66-7 ケモミミ・サーガ
俺達は引き続き、御尋ね者のオオカマキリの捜索に出かけた。
流石にドラゴン達は置いていった。
あれを連れていくと道中で大騒ぎになる上に、肝心のオオカマキリも逃げるし。
キメラのキャラメルとフェンリルのフェルディナントは、猟犬代わりに連れて行くことにした。
連中の愛称はメルとフェルドだ。
こいつらには魔法をかけて強化してある。
今度こいつら用に迫力のある「とげとげアーマー」でも作るかな。
俺もフェルドの背中に便乗して荒野を駆け抜けて、王都から南へと抜ける主街道へと進んた。
車で行くのとは違って、これはまた妙な迫力がある。
生き物の疾走により上下する、ふわふわする感覚は、まるで地を走るヘリコプターのような乗り心地だ。
いわゆる魔法の絨毯っていう奴だ。
この場合は魔物毛皮絨毯だけどな。
頬を撫でる心地よい風、流れる石畳と大型魔物毛皮との遠近感に満ちたコントラスト、魔物達が蹴った足元から舞う砂塵。
作り物の映画などでは、こうはいかない。
たまには、こういうのもいいかなと思って、魔物毛並みをもふもふしながら出かける事にした。
「うっひょおう」
「さいこー!」
道中の道程に、子供達は大騒動している。
なんたって、高速移動出来る大型魔物の背中に乗って移動しているのだ。
子供達に興奮するなと言う方が無理な話だ。
きっと英雄とか物語の主人公なんかの気分なんだろう。
地球でいえばハリウッド映画の主人公だ。
いわばサーガの世界だな。
俺はといえば、テーマパークの激しいライド物に子供と一緒に乗っている御父さんの気分か。
二頭はかなりのスピードで突き進んでいるが、連中も子供を落としたりはしないし、一緒にゴーレムがついているので問題ない。
南下する街道を、ひたすらに突き進む一行。
だが肝心の奴は見当たらない。
お、前方に何か魔物の反応があるぜ!
「おい、お前ら!
もう少し行くと魔物がいる。
行くぞ」
まるでギヤを二段落としにした大型バイクのように、強烈な加速で走り出す白銀狼。
四輪駆動は伊達じゃない。
そして先導するフェンリルに楽々と付いてくるキメラ。
なんていうんだろう。
さしずめ、自転車団体競技で平地のスプリント役が引っ張り、クライマー役が引っ張られている感覚か。
それとも競輪の『出身地別のライン』あたりか。
あるいは自動車レースのスリップストリームというか。
「魔物チーム」は風を切り、空気の粒子を弾きながらゴールの空間に飛び込んだ。
不思議なくらい、動から静へと瞬時に傾れこむ。
その物理的な反動を全て吸収しつくして、小さな乗客達が困らないように細かく気を使う。
そのために魔法まで使っているようだ。
本当に、こいつらは魔物なのか。
そして、そこにいたのは哀れな子羊。
護衛も雇えないような小さな商会の小型馬車だった。
馬車に繋がれていたのはロバ。
力や持続力はあるが足は遅い生き物だ。
そして対峙する相手はオークの軍団だ。
レーダーに映るその数、おおよそ百三十七。
俺は子供達を二頭の背から降ろし、メルとフェルドの気配を隠させた。
剣を構えながら震える娘を庇い、オークに渡すくらいならば己の命の尽きる前にいっそ自らの手で安らかに娘の命を、と葛藤する父親の姿。
しょうがねえな。
それじゃあ。
深く息を吸い込んだ俺が口上を述べようとする、その刹那!
「やあやあ我こそは、エルドア王国は国家特級技師トーヤなるぞ!
この悪漢ども。
神妙に覚悟しろ!」
「そして、俺がエディだー!」
うん、こいつらは俺が見せた日本のアレな映像の数々とかに毒されていたりするんだよね。
まあいいけどさ。
まったく、横から美味しいところを持っていくんじゃねえよ。
可愛いなあ、もう。
俺はクイっと顎をしゃくって、キメラのメルに合図する。
ずっと気配を隠したままいる二頭の魔物のうちの一頭が、肉球を駆使して奴らの後ろに忍び寄る。
そこで、はたと気がついた。
こいつ、鋭い爪と【肉球】持ちじゃん。
うん、それは知っていたんだ。
何度も戦ったからな。
ただ頭では山羊なんだという認識で。
そう言えば足の先は蹄じゃないな。
足の形も今気がついたぜ。
本当は、なんとなく爪があるのも知っていたんだ。
先入観というのは怖いもんだ。
山羊の胴体にライオンの頭、翼を生やし毒蛇の尻尾を持つ。
いや、一般的なキメラって山羊の頭を持っていたような気もするが、キメラデザインってベヒーモス並みにフリーダムだからな。
なんたって合成獣のイメージがある名前なんだし。
地球の言い伝えのスタンダードみたいな奴だなと思っていたが、胴体と頭の境目が曖昧だ。
そして爪のある肉球持ちの【可愛い奴】だった。
やけに太った山羊だなとは思っていたんだが。
毛並みは確かに山羊であったのだ。
鬣はあるのだけれども。
今まで気付かなかったのが悔やまれる。
俺らしいと言えばそれまでだ。
くそ、イコマの奴め、笑っていやがる。
知っていたなら教えておけよな。
帰ったらメルめ、肉球をぷにぷにしてやるぜ。
なんだ、その「いけねえ、バレちまったぜ」みたいな顔は。
そして、そんな俺達の様子を見て嘲笑するオークの軍団。
俺が強化したAランクの魔物を前にして、オーク風情がたいした度胸だ。
戦いは数だという理屈など捻じ伏せるような凄すぎる強者を相手に、そんな事は本来ならありえない話なのだが。
ほお。
よく見れば、それなりに強力な魔法を使うメイジオーク五体に、通常のオークに比べれば二回りは大柄なオークキングまでいるのか。
滅多にいないような中々強大な群れだな。
こいつは強気なはずだ。
俺はちょっと悪戯心で言ってやった。
「メルさん、フェルドさん。
やっておしまいなさい」
次の瞬間、この世の物とも思えぬ二つの咆哮があたりを揺るがし、格下魔物の群を震え上がらせた。
そして俺は絶望をこの世に解き放った。
SSSランク魔王の、意図的な超絶魔力放射。
人には視えぬが、敵意を以って周囲に吹き上がりまくるそれは、魔物にとっては恐怖の大王に等しい絶望と狂おしいまでの恐怖と畏怖の嵐だ。
恐れを持って名付けられたフォボスとデイモス、そしてフィアーなどの言葉と同義語だ。
大小便を撒き散らし、涙と涎で塗れた元オークの軍団が地に平伏していた。
そんな物はよくわからない只の人間の親子が呆然としてこちらを見ているのを確認して「あ、やりすぎたかな」とか思ったが、この魔王に反省の色はない。
反省したって過ぎた時を巻き戻す事は出来ないのだ(言い訳)。
よく見たら、うちの子が二匹、いつの間にか退避した遠くの場所からこちらの様子を伺っていた。
心なしか尻尾が丸くなっているような気がする。
御付きの人を差し置いて御老公が暴れるのはよくないな。
そう思いつつ、口笛で新ペットを呼び寄せた。
おっかなびっくりで帰還する、うちの新ワンニャン・コンビ。
帰ったら、先住猫や先住ワンコとは仲良くしてな。




