60-4 課題
そしてアニオン公爵と共に夕食を離宮で摂る事にした。
山本さんとエリにも来てもらってある。
ブルーアイランドのゴーレムシェフも呼び寄せた。
今日のメニューは、ゴーレムシェフによるオードブルからだ。
それらは食前酒と共に出される。
シャンパンに、つまみはドラゴンの叩きだ。
そして山本さん謹製の和風ドレッシングをかけた毛蟹サラダが続く。
ドラゴンボーン西洋風出汁のヌードルスープ、それに大イノシシのベーコン三種作りとドラゴンカレーカツ。
メインディッシュは和牛サーロインに、醤油ベースのステーキソースを添えて。
デザートはエリ謹製のスペシャル・デザートプレートだ。
これらは本来ならとても贅沢なもので大変悪くないものだ。
しかし。
公爵は最後までしっかりと味わい、そして目を閉じた。
「実に美味かった。
本来であれば、これにケチなど付けられようはずもない。
だが、敢えて言わねばならない事を悲しく思う。
どこの公爵家でも、このメニューは揃えられまい。
しかしアルフォンス君、和食の大家を身内に持ちながら、敢えてこのメニューを出してきた。
君もわかっているのだね」
俺は黙って頷いた。
そして重い口調で苦しい胸の内を語った。
「どんなに贅沢な食事、どんなに素晴らしいメニューであろうとも、人はいずれ慣れていく。
ドラゴンなど、もはやグランバースト家においては当然の食材に過ぎません。
ここでドラゴン料理を出されても有り難くもなんともないでしょうね。
カレーなどの調味料も然り。
稀人式の調理法にも、この世界の上流社会の人達は慣れ出しました。
これが、どこかの結婚式とかであるならば誰もケチを付けたりはしますまい。
だがこれは、この世界に革新的な知識を齎した俺の、この俺が認めてもらうためのもの。
貴族王族にとり、やはり食事は招いた者の力量を表す物です。
『日頃あれだけの食い物をひけらかしながら、いざという時に、それに相応しい物が出せない』
俺を貶めたい連中はそう言って嘲るでしょう。
連中だって、きっとわかっているのです。
初代国王はラーメンスープ一つさえ、この国に齎したりしなかった。
しかし、それは彼らの敬愛する初代国王にとっては瑕疵でもなんでもない。
だが、初代国王と同じ稀人である俺がそれを出来ていないのは問題だと言い張る、どうしようもない連中もいるでしょう」
「うむ。
まさにその通りだ。
真に呆れ果てたる恥ずべき言い草だが、それが現実だ。
君がこの国に齎してくれた物は、皆本当に素晴らしい。
感謝こそすれ、非難される謂れなど何一つない。
だが、それがわからん連中もおるのだ。
考えてみればよいのだがな。
例えば君がこの国の敵になった場合などを。
君という傑物を、正式にこの国の公爵として迎えられる事が喜びでなくて、なんだというのだ。
あの頭でっかちどもめが」
ふう、こういう人が一人でもいてくれて良かった。
とても気持ちが楽になるぜ。
その事を伝えたくて、ベルベット嬢はわざわざ父親を連れてきてくれたのだろう。
本当にいい子だな。
それに賢い。
「アニオン公爵といたしましては、如何な御考えでありしょうか?」
ここは是非とも参考までに、心ある意見を聞いておきたいところだなあ。
「ふむ。大変難しくはあるが、ここは物珍しい食材などでトライしてみてはいかがか。
たとえばSSSランクの冒険者でなければ、まず手に入れられないような素晴らしい物を」
うーん、珍しい食材か。
真っ先に頭に浮かぶのはクラーケンなどだが、あれは高級料理向きじゃないし、触手の先なんかは結構入荷したりするので、今更貴族には受けない。
あれも醤油と組み合わせて稀人料理風に振る舞えば結構いけるのだが。
「難しいですねえ」
俺は正直にシンプルな答えを謹呈した。
この人相手に見栄を張ったってしょうがない。
「まあ、そうだろうな。
だが考えておきなさい。
なまじ他の出し物が立派であるが故、食事にケチが付きやすい。
まだ時間はあるのだから」
「わかりました。
いろいろとありがとうございます。
今夜は館に御泊りください」
すでにシルの侍女さん達が来てくれているので、突然訪問された賓客でも何不自由なくもてなせる。
それにしても半端でない美味さの珍味が必要とか、ちょっと困った展開だな。
かぐや姫の御題ですか。
遊園地も開幕準備は整ったものの、開業は御預けを食ったような格好だ。
とりあえず、例によって園内会議を開催した。
今回は俺と共にホステスを務めるシルが加わっている。
「とまあ、こういう御題を頂いた訳なんだけれども、何かいいアイデアがある人」
「珍味ですかあ。
この世界の王侯貴族が喜ぶような珍味ねえ。
日本、あるいは地球各地の特別な食材でもあればいいのですが、そういうわけにもいかないのだし。
この世界の目ぼしい素材で作った料理は、もう出し尽くしてしまったような気がしますねえ」
ここで一番の料理人である山本さんも、そのように唸った。
「うーん、ちょっと難しいなあ。
難癖をつけられているような格好だものね」
敏腕な葵プロデューサーも難しい顔をしている。
「珍味ねえ。
僕も、今まで聞いた事が無いような物で心当たりがない事はないんだけど、大概は名物に美味い物無しの領域になるので、今回は喜ばれないだろうな。
その手の物って、みんなが食べたくないから出回っていないという物の方が多いんじゃないかな」
アルス選手もSランク冒険者としての豊かな経験に基づく見解を述べてくれた。
それは言えるな。
たとえば、あの青ひ……う、またあの味を思い出しちまった。
「後は、今回の騒動で伝手の出来たメルス大陸で聞いてみるとか、御山のバルドスさんに聞いてみるのはどうでしょうか。
珍味に関しては、ドラゴンさんの味覚が当てになるかどうかはわからないのですが。
でもあの方も、この世界に関しての知識は長く生きた分は半端ないでしょうし、よく人化されていますし」
とエドから一番建設的な意見が出て来た。
「そうだなあ。
頼れるところは、一通り当たってみるかあ」
最早、事は俺だけの問題では済まない。
シルに恥をかかせてしまう事にもなる。
そして彼女の侍女などにも。
難癖をつけられているだけなのだという事は、彼らも充分にわかってくれている。
だが、こういう物は理屈ではないのだ。
公爵家の主として、こんな事くらい軽く跳ね除けて捻じ伏せる力量を求められているのだ。
彼らも内心では、この俺ならそれくらいの事はやってくれると密かに思ってくれているのに違いない。
そうであるにも関わらずに、上手く対処出来なくてこの家が謗られるなどという事態を迎えたならば、それは即座に俺への失望に変わるだろう。
普通なら、こんな面倒くさい事はせず力押しにするんだが、それをやると今度はシルが【魔王の嫁】扱いになってしまう。
しょうがないな。
ここは正攻法で頑張りますか。
魔王公爵の大一番、見事優勝杯を目指してみせるさ!
あ、いけね。
【魔王公爵】の称号がついた。
……みんな、俺の事を心の中ではそう思ってる⁇




