66-8 魔王軍編成?
『恐れながら申し上げます。
魔王様に置かれましては益々御健勝の事、御喜び申し上げます。
この度の狼藉は、全て我々の不徳といたすところでございます。
どうぞ、なにとぞ御寛大な措置を御願いいたしたく』
ちょっ! オークキング~。
なんなの、その【この世界の人間ですらあまり持ち合わせていないような礼儀正しさ】は!
「まあいい。
なれば、この先も【魔王軍】の一員として恥じぬように、ここを通る旅人の安全を守るよう精進せよ!」
『ははあっ、ありがたき幸せ!
え?』
「何か言ったか?」
するとすかさず、脇にいる俺が強化しまくったスーパーキメラとスーパーフェンリル(SSランク相当)が、オークキングを覗き込むようにした。
『は、ははあ~』
若干小便を漏らし気味なオークキングが放つ、そのフェロモン的な残念(残尿)成分に、オークの群は再び平伏した。
そして俺は「監視ポッド」を持ち出し、空中に浮かべて奴らに見せ付けた。
「俺は遠くにいても、こいつを使ってお前らの事を監視できるからな?」
「ははあ。
魔王様が我々の事をいつも見守ってくださるのですと?
まさに感激至極でございます」
駄目元だったのに、なんとオークどもはそれをきちんと理解した。
ちょっと勘違い気味ではあったのだが。
ヤバイな、こいつら。
人間よりも知能が高くねえ?
この世界の魔物はあれこれと侮れない。
『これ以降、我がアルドア・オーク氏族は【魔王様】に忠誠を誓います』
何か、勝手に俺に対して忠誠を誓っている魔物がいるのだが。
というか、オークって氏族があるんだ。
既に名前にもアルが入っているし。
いや、それはいいんだけどよ。
「念のために訊いておくけど、お前らは御飯をどうする?
この先、何を食べて生きていく?」
これは大切な質問だ。
回答によっては、心を鬼にしないといけない。
だが連中は微塵も間を置かず、こう言った
『ああ、それなら畑で取れた作物を』
はあ?
「今、なんて言った?
おじさん、よく聞こえなかったよ」
『ああ、私らは肉なんか食べません。
菜食主義者ですから。
あー、よそのオークはわかりませんが』
ちょっ!
た、確かに『豚』は雑食というか、養豚場で肉なんて餌にやらない訳なのだが。
もっぱら穀物の飼料だよな。
あれ~?
猪も普通は、肉よりも米とか芋みたいな農産物を好むよな。
俺の親父の在所では従兄弟達の悲鳴が上がるほど田んぼが荒らされまくりだった。
野生の猪や野豚は雑食だから肉なんかも食うのだろうが。
「そんな話は聞いた事が無いのだけれど」
『そんな事は知りませんね。
どうぞ、こちらへ。
うちの畑を見せてあげましょう』
そう言って見せてくれた集落には、なんとも美しい田園風景が広がっていた。
これは頭が痛いな。
なんとなくわかってきた。
この世界のオークが人を襲うのは「巣の近くへやってくるから」だ。
魔物と見れば襲う人間達。
反撃して自衛するオーク。
いつしか、オークは当然のように狩られる存在になった、のか?
俺は頭を抱えた。
カラスの巣の近くへ不用意に近づくと、巣を守るためにカラスから人が威嚇や軽い攻撃を受ける事がある。
だが、そのカラスを迂闊に攻撃してはならないらしい。
そういう真似をすると、次に人が通るとまた襲われる可能性が出るとか。
実際には、カラスの場合はどうなのかわからないが、オークどもの場合は集落を守るためだけに戦っていたのかもしれない。
俺は昔、そういうオークを全滅させてしまったことがあったな~。
うっわあ。
ふと気が付くと、青々とした大豆が一面に生り渡っていた。
これは!
「おい、これ少し貰っていいか?」
そこにいたオークのおばちゃんが、人間のくせに「オークの言葉(異世界言語)」を喋る俺を不思議そうな目で見ていたが、頷いて自ら捥ぎたてを手渡してくれた。
『ええ、どうぞ。これ美味しいのよ~』
知っているさ。
俺は笑顔で受け取ると、その場で山本さんをゲートで呼び出した。
「おーい、山本さん」
「なんです? 園長先生ー」
ふらっと無警戒で現れた彼は、オークどもを見ると驚いて思わず俺の後ろに隠れたが、すぐに雰囲気を察して訊き返してくる。
「一体、何があったんです?」
彼は事情を聞くと、その優しそうな顔に、なんとも言えない表情を綯い交ぜて笑った。
「わかりました」
何も訊かずに、アイテムボックスから調理器具を取り出して仕度を始めてくれた。
それからオークも襲われていた親子も、皆でエダマメとビールを楽しんだ。
『これは美味い。
実に美味い。
ビールというのですか。
いやエダマメに合い過ぎる。
なんという事か』
そして、オークの男達はビールをぐいぐいと喉に流し込むと、ふうと手で口元を拭った。
『労働で得られる日々の糧、愛する家族、そしてエダマメとビール。
これ以上に何を望みましょうか』
そ、そうなのか。
なんか日本のサラリーマンみたいな奴らだな。
「お前らオークって、みんなそうなの?」
『いえ、中には大変好戦的な連中もおります。
ですが、そうばかりでもありませんし』
「でも実際に、お前達だって、あんな親子を襲っていたじゃないか」
だがオークは頭を振って、こう答えた。
『以前に、たかが一台の馬車と侮って放置したところ、それは魔法を使う人間だったのです。
そいつらは魔法で探知した我らの里へやってきました。
そして面白半分に我らの八割を嬲り殺していきました。
それ以来、人には情けをかけられません』
やれやれ。
げに恐ろしきは人なりき、か。




