62-7 開かずのダンジョン
とりあえず高速落下中のベル君を御姫様抱っこしながら、俺は減速のために空気を蹴りまくった。
「チーン。一階でございまーす」
ちなみに落ちてくる岩などは全てアイテムボックスに収納した。
「じゅ、寿命が十年は縮みましたよ」
ややげんなりとした様子で地べたに座り込んだベル君。
他の連中は皆余裕綽々だ。
「ここは何階なんだろうな」
「五十階みたいよ」
真理が指差した場所には、ドラゴンがワンコのような感じに御座りしていた。
ここには表のダンジョンとは違って一頭しかいない。
しかし、こいつは七十メートルくらいある大物だった。
ここのシーンで魔道鎧は是非欲しかったよな。
まあいいか。
だが、果敢に挑みかかる俺をドラゴンがひょいと手で制した。
な、何だ?
そして奴が、くいくいっと指差す場所には何かドアのような物があった。
どれどれ。
俺が近寄って検分した扉には、御丁寧な事に日本語でこう書かれていた。
「開かずの扉」
くそっ、アドミンの野郎め、本当に趣味が悪いな。
本場日本の開かずの扉だって、そんな事は書かれていないぞ。
とりあえず全パワーを開放して引っ張ってみたがビクともしねえ。
さすがに只の扉じゃねえのか。
まあ、そうだよなあ。
多分、何らかの空間魔法の力で固定されているのだ。
どうやっているものか、俺にはまったく解除出来ない代物だった。
どうやらここが、このダンジョンでラストの関門であるものらしい。
きっとここを抜けると、どこか別のダンジョンの裏コースへ抜けられるのだろう。
よく見ると鍵穴があるな。
俺はチラっとドラゴンに目線をくれてみたが、奴はぶんぶんと首を振って否定した。
俺はそいつの主張を信じた。
いくらなんでも、こいつを倒したくらいで手に入るような安直な代物じゃあるまい。
素手で金庫をぶち壊す力を持った人間の前に、扉の鍵が入った金庫を置く馬鹿はいない。
少なくともアドミンの野郎は馬鹿ではない。
悪魔のようにズル賢いのだ。
そして次に俺が目をやった人物は難しい顔をした。
「こんな事は資料にも無くて。
真理さん、何かわかりませんか?」
「うーん、多分鍵は簡単には見つからないのじゃないかしら。
だから、ささっとここへ御招待なのよ。
その方がより絶望感が増すでしょう?
はっきり言っておくわね。
今回はここまでだと思うわ。
ここまで辿り着けたんだから、それで御の字と思った方がいいわ。
そう考えた方がいいと思うの。
それが、あの管理者を相手にするっていう事なのよ」
さいでございましたか。
「ベル君、一応調べるだけ調べてくれ。
真理も頼む」
「了解です」
「一応私も見てみるけど期待はしないでねー」
暇を持て余した斉藤ちゃん達は、門番のドラゴンに芸を仕込んでビデオに撮って楽しんでいる。
あのドラゴンも賢そうな奴だったからなあ。
ゴーレムの中に園遊会を始めた奴がいたので、俺もそっちへ御呼ばれする事にした。
ファルはがっつりと和菓子を御代わりしていた。
もう調査は専門家に任せきりで、それから俺は葉っぱを咥えて寝転がっていた。
傍らではファルが御腹一杯で寝こけている。
いつの間にか、俺も転寝していたものか、真理に揺り動かされて目を覚ました。
そして真理は黙して首を横に振った。
そうか、駄目だったか。
「この後は少し展開が厳しいかもねえ。
なんというか、次へ進むための手がかりがね。
一体どこを探したもんかしら」
「真理さんにも見ていただいたのですが、やっぱり手に負えません。
真理さんの話だと、あの管理者は時々こういう感じの難しい御題を出すようで、【世界のどこかにあるような手掛かり】から続きをクリヤしないといけないと」
「そうか」
俺は口数少なく返事を返すと腕組みをして考え込む。
世界のどこかって一体どこだよ。
やっぱり、あの時の案山子は捕まえておくべきだったぜ。
「そのお、あと一つ」
ベル君が、恐る恐る話を切り出した。
「何かな」
俺は嫌な予感がして、警戒しつつ身構えた。
「こういうケースはなんというか、まだ比較的容易いパターンだそうで。
これがクリヤ出来ないようなら先はないと、真理さんが」
俺は思わず真理の方へ体ごと向き直ってしまったが、彼女は【残念な御知らせ】を顔中に貼り付けていた。
はあ~、やれっやれ。
こいつはまたどうしたもんかな。
しかし土産の一つも無いのが余計に癪に触る。
碌に魔物すら出てこないしな。
あのドラゴンは、おそらく討伐出来ない奴だろうし、俺にその気もない。
おまけに相手にまるで敵意がないんだから、さすがに萎える。
くそ、土産物屋の一つくらい出しておけよな。
他にどうしようもないので、俺達は元来た道をとぼとぼと辿る事になった。
今度は落ちてきた分を這い上がっていかないといけないのだ。
おまけに上へ戻るスロープはきっちり埋まっていたので、崩れて開いた大穴をよじ登っていくしかないときたもんだ。
御丁寧な事に、スロープを埋めた岩は空間魔法でがっちりと固定されているようで、どかす事は出来ない。
おまけに、それらを収納する事は叶わなかった。
奴の仕業の全てが、むかつく以外の何物でもない。
そして最早只の御荷物と化したベル君を、女の子が御飯事で赤ん坊代わりに背負う御人形のように背中にくくりつけ、ロッククライミングに挑戦した。
あるいは人命救助中の消防隊、海保か自衛隊か。
もう駆け上る気にもならなくて、遊びながら帰る事にした。
まるで登山みたいにザイルを使って登ったりもしてみた。
これはこれで、また楽しくはあったが。
斉藤ちゃん、ここで腰蓑だけのターザンごっこはやめなさい。
ベル君の目に毒だ。
真理はファルを抱いたまま、優雅にステップを踏んで駆け登っていく。
まるでアルプスあたりの険しい岩山を駆け巡るヤギかカモシカだ。
「ヤッホー」」」」」 」 」 」 」
ほどなく頂上を制したファルの楽しげな木霊が、ダンジョン谷の隅々までを駆け抜けていった。
ようやく這い上がって、そこからコースを戻っていったのだが、なんとそこでまた延々と田植えをやらされて、もう一泊する羽目になった。
時間いっぱいまで試練は続くってか。
真の嫌がらせって、こういう物なのかと学ぶいい機会だった。
特に学びたい気分ではなかったのだが。
主にベルグリットの奴がな。
今回はこいつを鍛えに来ただけのようなものだった。
とはいえ、ベル君の精神面も充分に鍛わったようなので、俺も学園講師として大いに参考にさせていただこうかなと密かに考えている。
ようやく裏ダンジョンの入り口に戻ったら、なんと呆れた事に土産物屋が開いていた。
ちっ、また思考を読まれたかな。
仕方がねえ、この際だから何か買って帰るか。
他に何も土産なんか無いのだし。
裏ダンジョンを出てすぐに魔法が復活したので転移魔法で帰った。
それから皆に御土産を渡したのだが、愛しの奥さんに言われちまった。
「きゃあ、この御土産って凄くまずいわあ~。
こんなまずい御菓子は生まれて初めてよ~」
そ、そうだったのか。
アドミンめ、嫌がらせの手が込み過ぎだろう。
「えんちょうせんせい、これまずいよー」
「うわあ、いもむしのほうが、よっぽどおいしい~」
「めいぶつに、うまいものなしだー」
ああっ、おチビ猫も難しい顔をして、一口齧っただけで残りは置いていってしまった。
一つ二十個入りで大銀貨一枚(十万円)もする超ぼったくり価格だったのだが。
大勢子供がいるから、なんと十箱も買ってしまったというのに。
くっそう、せめて一箱買ってから味見くらいはしてくるんだったぜ!
おチビ猫「おいちゃん、みんなの御本が出るの?」
おいちゃん「そうだよう~」
おチビ猫「レミちゃんは出る?」
おいちゃん「え」
おチビ猫「レミちゃんは? ねえ、レミちゃんは?」
おいちゃん「えー、あ、あと3週間くらいしたら編集さんに訊いてみようね(汗)」
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