66-5 いつか来るその時
「お前ら、覚悟を決めろよ?」
「「うん!」」
一応、言うだけは言っておいた。
どっちかというと、「覚悟を決めろよ(笑)」っていう感じなのだが。
まあ、たまにはドラゴン退治を見せておくのもいいか。
いつも当たり前であるかのように食卓に上る高級食材ドラゴン。
食べ飽きてドラゴン肉は残してしまい、中には虫をハントしにいったりする子もいる。
命の重さというものを教えておかねばならん。
命を狩る者となるには、命の重さを学ばねばならない。
ジビエ、命を頂くという考え。
人は、他の命を犠牲にして生かされているのだと。
まあ虫なんかまでをハントして、いつもギリギリの状態で生き延びてきたあの子達には今更な話であるのかもしれないが。
それでも命を貴ぶ気持ちは学んで欲しいと思う。
ケモミミ園で採用されている「いただきます」という食前にする挨拶の意味はしっかりと教えてある。
俺は、まずAランクの魔物達から狩る事にした。
当然向かうのは四十五階のキメラだ。
お、いたいた。
だが、こっちをじっと見て一歩も動かない。
うーん、さすがは猫。
警戒心がつええな。
「チッチッチッチッ」
膝に手をやり腰を落とすような感じで、猫を懐柔するようにしてみたが相手の警戒は解けない。
駄目だな、寄ってこない。
子供達には強力なバリヤーを張ってある。
彼らの事はゴーレムに任せて、俺は笑顔でキメラを篭絡にかかる。
「ほら、怖くないよー。
【すぐ済むからね】
さー!」
だが、キメラは予想外の行動に出た。
その場でひっくり返って、御腹を見せて媚び媚びしてきたのだ。
寝転がったまま体をクネクネさせて、かなりあざといダンスを見せている。
これは予想外の反撃がきたな。
「えー……」
だが子供達は怖いもの知らずで、ゴーレムを付き添いにキメラにむしゃぶりついていった。
相手が相手だけに、さすがの俺も慌てた。
子供達に厳重な防御を施してあるとはいえ、相手はAランクの魔物なのだ。
しかも相手は、かつてはこの俺とても大苦戦したしぶといキメラだ。
「ちょっ!」
なんだ、この展開は。
迷宮魔物はティム出来ないんじゃなかったのかよ。
これもアドミンの手の内なのか?
「むう」
俺は安全性の観点からちょっと難しい顔をしていたが、とりあえずこいつの事は「御土産」という事になった。
御狐様達は斉藤ちゃんと沖田ちゃんの付き添いの下、「新入りの猫」に跨って大変御機嫌で御満悦な御様子だった。
猫というよりは太目の筋肉質な山羊っていう感じじゃないか?
まあ、顔は完全に猫系なのだが。
体付きや動きも非常に猫っぽい感じだ。
件の奴ときたら、ゆったりと歩きながら御機嫌に喉をゴロゴロさせている。
ま、まあいいんだけどな。
そんな顔が出来るのも今のうちだけだ。
動物の躾けは最初が肝心。
後で「忠誠を誓う儀式」はしておくからな。
ニヤリ。
そして一行は四十六階へと向かう。
ここはヒュドラが階層ボスだ。
だが、奴はうちの猫の有様を見て警戒しているようだ。
いやむしろ、どちらかというと困惑といった感じなのか。
「お前、一体何をしとんねん」みたいな顔で、九つの首が子猫の群れのようにシンクロしてキメラを見つめている。
だがキメラの奴はそんな事は意にも介さず、うちの子を背中に乗せたまま隅っこでごろごろと喉を鳴らしている。
いや、猫科なのは基本的に頭だけだと思うのだが。
そういやキメラというのは、そういう生き物なんだった。
気まぐれで好奇心旺盛。
やっぱり猫じゃないか!
だがトーヤの熱い視線が痛いのか、ヒュドラが思わず後ずさる。
そう、あのヒュドラの「ニュルポン皮」は、ミシンのゴムベルトの代わりになる素材なのだ。
通常はコピー素材で賄っているが、この子が生きたヒュドラの実物に御目にかかるのは初めてだった。
ドワーフ王国の国家特級技師としても見逃せないところであろう。
出来れば自分の手で狩りたいと思っているのだ。
獣人の持つ強い「狩りの本能」、そして国家特級技師としての誇り。
全身で、飛び出したいかの如くにうずうずしている様子を表している。
やれやれ、仕方がないな。
「トーヤ、自分で狩ってみるか?」
「やるうう~‼」
微塵の逡巡もない返答が返って来た。
大した根性だ。
そして間髪入れずにヒュドラが逃げ出した。
なんて勘のいい奴!
いやトーヤが気を吐き過ぎなのだ。
狩る気を獲物に悟らせちゃ狩人失格だぜ。
おいこらヒュドラ。
迷宮魔物のくせに逃げ出すんじゃない。
Aランク魔物の誇りは一体何処へいった。
だが、すかさず現れたゴーレム隊は皆が魔道鎧を着込んで、哀れなヒュドラを集団で押さえ込んだ。
「さ、トーヤちゃん。存分にね~」
御気楽な斉藤ちゃんの間抜けっぽい声が地下迷宮に響く。
次の瞬間にトーヤの腕輪が火というか凄まじい電光を吹いて、水棲魔物であるAランク魔物のヒュドラはあっさりと息絶えた。
それをアイテムボックスに仕舞い、可愛い狐っ子は何かをやり遂げたという達成感を湛えた表情で大変に満足そうだ。
そして俺の目を真っ直ぐに見つめて、こう言ったのだ。
「園長先生。
いつかは自分達でミシンの材料を集めないといけなくなるんだよね?」
こいつは、もうそんな事まで考えていたのか。
さすがはこの世界の最先端を行く幼児だ。
成長著しいケモミミチビに俺の目も細まる。
「ああ。そうだな」
「僕、頑張るから!」
そこには、立派な漢の顔をした「男の子」がいた。
エディも実にいい顔をしている。
子供はいつの間にか成長するもんなんだな。




