「うん。今日は御母ちゃんと一緒なの」
子供は、まだ若そうな母親らしい女性と手を繋いでいた。
ふとみると、アドロスの商業ギルドのギルマス、ロゴスが一緒にいた。
「あれ? ロゴスの知り合いなのかい?」
「ええ、ケモミミ学園の講師として、うちの人材を送ってしまったので、その後に採用した人なのですよ。
なにやら王都の冒険者ギルドから推薦を頂きまして」
そう、にこやかな笑みで語るロゴス。
俺はチラっとロイスを見た。
ギルマス・アーモンも、チームエドの屋台骨として彼を高く評価している。
きっと、この親子のためにロイスが骨を折ったのだろう。
彼にはありがちな事だ。
この寡黙な戦士が静かに秘めた、清き心根に心打たれない日本人はいまい。
もし船橋武がロイスと同じ時代にいたとするならば、彼のような人物を傍に置きたかっただろう。
イメージでいうならば、戦国時代の有名な武将達が側近として置いたような者達と同じ魂を持つ者だ。
そういう魂は自然と引き合い、共に在るものなのだ。
「おや、お前さんはあの時の」
エドも目ざとく声をかけてくる。
「あ、君かあ。ヤッホー」
「御姉ちゃん!」
エリーンを見つけて、子供も顔を輝かせる。
「元気してた~?」
「うん。またお歌を歌って欲しいなあ」
子供がエリーンに歌を強請っている。
だが、ちょっと困った様子のエリーン。
今は御仕事中なのだ。
こう見えて、エリーンはそういう事は弁えている人間なのだ。
彼女は若いが一人前のプロの冒険者だった。
時には命懸けとなる仕事に従事しているのだから。
「そうか、みんなの知り合いなのか。
エリーン、ちょうどいいや。
ちょっとそこのステージで歌ってみろよ。
ギャラは出してやるから。
いいだろ、エド」
「まあ、あなたがそう言ってくださるなら。
じゃあ、エリーン。
警備の仕事もあるから軽くな」
「あははは。任せて~」
そして気色満面のエリーンが、赤毛を靡かせてステージに飛び上がると、スタンド付きマイクを抱え込んだ。
すかさずアイテムボックスの早着替えで、なんかパンク系のアイドルみたいな格好に変わった。
髪の色に合わせた赤系の派手なスタイルだ。
簡単な舞台の上で真っ赤な歌姫が歌いだした。
「地球の歌」だ。
しかも、それは日本語だった。
いつの間に覚えたものやら。
そう言えば、最近「カラオケ」を始めたんだよな。
営業はしていないのだが。
カラオケの機械を新スキルで再現して、みんなでやっていたのだ。
子供用の歌とかが多かった。
うちの子供達はすぐに日本語で覚えてしまって、毎日歌っていた。
そういや、こいつもその中に混ざっていたんだっけな。
そして、やっぱり今も子供向けの歌だった。
沖田ちゃんと斉藤ちゃんも着替えてきて参戦した。
やはり同じようなパンクファッションだ。
そして一緒に何を歌うかと思えば、今度はこれだった。
「のっぼり詰めればエベレスト
日本海溝なんのその
あーあーああ、わーれーら、ゴーレム騎兵隊
太陽嵐にゃ負けないぞ
宇宙空間なんのその
あーあーああ、シルベスター・ゴーレム機兵団
次元断層も怖くない
魔界の鎧もなんのその
あーあーああ、わーれーら、異世界新撰組
御腰に提げた日本刀
ダンダラ模様で風切って
あーあーああ、わーれーら、アドロスの狼」
あらあ、ゴーレム騎兵隊の歌だった。
俺が適当に作って、朝の掃除の時とかに歌っていただけの物なのだが。
何気にみんなが覚えちまったものらしい。
一人が覚えると全員が覚えちまう連中なのだが。
どうせなら、もうちっと、いい歌を歌ってくれよ。
まあ、メインの聞き手である件の子供が喜んでいるからいいか。




