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61-1 ドン・キホーテに連れられて

 離宮の杮落としも近い。

 食事に何かもう一つ目玉が欲しいという展開になっている。

 他に手のない俺は素直に北のハリマオ公爵の助言に従う事にした。

 そんなわけで、今日は王都の商業ギルドへやってきたのだ。


「貴族の喜ぶような、希少な食材とか何か無いでしょうか。

 たとえばメルス大陸産とか。

 実は、私の離宮の御披露目でそういう物を出さねばならなくなりまして」


「うーん、時間をかけて探せば無い事も無いのでしょうが、そういう物は何というか幻の食材となっておりまして。

 今から早急にというと、さすがに間に合わないでしょうなあ」


 やっぱり、そうだったか。

 仕方がない、もう諦めるしかないのかな。


 バルドスにも訊いてみたのだが、まったく参考にならなかった。

 元々ドラゴンの生態や食生活を考えてみればわかる事なのだが。

 普通は狩った獲物を丸齧りだよな。

 バルドスは人化している間は粗食で済ませていそうな雰囲気あるし。

 

 失敗の許されないこの企画、今回はどうしても駄目押しをしておきたかったのだが、それは叶いそうもない。

 俺は残念な気持ちでいっぱいだった。


 一応、ミハエルの所へもやってきた。

 情報なら、なんといってもここだよな。


「そうかあ。

 確かに食い物は大事なのだが……。

 む! 待てよ。

 あの爺さんなら何か心当たりがあるかもしれん」


「お、何かあるの?」


 俺は期待に胸躍らせて訊いてみた。


「何、お前みたいにとてつもなく食い意地の張った奴が一人いたのを思い出してな。

 だが奴は相当に偏屈だと聞く。

 かなり手強い相手だぞ。

 人によっては、ドワーフ並みに手強いと言う人もいるくらいだ。

 まあシルのためなのだし、ここは一つ気合を入れて頑張れ」 


 う、そこまで偏屈な奴なんだと。

 これは微妙に何か嫌な予感がするのだが、背に腹は代えられない。


 

 ミハエルから噂を聞いて俺が訪れたのは、さる街の食通のところだ。

 その食通という人物は、王都からかなり北に向かったアボランゼという街にいるという。


 食通様は、その街を治める伯爵だったそうだが、もう歳なので家督を息子に譲り、今は御隠居として美食三昧なのだそうだ。

 そう悪い噂は聞かない家だという。


 そしてミハエルはこう言っていた。


「奴ならば何かいい食材を知っているかもしれないのだが、なにしろ金や権力では言う事を聞かせられない男でな。

 王家から何か言ってやるわけにはいかないんだ。

 そういう訳なので、悪いがなんとか自力で頑張れ。

 グッドラック」


 最近、疾風の王子様は地球風の言い回しが御好みのようだ。

 そういや、これって有名な少女漫画から日本で広まったフレーズなんだよな。

 俺も大好きなSF漫画だった。

 確か「古い言い回しだが、グッドラック」だったかな。

 ハリウッド映画じゃ普通に使われている気がしたが、確かに日本ではそれまで聞いた事がないフレーズだった。


 普通は貴族ともなれば訪問前に先触れを出さないといけないのだが、この人は先触れを送っても断ってしまうそうなので、飛び込み訪問的に当たって砕けるしかない。

 さっそく転移魔法及びフライの魔法で、北方のゴーリル伯爵家を訪問して門番に取次ぎを依頼したのだが、御当主ではなくて御隠居様に会いたいと言ったら微妙な顔をされた。


「御隠居様は、どんな方なんですか?」


 だが相手は、物凄い苦悩を表に現した表情で返事に窮していた。

 自分の元家臣にこのような顔をさせるとは!


「あ、いえ別に。

 ちょっと訊いてみただけなので、どうか御気になさらずに」


 これは思ったよりも難物のようだった。

 やっぱり来ない方がよかったか。

 通されたサロンというか、只の立派な応接室で、そんな考えがふと頭をよぎる。


 やがて御当主様は現れた。

 こう言っちゃあなんなのだが、割と普通っぽい感じの人が出てきてくれてホッとした。


「これはこれは、ようこそ。

 私は当主のフェリエと申します。

 御高名なグランバースト公爵様が、こんな田舎町にある我が屋敷を訪問なされるとは。

 光栄ではございますが、一体また何故。


 しかも【あの】父をお訪ねになられたとか。

 息子である私の口から言うのはなんですが、あれはもう言葉では言い尽くせないほどの超偏屈でございまして。

 他家との付き合いもございますので、強引に隠居してもらったというのが実情なのでございます」


 うわあ、なんだか泣きたくなってきたな。

 するとその時、雷のような声を出して怒鳴る爺さんが登場した。


「馬鹿者。

 自分の父親の事をそんな風に言うでない。

 この大虚け(おおうつけ)めが。

 そして、儂に用があるという戯(たわ)け者は、そこのお前かあっ!」


 出ました、偏屈ジジイ。

 これはまた見るからに偏屈そうな爺さんだ。

 なんで初対面の人間に向かって怒鳴るんだよ。


 息子が大虚けで俺が戯けかー。

 頭に大が付く分は、たぶん息子に対する圧の方が厳しいんだな~。


 眼光鋭く、角ばった顔にへの字に結ばれた口。

 頑固が顔に千匹ほど張り付いていた。

 なんか急に忘れ物をしたような気がしてきた。

 もう家に帰ってもいいかな?


「父上、まお、いやいや公爵様に向かってなんていう事を。

 我が家を滅ぼすおつもりですか」


 今この人、絶対に魔王って言おうとしたよね。

 まあ、別にそれでも特に間違っちゃあいないんだが。


 しかし滅ぼすって。

 わしゃ、悪魔かなんかかい。

 ああ、本来は魔王ってそういうものだよな。

 この世界には稀人の魔王以外に魔王はいないらしいのだが。


 武は錬金魔王なのであって悪しき魔王ではないらしい。

 よくわからないが、あからさまに魔王呼ばわりされるのは俺だけなのだ。

 そっと胸に手を当ててみて、すぐに納得できた。


「御初に御目にかかります。

 アルフォンス商会の会頭を務めさせていただいておりますグランバーストでございます。

 この度は、食通と名高いエバンス先生の御力を御借りいたしたく、本日御伺いさせていただいた次第でございます。

 あ、この手土産を御納めください。

 つまらない物ですが、御近づきの印にどうぞ」


 そう言って、俺は迷宮ドラゴンのベーコンとジャーキーを恭しく差し出した。

 エバンス爺さんは、俺の手から毟り取らんばかりの態度で乱暴に受け取ると、ふんふんと匂いを嗅ぎ、それをポンっとテーブルの上に放り出した。


「ふん、迷宮ドラゴンか。

 天然物ではないのだな。

 まったく近頃の若い者と来た日には」


 そう言ってソファにどっかりと、まだ筋肉隆々な体を深く沈めた。


 そんな違いが匂いでわかるのかよ。

 ドラゴンなんて一言も言っていないのだが、しっかりわかるんだなあ。

 俺は天然物ってバルドス以外に見た事が無いのだが。


 ああ、そういや息子のバリーもいたんだよな。

 Aランク試験でブレス対決したんだっけ。

 彼のドラゴン体形は見た事がないが。


 ちなみに俺って若くはないのですけれど。

 あんたと歳はそう変わらないのですがねえ。

 せいぜい俺が五歳くらい下なだけじゃないか?


 しかしこの爺さん、何故こんなに体を鍛えているんだろうな。

 息子の方は四十歳くらいで、いかにも机の上で仕事をしていますっていう感じなのだが。


「えー、それでですね……」


 俺は、爺さんのこちらを射抜いて殺さんばかりの鋭い眼光に晒されながら、しょぼしょぼと説明を始めた。

 爺さんは、何故か豪く真剣に耳を傾けてくれていたが、藪から棒に立ち上がった。


「それならば、あれしかあるまい。

 貴様、ちょっとついてまいれ!」


 ええっ!?


 俺は慌てて息子である御当主の方を見たが、彼は片手で顔を覆ってしまって首を左右に振っていた。


 あかん。

 こいつは、どうしても爺さんと一緒に行かないといけないらしいな。


 なんていうかこう、ドン・キホーテに連れられていくサンチョの気分だ。

 もしかすると、俺もあの従者と同じくらい頭が足りないのかもしれない。

 とりあえず、ここは成り行きに任せる事にした。


 そして俺は唐突に、行きたくもない冒険の旅へと旅立つ破目になったのであった。


いきなりこんな時期ですが、新連載始めます。

本来なら出すべきタイミングではないのですが、今から始めると、6月末の締め切りの賞に間に合います。

3日間で40話くらい出さないと駄目ですけど。


ダンジョンクライシス日本

http://ncode.syosetu.com/n8186eb/

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