56-1 6月の花嫁
十三か国との話し合いは順調に進んでいるようだ。
各国の兵隊達も大人しく帰っていった。
多幸感溢れる笑みを浮かべながら。
ちょっと怖かったぜ。
俺はアドミンみたいに趣味が悪くないんだ。
そして相変わらずミハエルがあちこちを飛び回っている。
これで転移魔法がなかったら過労死するな。
いや転移魔法があるからこそ、あちこちへ飛び回らないといけないのか?
まあ自分でも、先祖の作った転移魔道具を再現しようとしていたみたいだから、あれが欲しかったのだろうけど。
俺はといえば、持ち帰った御土産がなんとか子供達から及第を貰えたので大満足だった。
十三か国連合軍後方部隊司令官の将軍、ありがとう。
一日過ぎただけで、もう彼の名前も忘れちゃったけど。
さて、ちーとのんびりしようかななどと思っていた矢先にスマホが鳴った。
おや、これは珍しい奴から来た。
「よお、どうしたい。
フランチェスカさんから逃げる算段でも付けたいのか?」
だが奴は珍しく、少し重苦しい声を出して俺を驚かせた。
「いや、どちらかというと……その逆だ。
悪いが少し相談に乗ってくれないか?
迎えに来てくれ。
その、皇宮では出来ん話なのだ」
「わかった。
今からでいいのか?」
「ああ、頼む」
俺はその場で奴の執務室に転移した。
あ、珍しく机に座っていない。
フランチェスカさんと二人立ったままで、なんとも言えないような顔をして俺を見ている。
「えーと。じゃ、じゃあいってきます」
少し泣きそうな感じのフランチェスカさんを置いて、むさくるしく野郎二人で出かけた。
なんなんだ?
行先は例によって虹色に輝くガラスの園だ。
ここって密談にはピッタリの場所なんだよね。
皇帝たる者を連れて、あまり殺風景な場所へ行くのもなんだしな。
「実は、俺にそろそろ身を固めろという話が出てきてしまってな」
しばしの沈黙の後に、やや言いにくそうに話を切り出してくるドラン。
ああ、なんとなくわかってきた。
いつまでも皇帝を独り身にはしておけない。
だが、貴族ではないフランチェスカさんは……。
それは、あの貴族至上主義の帝国ではなおさらの事。
「そういう話?」
「そういう話だ」
「了解した」
奴は少し怪訝そうな顔をした。
俺に相談に乗ってもらいたかったのに、なんかいきなり了解されたので。
とりあえず奴を執務室に放り込んで、「仕事を前出しに進めておくように」と注文を付けておいた。
「お前は、またそんな無茶な事を言う」
そう言いつつも、奴自身わかってはいるのだろう。
帝国皇帝たる者が結婚式を挙げるとなれば、いずれそうしておかなくてはならない。
あれこれと大変なんだから。
皇帝執務室に戻ると、俺はフランチェスカさんに笑顔で目礼して帰った。
今回はワイルドカードを切るつもりだ。
俺は帝国に勝ったが、その戦勝の権利はまだその全てを行使していない。
とりあえず、アルバの王宮へと向かった。
ここの王宮は本当に広いので転移魔法万歳だ。
王宮の中は魔法疎外の結界が張られているそうだが、俺は何故か魔法を普通に使えちゃうもんね。
また何か結界疎外みたいなチートがパッシブで実装されているのだろう。
どうせ、これもセブンセンスの仕業なのに決まっている。
王都の真ん中が王宮ゾーンという事で、ここはまるで日本の丸の内みたいになっているから、だだっ広い。
国会議事堂・迎賓館・首相官邸・内閣官房・帝国ホテルあたりがワンセットになっているようなものだ。
それに加えて、渡り廊下で東大が繋がっている感じだ。
更に反対側の通路で、霞ヶ関に犇くビル群の機能を全て一つに纏めたような、巨大な総合庁舎が連なっている官庁街へと繋がっている。
それらには巨大な馬車ターミナルが併設されていて、東京駅が国家の主要施設にくっついているようなものだわ。
あと王都を構成する三重ドーナツ構造の第三隔壁外側の王都中間区域である貴族街・商人街に位置するが、少し離れてはいるものの皇居か明治神宮のような感じでアルバ大神殿がアルバ山の頂上に鎮座ましましている。
この王宮ゾーンは構造的にとても王宮とは思えない代物だ。
二十一世紀から来た日本人、しかも東京人が作った物だから、そちら方面のスタイルで配置されているなあ。
不思議と、この王宮デザインは多国に真似されない。
建築が難しいというのもあるだろう。
特に素材レベルで。
これは鉄筋コンクリートの魔法素材バージョンに近い。
実は俺には作れない錬金素材なので、陛下に頼んで少し貰ってコピーして使っている。
こいつは魔法特性があって、中々便利な素材なのだ。
だが作るのが非常に困難で、コピーにも魔力を食う。
だからこの王都も、王宮ゾーン以外は普通に石作りになっているなのだ。
もっとも王宮の外観は、とってつけたように宮殿っぽいデザインにされている。
しかし、それもモダンな感じのものだ。
強いて言うなら、イギリスのバッキンガム宮殿に似たような感じだろうか。
だが巨大宮殿になっているせいで平ぺったくなってしまった形は、この世界では異様なスタイルに映るだろう。
これと似た印象の建物と言うとペンタゴン、アメリカ国防総省を思い出す。
あれもまた五芒星を描いているデザインの建物なので、あれこれとオカルトな噂が絶えない代物だ。
武の奴も、さすがに王宮をあの形にするのは止めたようだ。
魔法省じゃないんだからな。
それに加えて、自衛隊精鋭部隊の基地にあたるような王国騎士団官舎が、王宮後部の王族ゾーンに張り付くように聳えている。
その裏手には、一周が四キロメートルにも達するような広大な演習場が設けられている。
そして王宮に行くと、なんだか妙に慌しい。
通路を早足に歩く知り合いの貴族を見かけて呼び止めた。
「ピエール男爵、御久しぶり」
「ああ、これは魔王様」
いいのか、貴族がそんな受け答えで。
「これは一体何事? また王様が……」
「いえいえ、違いますよ。
五月病は一度やったら、そのシーズンはもうかかりませんので。
これは結婚式の支度です。
今回はもう稀人式も衣装などはエルフ新町で発注出来ますし、食材もアルフォンス商会が請け負ってくれますしね。
王宮の料理人も山本様の御指導を受けておりますゆえ。
ケーキもキッチンエリに発注済です」
異世界も便利な世の中になったもんだ。
そういや、全部俺の仕業だったわ。
「結婚式? 一体誰のだい」
「それは王太子様の結婚式ですよ。
もう婚約されてから随分御経ちになりますしね」
そういえばそうだった。
忙しい割には、結構頻繁にデートしているみたいだったし。
「また急な話だね」
「え? 六月は多いですよ。
王太子の結婚式など六月が当たり前です。
ジューンブライドって、稀人の国から初代国王様が持ち込んだ風習と聞いていますが」
彼は不思議そうに聞き返してくる。
武がそんな風習を持ち込んでいたのか。
まあ別にいいのだけれど。
「十三か国の話の方が片付いたではないですか。
ならば、ここで是非にという形なのでしょうね。
ゲルスに対しても、我が国の跡取りをきちんと示すというのは必要な事かと」
お、それもそうだな。
そういう安全保障に関わる関係から急遽結婚式を急いでいたのか。
急がないと、今年を逃したら来年の六月までに間が開いちまうからなあ。
そういうものは無闇に時期とかを変えると、大国ではそれもまた良くないのだろう。
あくまで伝統に則ってという感じにやられるのか。
そうでないと、「あの王太子は自分の結婚式で良き古き伝統にケチを付けた」みたいに言われかねないからなあ。
俺達地球人からしたらジューンブライドって特にそういうものではないように思うのだが、まあ異世界へ伝わった段階でなあ。
それだったらついでに、「そっちの関係」という事で強引に捻じ込ませてもらって、もう一組も片付けてしまうとするか。




