60-3 予期せぬ訪問者
そんなこんなで、遊園地の本格稼動とシルベスター・プティ・パレスの内覧会に向けて忙しい中、ケモミミ園に思いがけぬ御客様を迎えた。
なんと、それは北の公爵アニオン公爵閣下だ。
言わずと知れたベルベット嬢の御父上である。
むろん、彼女本人も御一緒だった。
「やあアルフォンス君、御邪魔するよ」
そう気さくに声をかけてくれるのは、北門を守る武人公爵で「青髭ブルバント」と異名を取った、ブルバント・フォン・ハリマオ・アニオン公爵様だ。
北の玄武公爵であられるのに、何故マレー語で虎を表す言葉であるハリマオなのか。
虎を意味するその言葉は、本来ならば国防を担う白虎将軍である俺に付けられるべき名だろう。
王宮ゾーンの北門は、王宮の後宮部分に寄り添うように立つ王国騎士団の官舎から、その専用演習場を通り北門へと至る「王国騎士団・王族専用」の道路だ。
それはこの国を囲む国々が在る三方とは別の方角であった。
いざとなったら、ここを通り王族を避難させる。
そこを預かる要であるため、勇猛な異世界の虎を表す称号? が名前に入っているらしい。
どうやら武が悪乗りしたようだ。
その名の由来を聞いて、国王陛下も爆笑していらっしゃったが。
故にハリマオの名を冠する、ここの公爵は必ず王国騎士団を経験する。
アニオン公爵も、ルーバ爺さんの片腕として副騎士団長までやったそうだ。
彼自身は公爵位を継ぐので、ケインズに王国騎士団を任せたようだが。
ケインズも公爵家当主となったアニオン公爵の後を継いで、副騎士団長を経て騎士団長となったのだ。
公爵家にも騎士団があるので、アニオン公爵はそっちの主という立場となるので王国騎士団は退団した。
栄えある王国騎士団に入れないような軟弱者はハリマオの名を冠する事は出来ない。
この一族にとり、それは何物にも代えがたい事だ。
もしもアニオン公爵家の跡継ぎであるのにも関わらず、王国騎士団への入団が許されないとなれば一大事なのだ。
今もベルベット嬢の二人いる兄は王国騎士団で幹部を勤めている。
特に跡継ぎの方の息子、自分のところの公爵家騎士団は放っておいていいのか!?
まあ親もそうだったし、別にそれでもいいのか。
きっと代々そうなんだろう。
現ハリマオ公は青髭と呼ばれるだけあって、青みのかった立派な髭をぐるりと髪から顎にかけて巡らせていたが、灰色の瞳には力強くも理知的で優しい光を湛えていた。
未だ白髪一本生えていなさそうな、限りなく黒に近い髪は艶を放っていた。
彼はいかにも騎士団上がりといった感じのがっしりとした体格を、公爵位をあらわすマントと、おそらくは通常公爵達が着込んでいると思われる高級そうな、伝統デザインの衣装で身を包んでいた。
一方で俺は、園長先生として恥ずかしくない責務の最中で、それに相応しい格好をしていらっしゃったとさ。
まあ、いつもの作務衣と雪駄、それに竹箒ですな。
恒例である朝の儀式(門前の掃除)の最中だったもんで。
御丁寧な事にシルも一緒に箒を友としていた。
あっちはトレーナーの上下だったが。
俺達は軽く咳払いをして、アイテムボックスの換装機能を使い、さっと着替えた。
俺は王都で設えた爆炎スタイル(やや高級版)で、シルは王族がラフに着こなすタイプのロイヤルドレスだ。
そして何事もなかったかのように挨拶した。
「やあハリマオ公、じゃなかった。
アニオン公爵閣下、ようこそ。
むさ苦しいところですが、どうぞ中へ」
そう、この人は騎士団ボスクラスの経験者なので、皆「閣下」と敬称を付けて呼ぶのだ。
俺はケインズの事を騎士団長閣下などと呼んだ事は一度もないが。
なんというかもう今更過ぎてね。
まあ奴も平民出身だし、俺とは気の張らない関係だしな。
俺だって平民出身よ。
平民っつうか、貴族なんていない現代日本の社会なので只の一般人だな。
ケインズのそれって、とっても凄い事なんだが。
ルーバ爺さんは御本人が子爵なのだし、青髭様なんかは公爵家の跡取りだったのだから。
もっとも、その件でケインズの奴に文句を付けるような馬鹿はいないらしい。
付けたが最後、肉体言語での御話合いになるのに違いあるめえ。
その事に関して文句を付けるようなチャライ貴族のボンボンなんて、あの超猛烈騎士団には一人もいやしねえしな。
その他の貴族連中にもケインズ相手に文句を垂れるような馬鹿はいないだろうけど。
あのシル達に纏わりついていた侯爵の軟弱な嫡男だって、ケインズを怒らせたら裸足で逃げ出すわ。
ここの王国騎士団は、たとえ相手が公爵子息だろうが一切構わずに捕縛するしな。
「はっはっは。
そう、しゃちほこばらなくてもいいよ。
いつも娘が御世話になっているね。
まあ風当たりもキツイだろうが頑張ってくれたまえ。
今日来た用件はだね、その内に内覧会をやるのだろう?
もしなんなら事前に下見をして助言をしてほしいと娘が言うものでね。
何せ東と南は煩い。
騎士団については、もう文句は言わないだろうがな。
この間の観覧式は傑作だった。
いやあ連中の顔は見物だったよ」
おお、ありがたいな。
この人は頼りになるし、俺が国防関連で活躍しているのを高く評価してくれているのだろう。
脅威の多い西方を、また国防の要であるはずの西の公爵家を、あのロクデナシのバイトン公爵家が預かるのを快く思ってはいなったのだろうしな。
「ありがとうございます。
まあ実際のところ、かなり準備は整っているのですが、今一つの分もありましてね」
「ほお? 君がそこまで言うのかね。
まあいい、聞くより先にこの目で見させていただこう。
おそらく、それは私にもわかるのではないかと思う。
その場合は早急に対処してくれたまえ。
私が気付くようであれば、奴等が因縁を付けぬはずがない」
「うわあ、そうでしたか!」
まずはパレス御本尊から御案内だ。
俺達はゲートを通り離宮へと向かった。
館の外観の説明に、中の部屋や設備、そして既に完成して廊下に設えさせた分のブラウンゴブリン謹製のレリーフを観覧していただく。
それから中庭へと足を運んでもらい、製作中の壁画やレリーフ達へと進んだ。
ゴブリン達は、御客様が来たので居住まいを正して礼を尽くしてくれた。
「ああ、いや諸君、そう気にしなくていいよ。
仕事に戻ってくれたまえ。
いや、噂には聞いているが実に見事なものだ。
この芸術製作風景も見せるのだね。
これは今だけの光景だ。
非常にインパクトがある。
ここまではまったく問題ない」
なるほど。
「ここまで」はか。
やっぱり公ほどの人物だと、それを実際に見ない内からわかってしまうのだな。
さすがは王国騎士団長クラスの役職経験者だけの事はある。
そして俺達はアニオン公爵と一緒に遊園地へと向かった。
園内列車で中を巡り、色々と見てもらった。
そしてジェットコースター体験をしてもらった。
「うっひょお~」
あの厳つい顔で、かなり御燥ぎになっておられる。
まだ少女の域を出ない可愛い娘と一緒に遊園地で遊ぶ。
うん、おっさんでも愉しいよな。
ジェットコースターで落ちる時の写真もサービスしたので、写真に写った自分の顔を見て大爆笑なされた。
そして目玉の大観覧車へと向かう。
雄大な景色を眺めながら高さ二百メートルを体験する壮大なアクティビティは、おそらくこの世界では人工建造物として体験した者はいない世界だろう。
しかも素晴らしいムービング・オブジェクトなのだ。
遊園地は大満足してもらえた。
ただ「特別である事」をアピールするために、正規オープンはパレス内覧会の後にするようにと助言をもらった。
「うむ。ここまでは悪くは無い。
いや、実に素晴らしい」
「御褒めに預かり、大変恐縮です」
それを聞いたシルも嬉しそうだ。
だが……問題は、ここからなのだ。




