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66-4 大物一筋

 二十代後半と思われる二人組の男が、情けない悲鳴を上げて大蠍から逃げ回っている。

 そんな有様で、よくここまで来られたもんだな。


 相手が二匹ぽっちで、まだのろい奴だからいいのだが、これで多数の蠍に囲まれてしまったら完全にゲームオーバーだ。

 こいつらは、それまでの仕事が上手くいかずにドロップアウトして冒険者に転向した口だな。


 蠍は九十センチサイズの少し小ぶりな奴と一メートル二十センチの大物だ。

 倒すだけならアースランスが有効なので、小さい方でちょっと実演してやった。

 それから大きい方は、標本用に電撃で倒した。


「た、助かりました~」

「もう駄目かと思いました~」


 涙目の出遅れルーキー達。

 こいつらは成人したての少年冒険者からも馬鹿にされるタイプだ。

 案外と、こういう歳を食ってからデビューしたような奴らの方が焦って無理をして、あっけなく人生の終わりを迎える羽目になるのだ。


「お前ら、上の方で修行し直し」


 無情に宣告して、うちのゴーレムにより地上へ強制送還しておいた。

 こいつらは、俺が首の下に提げたオリハルコン製ランクプレートの意味すら理解していまい。



 十階の魔物は三メートルサイズの大百足だ。

 やはり標本用に真面な形で捕獲したかったら、強力な電撃魔法は有効な手段だ。

 サンダーやサンダーレインのような明確な定型の攻撃魔法とは違う、昔の特撮に登場する悪役とかが手や杖から出して使うようなアレだ。


 子供達の腕輪に、今日限定で電撃魔法を仕込んでやらせてみる事にした。

 攻撃魔法を持たせたままにしておくと碌な事にならんだろうから本日限定だ。

 ダンジョンの中でなら、腕輪の魔力も自動で急速充電可能だ。

 こいつらの腕輪にはそういう高機能な魔力の収集機能を付与してある。



 お次は十五階のワームか。

 ここからは一階層の面積が広くなり、階層の入り口と出口が離れているので階層ごとに転移魔法で移動する。


 十五階は半ば砂状になっていて、土中から来るので少々厄介な相手だ。

 ただ魔物が動けば振動が来るので、接近してくれば普通の冒険者でも感じ取れるようなレベルだった。


 相手は所詮Eランクの魔物なのだ。

 足元の砂を熱で固めてから冷却して足場を作り、子供達にやらせてみる事にした。

 倒せる武器があるならば、耳のいい獣人にとってこんなものは敵ではない。

 もう喜んで獲りまくっている。


 奴らの動きなど丸見え(丸聞こえ)なので、待ち構えて地上へ出てきたところへ電撃を浴びせて倒してはアイテムボックスに収納していく。


 標本作りにそんなに数はいらないと思うのだが、まあ実習だからいいか。

 こいつの素材は皮で、その性質から手強い割に買い取り価格は安い。

 素材を運ぶのにも嵩張るため、割に合わないので相手にしない冒険者も多いはずだが、このチビどもには関係ない。

 獣人の狩猟本能をいい具合に刺激してくれる、楽しい狩りの相手なのだ。


 二人を十分に遊ばせてから声をかける。


「おーい、次へ行くよ」


 次は二十一階のアントで、名前の如く普通に蟻だ。

 図体はかなり大きいけど。

 大体全長が一メートル近くある。


 英語関係の名前は武が命名したな。

 あいつも、ここで家族の食い扶持を稼いでいたのだろうか。


 こいつはDランクだ。

 Dランクは、あまり大きくなくても危険度が高いものが指定される。


 蟻ゾーンは、縦横五メートルの洞窟シーンで頻繁に横穴があるので相当厄介な相手だ。

 とにかく数で攻めてくるし、強力な顎が丁度足に当たるため足をやられてしまうと最後だ。

 まるで太腿の大血管に具合よく牙の当たる猪のような奴らだ。

 とはいえ、あまり足に重い防具を付けていると、動きが悪くなって他のタイプの魔物にやられるし。


 こいつは強力な蟻酸も使ってくる。

 地球の蟻の弱い蟻酸とは訳が違う強酸を放ってくるので厄介だ。


 案外とこれを避けられない奴が多いのだ。

 その場で小回りしながら連続して全方位に向けて酸を放射してくる蟻は意外と手強い。

 真面にやりあったら子供なんか一発で御陀仏だ。

 早速わらわらと蟻が湧いてくる。


 またこいつらは群れを成す性質があるので、場合によってはCランク並みに危険だ。

 ダンジョンの外にて団体で発生するとCランク扱いになる場合もある。


 地球でも軍隊蟻などは人間にとってさえも脅威だ。

 犯罪組織において裏切り者の処刑に使われる事さえある。

 昆虫のスタンピードで直接人間に危害を与えてくるからな。

 あの小さなサイズでも強力な顎がおっかないのに、この獣サイズで群れられてはキツイだろう。


 だがシールドを張って近寄らせないようにして、子供達に電撃を浴びせさせる。

 バタバタと倒れる蟻ん子達。

 所詮はDランクの蟻だった。


 喜んで回収していく連中のケモミミが揺れる。

 なんで小さい子供って、あんなに蟻が大好きなんだろう。


 そういや俺も子供の頃は蟻が大好きだったわ。

 ゾロゾロと一直線に行進して蝉やバッタを皆で担いでいったり、単体でもあの頭に生えている触角の動きがまた子供心をそそるのだ。


 同じ社会的昆虫である嫌われ者の蜂なんかと違って、子供の御友達筆頭だな。

 蟻も元は蜂と同じ仲間なのだが。

 だから羽根を生やして飛ぶような季節もあるし、日本でも南方には尻尾に毒針のある刺し蟻なんかもいる。

 次点の御友達が丸虫あたりかな。

 俺は尻尾振り上げポーズが格好良いハサミムシなんかも好きだった。



 次は三十三階のレッドアントだ。

 うーん、蟻が続いてしまったな。

 まあ普通の蟻だって強い生き物だから、ダンジョンも複数採用しているのかもな。

 硬い甲殻を持ち、蟻酸を吐き、凄まじく群れを成す。


 嫌蟻性を持つ昆虫は大変多い。

 まあ、生きたまま巣へ運び込まれたり、まだ死に切っていないのに生きたままバラバラにされて運ばれるのは嫌だろうし無理もない。


 こいつはCランクの魔物になるので注意が必要だ。

 Cランクは、Dランククラスのサイズよりも相当図体が大きくて手強い奴か、魔法を使うものが指定される。


 洞窟も前よりは広くなったせいか、わらわらと沸いてきた。

 真っ赤な大蟻が、ぞろぞろと出てきて進路を塞いでいく。

 それに気を取られていると、後ろの偽装した横穴から大群の奇襲を食らう。

 赤い蟻ならノーマルよりも三倍速いぜ!


 魔法使いのいないパーティに、こいつらの相手は厳しいだろう。

 遥かな太古の時代、こいつが地上を覆い尽くさんばかりに現れた時には、Aランク扱いの災害に指定されたほどの「災害指定種」だ。

「数は力」を見事に体現した魔物だった。

 地上でこいつを見かける度に全力で駆除したので、今ではダンジョン以外ではまず見かけないらしい。


 だがこの迷宮では、強力な盾系魔法の使い手か、Bランクの戦士が一人いれば充分に突破出来ると最初に買った迷宮解説書には書かれている。


 あの本も今ではスラスラと読めるようになった。

 俺も地球ではついぞ見せた事のない、その種の頑張りを見せたのだ。

 なんといったって俺は園長先生なんだから、この世界の文字が読めないなんて子供の前で絶対に言えないからな~。


 今では俺も小学校の校長先生なのだ。

 雑魚な冒険者あたりと一緒のレベルじゃ子供達から馬鹿にされちゃう!


 レッドアントは土魔法と火魔法を使う。

 体は普通のアントに比べて二回りはでかい。

 およそ二メートル近い大きさがある。


 力も大変いいので、のしかかられたら完全にアウトだ。

 その強力をもってなる大顎で人生の終焉を迎えさせられる。

 あるいは更に強力な蟻酸か魔法を直接吐きかけられて。


 蟻が光ったかと思うと、灼熱して真っ赤に焼けた岩を生み出して攻撃してきた。

 まるで火山弾だ。

 さしずめ、ヒートストーンバレットとでもいうのか。


 直径二十センチメートルもある高温に焼けた大石が風を切って飛んできたが、俺がシールドであっさりと弾く。

 まるで、うちの大型ゴーレム用魔道ライフルの土魔法弾のようにでかい。


 うちのストーンバレットは、形状がライフル弾のように尖っていてライフリングの魔法が付与されている分、より強力な貫通力を誇っている。



「そら、お前達。電撃攻撃の時間だ」


 そう言いながら、放たれた電撃に俺の分の雷魔法も乗せてブーストしてやる。

 レッドアントの群はバタバタと倒れた。


 狂喜して回収するトーヤ達が、早速いそいそとラベル作りに勤しむ。

 こういう大きい昆虫系魔物の場合は大概甲殻が固いので、俺が魔石取り出しを手伝ってやる。

 ゴーレム達が周囲を警戒する中、標本は俺が取りつけてやった。



 三十七階はボールワームのゾーンだ。

 ま、まあ一口で言えば、でっかい丸虫だよね。

 これまた子供達の大好物だ。

 またしても色めく二人。


 獣人の狩りの本能が疼くのか。

 いや違う。

 単に男の子の本能だった。


 俺も子供の頃は、これが大好物だったよ。

 もっと小さい奴だったけどね。


 だが、こいつのローリングアタックはとんでもない代物だ。

 地球の大人しく丸まっているような連中とは異なり、装甲甲殻の鎧に身を包み、凄まじい突進を見せる。

 こいつは紛れも無い巨大なCランクの怪物なのだ。

 物理にも魔法にも高い防御力を見せる、直径数メートルもある無敵の巨大丸虫!


 日本ならば、お母さんがこんなものを見たら金切り声を上げるだろう。

 だが、この世界ではこうだ。


「まあ、偉いわ。よく獲ってきたわねえ」


 きっと頭を撫で撫でして褒めてくれるだろう。


 こう見えて、こいつの素材は高く売れるのだから。

 こいつの用途は一目瞭然だ。

 固い甲殻は鎧の材料となる。

 要人用の装甲馬車にも使われる。

 金属ほど重くないのだが、鉄より遥かに堅いのだから、そういう特殊な用途に向いているのだ。

 さすがに魔法金属製の超高価な馬車は存在しない。

 そんな物は俺ならすぐに作れちゃうけどな。


 俺は、さっそくお出ましの十メートルサイズを素手でガシっと受け止めて、上手い角度で床に叩きつける。

 こうすると丁度いい具合に逆さ向きになって、丸くなったボディが開いて逆向きになって足をじたばたするのだ。

 その有様は、もう地球の丸虫そのものだな。

 昆虫と虫の定義はややこしい。


 基本的には、体が三つに分かれていて節のある六本足で、二対四枚の羽根のある虫が昆虫という事になっているはずなのだが。


 一言で言うと蜂は完全な昆虫で、こいつ丸虫は確実にその他の虫に定義される部類だ。

 いわゆる節足動物甲殻類という奴だな。


 でも蟻はどうなんだろうな。

 確か、蟻は昆虫の仲間だったような気がするのだが。

 蟻には羽根がある奴とない奴がいるので、ややこしい。

 確か、巣から飛び立つ時にだけハネアリになるのではなかったかな。


 若き女王蟻にいたっては、古巣から飛び立って目当ての他の蟻の巣を見つけるや、自ら自分の羽を毟り取って単独で巣へ攻め入る覚悟を決めるのだ。


 おそらく二度と生えないだろう女王羽根を自ら捥ぎ取った以上は、もうターゲットとなる巣を変えるなんていう事は簡単には出来ない。

 負ければ死あるのみ。

 だが、彼女達は雄々しく覚悟を持って蟻生を切り開くために挑むのだ。

 あの激烈な生き方には尊敬の念さえ覚える。


 昔、シロアリの親がハネアリだと聞いたような気もするのだが間違いなのか、また別の羽根シロアリでもいるものか。


 それと確かシロアリの方はGの仲間だったような気がするのだが、はて。

 少なくとも、あのシロアリの半透明っぽくて下半身デブな体形は蟻には見えない。

 中には細長い種類もいるみたいだ。


 俺は生物の先生じゃないのでよくわからないな。

 昆虫って種類が多すぎて例外が結構あるはずなので、よくわからん。

 もう、こいつらは普通にすべてひっくるめて虫として認定する。

 ここアドロスじゃ領主たる俺がルールブックさ。

 おまけにもって魔物討伐を管轄とする冒険者の世界じゃあ、世界最高のSSSランク冒険者なのだからな。


「今だ。

 お前ら、やってしまえ」


 子供達の腕輪から超強力な電光が走り、丸虫の抵抗がやんだ。

 例によって俺がピン止めをする。

 こう見えて単にピン止めをしているわけではない。

 腐らないように魔法で色々処置を施しているのだ。


 昆虫用の防腐魔法なんていう奇天烈な物を持っているのは、この世界広しといえども俺くらいのものじゃないか?

 冒険者志望のような子供をダンジョンに引率する、小学校の校長先生くらいしか必要ない魔法だしな。

 普通は状態保存の魔法を使うのだ。


 さて、お次はいよいよ、このダンジョンにおける虫魔物のラスト選手であるジャイアントスパイダーだ。

 このダンジョンでの、最強の虫(?)魔物で、一応はBランクなのだ。


 俺達は四十一階へと飛んだ。

 蜘蛛が虫って言われてもピンと来ないな。

 蜘蛛が節足動物とは言うんだけれども、昆虫だって節足動物だし。


 こいつはでかい。

 胴体だけで全長十メートルはありそうだ。


 うちの蜘蛛嫌いだった母親がこいつを見たら、悲鳴を上げて俺に箒を渡すだろう。

 今の俺なら余裕で室内用の箒を使って一撃の下に倒せるな。

 いや、この程度の奴などハタキか蠅叩きの一撃でも十分だぜ。

 唸れっ、必殺スキル・インパクトブレイク!


 こいつは足を伸ばすと二十メートルほどもある大物だ。

 ここはかなり広い洞窟になっていて、あちこちに奴らが潜んでいる。


 というわけで、大きめサイズの魔導ランプで煌々と明るく照らしておく。

 照度計でチェックしても楽々合格が貰えるオフィス並みの明るさだ。

 そうしてみると、もうあちこちにゴキブリかフナムシのようにウジャウジャといるな。


 電撃網を振り回す子供達。

 それじゃ捕まえるのは無理だと思うが、大物に色めき立っているトーヤ。


 じっと真剣に見つめるエディは、まるで味の検分をしているかのようだ。

 伊達に餓死しかかっていたのを救出されていないな。

 まあ節足動物って元々は海中で進化して、それが陸に上がったものなので、海老あたりの仲間だといえばそれまでなのだが、俺は絶対に海老の方がいい。


 特に蜘蛛は匂いが食欲をそそらない。

 というか、率直に言って嫌な臭いだ。

 まあ海老蟹だって鮮度が落ちれば悪臭がするわけなのだが。


 このダンジョンにいる蜘蛛類は、いわゆるクロウラーのタイプだ。

 糸で網を張る奴はいない。


 そして、ここのジャイアントスパイダーは「ハエトリグモ」の仲間だ。

 でけえ。

 俺は子供の頃、これが大好きでよく捕まえて遊んでいた。


 正しくはジャンピングスパイダーなんだろうが、でかいからジャイアントスパイダーでもいいよな。

 これで座敷鷹をしたら、きっと大迫力だ。


 座敷鷹というのは、羽根を切った蝿をハエトリグモに狩らせる遊びで、いわば座敷で行なわれる鷹狩りのようなものだ。

 江戸時代に流行っていたらしい。

 いい蜘蛛は素敵な御値段がしていた。

 賭博に使っていたみたいだから。

 いわば競走馬を持つようなものか。


 だが、いつの時代も変わらない法則で、座敷鷹は御上によって禁止令が出されたという。

 まあ、御約束という奴だ。

 そして廃れてしまったというわけだな。

 江戸の兄ちゃん達~、純粋に草座敷鷹を楽しめよ。

 もし、この大蜘蛛で座敷鷹をするなら獲物は何がいいだろう?

 連中からしたら、やっぱり人間だよな。


 奴はこちらを見つけて忍び寄り、一気にジャンプしたところを「魔力網」に引っ掛かった。

 カスミ網で、ハエトリグモを密猟するのもなんだな。

 まあ、御狐様達が大喜びしているからいいか。


 はい、電撃殺虫。

 カスミ網に紫電が走って、これにて昆虫? 採集はしゅう「ねえ、園長先生、ドラゴンは?」


 そう来ましたか。

 この御狐様達って、可愛い顔して本当にえげつないわ。

 欲しかったのか、大物が。


 ドラゴンの剥製か。

 まあ、公爵家(の延長にある幼稚園)にあっても悪くはない代物ではあるのだがな。


 最早、夏休みの宿題とは何の関係もない世界になってしまった。


いちもありがとうございます。

HJ賞で「ダンジョンクライシス日本」、今日発表の一次選考を通過してて、嬉しいです。

応援ありがとうございます。

さすがに激戦区なので二次選考は厳しそうですが、頑張ろう~


http://ncode.syosetu.com/n8186eb/

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